青空がまぶしく広がる、のび太の箱庭エリア。池のほとりに、ふかふかの草が広がっている。
スパークが宙にぷかぷかと浮かびながら、にやにやとみんなを眺めていた。
「おいおい、なんだその顔! 朝から全員、電池切れ寸前って感じだぞ?」
のび太もドラえもんも、しずかもジャイアンもスネ夫も、全員ぐったり。
服や顔には泥はねや汗のあとがついて、髪もぼさぼさ。
「はぁ〜……ちょっと、色々ありすぎて……」
のび太が思わずへたりこむ。
「でも、せっかく箱庭なんだから、今日はリフレッシュデーだぜ! しっかり遊べよ!」
スパークが無理やり元気づけると、「じゃ、またあとで!」と、しずか・ジャイアン・スネ夫はそれぞれ笑いながら、タケコプターをつけてぴゅーっと空へ飛んでいく。
「みんな、元気だなぁ……」と、のび太が苦笑した。
残ったのは、ノア、のび太、ドラえもん、そしてスパーク。
ノアは、大切に抱えていたサッカーボールをじっと見つめて、首をかしげた。
その足元では、ヨワリンも「ぷにぃ……?」と小さく首をかしげている。
「これ……なんだろう?」
不思議そうに両手で持ち上げて、くるくる眺めたり、ほっぺにくっつけてみたり。そのうち、両ひざでボールを挟んで、うさぎみたいにぴょんぴょん跳ねてみせる。
ヨワリンも、その横でポヨンポヨンと真似っこしていた。
「違う違う、それはね、転がして遊ぶものなんだよ!」
のび太はノアの前にしゃがみこみ、「見てて——」と自分の足元にボールをそっと置く。
「こうやって蹴るんだ。えいっ!」
勢いよく蹴ったボールは、派手なカーブで池の中にドボーン!
「ひえええっ! やっちゃったぁ!」
ノアとドラえもんは一瞬きょとんとしたが、ノアが「まってて!」と元気よく池のふちに駆け寄った。
しゃがみこんで手を伸ばすが、ボールはちょっと遠い。
「うーん、もうちょっと……」
ノアは片足だけ池に踏み出して、つるっとすべって——
「わっ!」
そのまま池にドボン!
「とれたー!」
ノアは、全身びしょぬれになりながら、それでも満面の笑みでボールを高く掲げる。
ヨワリンも、池のほとりで「ぷにぃ~!」と、うれしそうに手をふっていた。
「ノア、大丈夫!?」ドラえもんがあわてて駆け寄る。
のび太も、「うわぁ、びしょびしょだよ……でも、すごいなぁ」と苦笑いしつつ、ちょっと感心したようにつぶやいた。
「もう一回やろう!」
ノアはびしょ濡れも気にせず、ボールを草原にポンと投げた。のび太も一緒になって、思いきりボールを追いかける。
「きゃはははっ! のびた、ころんだー!」
「ノアの方が転んでるよーっ!」
はしゃぎながら何度もボールを蹴り合い、とうとう息が切れるまで遊んだ。
「ふぅ、ちょっと休憩しようか……」
のび太がズボンのポケットをごそごそ。
「見せたいものがあるんだ、じゃーん! これが『のび太スペシャルぱちんこ』!」
「ぱちんこ……?」ノアが目を丸くする。
のび太は手作りの道具をノアに見せた。
Y字の木の枝の両端に、輪ゴムがぴんと張ってある。
「こうやって、ゴムに小石をはさんで……」
のび太はゴムを指でぎゅっと引っぱった。
「えいっ!」
ぱちん! 小石がビューンと飛んでいき、遠くの小枝に見事命中!
