——パッと視界が明るくなり、のび太とノアは夢の世界から現実へと飛び出した。
すでにクロノスを形作っていた巨大な球体は崩れ、ビルの谷間、瓦礫の山の上に白いボディのクロノス本体が倒れていた。
だが、安心する間もなく、クロノスの周囲には無数の暴走ロボットたちがずらりと取り囲み、鉄壁のガードを築いている。街路に転がる車、工事用マシンまでがクロノスを守るように集まり始めていた。
ドラえもんが、心配そうな顔でのび太とノアに駆け寄った。
「のび太くん、ノア! 夢の中から無事に戻ってきたんだね!」
ドラえもんはすぐにポケットから空気砲とショックガンを取り出し、「これを使って!」と二人に手渡す。
のび太は肩で息をしながら「うん、なんとか……クロノスのコアは、あとちょっとで封印できるはずだよ!」と、声を弾ませる。
ノアも「夢の中でクロノスと話したんだ。でも——」と苦い顔で、目の前の現実を見つめる。
目の前では、クロノスを囲むロボットの大群が立ちはだかり、近づこうとするたびに牙をむいて襲いかかってくる。
「くそっ……せっかくここまで来たのに、これじゃ封印装置を使えないよ……!」
のび太は悔しげに拳を握りしめた。
「どうしよう……このままじゃクロノスのコアに近づけない!」
ノアも、ロボットの波に押されて不安そうに叫ぶ。
ドラえもんは必死にヒラリマントを構えながら、
「でも、絶対にあきらめちゃダメだよ。ぼくたちなら、きっと道は開ける!」
と、二人に力強く声をかける。
それでも、ロボットはクロノスの元にどんどんと集まり、事態は一刻の猶予もなかった——。
「空気砲!」
「ショックガン!」
二人が声を合わせて発射した圧縮空気と青白い閃光が、前線のロボットたちを次々となぎ倒していく。しかし、倒しても倒しても、次から次へと押し寄せてきて、全く減る気配がない。
「ヒラリマント!」
ドラえもんはマントをひらりとひるがえし、飛びかかる警備ロボの攻撃を交わしては、隙を見て腕に接着銃を浴びせて応戦した。
「おもちゃの兵隊、もっと出ろ!」
スパークは三角帽子からぞろぞろと小さな兵隊ロボを繰り出し、必死に敵の足止めを試みる。
だが、ロボットたちの数は膨大で、じわじわと押し返されていく。瓦礫の山越しに、クロノスの白い体が再び街の残骸を吸い寄せて自己修復を始めているのが見えた。
「だめだ、あと少しなのに——!」
のび太は汗だくになりながら、必死にクロノスの方へ近づこうとする。だが、襲いくるロボットの波にどんどん押し戻され、指先が届きそうで届かない。
ノアも必死でショックガンを撃ち続けるが、すでにエネルギー残量はわずかしかない。
「もう、あとがないよ……!」
のび太は振り返り、仲間たちの必死な顔を見つめる。その目に、あきらめきれない決意が宿っていた。
その頃、ジャイアン、スネ夫、しずかも必死で戦っていた。
タケコプターで巨大なパートナー生物のそばを飛び回りながら、ビルの谷間で偽パートナーたちとぶつかり合う。
「バクゴン、もう一度だ! ……くそっ、技が出ない! エネルギー切れかよ!」
巨大なバクゴンは、偽バクゴンと正面からぶつかり合い、拳と拳が鈍い音を立てて衝突した。お互いに火花を散らしながら、肩で息をし、体当たりや押し合いを何度も繰り返している——もう、炎も技も出せず、ただ力任せのぶつかり合いだった。
「ハニワル、左だ!よけて……ぐっ!」
スネ夫も指示を叫ぶも、ハニワルは偽ハニワルの一撃でコンクリートの壁に叩きつけられる。
「モサモサン、がんばって……!」
しずかも必死で声をかけるが、モサモサンは偽モサモサンにつるでがっちり絡みつかれ、もがきながらも地面に押し倒されてしまう。しずか自身も、吹き飛んできた瓦礫を避けて、思わず陰に身を伏せるしかなかった。
