未来都市の中心で、怪獣映画さながらの激闘が始まった。
クロノス——それは、ビル群よりもはるかに巨大な、がらくたと鉄くずが集まった不気味な球体だった。ふわりと空中に浮かびながら、通りを進んでいくたびに、道路や橋はメキメキと音を立ててひしゃげていく。ショッピングモールの屋根も、高架道路も、クロノスの重さと圧倒的な力の前ではあっけなく押しつぶされていった。
「うわっ! またビルが……!」
ジャイアンの叫び声が響く。タケコプターで空を飛びながら、ジャイアンは下にいる人々を見つけて声を張り上げた。
巨大なバクゴンは、逃げ惑う人たちとクロノスの間にどっしりと立ちはだかり、ぐるるると低く唸りながらその巨体で盾となる。
「バクゴン! ファイヤーブレス!!」
ジャイアンが叫ぶと、バクゴンは大きく胸を張り、クロノスへ向かって口から炎を思いきり吹き上げた。火の粉が空を赤く染め、クロノスの外殻がごろごろと剥がれ落ちていった。
「やったぞ!効いてる、効いてるぞ!」
ジャイアンがガッツポーズをとる。
一方、街の地上ではのび太、ドラえもん、ノアが必死で人々を守っていた。
「空気砲!」
のび太が大声で叫びながら、暴走した清掃ロボの大群に空気の弾を発射。ロボットたちが道の端まで吹き飛ばされる。
また別のところでは、ビルの瓦礫がバラバラと崩れ落ち、その真下でうずくまる子どもたち。
「危ない!」
ドラえもんは素早くひらりマントを広げ、子どもたちの上に駆け寄る。瓦礫がマントに当たると、ひらりと方向を変えて地面へ転がり、子どもたちは無事だった。
ノアも「大丈夫!?」と息を切らしながら声をかけ、ショックガンで迫ってきた暴走ロボットの動きを止める。
そんな中、スパークが三角帽子をバッと取って、得意げに叫んだ。
「おもちゃの兵隊、全員出動——!クロノスの手下ども、こっちを見やがれ!」
帽子の中から現れた小さな兵隊ロボたちが、隊列を組んで暴走ロボットたちに突撃し始める。
「おいらもやるときゃやるんだ!って、うわ、でけぇヤツ来た!」
空ではジャイアンたちの声が高らかに響いていた。
「バクゴン、もう一発——ボルケーノチャージだ!」
ジャイアンが指示を飛ばすと、バクゴンは地面を揺るがせて突進し、クロノスの外殻に激突!轟音とともに、錆びた鉄骨や自動車のパーツがごろごろ剥がれて落ちていく。
「ハニワル、トリックトラップ!」
スネ夫の号令で、巨大なハニワルの周りの地面から、バネ仕掛けの金属トラップが一斉に飛び出す。クロノスの進行ルートを塞ぎ、その動きをピタリと止めた。
「いまよ、モサモサン!フローラルウィップ!」
しずかが叫ぶと、巨大な緑の怪獣・モサモサンが、太いつるをうねらせてクロノスの外側をビシッと叩く。金属片がはじけ飛び、クロノスの表面が目に見えて削れていく。
バクゴンの炎、ハニワルのトラップ、モサモサンのつる——その三体が連携して、クロノスの装甲を次々とはがしていく様子は、まるで映画のワンシーンのようだった。
「すごい、効いてる!」
「やった!このまま押し切れば——!」
スネ夫やしずかの声にも自然と力がこもる。ジャイアンも「オレたちの勝ちだ!」と高らかに叫んだ。
しかし——その瞬間。
クロノスの中心部が淡く脈動し、不気味な黒い光がビルの谷間に広がった。
次の瞬間、バクゴン、モサモサン、ハニワルの巨体がぴたりと動きを止める。
「え……?バクゴン!?」
「モサモサン、どうしたの!?」
戸惑うジャイアンとしずか。その目の前で、パートナーたちの瞳が真っ黒に染まっていく——。
「まずい、クロノスに乗っ取られてる!こいつ、こっちのバクゴンたちまで操ろうって魂胆だ!」
スパークが必死に帽子を振るも、おもちゃの兵隊もみるみるうちに動きが鈍っていく。
バクゴンがゆっくりとクロノスの方へ歩き始める。モサモサンも花のつるをしならせ、街の建物をなぎ倒しはじめた。ハニワルはその巨体で道路を踏み潰しながら暴れ出す。
「や、やめてくれ!バクゴン、しっかりしろ!」
ジャイアンが必死に呼びかけるが、バクゴンはまるで操り人形のように、クロノスと一体になって街を壊し始めてしまう。
「このままじゃ、街が……!」
バクゴンたちがクロノスに操られ、街はさらにめちゃくちゃに——。もうどうすればいいんだ!?と、のび太たちが頭を抱えているそのとき、ノアはぎゅっと両手を握りしめ、静かに立ち上がった。
「……ぼくが、やるしかない」
ノアは操られているバクゴンたちに向かい、目を閉じて両手をそっと広げる。顔には決意の色がにじむ。
「頼む……戻ってきて……!」と強く念じるが——バクゴンたちの暴走は止まらない。クロノスの黒い光が彼らをがっちりと支配し続けていた。
「む、むりかも……」
ノアがうつむきかけたそのとき、ぴょこん!
