「火山ドームエリア」に、一行がやってきた。
地面はゴツゴツ。火口はゴウゴウとうなり声みたいな音を立て、あちこちからマグマの川がグルグル流れ出している。
ゴツゴツした岩肌が、マグマの赤い光を照り返してなんともスリリング!
「うわぁ……これ、本当に山!?まるで地獄の火山だよ……」」
のび太は、マグマの熱気に思わずあとずさる。
「うっ、これじゃ僕のひみつ道具も、すぐ焦げちゃいそうだよ……」
ドラえもんも汗をぬぐいながら、じっとマグマを見つめている。
「こりゃ温泉たまごも3秒でできそうだな……」
スパークもヒュッと頭を引っ込める。
ヨワリンは、のび太のズボンのすそにピトッとくっついて離れない。
ノアは、キラキラした瞳でぐるぐる流れるマグマを見て「きれい……」とつぶやいている。
そのとき、火山の溶岩の真ん中で、ジャイアンが大きな声を上げた。
「おーい! おーい! お前ら、こっちだーっ!」
でも、なんだかジャイアンの声には元気がない。
よく見ると、汗をダラダラ流して、顔も真っ青。
のび太が恐る恐る一歩前に出て、
「……あ、あのさ、ジャイアン。『チカラ』の餌、返してくれない?」とおずおず尋ねた。
するとジャイアンは、思いのほか素直に「わかった」と頷いた。
「えっ!? いいの?」
のび太もびっくり。
が、次の瞬間、ジャイアンは深刻な顔で叫ぶ。
「その代わり……助けてくれよ!!」
いつもよりしょんぼりしたジャイアンの頼みごとに、みんな「ええぇ〜〜っ!?」と目を丸くするのだった。
ジャイアンに案内されて、のび太たちは火山ドームエリアの中心へ。
そこには、グツグツ煮えたぎるマグマの川と、湯気をもうもうと立てる巨大な溶岩風呂があった。
「うわあ……まるで怪獣映画のセットみたいだ……」と、のび太が目を丸くする。
——その前で、2体のバクゴンが、
「ガルルル……!」「ギャオオッ!!」
と、ものすごい迫力で取っ組み合いの大ゲンカ!
バクゴンの体の炎がバチバチ弾け、今にもマグマに落ちそうな勢いだ。
「おい!やめろってば!やめろーーっ!!」
ジャイアンは必死に腕を振り回して止めようとするが、バクゴンたちはおかまいなし。
「ちょ、ちょっとジャイアン、危ないよ!」
ドラえもんが慌てて引き戻す。
ジャイアンは額に汗をかきながら、振り返る。
「おれ、最強の生き物を作りたくてさ……バクゴンには『チカラ』の餌だけ、いっぱい食べさせたんだ! 最初はどんどん増えて、すげーかっこよかったのに……気づいたら、みんなで溶岩風呂の取り合いになっちゃって……。それで、こんな大ゲンカに……!」
2体しか残っていないバクゴンを、ジャイアンは申し訳なさそうに見つめた。
スパークは宙にぷかぷか浮かびながら、腕組みしてふんっと鼻を鳴らす。
「やれやれ……ほら見ろよ、言わんこっちゃないってやつだぜ……。箱庭のトラブル、全部『力まかせ』が原因って、もうお約束じゃん……」
その瞬間——
バクゴンたちが取っ組み合いをやめ、どちらも譲らぬ顔で口を大きく開ける。
「ボケェェェ〜〜〜ッ!!」
「ギャギャアァァ〜〜!!」
……なんと、超絶オンチな大音響の歌バトルが始まってしまった!
火山ドームじゅうに響き渡る『音波』で、天井からはドサドサと砂や石が落ちてくるし、マグマはグツグツ波打つし、みんな「み、耳が……!」と大混乱!
「オイオイオイ、箱庭がカラオケ会場になっちまうぞ!?」
スパークが頭を抱え、耳をふさぎながら叫ぶ。
「ぐわあぁあ! やめてーっ!」
のび太が頭を抱えてしゃがみ込む横で、ヨワリンがブルブル震えながらパニックで逃げ出した。
「ヨワリン、あぶないっ!」
ノアが叫んだその瞬間、ヨワリンはパニックのまま、バクゴンの間に突っ込んでいってしまった。
「だめー!」
ノアはあわててヨワリンを追いかける。転びそうになりながら、夢中で手を伸ばす。
「ぺちゃんこになっちゃうー!」
ノアはギリギリのところでヨワリンに飛びつき、必死に覆いかぶさった。
そのとき——
「お前ら、歌下手すぎ! やめろ下手くそぉー!!」
ジャイアンが自分のことは棚に上げて、火山の中に怒鳴り声を響かせた!