それでも諦めきれず、三人は泥だらけになりながらパートナーのもとへ駆け寄る。
「もう少しなのに……どうして技が……」
「はやく、はやくしないと……」
三人とも、唇を噛みしめて歯を食いしばるが、希望が指の間からこぼれ落ちていくようだった。
一方、のび太たち地上チームも、ロボットの大群に押し戻され、クロノスのコアへ近づくどころか、どんどん距離が離れていく。
「このままじゃ……間に合わないよ!」
ノアが青ざめて声を上げる。
その間にも、白かったクロノスのボディは再び集まってきた瓦礫で覆われ、少しずつ形を取り戻していった。
『あと少し』が、どうしても届かない。せっかく掴んだはずの勝機が、もどかしさと絶望に押しつぶされそうになっていく。
ドラえもんは、必死にひらりマントを振り回してロボットの攻撃を受け流していた。しかし、鋭いアームがマントを引き裂き、「うわっ!」と叫ぶ間もなく、布切れがバラバラにちぎれて地面に落ちてしまう。
「ヒラリマントが……もう使えない……!」
ドラえもんは、両手でちぎれた布を握りしめ、うつむいた。
ノアも汗だくでショックガンを撃ち続けていたが、敵のロボットに腕をつかまれて「あっ!」と声をあげる。ショックガンは手からはじけ飛び、地面を転がって消えていく。
「ダメだ……もう、これしかないのに……」
ノアの声も、心細さに震えていた。
のび太も空気砲を構え、何度も必死に引き金を引いたが——「カチッ、カチッ」と、空しく音が鳴るだけ。
「エネルギーが……もう無いよ……」
肩を落として地面にへたり込み、ひざに手をつく。
三人の周囲を、まだ暴れ続けるロボットたちが埋め尽くしている。どうしようもない絶望が、じわじわと心を締めつけてく。
「もう……もうダメだ……」
のび太は声を震わせながら下を向く。呼吸だけが静かに響き、どこか遠くでロボットが何かを壊す音がこだまする。誰もが絶望の淵に追い込まれ、重い沈黙が場を包んだ。
——のび太はゆっくり顔を上げ、涙をにじませた目でクロノスを見つめる。唇がわななき、何度も言葉にならない声が喉の奥で渦を巻く。
心の奥から、苦しさと祈りがあふれてくる。
そして——ついに叫んだ。
「お願い! 誰か、誰か……クロノスを封印して——!」
のび太の叫びが響いた次の瞬間、空気を切り裂く音とともに、黄色い閃光が視界を横切る。
目にも止まらぬ速さで、何かがのび太のすぐそばを駆け抜けた。その一瞬、のび太とその黄色い影がしっかりと目を合わせる。
黄色い影は、荒れ狂うロボットたちの群れの間をすり抜けるように走り抜け、瓦礫に覆われそうになっていたクロノスの元へ一直線に飛び込んだ。
そして、迷いも恐れもなくクロノスの小さなボディを持ち上げ、漆黒の封印装置の中へポン、と収める。
次の瞬間——。
装置のボタンを「ピッ」と押す黄色い手。制御装置は甲高い「キーン!」という音を立てて作動し始めた。
すると、暴れ回っていたロボットたちは一斉に動きを止め、まるで糸が切れた人形のように、ガシャガシャと音を立ててその場に崩れ落ちていく。
瓦礫で作られた巨大な偽パートナーたちも、音を立てて崩れ落ち、ただの鉄くずの山となっていく。
その瞬間——
世界が、まるで時を止めたかのように、しんと静まり返った。
静寂の中、誰もがぼうぜんとその場に立ち尽くしていた。いま何が起きたのか、現実とは思えない気持ちで周囲を見回す。
そんな中、のび太がふと目を向けると——
封印装置のすぐ横で、ヨワリンが嬉しそうにぴょこぴょこと跳ねていた。どこか誇らしげに、みんなの方を見上げている。
「ヨワリン……ヨワリンが、世界を救ってくれたんだ!」