ヨワリンが、ぷるぷるとお腹を揺らしながらノアの前に飛び出してきた。
「ヨワリン……?」
その様子にドラえもんが「まずはヨワリンで試してみたらどうかな?」と声をかける。
「そうそう、一番弱いから、案外イケんじゃねぇ?」と、スパークが茶々を入れる。
ノアは、ヨワリンを見つめて、もう一度、手を広げた。
「いけ……!」
——その瞬間、ヨワリンの体がほんのりと輝き、青かった体がふわりと黄色に変わった。
「成功だ!」のび太が歓声を上げる。
その時、目の前に現れたのは、唸り声を上げて迫ってくる犬型ロボット。ヨワリンの新たな力に期待して、のび太がすかさず叫ぶ。
「いけ、ヨワリン! ——高速逃走!!」
「え、逃走!?」
ヨワリンはキュッと体を縮めたかと思うと、次の瞬間ものすごい速さでピューン!と逃げ去っていった。
のび太は「えっ!? 逃げちゃったの!?」とぼうぜん。
犬型ロボットは置いてけぼりでキョトン。そのすきに、ドラえもんが「ドカン!」と空気砲の一撃で吹き飛ばす。
「せっかく進化したのに、まさかの逃げ足だけ強化かよ!」
スパークはお腹を抱えて大爆笑。「まじ、笑い死ぬ~!」と地面をゴロゴロ転がった。
しずかやジャイアン、スネ夫も思わず吹き出してしまい、のび太は顔を真っ赤にしてヨワリンを見送るしかなかった——。
そんな中、ノアはひとりヨワリンの後ろ姿をじっと見つめていた。ヨワリンの体がほんのり光りながら敵から必死に逃げ出す姿。その健気さに、ノアは不思議と胸の奥が温かくなった。
(そっか……力でねじ伏せるんじゃなくて、相手の『心』にそっと呼びかけるような気持ちで……)
ノアは、ヨワリンと心を重ね合わせたあの瞬間を思い返し、自然と自分の中に『つながる感覚』が芽生えていることに気づく。
「ありがとう、ヨワリン……」
小さくそうつぶやき、ノアは目を閉じた。そして両手をそっと広げ、深呼吸しながら強くイメージを込める。
「バクゴン、モサモサン、ハニワル——みんな、戻ってきて!」
ノアの声が響いた瞬間、巨大なバクゴン、モサモサン、ハニワルの体がそれぞれほんのり光に包まれ、黒い影がパッと消える。
「うおぉっ!オレのバクゴンが光ってる!」
「モサモサンもふわふわ光ってきれい!」
「ハニワルもパワーアップしてるぞ!」
スネ夫もジャイアンも大興奮だ。
「やったー!ノアくん、すごい!」
「これでまたクロノスに立ち向かえるね!」
しずかが拍手を送り、のび太も拳を握って喜ぶ。スパークも三角帽子をくるりと回して、「おいおい、新技も解禁されてるみたいだぜ!」と目を輝かせた。
反撃の号令は、やっぱりジャイアンだ。
「バクゴン! 新技でぶっ飛ばせ——マグマクラッシュ!!」
バクゴンが地響きを立てて床を力強く踏み鳴らす。
その瞬間、地面にドーン!とひび割れが広がり、地下からオレンジ色の熱風とまばゆい光がドバーッと噴き上がった。マグマの流れがクロノスの外殻を一気に包み込み、ごろごろと鉄くずや瓦礫の装甲が溶けるように洗い流されていく。
「おおっ、クロノスが小さくなってきたぞ!」とジャイアンが声を上げる。
球体だったクロノスの直径は、高層ビル何棟分もあったが——
マグマクラッシュを浴びた瞬間、外殻が層ごと崩れ落ち、クロノスはひとまわりもふたまわりも小さくなった。
続いて、しずかの声が空に響く。
「モサモサン、フローラルストーム!」
モサモサンの体から花びらが竜巻のように渦を巻き、クロノスを包み込む。花びらが触れるたび、外殻のガラクタがキラキラと舞い上がっては消えていく。見る間にクロノスの直径は、周りのビルと同じくらいにまで小さくなっていく。
「やった!効果バツグンよ!」としずかが歓声を上げる。