のび太とドラえもんは顔を見合わせて、「それ、ジャイアンが言う?」とボソッ。
ジャイアンの大声に驚いたバクゴンたちが、ピタッと歌をやめて振り返った——そのはずみで、ブン!と2本の尻尾が勢いよくしなり、
バシッ!!!
ノアとヨワリンは「わっ!」
「ぷにぃ!!!」と声を上げて宙を舞い、溶岩風呂の上へ一直線!
「た、大変だ〜〜!!」
ドラえもんが真っ青な顔で、四次元ポケットをガサゴソガサゴソと大慌てで探り始める。
「わ、わ、どこだ!? どこだっけ!?」
ポケットからは、なぜか下駄やそろばん、どら焼きの包み紙や、使いかけの消しゴムまでポロポロ飛び出していく。
「ええ〜!? こんな時に限って見つからないなんて! ……あった! 『かるがるつりざお』!!」
やっとお目当ての道具を見つけると、ドラえもんは息もつかずに竿をぶんっと振った。
釣り糸の先に付いた吸盤が、まず空中のノアの背中にピタッ!
「えいっ!」
シュルシュル〜〜ン!
ノアは吸盤で勢いよく引っぱられ、ぐるんと宙を回って地面に「ポンッ!」と着地。
「ヨワリンも!」
ドラえもんがもう一度、すばやく竿を振る。今度はヨワリンの背中にピタッ!
「それっ!」
シュルシュル〜〜ン!
今度はヨワリンが、びよーんと釣り上げられて、のび太たちのすぐそばに「ポフッ!」と無事着地。
「はぁ〜……間に合った……」
のび太も、スパークも、ドラえもんも、全員が胸をなで下ろす。
ノアとヨワリンは、何が起きたのかわからず、ぽかんと顔を見合わせていた。
……そのすぐそばでは、まだ2体のバクゴンが「ガルル…!」「ギャオオ…!」と、今にも再び取っ組み合いになりそうな雰囲気。
「このままじゃまた大ゲンカだよ!」
ドラえもんが慌てて叫ぶ。
「ったく、どいつもこいつもパワー系はこれだからよ! おい、みんな、無駄に体張ってでも引き離せーっ!」
スパークが空中でバタバタ手を振りながら叫び、ドラえもん、のび太、ジャイアンが必死にバクゴンたちの間に割って入る。
「バクゴン、もうやめなよ!」「うわっ、重いってば!」
「ジャイアン、こっちも押して!」「よし、そっち持った!」
「わっ、ごめん、しっぽ踏んだ!?」
みんなでバタバタ、ドタドタと右往左往しながら、なんとかバクゴンたちをズリズリ引き離すことに成功。
しかし、バクゴンたちはまだ火花を散らしながら、お互いをにらみ続けていた——。
ジャイアンが、頭を抱えてドスンと座り込む。
「なんでだよ〜! 最強の生き物作ったはずなのに! どうしてこうなっちゃったんだよ!」
そこでスパークが、ぴょこんと空中でターン!
「へっへっへ。ちょうどいいところで新兵器の出番だな! 見てな、ジャイアン!」
スパークが自慢げにくるりと宙返りし、頭の三角帽子をごそごそ。
「お待ちかね、今日の目玉アイテム〜!」
帽子の中から、ピカッと銀色に光るメカニカルなピストルを引っ張り出した。先端には、まるで二つの光線砲みたいなレンズが並んでいる。
「名付けて『適応度ライト』! こいつを使えば、その生き物がこの世界でどれだけ勢力を広げられるかが、バッチリまる見えだ!」
「勢力……?」のび太が首をかしげる。
「たくさん子どもを作るのはもちろん、仲間をふやしたり、他の生き物を支配したりしてもスコアが上がるんだ。とにかく『将来ののさばり度』を測るってわけ!」
「のさばり度って……」とドラえもんが眉をひそめる。
スパークは「のび太、そこのボケーっとした……それ、犬?猫?ま、どっちでもいいや、連れてきてー!」と指さす。
のび太が慌てて、近くでぽや〜んとしているおためし生物を捕まえ、バクゴンの横に並ばせた。
スパークは銃口をぐいっと2匹に向ける。
「いっくぞー!」
トリガーを引くと、銃の先端から2本のまぶしい光線がビシッ!
