ドラえもん のび太とAIの子   作:マタタビネコ

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第4話 謎の少年ノア

 木々が茂り、光がさえぎられた箱庭の奥——『不思議な森』。

 ふわふわとした光が木漏れ日のように揺れていて、空気もどこかひんやりしている。

「どこだろ……ぼくの生き物……」

 のび太は木の間をくぐり、茂みをかきわけながら進んでいく。

 そのときだった。

 ふと前方の開けた場所に、ぽつんと誰かが座っているのが見えた。

 ——子ども?

「え……?」

 青白い光が差し込むその場所に、小さな少年がちょこんと座っていた。

 やわらかな金髪に、水色のシャツ、短いズボン。まるで絵本から抜け出してきたような、まっさらな子ども。

 彼はその手の先で、青くてぷにぷにした生き物を、指でつんつんとつついていた。

「ぷに……」

「わあっ、やわらか〜い! きみ、なにこれ、かわいい〜!」

 無邪気な声。まっすぐな笑顔。

 その小さな子どもは、うれしそうに笑いながら、青い生き物に頬をすり寄せた。

「……えっ? あれ、ぼくの……」

 のび太がぽつりとつぶやいた。

「のび太くん、あれ……誰だろう?」

 ドラえもんも後ろからのぞき込む。

 気配に気づいたのか、少年がふり返った。ぱっちりとした大きな目が、のび太たちを見つめた。

「こんにちは〜!」

 少年がぱたぱたと駆け寄ってくる。

「この子、すっごくかわいいね! よわよわしてて……えっと……よわ……ヨワリン! うん、それっぽい!」

「えっ!? い、いま名前つけたの!? え、ええ〜っ!」

 のび太が口をぱくぱくさせている間に、青い生き物は「ぷにぃ……」と照れたように少年の後ろにぴたっとくっついた。

「でも……あれ、ぼくが作ったのに……」

 のび太が少ししょんぼりすると、ドラえもんがぽんっと肩をたたく。

「うん、でもあの子、すっごくうれしそうに見えるよ。きっと……名前もらえてよかったんだね」

 のび太は少し黙ったあと、小さくうなずいた。

「うん……そっか。ヨワリン、ね……」

 少年がぱちくりと瞬きをする。

「きみたち、だれ〜?」

「ぼ、ぼくは野比のび太。こっちはドラえもん!」

「のびた……どらえもん……ふーん、かわいい名前!」

「そ、それはそっちが言う!? ていうか君こそ、誰なの?」

 少年はちょっと困ったように首をかしげた。

「えっと……ノア。名前はノア。でも、それ以外は……わかんない」

「えっ……?」

「目が覚めたらここにいたの。ほかのこと、なんにも思い出せないや」

 けろっと言うその表情は、どこか不思議に澄んでいて、のび太は返す言葉に困ってしまった。

「でも、ぼくこの子、気に入っちゃった。ずっと一緒にいてもいい?」

「えっ、えっと……べ、別にいいけど……」

 そのとき——

「のび太ーーーっ!! ドラえもーーーん!! おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!」

 爆発するような声とともに、スパークがぶっ飛んできた。

「ようやく見つけた……って、おい、なにこれ!? こいつはなんだ!? 誰だ!? いつ!? どこから!? なぜ!? どうやって!?」

「質問多い!!」

「え? この子、ノアって言うんだよ」

 ドラえもんが説明すると、スパークはピタリと動きを止めた。そして、ゆっくり振り向いて——

「……え? ノ、ノ、ノ……ノアァ!?!?!?!?!?!?!?!?!?」

「反応おかしすぎるでしょ!」

「だ、だって!? どこから来た!? 誰が連れてきた!? 何のために!? なぜ!? どうして!? 存在が……存在が反則だーーーっ!!」

「もう意味わかんないよ!!」

 のび太が叫んだ。

 ノアはというと、そんなスパークの様子をキョトンと見上げて——

「このおじさん、うるさいね」

「おじさん!? 今、誰が『おじさん』って言った!? いったよね!? 聞き逃してないぞ!?」

「ねぇ、のびた〜、この人ずっとしゃべってる〜」とノアがくすくす笑う。

 その笑顔に、のび太はなぜか——ちょっとだけ胸があたたかくなった。

「……ねえ、ドラえもん。この子、連れて帰ってもいいかな」

「もちろん。困ってる人は助けなくちゃ。のび太くんがそう思ったなら、きっと間違いないよ」

 ノアはパッと顔を輝かせて、楽しそうに叫んだ。

「やったぁ〜! じゃあ、ヨワリンもいっしょだよ!」

「ぷにぃっ!」

 こうして、のび太・ドラえもん・ノアとヨワリン——不思議な出会いが、ひとつの『はじまり』となった。

 