「ハニワル、ジュエルレインだ!」
スネ夫が叫ぶと、ハニワルは頭上にキラキラ輝く宝石を無数に生み出し、それを流星のごとくクロノスへと発射!
ゴウンッ!バキバキバキッ!と激しい音とともに、クロノスのガラクタの装甲が次々とはじけ飛び、ついには本体の大きさがビルの半分ほどにまで小さくなった。
攻撃のたびにどんどん小さくなるクロノス——
「すごいぞ、これなら本当に勝てるかもしれない!」
ジャイアンが興奮して叫ぶ。
「この調子で押し切ろう!」
しずかとスネ夫も空中でガッツポーズ。
「いけぇぇぇぇっ!!」
みんなの声が未来都市に響き渡った。
クロノスの外殻がどんどん剥がれていくたび、希望の光がみんなの心に強く灯っていった——!
一方そのころ、のび太、ドラえもん、ノアの地上チームは、街角で暴れるクロノスの手下ロボットたちと必死に格闘していた。
「空気砲!」「ショックガン!」
のび太が空気砲で家事ロボットを吹き飛ばし、ノアもショックガンで暴走した警備ロボットを一時停止させる。
ヨワリンはというと——さっきからみんなの足元を右へ左へ、ちょこまかちょこまか走り回って、なぜか一番忙しそう。
「ほらヨワリン、そっちに行ったら危ないってば!」
「おーい、ヨワリン、戻ってこーい!」
のび太とドラえもんは、戦いの合間にも目が離せない。
そんな中、突如——
「アチチチッ!」
ドラえもんの四次元ポケットから、白い煙がもくもくと立ちのぼった。慌ててポケットを引っぱり返すと、ぽろりと転がり出てきたのは、あの「箱庭」だった。
ドラえもんは不思議そうに箱庭を見つめる。
その様子を見て、スパークがふと真剣な顔になった。
「……やっぱりか。クロノスとの戦いで、箱庭も——バクゴンたちも、そろそろ限界が近いんだな……」
けれど、スパークはその胸騒ぎを押し殺すように、いつもの調子で「へへ、大丈夫大丈夫!」と笑ってみせる。
ドラえもんも、小声でスパークに囁く。
「……今は、みんなには言わないでおこう。まだ終わったわけじゃないからね」
二人の表情に一瞬だけ影が差す。
その間にも、のび太たちは必死に戦い続けていた——。
何度目かの激しい攻撃のあと、ジャイアンが大きく叫ぶ。
「バクゴン、ボルケーノチャージだ!」
バクゴンがまっすぐ突進し、全身の炎を爆発させてクロノスの球体を正面から貫いた。その衝撃で、クロノスの体はみるみる縮んでいき、ついに路地裏に停められたトラックほどの大きさまで小さくなった。
浮かんでいたクロノスの球体は、ガクンと浮遊を失い、そのままズシンと地面に倒れ込む。
「やった——!」
「ついに倒れたぞ!!」
ジャイアン、しずか、スネ夫が歓声を上げ、タケコプターで空から降りてくる。地上ではのび太も思わず叫ぶ。
「これで……本当に終わったんだよね!?」
のび太たちが息を切らしながらクロノスのそばに駆け寄る。ドラえもんもほっとしたように汗をぬぐいながら、ポケットから例の『球体型制御装置』を引っ張り出す。
「よし、これなら今度こそ封印できるかも……!」
黒光りする球体をクロノスのすぐ隣に置くと、みんなの期待に満ちた視線が集まった。
だが——スパークがふわふわと空中を漂いながら、まだ警戒した声で言う。
「……いや、あともうちょっと小さくしないとダメだな。封印するにはまだ大きすぎだろ」
「よし、だったら……バクゴン、踏みつぶしてやれ!」
ジャイアンがすぐに号令をかけると、バクゴンは巨大な足をクロノスめがけて振り上げた。
——その時だった。
パラパラと周囲に散らばっていたガラクタや壊れたロボットの部品が、不気味な音を立てて集まり始める。
ゴゴゴゴゴ……!