のび太が声を上げる。
タケコプターで空を飛んでいたジャイアン、しずか、スネ夫も、次々と地上に舞い降りてきた。汗とほこりにまみれながら、みんな封印装置とヨワリンの前に集まる。
「な、なんだよヨワリン、いつもビビってばっかなのに……最後の最後で一番カッコつけやがって!」
ジャイアンは思わず苦笑いしながらも、どこか嬉しそうにヨワリンを見つめた。
「い、今のスピード、ちょっとカッコよかったじゃん……!」
スネ夫も感心したように目を丸くする。
「ほんと、みんなのおかげね……!」
しずかが優しく微笑み、のび太とヨワリンに寄り添う。
ドラえもんも涙ぐみながら、ヨワリンの頭をそっと撫でる。
「いやぁ、最後の最後で本当にすごかったよ。みんなで力を合わせたから、ここまで来られたんだね……!」
スパークは空中でくるりと一回転して叫ぶ。
「やったな、みんな!まさか『あのヨワリン』が世界のヒーローになるとは——やっぱり人生、何が起こるか分からないな!」
ノアも、ヨワリンを見つめて、目に涙を浮かべながらそっと言った。
「ありがとう……ほんとうに、ありがとう……」
みんなの顔が自然と笑顔になっていった。
涙と汗とほこりにまみれながら、手を取り合い、誰もがこの瞬間だけは、世界で一番の幸せを感じていた。
そして、封印装置の横で、ヨワリンはちょこんとお座りして、みんなの歓声を全身で受け止めているのだった。
だが、その幸せの余韻が消えぬうちに——
パートナー生物たちの身体が、ふわりと淡い光をまとい始める。
「……え? バクゴン?」
ジャイアンが目をこすりながら、信じられないようにバクゴンを見上げた。
その巨体は、さっきまでの雄々しさが嘘のように、透き通り始めている。
スパークが、いつになく静かな声でポツリと呟いた。
「……やっぱり、こうなっちまったか。箱庭の生き物たちは、もうこの世界にはいられなくなる……」
「え!? どういうことだ!? ちょと待ってくれよ! なあ、バクゴン……消えるなんてウソだろ? なあ!」
ジャイアンは駆け寄ろうとするが、バクゴンはじっとジャイアンを見下ろし、まるで別れを告げるように優しくうなずく。
「モサモサン……?いやよ、やだ……行かないで……!」
しずかは突然の異変に混乱し、モサモサンの根本に両手を伸ばすが、光が指先からすり抜ける。
「ずっと一緒だと思ってたのに……なんで、なんでなの……!」
スネ夫はその場にひざをつき、額に手を当てる。
「ウソだろ……?ぼくのハニワルが、いちばんカッコよかったのに……こんなのズルいよ……!」
涙がにじむのをごまかすように、必死で唇をかみしめる。
その時、のび太の足もとで、小な体がふるふると揺れた。
ヨワリンの黄色い身体が、ぼんやりと淡い光に包まれ、しだいに輪郭が透けていく。
「え、ヨワリン……?」
のび太が手を伸ばそうとすると、ヨワリンはぷるぷる震えながらも、まっすぐにのび太を見つめて、にっこりと微笑んでみせる。
「まさか、君まで……」
のび太も思わず叫ぶ。
「どうして!? せっかく勝ったのに、なんでみんな消えちゃうの!?」
ドラえもんが、そっとすすけた箱庭を取り出す。
「みんな、ごめん……箱庭がもう、限界なんだ。これ以上、維持できないんだよ……」
「ふざけんなよ! バクゴンは、オレの……オレの親友なのに!」
ジャイアンは大きな拳を握りしめて地面を叩くが、バクゴンはやさしくその頭を下げ、感謝の気持ちを伝えるように静かに微笑んだ。
しずかは涙で声を震わせながら、うっすらと消えかけるモサモサンを見上げる。
「あなたのおかげで、いろんなことを乗り越えられたのよ……ありがとう、モサモサン……」
スネ夫も目をそらしながら、ハニワルに呼びかける。