「すごい! かっこいい!」
ノアが目を輝かせて拍手。
ヨワリンも「ぷにぃ!」と、のび太の足元をぐるぐる回っていた。
「のび太くん、これだけは百発百中なんだよ〜」とドラえもんがニヤニヤ茶化す。
「なんだよ、他にも得意なことあるもん!」
のび太はちょっとムッとしながらも、ノアにぱちんこを差し出した。
「ノアもやってみる?」
「やりたい!」
ノアはぎこちなくゴムを引っ張って放つが、全然違う方向に飛んで行ってしまう。
「あれっ、むずかしい……!」
「大丈夫、もう一回!」
のび太が手を添えて教えると、今度は少し的に近づいた。
「やったー! 当たったかも!」
ノアは飛び上がって大喜び。
うまくできなくても、二人とも顔を見合わせて、もう一度大きく笑った。
そんな姿を、スパークとドラえもんが目を細めて見守っている。
「楽しさって、うつるんだな……」と、スパークがぽそりとつぶやいた。
草原には、子どもたちの笑い声が、今日も元気に響きわたっていた。
*
のび太のエリアは、平和そのもの。
そんなのどかな草原の少し向こうでは——
どら焼きマンたちが、なぜかみんなでくるくる輪になって踊っていた。
「どらっ、どらっ♪ どらっ、どらっ♪」
ぷるぷるボディを左右に揺らし、あんこからにょろっと伸びた手足をぶんぶん振って、見よう見まねの盆踊り状態。
そのまわりを、ガードマンロボットが真剣な顔で、無言でぐるぐると巡回している。
……それなのに、どら焼きマンのひとりがちょいっと足でガードマンロボットの足を引っかける。
ガードマンロボットはバランスを崩して、コロンとひっくり返る。
そのたびに、どら焼きマンたちは「どらっ!」と大はしゃぎ。
さらにそのさらに遠く。
草むらの影から、小さなおためし生物のネズミたちが、じーーっとどら焼きマンたちをうかがっていた。
その様子に、ドラえもんはそっと顔をひきつらせてつぶやく。
「……うぅ、あいつらだけは……絶対こっち来ないでよぉ……」
そんなちょっとドタバタした空気のなか、のび太とノアのまわりでは、ふわふわ真っ白なフワミルクたちが「も~っ」「も~っ」と優しい声で鳴きながら、仲間同士で寄り添っている。
「なんだか……増えてない?」
のび太が首をかしげると、ノアも「いっぱいだねぇ!」と目を丸くする。
と、そのとき。近くのフワミルクが、日なたで気持ちよさそうにゴロンと寝転がった。
「ふも〜……」と鼻を鳴らして目を細めると、ふいに鼻先からぷくっと小さな泡を膨らませている。
隣のフワミルクも真似して、「も〜」と鼻から泡をふくらませ、まるで誰が一番大きい泡を作れるか競争しているようだ。
ノアが思わずクスッと笑う。
「かわいいね、あの泡……」
のび太も「ほんとだ、風に乗ってふわふわ飛んでる」と見とれている。
そんな中、別のフワミルクがとことこ歩いてきて、おなかに持っているミルク瓶をそっとのび太に差し出す。
「え? これ……飲んでいいのかな?」
のび太がおそるおそるキャップを開けると、ミルクはほんのり甘い香り。ノアも受け取ってじっと見ている。
「せーのっ……」
ごくごく、ごくごく。
「おいしーっ!!」
二人は思わず顔を見合わせて、にっこり。
「ねえ、もうひとつもらってもいい?」とノアがたずねると、他のフワミルクたちも「も~っ!」と次々に瓶を運んできてくれる。
のどかで、でもちょっとだけ不穏な、のび太エリアの昼下がり。
そんな平和な草原の向こうから——
「おっ、のび太。お前んとこ、ずいぶん賑やかじゃん?」
スネ夫が、両脇にハニワル三体を従えて、草原にやってきた。ハニワルたちは、いかにも得意げに、同じポーズで肩を組みながらのっしのっしと歩いてくる。
「ふわふわ生物の動物園でも開く気? それとも弱い生き物コレクション?」
スネ夫が鼻で笑うと、ヨワリンは「ぷにぃ……」と不安げにノアの後ろに隠れた。
ノアは、ふわっと笑って「ヨワリン、かわいいのにねぇ」と小さくつぶやく。
「なぁスパーク、餌もっとくれない? うちのハニワルたち、そろそろ腹ぺこなんだよね〜」
スパークは帽子をくるりと回して、「いいよいいよ、どうせ山ほどあるし! じゃんじゃん持ってっちゃいな!」と陽気に返した。
「おーっ、じゃあ遠慮なく!」
スネ夫は、小屋の方へてけてけ歩き出す。
残ったハニワル三体は、のび太たちのフワミルクたちに近づいた。
すると、一匹のフワミルクが、お腹のミルク瓶をそっと差し出して「も〜っ!」とご挨拶。
ハニワル1号は、びっくりしたように首をかしげたが、やがて瓶を受け取り——