そして、みるみるうちにガラクタがバクゴンの形に、ハニワルの形に、モサモサンの形に——
さらに街を覆っていた鉄くずと瓦礫がうねり集まり、ビルほどもある『偽バクゴン』『偽モサモサン」『偽ハニワル』が出現した。
「な、なんだこれ——!?」
バクゴンが足を振り下ろす寸前、ガラクタでできた偽バクゴンがものすごい勢いで体当たりしてきた。バクゴンは横倒しになり、地面を大きく滑ってビルの外壁に激突する。
「うそだろ……今度は自分どうしで……!?」
スネ夫が青ざめて叫ぶ。
「くっそ、どうなってんだよ……」
ジャイアンはバクゴンを追いかけるように、空へと舞い戻った。すぐ隣では、スネ夫としずかも、それぞれハニワルとモサモサンの上空に移動する。
「自分の分身と戦うなんて、やりにくいぜ……!」
「でもやるしかないわ!」
「ぼくのハニワルのほうが強いに決まってる!」
三人はそれぞれ、自分のパートナーに必死で指示を飛ばし、瓜二つの『偽パートナー』との一対一の巨体バトルが、ビルの谷間で繰り広げられた。
そのすぐそば、地上ではドラえもんが空気砲を構え、クロノス本体に狙いを定める。
「これでもくらえ——!」
ドゴォン!
——しかし、分厚い鉄くずの装甲はビクともしない。
「だめだ……まったく効かないよ……」
のび太も、手に汗を握りながらノアとスパークと顔を見合わせる。
クロノスは周囲の瓦礫をジワジワと引き寄せていき、さっきよりも少しずつ、確実に巨大さを取り戻しつつあった。
「このままじゃまた……クロノスの体が元通りになっちゃう!」
スパークは三角帽子をぐっと押さえ、悔しそうに叫ぶ。
「ちくしょう、このままじゃせっかく削ったのが台無しだぞ……!」
そのとき——ノアが小さく息を呑んだ。
「……あれ? クロノスが……なんだか、眠ってるみたい……」
「えっ?」
のび太が目を丸くする。
ノアはじっとクロノスを見つめていた。
「なんだか……とても怖い夢を見てるような気がするんだ」
スパークが不安そうに周囲を警戒するなか、ドラえもんはハッとひらめいたようにポケットを探る。
「夢……そうだ、あれがある!『夢はしご』!」
ゴソゴソと取り出したのは、緑色の短いはしご。
「これをクロノスに立てかければ、夢の中に入れるかもしれない!弱点が見つかるかも!」
ドラえもんが球体のクロノスに夢はしごを立てかけると、不思議なことに、はしごの先がスッと宙へ溶け込み、そのまま穴のような『夢の入り口』がぽっかりと現れた。
「ぼく、行くよ。クロノスの夢の中でなら……きっと、何かできるかもしれない」
ノアが一歩前に出る。のび太も、緊張しながらそっとノアの手を握った。
「一人じゃ行かせないよ。ぼくも一緒に行く!」
みんなの視線を背に、のび太とノアは覚悟を決める。
二人は夢はしごを一段一段登っていき、やがてクロノスの夢の入り口へ——。
次の瞬間、二人の姿はふわりと吸い込まれるように消えていった。