しずかの森と湖エリア『グリーンガーデンレイク』に、ドラえもん、のび太、ノア、スパーク、ヨワリンたちが到着した。
ところが——
「うわっ、なんだこれ……!?」
のび太が思わず足を止める。その目の前で、草むらのあちこちが、まるで波のように「わさわさっ」と揺れている。よく見ると、それぞれが根っこで歩きまわる、草型の生き物たち!
腰の高さほどもある草たちが、おしくらまんじゅうみたいに押し合いへし合い、ときどき「ボサァッ」と一斉にジャンプ! どこか楽しそうに動き回る。
ヨワリンは驚いて、ノアの足にぴとっとくっついて離れない。ノアもきょろきょろしながら「生きてる草……?」と目を丸くする。
スパークは眉をしかめて三角帽子をおさえ、
「ちょ、ちょっと! これ、完全に『もふもふ雑草ランド』じゃん! 昨日まで花畑だったのに、どういうことだよ!?」
と、ぶつぶつ言いながら宙をくるくる。
ドラえもんも「花がどこにもないよ……」と、心配そうに辺りを見回した。
その時、しずかがみんなに気づき、奥から困り顔で駆け寄ってきた。
「来てくれたのね……ごめんなさい、ちょっと大変なことになっちゃって」
しずかは心細そうに、足元の草の生物たちを見下ろした。
「どうしたの?」と、ドラえもんが心配そうにのぞき込む。
「急に『くさっこ』が増えすぎて……モサモサンたちも、数を減らしていったの。最後に残ったモサモサンも、どこかに紛れちゃって……どこにいっちゃったの……」
しずかは、ちょっと涙目でうつむいた。
「そっか……しずかちゃん、すごく困ってたんだね」
のび太はしずかの顔を見て、そっと言った。
「でも大丈夫! モサモサンもぼくたちがみんなで探せば、きっと見つかるよ!」
「よし、こういう時こそ!」
ドラえもんが『たずね人ステッキ』を地面に立てた。……けれど、わらわら集まったくさっこたちが、競ってステッキに体を絡める。
軽快な音とともに、ステッキは倒れるどころか、すっかり生きた草むらの一部に!
「うーん、まるで使い物にならないなぁ……」
ドラえもんも苦笑い。
「それにしても、この子も、あの子も、似てるようで全然違うんだなぁ……」
のび太が、花飾り付きのくさっこをそっと持ち上げると、
「それ、『おめかしくさっこ』だよ!」とスパークが得意げに説明。
しずかは、ふわふわの体の生物を手に取り、
「これ……もしかして、モサモサンかも?」と首をかしげる。
「えーっと、それは『ふわふわくさっこ』だな」とスパークが即答。
そのとき、ノアが周りをきょろきょろ見渡して——
「ヨワリンがいない……!」と慌てて声を上げた。
気づけば、ヨワリンの姿もくさっこの山の中に紛れていた。
ノアは大急ぎで近くのもさもさ頭のくさっこを抱き上げてみる。
「ヨワリン……? あれ?ちがう……?」
頭からパラパラと種を落とすくさっこが、ノアの手の中で揺れていた。
ノアがくさっこを抱えたまま困っていると、スパークがぴょこんと浮かび上がり、
「ノア、それヨワリンじゃなくて『たねくさっこ』だってば!」と、得意げに解説。
「もう、どこ見てもくさっこだらけ……名前つけるのも追いつかないぜ……」
スパークは帽子をぐるぐる回しながら、あきれ顔。
しずかがくさっこの中からひょっこり顔を出す。「みんな、こっち手伝って〜!」
みんなで、かき分け、すくいあげ、ときには頭からくさっこまみれになりながら、夢中で探すこと数十分——
「いたっ! モサモサンだ!」
ノアが叫ぶと、くさっこの影から、まるまるしたモサモサンがちょこんと顔を出した。
「よかったぁ〜〜!」
みんなでモサモサンを囲んで、無事発見を喜ぶ。思わず拍手と笑顔がこぼれる。
「やっぱり、みんなで探せば見つかるのね!」
しずかもほっと胸をなでおろし、にっこり微笑んだ。
みんなの目の前には、くさっこジャングルの中から、ようやく姿を見せたモサモサン。
——けれど、まだ終わりじゃない。
「ヨワリンは……?」
ノアがふと、不安げにあたりを見回す。
「そうだ、ヨワリンがいないよ!」
のび太も慌ててくさっこの中を覗き込んだ。
くさっこだらけの草むらを見回しながら、のび太がぽつり。
「ねえ、どうしてこんなことになっちゃったんだろう……?」
スパークは、得意げに三角帽子から『適応度ライト』を取り出してみせた。
「ほれ、コイツの出番だな!」
銀色ボディの適応度ライトが、モサモサンとくさっこを同時に照らす。
ピカッ!