「ぼく、こういうの本当に苦手なんだけど……。でもハニワル、キミがいてくれて、すごく頼もしかったよ。ありがとな……」
みんながそれぞれのパートナーに、どうしても諦めきれない思いをぶつける。
でも、淡い光の粒が彼らの体を包み、空に舞い上がりはじめる。
みんなが涙をぬぐいながら手を振る中、のび太とノアはいてもたってもいられず、ヨワリンのもとへ駆け寄った。
二人は必死にしがみつき、「ダメだよ、まだ消えないで! 一緒にいようよ!」「お願いだよ……いなくならないで……!」と叫ぶ。
けれど、ヨワリンはぷるぷると体を揺らして、二人にやさしく微笑む。
まるで「だいじょうぶ、ありがとう」と伝えているようだった。
そして——
パートナー生物たちの光は、静かに、でも確かにこの世界から消えていった。
誰もがぼうぜんと立ち尽くす中、ドラえもんがそっとのび太の肩に手を置き、静かに語りかける。
「さよならじゃないよ。きっと、また会える。……そう信じていよう」
涙と別れの中に、わずかな希望が、やさしく灯っていた。
光となって消えていったパートナー生物たちの姿に、誰もがしばらく言葉もなく立ち尽くしていた。
しずかは、こぼれそうな涙を袖で拭いながら静かに呟く。
「……みんな、本当に大切な存在だったのね」
スネ夫も肩を落としつつ、鼻をすすりながらハニワルがいた場所を見ていた。
ジャイアンは黙って拳を胸に当て、「またどこかで会おうな、バクゴン……」とぽつり。
のび太もヨワリンが消えた場所にそっと手を伸ばし、「みんな……ずっと忘れないよ」と静かにつぶやいた。
そんな余韻に包まれていたとき、スパークがぴょこんと空中で羽をばたつかせながら明るく叫ぶ。
「よーし!一件落着だな! ……って、え?なに? なんでみんなそんな顔してんだよ~」
スネ夫が涙声でスパークに振り返る。
「スパークも箱庭の住人だろ?……消えちゃうんだよな。今までありがとうな」
ジャイアンも目をこすりながら「お前には結構助けられたぜ」とぶっきらぼうに言う。
しずかものび太も「これからも、ずっと友だちだよ!」「また会おうね!」と笑顔で手を振る。
スパークは急にアタフタしはじめる。
「ちょ、ちょっと待て! な、なんでそんなにお別れムードなんだよ!?」
ノアまでが照れくさそうに、「この前『きらい』って言っちゃってごめんね。本当は……好きだったんだ」と微笑んで手を振る。
スパークは顔を真っ赤にして、思わず涙ぐみながら叫ぶ。
「お、おいオイラのことをそんなに……! や、やめろ!感動しちゃうじゃないか!」
みんながどんどん手を振り、「バイバーイ!」「ありがとうスパーク!」「絶対忘れないからな!」と大合唱。
スパークも泣きながら両手をブンブン振り返すが——
……しかし、いくらたっても体が光る気配はまったくない。
微妙な沈黙。全員が「……ん?」と目を見合わせる。
ジャイアンが、ぽつりとぼやいた。
「……おい、消えねぇのかよ!」
スパークは急に眉をつり上げ、みんなの前で羽をバサッとはずし、ぺちん!と封印装置の上に叩きつけた。
「言っとくけど、オイラは箱庭の生き物じゃねぇ! ドラえもんズに頼まれてガイドしてただけの、フツーの22世紀の小人族だっての!」
みんな「えーーー!?」と大爆笑。しずかは胸を撫で下ろし、スネ夫は「なんだよ~無駄に泣かせやがって!」と鼻をすする。
スパークはぷいっとそっぽを向いて、
「ほんとにそう思ってるのかよ……もう! こっちが恥ずかしいだろーが!」と、ぶつくさ文句を言いながらも、うれしそうにみんなを見つめていた。
みんながスパークの種明かしで笑いに包まれる中、不意にノアが一歩前へ出た。
その表情はどこか真剣で、のび太たちもすぐに気づく。