「みんな〜! あのね……ちょっと変な子、拾った……」

 のび太が茂みをかき分けながら、ノアの手を引いて戻ってくると、しずか、ジャイアン、スネ夫が顔を見合わせた。

「だれ、それ?」

 スネ夫が眉をひそめた。

「うそ……子ども?」

 しずかが思わず前に出る。

「どこから入ってきたんだ?」

 ジャイアンは周囲を警戒するようにキョロキョロと見回す。

 ノアはというと、みんなの視線など気にする様子もなく、ふわふわとした足取りでバクゴンのしっぽをつかんでみたり、ハニワルにスコップで砂山をつくってもらったり、モクモサンに顔をうずめて「もこもこ〜」と笑っていた。

「……ねえ、ドラちゃん。この子、まさか——迷子じゃないわよね? 親が探しているんじゃい?」

 しずかが心配そうにたずねる。

「それっぽいけどな……」

 スネ夫も腕を組んで考え込む。

「おいのび太、連れて帰ってきたってことは、どうすんだよ? ちゃんと警察とかに——」

「はいはいはい、ちょっとストーップ!」

 スパークが宙にひゅっと舞い上がり、みんなの真ん中で両手を広げて制した。

「いいかい? こいつは箱庭の中で見つかったんだ。外から来たとかじゃない。つまり、この世界と何かしらの関係があるってことだろ?」

「そ、そんなのわかんないじゃん!」

 スネ夫が言い返す。

「それに、のび太にこんなになついてるんだぜ? あれ見てみなよ。」

 ノアは今、ヨワリンを両手でそっと抱えあげ、じっと目を合わせていた。

 その隣では、のび太もしゃがみこんで見守っている。

「よーわーりーん! ふにゃふにゃだね〜〜」

「ふにゃ〜〜」

 ヨワリンもまんざらでもなさそうに、ノアのほっぺに自分の顔をすりよせる。

「わっ……ヨワリン、そんなことぼくにしないのに……」

 のび太が驚きながらも、なんだか嬉しそうに笑った。

「……すごい、この子。動物と話してるみたい……」

 しずかが思わずもらす。

「ま、しばらくはこっちで様子見しよう。なにより、のび太が見つけたんだ。責任とってもらわないと!」

 スパークが強引にまとめると、ドラえもんも苦笑してうなずいた。

「うん……とにかく、一緒に遊ばせてみようか」

「やったあ〜! みんなとも、あそぶー!」

 ノアは目を輝かせて、バクゴンの背中によじのぼる。

「お、おい!? おれのバクゴンになにすんだー!」

「へえ、意外と元気そうじゃない。……ねえ、名前、なんていうの?」

 しずかがしゃがんでノアにたずねた。

「ノア!」

「名字は?」

「んー……ノアしかわかんない!」

「えぇ……」

 みんな、なんとなく目を合わせる。明らかに普通じゃない。でも、悪い子じゃなさそうだ。

「ま、いっか。名前だけでもわかったし」

 ジャイアンがぽりぽり頭をかく。

 ノアはハニワルに手を引かれ、スコップで何かを一緒に掘っていた。モサモサンには葉っぱを頭に乗せてもらい、嬉しそうに笑っている。

「……うーん、やっぱり不思議な子だなぁ」とドラえもん。

「でもさ、なんかこう……放っておけないよね」

 のび太がぽつりとつぶやくと、みんなも自然と視線を交わし、うなずいた。

 ——新しい仲間が、ひとり増えた。

 

 空はどこまでも澄みきって、箱庭の大地には、誕生したばかりの生き物たちの息吹が満ちていた。

「さーて! それじゃいよいよ……本番スタートだ!」

 スパークが勢いよく宙返りを決めながら叫んだ。

「この『わくわく箱庭ランド』にはな、目標ってもんがあるんだ。おまえら、ただ生き物作って終わりじゃないぞ?」

 みんなが顔を見合わせる。

「目標?」

 ジャイアンが眉をひそめる。

「そう! この世界でいちばん大事なのは——どれだけ多様な生き物を、ちゃんと生き残らせられるか!」

「たくさん生き残ればいいの?」

 しずかがたずねる。

「それだけじゃ甘いな。数だけじゃなく、種類も、バランスもだ。環境に合った暮らしができるか。他の生き物とうまくやっていけるか。そういう『生きのびる力』も大事なんだよ!」