「ハニ……ハニハニ!」と、感激したように両手をぱたぱた。
他のハニワルたちも「ハニ!」「ハニハニ!」と口々に声を上げる。
そこにスパークがコミカルに身を乗り出して、
「え〜、ただいまのハニワル語を訳しまーす! 『ねぇ君たち、すごく優しいね! ぼくと友達になろうよ!』だってさ!」
もう1体のハニワルは、両手でフワミルクの頭をやさしくなでながら、にこにこ顔で「ハニ、ハニハニ!」
もう1体も、「ハニハニ〜!」と体をゆらして嬉しそう。
スパークがすかさず通訳モードで身を乗り出す。
「はいはい、続いてハニワル語訳いきまーす!『おいしいご飯もあるし、楽しい遊びもできるんだ。よかったらうちのエリアに遊びにおいでよ!』……だってさ!」
フワミルクたちは「も〜っ!」「も〜っ!」と大喜び。
ノアも、フワミルクたちが嬉しそうにはしゃぐのを見て、「なんだか楽しそうだね」と目を細める。
「うんうん、みんな仲良しだね!」とドラえもん。
「冒険も友情も大事だもんね。みんな、いっぱい遊んでおいで!」とのび太も背中を押す。
そのとき、ハニワル3号だけが一瞬、ギラリと意地悪そうな顔をして——
……でもすぐに、ニコニコ顔に戻っていた。
そんな中、小屋の方からスネ夫の大きな声が響いた。
「ちょっと、みんな! 来てよ! もう、信じらんないんだけど!」
スネ夫の大声に、スパークは思わずピクリと肩をすくめて目を丸くした。
「うわ、なんか騒ぎになってきたぞ……?」
「なんだなんだ?」とドラえもんも心配そうに駆け寄る。
のび太も「な、なにごと!?」とバタバタ小屋へ走っていく。
ノアだけが、ぽつんと草原に取り残された。そのそばには、ヨワリンも小さく座っている。
「……えっと……」
ノアはおもむろに足元のサッカーボールを手にとって、軽く蹴り始める。ぽーん、ぽーん、ぽーん……と、どんどん遠くへ転がっていく。
「もうちょっと……遠くまで!」
ノアは思いきり足を振り抜いた。すると、ボールはものすごい勢いでビューンッと空中を飛んでいく。
「えっ、うそっ……」
ヨワリンもまんまるの目でぽかんと見つめている。
そのまま、ボールは見事なクリティカルヒットで——
ガシャン!!
どら焼きマンたちの輪のそばで警備をしていたガードマンロボットに直撃。
ガードマンロボットは「ピ、ピ……」という間もなく、パカン!と真っ二つ。中からネジやバネがビヨンビヨンと飛び出していく。
「どらぁっ!?」「どらどら!?」
どら焼きマンたちはビックリして、丸い体をぷるぷる震わせたり、あんこから伸びた手足をバタバタさせたりして大騒ぎ。
ノアの顔から血の気が引く。ヨワリンも思わず口をパクパクさせて、ノアの袖をそっと引っぱった。
「う、うそ……。どうしよう……ドラえもんのロボット……!」
頭の中で、さっき怒鳴られたドラえもんの鬼の形相がフラッシュバックする。
——また、あんなふうに怒られたらどうしよう。
遠くでみんなの声がする。
「ノアー! おーい!」
ノアはパニックになりながら、壊れたガードマンロボットのパーツを慌ててかき集める。
「バレちゃダメ、バレちゃダメ……!」
ガチャガチャ音を立ててネジやバネもつかみ、二人で必死に草むらへ。
「……はぁ、はぁ……」
呼吸も落ち着かないまま、ノアは遠くから聞こえる声にドギマギしつつ、ヨワリンと目を合わせる。
「しーっ、絶対ナイショだよ……!」
ヨワリンも「キュー……」と、内緒のポーズ。
その後、ノアは何食わぬ顔で草原を走ってみんなの元へ。
「ノア、どうしたの?」と、ドラえもんが振り返る。
「え、えっと……なんでもないよっ!」
ノアは顔をひきつらせて笑う。
ヨワリンはその隣で、もじもじさせながら、落ち着かない様子で草むらをチラチラ振り返る。
「なんか、様子ヘンじゃない?」とスパークがジト目で見てくるが、ノアは目をそらす。ヨワリンも一緒にそっぽを向く。
「ふ〜ん……」
「なんでもないってば!」
「ほんとにぃ?」
「ほんとにほんと!」
——冷や汗が、額から止まらない。
そんなノアとヨワリンの前で、スネ夫がぷんすかしながら訴え出した。
「でさ! 結局『チカラ』の餌、全部ジャイアンが持っていったってわけでしょ! 困るよ、ホントに!」
スネ夫がのび太をじっと見て、「のび太取り返してきてよ!」と指を向ける。
のび太は「ええっ、なんでぼくが……」と情けない顔で後ずさり。
のび太はしぶしぶ肩を落とし、スパークとドラえもんも顔を見合わせてため息。
こうして、のび太たちはチカラの餌を取り返すべく、ジャイアンのエリアへ向かうことになったのだった。