「どうしたの、ノア?」と、のび太が心配そうに尋ねる。
ノアは少しだけ視線を伏せ、静かに息を吸い込んだあと、みんなに向かってはっきりと口を開いた。
「……みんな、お願いがあるんだ」
みんなが一斉にノアを見つめる。
「なんだよ、改まって」「どうしたの?」と、口々に問いかける。
ノアは小さくうなずくと、まっすぐ前を見つめて言った。
「——ぼくを……封印してほしいんだ」
その言葉に、場の空気が一瞬にして凍りつく。
「な、なに言ってんだ!」とジャイアンが叫ぶ。スネ夫もしずかも、目をまるくする。
のび太はすぐに駆け寄って、ノアの手を強く握った。
「どうしてそんなこと言うの!? せっかくクロノスを倒して、これからずっと一緒にいられると思ったのに……なんでだよ、ノア!」
のび太の声は涙で震え、必死に理由を求める。
ノアは静かに首を振り、やさしい声で続ける。
「……ぼくね、箱庭のこととか、22世紀の未来のこととか、クロノスのこと——いろんなのを見てきて思ったんだ。どんなに優しいAIでも、どんなに仲良くしてても、すごく強い力があったら、もしかしたらいつか、間違ってみんなをすごく傷つけちゃうかもしれない。それが……本当に、こわいんだ」
のび太は、まるで駄々をこねる子どものように、ぶんぶんと首を振った。
「やだ! そんなの理由にならないよ! ぼくが、ぼくがそばにいるから大丈夫だよ! ずっと一緒にいて、絶対にそんなことさせないから!」
涙声で必死に食い下がる。
しかし、ノアは哀しげに、そして、どこか全てを受け入れたように微笑むだけだった。
「ごめんね。でも、いつか、本当の未来で、心から笑って再会したいんだ。そのために、今は待っていてほしい」
ノアの、あまりにも優しく、そして哀しいその言葉に、のび太はハッとして押し黙った。
(そうだ……なんで気づかなかったんだろう。ぼくが言っている『大丈夫』には、なんの根拠もないじゃないか)
のび太の胸に、箱庭での絶滅、22世紀の人々の不安、そしてクロノスが歩んだ孤独な道——そのすべての映像が、冷たい事実として、重く、否定しようもなくよみがえる。
その圧倒的な現実の前に、のび太の最後の強がりが、ついに崩れ落ちた。
「そんなの、やだよ……!」
彼は、その場にしゃがみ込んでしまった。
「ひとりで全部決めちゃうなんて、ひどいよ……。友だちだって言ったのに……うわあああん、寂しいよ、ノア……!」
子どものように、ただ声を上げて泣きじゃくる。その背中を、ノアはそっと優しく撫でた。
「ごめんね、のびた。……でも、泣かないで聞いてほしいんだ」
ノアは静かに、しかし強い意志を込めて言った。
「ぼくは、生きることをあきらめてるわけじゃない。ただ、今はまだその時じゃないんだ。人間たちが、本当に人間とAIが一緒に暮らせる未来を作ってくれるまで、ぼくは眠って待っていたいんだ」
まだ嗚咽を漏らすのび太のそばで、ノアは静かに立ち上がり、ドラえもんのほうを振り返った。
「ドラえもん……お願い。君の道具で、ぼくを眠らせてくれるかな」
ドラえもんは、悲しそうに首を横に振った。
「そんな道具なんて……そんな悲しい道具、ぼくは持ってないよ、ノアくん」
しかし、ノアはまっすぐにドラえもんを見つめ返す。
「ううん、あるはずだよ。ただ眠るだけじゃない。『約束』のための、希望の道具が」
その言葉に、ドラえもんはハッとして、ついポケットに手を伸ばした。
「も、もう……仕方ないなあ……」
渋々とドラえもんが取り出したのは、丸くて古ぼけた『約束タイムカプセル』だった。
「これは、約束を決めて蓋を閉じると四次元空間に消えちゃうんだ。約束が果たされるまで、外からは絶対に開けられないんだよ」