「へえ、なんかゲームみたいで面白そうだな」とスネ夫。

「ゲームってほど甘くねえぞ!」

 スパークがピシッと指をさした。

「この箱庭じゃ、生き物たちは餌の量と環境の相性、他の種との関係で増えたり減ったりする。そういうルールなんだ。だから——バランスが命!」

 スパークは、くるりと回って自慢げに笑うと、頭の三角帽子に手を突っ込み、中から小さな四角い箱をいくつも取り出した。それぞれラベルがついている。

「『チカラ』『ハヤワザ』『カシコサ』『タフネス』……全部、餌だ! おまえらの生き物たちは、これを食べて元気になり増えていく! でもな——」

 スパークの目がきらりと光る。

「与えすぎたり、偏りすぎたりしたら逆効果! 強くなりすぎた種が暴れて、他の生き物が絶滅したり、逆にうまく立ち回れずに全滅したり……弱肉強食ってのは、忘れちゃいけないルールだぞ?」

 みんな、思わずゴクリとつばを飲みこんだ。

「じゃあ、まずは『おためし』を見せてやるか!」

 スパークはふたたび宙でくるくる回りながら、帽子に手を突っ込む。

 地面に放たれたのは、小さな生き物たちの集まりだった。体の色も大きさもバラバラで、それぞれ違った雰囲気をまとっている。

「こいつらは『おためし生物』。この箱庭ランドに、はじめから入ってる基本のセットみたいなもんだな!」

 中には、ひときわ小さな、チョロチョロとすばしっこく動くネズミ型の生き物もいた。

「ひゃああああっ! ね、ね、ね、ネズミーーーッ!!」

 ドラえもんが飛び上がって、のび太の背中にしがみついた。

「ど、どうしてそんなの混ざってるのぉ〜!?」

「え? たまたまだよ? おためしだからな〜」とスパークはとぼけた顔で笑い、

「こいつらには負けるなよ?」と、ニヤリと目を細めた。

「さあ、そろそろ各自のエリアに行って、自分の理想の環境を作ってこい!」

 みんなは頭にタケコプターを装着し、スパークから貰った『天地創造ステッキ』と『ねんどロボ』を手に持った。

「エリアの場所は自由だ。北でも南でも、山でも水辺でも、好きな地形を作れ! あとで合流して、おたがいのエリアを紹介しようぜ!」

「わー、楽しみね!」

 しずかが目を輝かせる。

「おれ、めっちゃカッコいいの作るぞー!」

 ジャイアンが意気込む。

「フフフ……みんな驚くぞ〜」とスネ夫はニヤリ。

「じゃあ、みんな、行くぞーっ!」

 それぞれの夢と好奇心を胸に、3人はタケコプターで空へ舞い上がり、自分だけの世界へと飛び立っていった。

 

 残されたのび太は、草原にちょこんと座りながら、そばのノアとヨワリンを見つめていた。

「……よーし、ぼくももう一体、生き物つくるぞ!」

 のび太が立ち上がって、ぐっと拳を握る。

「今度こそ最強のやつだ! ジャイアンに負けないくらい強くて、すごくて……!」

「おいおい、力が強けりゃ最強ってもんじゃないぜ?」

 スパークがふわりと宙に浮き、くるりと一回転しながら言った。

「え?」とのび太が首をかしげる。

「この世界じゃ、力だけじゃ生き残れないんだ。バランスが大事だって言っただろ? たとえば、『他の生き物とうまくやってくやつ』。そういうの、めっちゃ生き残るぜ?」

「相手を倒すだけが、生き残るって意味じゃないんだよ」と、ドラえもんも補足する。

 のび太は、そっと草むらに目を落とした。

 ヨワリンが一人、ぷにぷにと動いているのが見える。さっきから他の生き物とあまり関わらずに、ぽつんとしていた。

「……でも、強いって、どういうことなんだろう。ジャイアンのバクゴンみたいな、どかーん!ってやつも強いし、スネ夫のは頭よさそうだし……」

 のび太は、ねんどロボのやわらかい粘土を見つめながら、考え込んだ。

「ぼくは……ぼくの生き物には、あんまり争ってほしくないな。誰かを助けたり、守ったり……そっと寄りそってくれるような、そんなの……」

 言いながら、のび太の頭の中には、ふわふわで、白くて、やさしい目をした生き物の姿がぼんやりと浮かんでいた。

「……みんなに優しくできることが、強さってことかも」

 その言葉に、ノアがぱちくりと瞬きをして、興味深そうにのび太を見つめた。

 ドラえもんは、そんな二人の様子を見て、にっこりとうなずいた。

「よーし、つくってみよう!」

 のび太はねんどロボを手に取り、ふにふにと粘土をこねはじめた。さっきよりも真剣な表情で、やさしく丁寧に手を動かす。

「やわらかくて……白くて……見ただけで、ほっとするような……」

 のび太の手の中で、ふんわりと丸いフォルムをした生き物が少しずつ姿を現していく。まるで牛のような、小さな角が頭にちょこんと生えていて、白くもこもこの毛におおわれていた。