くさっこには、まぶしい赤いスポットライト。頭上には「15」と高い数値がピカーンと浮かぶ。
一方、モサモサンは黄色いスポットライトに照らされて「5」しか出てこない。
「えっ、こんなに違うの!?」
のび太も、しずかも、ドラえもんもびっくり。
スパークが深刻な顔で言う。
「これじゃバランス崩壊だな……このままだと、モサモサンも、ヨワリンも消えちまうぞ」
「えっ、ヨワリンも……?」
ノアは顔色を変えた。
「だめだよ! ヨワリンがいなくなったら……いやだよ!」
「どうやって見つけたらいいんだろう……」
のび太があたりをキョロキョロ。
ドラえもんが腕を組んで、
「うーん、いっそ全部、くさっこ引っこ抜いちゃう?」
とつぶやく。
すかさずスパークが、ニヤッとしながら、
「いや、それなら除草剤で全部枯らしちまえば早いぜ!」と乗っかる。
ノアが慌てて首を振る。
「だめだよ、そんなの! かわいそうだよ!」
みんなの意見がバラバラになってきて、しずかはそっと目を伏せる。
「……くさっこも、生きてるんだもの。みんな生きてほしいのに……」
スパークはため息をつき、くさっこジャングルを見渡した。
「けどな、このままだと、本当に絶滅しちまうぞ——」
ノアはきゅっと拳を握りしめて、涙目でみんなに訴えた。
「おねがい……ヨワリン、ぜったい、いなくなってほしくないよ!」
静かな湖畔のそば、みんなの胸に、焦りと優しさがじわりと広がる。
そんななか——
しずかは、くさっこをそっと見つめ、小さく震える声でつぶやいた。
「ごめんね、みんな……本当は、くさっこも好き。でも、このままだと、モサモサンもヨワリンも消えちゃうなんて……」
ノアも心配そうに、「……ヨワリン……」と声を落とす。
そのとき、スパークが帽子のてっぺんをチョンとつまんで、ニヤリ。
「いいこと教えてやるよ。自然のバランスには『天敵』が欠かせないんだ! たとえば、雑草を食べるヤツを作れば……!」
「天敵……?」
しずかが目をこすりながらつぶやく。
「そう。くさっこが増えすぎないように、食べちゃう生き物がいればいいってワケさ!」
しずかは両手でそっとくさっこを抱きしめ、ぽろりと涙をこぼした。
「本当は……みんな、生きてほしいのに……」
震える指先で涙をぬぐうと、しずかはうなずき、ねんどロボの前に座り込む。
「ごめんね……くさっこさん、ごめんね……」
涙をこぼしながら、でもしっかりとした手つきで、やさしい形のウサギをひとつひとつ、ねんどで作り上げていく。
——ぽよん!
ふわふわの天敵ウサギが、やわらかい光とともに草むらに誕生した。
「ふわふわ〜!」「ぴょんぴょん!」
ウサギたちはくさっこに近づくと、パクパクと葉っぱを食べ始めた。
「きゃー!はやっ!」
スパークが慌てて飛び回る。
ドラえもんも「おお、これはなかなか……」と感心。
くさっこがどんどん減り、草の隙間がどんどん広がっていく。
そこで、スパークが「適応度ライト」でチェック!
ウサギとくさっこの頭上には、今度はどちらも「8」と「9」みたいな、ほどよい数字がピカッとスポットライトのように当たる。
「おおっ、バランスいいぞ!」とスパークが指を鳴らす。
そのとき——
くさっこの間から、「ぷに……」とかすかな声がした。
「ヨワリン!?」
ノアが駆け寄ると、もじゃもじゃのくさっこの隙間から、泥だらけで丸くなったヨワリンが顔を出した!
「ヨワリン、みつけた!!」
ノアは嬉しそうに、そっとヨワリンを抱き上げた。
ヨワリンはノアの腕の中で「ぷにぃ!」と、ちょっと恥ずかしそうに首をすりすり。
「よかった、無事だったね!」
しずかも、みんなもパッと笑顔になる。
花畑には、モサモサンも、ヨワリンも、くさっこも、天敵ウサギも、いい感じに共存。
ようやくエリアに、色とりどりの穏やかな風が戻ったのだった。
そんな中、しずかはまだどこか不安そうに、モサモサンをそっと撫でながらつぶやく。
「本当に……これでよかったのかな。誰かを減らすなんて、ちょっとつらいよ……」
ドラえもんが、そっと隣に座ってやさしく言った。
「うん。だけど、強いものばっかりが増えすぎると、結局みんなが困っちゃう。だから『バランス』が大事なんだよ」
のび太は、花の間でくさっこをつまんで見せながら、
「いろんな生き方があった方が、絶対に楽しいし、安心だよね」と、にっこり。
「ま、自然界は『バランス命だぜ』!」
スパークは、くさっこの頭にピョコンと飛び乗ってウインク。
ヨワリンとモサモサンは、花畑の真ん中で仲良く寄り添っている。
くさっこたちも、ほんの少しだけ花の間に顔を出して、もさもさと穏やかに揺れていた。
——そのとき。
バサバサ……と花畑をかき分けて、ボロボロになったフワミルクが一頭、よろよろとやってきた。
「も……も〜……」
今にも倒れそうな声で、みんなの前にへたり込む。
スパークがすかさずフワミルクの耳にぴょんと飛び乗り、通訳スタイルでみんなに向かって叫ぶ。
「緊急速報〜! 『スネ夫のオアシスで、とんでもないことになってる……助けて〜!』だってさ!」
「えっ!? 僕のフワミルクが!?」
のび太は一気に顔を青ざめさせ、慌ててフワミルクに駆け寄る。
泥だらけのフワミルクは、ぺたんと座り込んだまま、かすかに「も〜……」と鳴き、つぶらな瞳でじっとのび太を見上げた。
そのまま、力尽きたように小さく身を丸め——
ふわっとミルクの香りの風とともに、花びらのようにスッと消えていった。
「フワミルク……!」
のび太は目を丸くし、ぎゅっと拳を握る。
ドラえもんがそっと肩に手を置き、「急ごう、きっと助けられるよ」と静かに声をかけた。
しずかも心配そうに寄り添う。
「のび太さん、フワミルクのこと……お願いね。私は、ここでみんなのこと見守ってるから」
その優しい声に、のび太はうなずく。
「うん、絶対助けてくる!」
涙をこらえて、のび太はみんなと顔を見合わせる。
こうして一同は、胸に決意を秘めて、スネ夫の『オアシスシティ・サバクゾーン』へと走り出していくのだった——。