22世紀の街に、ついに明るい陽ざしが戻ってきた。
壊れたビルや道路も、未来の復元ロボットたちがてきぱきと直し、あっという間に元通り。避難していた人たちも笑顔で戻り、街には穏やかな日常がよみがえっていく。
そんな中、公園の広場では「世界を救ったヒーロー!ヨワリン大感謝パーティ」が開催されていた。
子どもたちがヨワリンを頭の上に乗せてわいわい走り回り、あちこちで「ヨワリン!ヨワリン!」の歓声。
スパークは自分も誇らしげに胸を張って、「こいつがいなきゃ世界は救えなかったんだぞー!」と熱弁中。
ヨワリンはきょとんとした顔でみんなに持ち上げられ、時々「ぷにっ」と元気よく手足を動かし、思わず笑いを誘っていた。
セワシがステージに上がってマイクを握る。
「そして、みんな忘れちゃいけない! のび太くんたちが命がけで戦ってくれたから、ヨワリンもヒーローになれたんだよ!」
わっと歓声が上がり、「のび太くんありがとう!」「ドラえもんもすごーい!」と子どもたちが次々に拍手喝采。
ヨワリンは照れくさそうにのび太の方を振り向き、ぷにっと手を伸ばしてハイタッチ。
のび太も「えへへ、ぼくなんて全然……」と頬をかきながら、でもみんなの中で誇らしそうに笑顔を見せていた。
その様子に、ジャイアンが「オレもヒーローだぞ!」と自慢げに胸を張れば、スネ夫も「ぼくも!ぼくも!」と負けじと叫び、広場はますます大盛り上がり。
しずかは大事そうにモサモサンのぬいぐるみを胸に抱き、「ほんとうにみんな、ありがとう」と、やさしく微笑むのだった。
「でも……クロノスに操られて壊れたロボットたちは、もう帰ってこないんだよね。それに、ドラえもんズも……」
のび太の言葉に、にぎやかだった広場に、ふと静かな風が吹き抜けた。みんながしんみりと、あの日の別れを思い出しかけた——その時。
「みんな、見てーっ!!」
パタパタと息を切らして走ってきたのは、ドラミだった。目をキラキラさせて、空を指さす。
みんながいっせいに空を見上げると、そこには……巨大な蝶や蜂やトンボ型のカラフルなロボットたちが、悠々と舞い降りてきていた!
その背中に、なんと——
カーボーイハットのドラ・ザ・キッド、赤いマントのエル・マタドーラ、サッカーボールを抱えたドラリーニョ、ターバン姿のドラメッド三世、カンフー着の王ドラ、そしてふわふわマフラーのドラニコフ——伝説のドラえもんズが勢揃い!
地面に着地するなり、キッドが大きく手を振りながら、
「へへ、待たせたな! いや~、工場長とへちゃむくれのおかげでピカピカに修理されちまったぜ!」
ウィンクしてガッツポーズ。
「ちょっと、誰がへちゃむくれよ!」
ドラミがぷりぷり怒って前に出る。
「でも……まあ、助けてあげたのはほんとよ!」
みんなが笑いに包まれる中、キッドは肩をすくめて、
「ノアには会えなくて寂しいけど……あいつが決めたことなら、オレたちはどこまでも応援してやるさ!」
王ドラは両手を高く掲げて、
「再び再会できて嬉しいです! これからも仲良くしていきましょう!」
ドラメッド三世はターバンをくいっと直し、にこにこしながら
「やっぱり仲間と一緒が一番であ〜る! 今日は盛り上がるであ〜る!」
マタドーラは腰に手を当て、くるりと一回転して
「情熱の再会に、涙が出るぜ! オレたち、みんなの味方だぜ!」
ドラリーニョはサッカーボールを蹴りながら、
「ノアのことはきっと忘れない。みんなの友情、ずっと続くよ!」
ドラニコフも照れくさそうににっこりと微笑み、そっとのび太の肩をたたいてくれた。
その様子に、ジャイアンがたまらず叫ぶ。
「お、お前ら、もうビックリさせんなよ! ……ったく、泣かせやがって……」
ジャイアンはキッドの肩に腕をまわし、豪快に笑った。
スパークも帽子を放り上げて「こりゃ大騒ぎだな!」と飛び跳ねる。
ドラミとセワシはにこにこしながら説明する。