 つぶらな黒い瞳がきょろきょろと動き、くるんとしたしっぽがふわふわと揺れる。後ろ姿には、淡いクリーム色の大きな斑点がぽんとのっていた。

 二本の足で立ちあがると、どこか人懐っこいような、守ってあげたくなるような雰囲気をまとっている。

「できた! 名前は……フワミルク!」

 のび太が嬉しそうに言うと、フワミルクは「も〜っ」と小さく鳴きながら、ちょこんと頭を下げておじぎをした。

「おお、さっきよりマシになってんじゃん?」スパークが粘土の残りかすをつまみながら、感心したように言った。

 だがその横で、ヨワリンがじっとフワミルクを見つめていた。

「ぷに……」と、どこか寂しげに、小さな体をふるわせて。

「……ヨワリン?」

 のび太が声をかけると、ヨワリンはそっぽを向いて、草の上にぽすんと座りこんだ。

「ま、今はそいつのことは後でいい。まずはコイツに、エサをやってみな!」

 スパークが投げてよこしたのは、小さな箱に入った『カシコサ』のエサだった。やさしい光が漏れていて、ふんわりとした香りがする。

「……強くなるんじゃなくて、誰かの役に立つように。そっと助けたり、みんなが安心できるような……」

 のび太は願いをこめながら、フワミルクに餌を差し出した。

「もぐ……もぐ……」

 フワミルクはうれしそうに、もこもこのしっぽをふりながら、ちいさな口を動かして餌をゆっくりかみしめた。食べ終わると、のそのそと歩いてきて、のび太の横にぽすんと腰を下ろした。

「も〜……」

 やさしく鼻を鳴らしながら、ぬくもりを分け合うようにのび太に体を寄せる。

「……よかった」

 のび太は思わず微笑んで、その頭をそっとなでたとき、ふとヨワリンのことが気になって振り返った。

「ヨワリンにも……エサ、あげるね」

 のび太は、同じく『カシコサ』のエサを差し出してみたが——

「……ぷに」

 ヨワリンは一度ちらりと見ただけで、ぴたりと動かなくなってしまった。じっとエサを見つめながら、まったく口をつけようとしない。

「……あれ? 食べないの?」

「そいつ、食べなくても死にはしないけどな」

 スパークが肩をすくめた。

「でも、増えもしないぜ。食べてくれなきゃ、種としての未来はないってことさ」

 そのとなりでは、ドラえもんの『どら焼きマン』が、次々に餌箱へと顔を突っ込み、ひたすらむしゃむしゃと食べ続けていた。

「もぐもぐ……もぐもぐ……」

 どら焼きのような体がぷるぷる揺れながら、餌を丸呑みにしていく姿に、のび太は目をぱちくり。

「……君は、わかりやすいなぁ……さすが『どら焼き』だね……」ドラえもんが苦笑しながら肩をすくめた。

 そんなやりとりを聞きながら、のび太は地面にごろんと横になった。

「なんか、つかれた……」

 あたたかい風が草をなで、太陽の光が心地よく照りつける。ヨワリンが寂しそうにすり寄ってくると、のび太は目を細めた。

「もう……ちょっとだけ……ねむ……」

 ドラえもんがそっと隣に腰を下ろし、のび太の顔にかかりそうな葉っぱを手でよけてやった。

「……ぼくもちょっとだけ……」と、彼も隣で目を閉じた。

 それを見ていたノアも、ふわっと笑って、ヨワリンの隣にぺたりと座り込む。

「ぷにぷにしてて、きもちいい〜……ねむ……」

 そして——

「やれやれ……」

 スパークは空中で腕を組み、ため息をついた。

「創造主チーム『ドングリの会』は……だいたい、こんな感じだよな……」

 それでも、彼の口元にはどこか、やさしい笑みが浮かんでいた。

 だが、彼らはまだ気づいていない。その平和な光景を、少し離れた草むらの茂みから、何対もの目がじっと狙っていたことを——。

 

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