バクゴンの全身に情熱の赤いスポットライトが照らされ、その頭上には「10」という数字がくっきりと浮かぶ。
隣のボケ生物には、ふんわりとした青いスポットライトが当たり、頭の上に「2」の数字。
「やっぱバクゴン最強じゃん!!」とジャイアンはドヤ顔で親指を立てる。
次に、スパークは自信満々でバクゴン2体の前に立つと、ガンマンみたいに「適応度ライト」を構えた。
「さーて、今度はバクゴン同士で勝負だ! いっくぞ〜!」
バシュッ!
2本のスポットライトが、バクゴンの体にビシッと同時に当たる。
……けれど——
バクゴンたちの体は、さっきの赤や青じゃなく、今度はなんと怪しげな紫色に染まった。そして頭上には「−5」の数字が!
「えっ!? マイナスだとぉ!?」
ジャイアンが素っ頓狂な声をあげた。
「さっきは10だったのに、なんで減っちゃったの?」と、のび太も目をパチクリ。
スパークはにやりと笑い、帽子をくいっと持ち上げた。
「それそれ! これが『力自慢が2人集まると、ケンカばっかで損しちゃう』現象ってやつさ! つまりこれは、『勢力広げ力』マイナスってことさ!」
みんな、ぽかーん。
「……おっと、未来の教科書的に言うと、これは『進化ゲーム理論』における典型的なタカ戦略のジレンマってやつだな! 習わなかったか? え、習ってない? こりゃ失敬!」
スパークは得意げに宙で一回転すると、話を続ける。
「つまりな、力だけで張り合うと、どっちも傷だらけ! ケンカのエネルギーで『−5』、バクゴンも消耗、溶岩風呂もボロボロ、いいことナッシング!」
ドラえもんが「ケンカは損だって、昔から決まってるもんねぇ」とため息。
「だから、分け合うとか、他の『頭の良さ』とか『タフさ』も必要ってワケよ! 力だけじゃ、ホラこの通り!」
バクゴン2頭は、紫色のスポットライトの中で、まだしつこく睨み合いを続けている。
ジャイアンはがっくり肩を落とし、手にしていた「チカラの餌」を見つめた。
「……チカラの餌だけじゃ、だめなのかよ……」
ドラえもんがふわっと優しい声で言った。
「うん。どんなに強くても、ケンカばかりじゃいいことないんだよ。いっしょに仲良くやっていかなくちゃ」
のび太も「うん、みんなで力を分け合えば、ちゃんと幸せになれるんだね」とうなずく。
スパークは「やっとわかったか〜! 『強さ自慢』より『仲良し自慢』が最強ってね!」とおどけて、みんなを笑わせた。
火山ドームには、ちょっぴり大人になった空気と、またいつものにぎやかな声が戻ってきた。
……と、そのとき。
「ん?」
ノアがふと、地面の端っこで何かがもぞもぞと動いているのを見つけた。
「ねえ、みんな、あそこ……」
ノアが指差す先をみんなが見やると、ゴツゴツした岩の隙間から、もじゃもじゃ頭の小さな雑草みたいな生き物たちが、ぞろぞろと列をなして歩いてくる。
「なんだ、アイツら……?」ジャイアンが目を丸くする。
「かわいいけど、なんか変わってる……」のび太もつぶやく。
スパークが帽子をぴょいっと持ち上げ、
「おっと! あれ、しずかのエリアにいたやつだ! どうしてこっちに?」
「えっ、ほんと?」と、ドラえもんも興味津々。
「もしかして……なにかおきてるのかも!」ノアがわくわくと身を乗り出す。
「よし、じゃあ今度はみんなでしずかちゃんのエリアに行ってみよう!」とのび太が声をあげる。
「冒険はつづくってやつだな!」と、スパークがにやり。
こうして一行はジャイアンを残し、火山ドームをあとにして、次の舞台へと足を踏み出した——。