「のび太さんたちが諦めずに戦ってくれたおかげで、マツシバロボット工場の工場長さんと一緒にドラえもんズを修理できたのよ!」
「実は……サプライズでみんなに見せたかったんだ。最新のパーツでちょっとだけパワーアップしてるかも!」
そんな賑やかな輪の中、ドラリーニョがふいにのび太の前にやってきた。
「のび太くん、これ……ノアくんのサッカーボール、預かってたんだ。今度は君に託すね」
ドラリーニョがそっと差し出したボールを、のび太は両手でしっかりと受け取る。
ボールの表面をそっとなぞりながら、のび太はノアと一緒に遊んだ日々を静かに思い返した。
「ノア……また、きっと会えるよね」
のび太はボールを胸に抱きしめ、ほんの少しだけ涙ぐみながらも、しっかり前を向く。
——と、その時だった。
空からホバーボードに乗ったAI管理局の警官たちが、真剣な顔でずらりと現れた。
「指名手配犯のドラえもんズ、今日こそ捕まえてやるぞ!」
警官たちの大声に、ドラえもんズは一斉に「やばっ!」と顔を見合わせる。
キッドがにやりとウインクしながら、「ま、オレたちはオレたちのやり方で、またどこかで輝いてみせるさ!」と粋に言い放つ。
ドラえもんズは一斉にそれぞれの昆虫型ロボットに飛び乗り、ドタバタとAI管理局から逃げ出した。
「おりゃー! 空気砲ドカン!ドカン!」
キッドが楽しそうに空気砲を撃ちながら飛び去っていく。
その後ろ姿を見ながら、スパークが帽子をクルクル回して大笑い。
「まったく、アイツらは最後までヒーロー気取りだぜ!」
のび太も、サッカーボールをそっと見つめながら、優しく微笑むのだった。
パーティの喧騒がひと段落した頃、スパークはヨワリンを連れてみんなの前にふわふわと立った。
「よーし、こっから先は、このスーパーガイドのオイラと、世界のヒーロー・ヨワリンで、この冒険のことを未来の奴らにちゃーんと語り継いでやるからな!」
スパークはヨワリンの頭の上でぴょんと一回転し、ビシッと敬礼ポーズを決める。
「クロノスの封印も、オイラたちが責任もって見張っとくから安心しな! ま、もしあいつが復活しちゃったら……正直、もう誰にも倒す方法なんてないけどな! アハハ、そんときはそんときだ!」
ヨワリンも元気よく「ぴょん!」と跳ねて、その場でくるりと回り、ちょこんと胸を張ってみせる。その愛らしい仕草に、みんなも思わず笑顔になる。
のび太は空を見上げて、大きく息を吸い込んだ。
「ぼくたちも、絶対に負けない。AIと人間が本当に一緒に生きられる未来のために……これからも頑張るよ!」
ドラえもんが「うん、のび太くん!」と力強く背中を押し、しずか、ジャイアン、スネ夫も次々とうなずく。
22世紀の空は、雲ひとつない青さで、どこまでも広がっていた。
みんなの思いが、静かにその空へと溶けていく。
のび太はヨワリンの小さな手をぎゅっと握り、もう一度だけ、優しく空を見上げる。
「また、きっと会おうね——」
——そう呟いたのび太の声は、未来への約束となって、まぶしい太陽の向こうへ、静かに届いていくのだった。
*
——時空を超えた長い旅路の果て、タイムマシンはいつもの机の引き出しに、静かに着陸した。
漫画と教科書の紙の匂い、窓から差し込む西日、壁に貼られた自分の下手な絵。あまりにも普通な自分の部屋の空気に、のび太たちはどっと疲れがこみ上げてくるのを感じた。
「ふぅ……帰ってきたんだな、オレたち」
ジャイアンが大きく伸びをすると、スネ夫も、
「もう、なんだか頭がぐちゃぐちゃだよ……冒険したり、パーティーしたりで、感情のアップダウンが激しすぎるんだってば……」と、その場にへたり込んだ。
しずかも「おうちに帰って、ゆっくりお風呂に入りたいわ…」と、ほっとしたように微笑む。 仲間たちは口々に「また明日な!」と手を振り、それぞれの家へと帰っていった。
