「マキマさんって……こんな味かぁ。」
戦いは終わった。否、戦いですらなかった。デンジはマキマと戦ったつもりはない。マキマすら、デンジと戦っていたつもりもないだろう。
デンジにとっては愛しい人を止める為。マキマにとってはチェンソーマン/ポチタと戦っていただけ。
デンジとマキマは戦っていない。戦いにすらなっていなかった。
家族に等しい大切なモノを亡くした。社会的後ろ盾も無くなった。後に残されたのはポチタと前より淋しくなった知らないマンションと、自分に心をくれた人だけ。
これからその人と一つになる。彼女と一体化する。その罪を背負う。
臓物、髪の毛、肉、肉、肉、肉肉肉肉肉肉…………
あれほど欲していた胸の感触を、口の中で堪能することになるとは夢にも思わなかった。
ただそれ以上に、寂しかった。胸の中にポチタがいるとしても、慣れてしまったものがいない。
アキも居ない。パワーも居ない。夢の中じゃないからポチタだっていない。心臓をくり抜けば会えるだろうか?いや、金にもならないのにいちいち痛い思いをするほどの極端な寂しがりでもない。大体血の掃除が面倒くさい。
始めてのマキマさんの味は、寂しさと生姜の混じった味だった。
だが同時に、間違いなく、紛れも無く、嬉しかった事実もある。
だってもう一人じゃないから。一つになったから。マキマさんと。初恋の人と。消化していく。マキマさんが己の中で溶けていく。
肉をしっかりと噛んで味わった結果、残った後味は愛の味だった。
知れず、その日の夜のデンジの寝室は少し臭くなった。無論生姜のせいであって深い意味はない。
───────
「これで最後かァ……」
内容物が逆流しそうになるのを愛と根性で抑え込み、箸でつまんだマキマの肉片を見つめる。
感慨深い以上にとっとと終わらせたいという飽きもあった。今なら食パンの耳すらも一ヶ月は飽きずに食せるだろう。そこにマキマさんは居ないから愛はないが。
噛み締める。感傷に浸ることもなく、ただ呑み込む。愛を以て。
マキマが復活することは終ぞ無かった。半ば確信を持ってはいたが。或いはもしかすると何処か別の場所で復活しているのかもしれないが、その時はまた必死にどうにかして肉片にするだけだ。
呑み込む。飽きた肉の味もマキマだと思えば愛おしさすら湧いてくる。
「………ハァ〜………」
今となっては食後の所作を注意してくれるような同居人すら居ない。別にいいだろうと箸を投げ捨て横になる。
明日から何をするか、どうするか。学校に行ってみるか、行けるのか?分からない、分からない。髪を掻きむしっても出てくるのは乱暴な扱いで毛穴から抜けてしまった己の髪の毛だけ。
だが一先ずはこれだけは言っておかなければ。
「ごちそうさまでした。」
そうして
─────
目が、覚めた。
「…………………………」
目の前には、私の姿/マキマさんの姿。
変わらない姿/愛おしい姿。
「…………………………?」
鏡に手を伸ばす/マキマさんに手を伸ばす。
触れる。
「…………………………??」
私の胸に手を当てる。普段と何も変わらない。/……なんでかしんねーけどおっぱいついてる……
「……………………………???」
「…………何、これ?」
─────
「………私は、私。でも、じゃあ、俺は何?」
記憶が2つある。心が2つある。でも間違いなくどちらも一つに統合されている。
マキマであるという自認。デンジであるという自認。記憶までもがそうだ。マキマの記憶であろうものをデンジとして認識出来ているし、デンジとして思考しようとしたことをマキマの知能で思案できる。
何がどうなっている?一体化したから?愛を以て食したから?そもそもデンジって誰───
「………あっ?」
おかしい点に気が付いた。
【マキマの記憶】が、【デンジの記憶】と一致しない。当然と言えば当然なのだが、そうではない。
【マキマの記憶】の中には、【デンジの記憶】にあるような出来事が存在していない。始まりの出会い、そして終わりに至るまでが存在していない。
ゾンビの悪魔、筋肉の悪魔、ヒルの悪魔、コウモリの悪魔、永遠の悪魔、サムライソード………
【マキマの記憶】が、自分と出会う前の時間で止まっている。
「………よく分からない、よく分からないけど。」
【マキマの記憶】。その記憶によると、今日の日付は──
───
「俺達の邪魔ァすんなら……死ね!!!」
ゾンビをチェンソーで切り裂いて行く、弱りきったあの方の姿/なっつかしー。俺じゃん。
それを眺める自分は、マキマだ。でも、俺もデンジだ。
「………よく、分からないけど。」
マキマさんは悪いことをした。でも、今の【私】は【俺】でもある。
ならば。
今度は、せめて、もっと───
多分続かないので誰か書いてください(他力本願)