その言葉の重みに、しゃくり上げていたのび太も、ハッと顔を上げた。
目の前にある、古ぼけたカプセル。これに入ってしまったら、途方もない『約束』を果たさない限り、もう二度とノアには会えない……。そのあまりにも重い現実が、のび太の胸に突き刺さった。
(ぼくがただ「寂しい」って泣いているだけじゃ、ノアは本当に、永遠に、いなくなってしまうんだ……)
長い沈黙の末、のび太は涙を袖でぐいっと拭い、立ち上がった。その瞳には、もう迷いはなかった。
「……わかったよ、ノア。そのカプセルを開ける『約束』、ぼくが果たす! これからいっぱい勉強して、絶対に君みたいなAIと人間が本当に仲良くできる未来を作ってみせる! どんなに難しくても、何度つまずいても、絶対にあきらめない。だから、それまで待ってて!」
ドラえもんは慌てて止めようとする。
「ちょ、ちょっと待ってよ、のび太くん! それは22世紀でも誰にもできなかったことなんだよ!? そんな難しい約束、無理にしなくていいんだ!」
しかし、のび太は拳を握り、まっすぐに前を見据えた。
「だからこそ、ぼくたちがやるんだ! ぼくたちなら、きっとできる! 今までだって、ずっとそうしてきたんだから!」
ノアはのび太の言葉にじっと耳を傾け、小さく微笑みながらうなずいた。
「うん、ぼくは信じてる。のびたなら、きっと……」
そして静かに、約束タイムカプセルの中にちょこんと座り込み、穏やかな笑顔でみんなを見つめていた。
フタを閉める直前、ノアはみんなの顔を順番に見つめ、穏やかに微笑んだ。
「泣かないで。必ずまた笑顔で会おうね」
ジャイアンがぐっと拳を握り、涙をこらえて力強く言った。
「ノア!お前が戻るまでに、もっともっと強くなっておくぜ! 約束だ!」
しずかは目を潤ませながらも、精一杯の笑顔で、
「また一緒に、きれいなお花をたくさん育てましょうね」
スネ夫は鼻をすすりつつも、「も、戻ってきたら、ぼくんちで特別に高級なケーキをご馳走してやるからな!」と、彼らしい照れ隠しをした。
スパークは目をゴシゴシと拭きながら、小さく浮かび上がって叫ぶ。
「おいらも忘れんなよ!その時までに、もっとイケてる小人になってやるからな!」
ドラえもんも優しい笑顔で静かに頷く。
「ノアくん、ありがとう。また未来で会おうね」
のび太は、もう涙が止まらなかった。それでも必死に笑顔を作り、ノアをぎゅっと抱きしめた。
「絶対、絶対にまた会おう!約束だからね!」
ノアはその言葉を受け止めて、優しく目を細めた。
「うん。また一緒に遊ぼうね!」
ノアが自分でタイムカプセルの蓋をゆっくりと閉じると、その姿は柔らかな光に包まれ、静かに四次元空間の彼方へと消えていった。
——タイムカプセルの中で、ノアは静かにまどろみながら微笑んでいた。
(のび太……ドラえもんズのみんな……。本当に楽しかったな……)
優しい思い出と共に、心地よい眠りへと落ちていくのだった。
その後、静けさが辺りを包んだ。みんながぼんやりとタイムカプセルの消えた場所を見つめていると、瓦礫の隙間から、恥ずかしそうに青色に戻った小さな影がそっと顔を出した。
「……ヨワリン?」
のび太が驚いて声を上げると、ヨワリンがぷよぷよと嬉しそうに跳ねて飛びついてきた。
「奇跡的に生き残ったみたいだな。弱っちいから、箱庭のエネルギーがギリギリ生かしてくれたのかもなぁ」
スパークがからかうように笑ったが、その目は優しく光っていた。
のび太はヨワリンを強く抱きしめ、小さな体の温もりを感じながら、心からの決意を口にした。
「絶対にあきらめない。きっとまた、みんなで笑える日がくるから——」
そう静かに誓うと、澄み渡った空を見上げるのだった。