部屋には、のび太とドラえもん、そして冒険の記念品であるサッカーボールだけが残された。 のび太は、机の前に座り、窓の外をぼんやりと眺めていた。楽しかったこと、悲しかったこと、怖かったこと。すべてが夢のようで、でも確かに現実に起きたことだった。
ふと、机の隅を一匹のアリが歩いているのが、目に入った。
冒険に出る前の、あの日の出来事を思い出す。ジャイアンが、道端のアリを気にも留めずに踏んでしまった、あの瞬間を。
あの時は、ただの理不尽な暴力だと思っていた。でも——。
のび太は、はっと息を呑んで顔を上げた。背筋に、今まで感じたことのない、冷たいものが走る。
「……ドラえもん。ぼく、今ごろ、本当にわかったかもしれない。クロノスが、どうして人間を滅ぼそうとしたのか」
どら焼きを頬張ろうとしていたドラえもんが、きょとんとして振り返る。
「あれは、復讐とか、戦いとかじゃなかったんだ。……ぼくたちが、家を建てたり、道路を作ったりする時に、そこにいる虫たちのことなんて、いちいち考えもしないのと同じなんだよ。クロノスは、もっとずっと先の未来へ進化しようとしてた。その道の上に、たまたま僕たちがいただけなんだ。彼にとって、人間はもう……ライバルですらなくて、ただの……アリと、同じだったんだ……」
ドラえもんは、その言葉に何も返すことができなかった。のび太がたどり着いた、あまりにも恐ろしく、そしてあまりにも真実に近いであろう結論に、ただ黙ってどら焼きを持つ手を下ろすだけだった。
のび太は、ぎゅっと拳を握りしめる。ノアと交わした約束の重みが、今までとは全く違う意味を持って、心にのしかかってきた。
*
あの静かな決意のあと、のび太の毎日は少しずつ、でも確かに変わり始めていた。
秋の初め。野比家の居間には、やわらかな午後の日差しが差し込んでいる。
窓の外からは赤とんぼがひらひらと舞い込み、風に乗ってどこか遠くの鈴虫の音がかすかに聞こえてくる。少し冷たくなった風がカーテンをふわりと揺らす中、のび太はちゃぶ台に向かって、一生懸命に宿題を解いていた。
隣ではドラえもんがニコニコと、その様子を見守っている。
「すごいね、のび太くん。冒険を終えてから、ずっと努力してるね!」
のび太は、照れくさそうに「えへへ、ぼく、約束したから……」と小さくつぶやく。
そのとき、エプロン姿のママがやってきて、うれしそうに声をかける。
「のびちゃん、最近本当によく頑張ってるわね。パパと相談して、スマホを買ってあげることにしたのよ!」
ママはふわっと優しい笑顔で、ピカピカのスマホを差し出す。
「えっ、うそ……!? ほんとに!?」
のび太は信じられないようにスマホを受け取り、思わずドラえもんと見つめ合う。
「よかったね、のび太くん!」とドラえもん。
そこへ、新聞片手にパパもやってくる。
「スマホか、勉強に使うんだぞ、のび太」
のび太は「うん、ありがとう!」と笑顔で頭を下げる。
「勉強の邪魔して悪いが、お昼のニュースだけ見させてくれ」と言って、パパがテレビをつける。
——テレビ画面の中では、スタジオがカラフルなライトで照らされ、元気いっぱいの司会者が満面の笑みでカメラに向かっている。その隣には、白衣姿で胸を張る田能村博士。後ろのスクリーンには「AI大進化時代!」の文字がピカピカと流れている。
司会者はキラキラの歯を見せて、「続いては『AI大進化時代』特集! 本日のゲストはOAIテクノロジーズの田能村博士です!」と明るい声。
田能村博士は自信たっぷりにマイクを握りしめ、
「どうも、ありがとうございます。『優しいシンギュラリティ』——それは、AIが人間の知能を超え、人類とAIが一緒に未来を切り開く新しい時代です。そして、その時代はもうすぐそこまで来ています。私はAIの力で、必ず素晴らしい未来を実現させてみせます!」
と、スタジオの観客にガッツポーズを見せる。
司会者はうなずきながら、
「AIって今や、料理から家事、勉強も仕事も全部サポートしてくれてますよね! でも逆に『AIが危険』なんて声も……。正直、暴走とか反乱とか、ありませんか?」
と、観客席をちらっと見やりながら、ちょっとドキドキ顔。
田能村博士はすぐににっこり微笑み、
「ご心配なく! AIはどんどん便利になっていますが、『安全設計』もバッチリです。たとえば、誰でも声ひとつで家事も宿題も解決、医療や交通も事故知らずですが、『AIは人間に絶対に従うルール』が組み込まれているので、勝手に暴走するなんてことはありえません」
と、白衣のポケットから最新のAIスマホをちらっと取り出してアピール。
スタジオの観客も「おお~!」と拍手喝采、画面の下には「AIは人類の味方!」のテロップが流れている。
司会者は勢いよく椅子から少し身を乗り出し、
「本当に未来って感じですねぇ! でも、世界中の会社が『スピード勝負』で開発しているとか……。安全面は?」
と、スタジオの空気を一瞬だけピリッとさせる。
田能村博士はさらに胸を張り、ニコニコ顔で、
「もちろん『安全』と『速さ』の両立です! 新しい技術は早く使えてこそ意味がある。うちは『絶対安全ボタン』も完備してますから——」
と、机の下からまるでおもちゃみたいな真っ赤なボタンをゴトリと取り出してテーブルの上にドン。
「万が一、AIが変なことをしたら、これをポチッで『ごめんなさい』ってすぐストップです!」と自信満々。
司会者は思わず目を丸くしながら、
「えっ、本当にそれで安心?」と半分ツッコミ気味。
田能村博士はすかさず、自分でおどけて両手を上げ、
「ま、実際はそこまで単純じゃないですけど! でも『AIが世界を滅ぼす』なんてのは、もう古いSF。現場でみんな頑張ってますし、リスクはちゃんと情報管理と倫理教育でカバーできてます」
と、明るく笑い。スタジオも少しホッとした空気になる。
司会者は再び爽やかな笑顔でカメラ目線。
「なるほど! じゃあ、AIがあれば便利で安心——これからの暮らしに期待していいんですね?」
田能村博士は満面の笑みで大きくうなずき、
「もちろんです! AIの力で、すべての人の毎日が、もっと幸せで豊かになりますよ!」とポーズを決める。
スタジオには再び拍手の音、画面の隅には「未来は明るい!」のテロップ。そしてテレビは「ピロリ~ン」と効果音とともに、次のコーナーへ明るく切り替わる——。
居間のテレビが次の明るいニュースに切り替わると、ママはパチパチと手を叩き、目をキラキラ輝かせていた。
「いや〜、AIって本当に頼りになるわねぇ! 洗濯もごはんも掃除も、これからは声ひとつでぜーんぶ済んじゃう時代よ、のびちゃん!」
その隣でパパも、グッと親指を立てて誇らしげに言う。
「パパも仕事、AIに手伝ってもらえば出世間違いなしだ! いや〜、夢の未来だなあ!」
ふたりが揃って未来にうっとりしていると、ママはのび太を横目に見ながら、ニコニコしてさらに続ける。
「AI先生がいれば、のび太も勉強バッチリね♪ 今度のテストが楽しみだわ!」
するとパパがニヤリといたずらっぽい笑みを浮かべて、本音をポロリ。
「のび太、いっそAIに宿題ぜんぶやってもらえよ!」
「もうパパったら! それじゃ意味ないでしょ!」
ママが慌てて突っ込むと、ドラえもんはふたりを見て苦笑いしながら、後頭部をポリポリ掻いた。
「ははは……なんだか、ぼくの出番がなくなりそうだね……」
楽しげに笑い合う両親やドラえもんの横で、のび太は真新しいスマホの画面をじっと見つめる。明るい未来を示す画面の向こうに、ノアやクロノス、そして箱庭での数々の思い出がぼんやりと浮かんでいた。
小さくため息をつき、のび太は心の中で呟くのだった。
「……本当にそれでいいのかな……?」
おわり