ウマ娘一口短編集   作:草之敬

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◆ナリタブライアンのひみつ◆
ナリタブライアンのトレーナーは出張中らしい。

答え合わせはあとがきにて。




趣味さん出題による「トレーナーを彼氏ってことにしてナンパを追い払った後、もう一度ナンパされているときに今度はトレーナーから『俺の彼女』といって追い払ったときのウマ娘の反応ステークス」が元ネタとなります。
以下、元ポストのリンクです。

https://x.com/syumi12345/status/1977527997029876085?t=D2h70IQIi0L48FJZRrbPyQ&s=19


ナリタブライアンのひみつ

 

 

「遅いぞ。ほら、コイツが彼氏だ」

 

 ナリタブライアンとの待ち合わせ場所に到着するやいなや、彼女が俺と腕を組み、ぶっきらぼうにそう言い放った。

 ど、どうも~、とイマイチ事態を把握し切れないまま、ナリタブライアンの前に立っていた男性二人組へと挨拶する。はじめこそ俺の存在を訝しんだ男性二人組は「都合のいいこと言うなよ」とか「そんなオッサンが彼氏のわけねえだろ」とかとにかくまあ、好き放題言ってくれる。

 

 ま、まあ、冴えない30代(まだアラフォーじゃない)である自覚はあるので反論し切れないのも確かなのだが、せっかくナリタブライアンが頼ってくれたので追い払うくらいはするとしよう。

 

「あー、まあ、彼女も嫌がってるし、不機嫌な女の子相手にするよりはノリ気な子探すほうがいいと思うよ?」

 

 と、言いつつ、襟元の中央トレーナーバッジが見えるように立ち回る。中央トレーナーが待ち合わせ相手のウマ娘、といえば、トゥインクル・シリーズに興味がない人でも、その娘が中央の競走ウマ娘であるだろうと予想ぐらいはできるはずだ。

 

 中央トレセンのウマ娘相手に、誰もヤンチャはしたくない。

 まことしやかに存在が囁かれる私設警備隊や、そうでなくとも相当な名家の出身だったりで人によってはSPがすっ飛んで来たりもする。

 実際のところ全員が全員そうではないのだが――ナリタブライアンも大きい酒店の娘だ――、そうである可能性がある以上、下手に手を出して大火傷したくはないだろう。

 

 男性二人組はどこか納得し切れない表情のまま、この場を離れて行った。まあ、中身を知らなければナリタブライアンはかなり可愛い顔立ちだし、ハヤヒデや御母堂に選んでもらっている私服も綺麗系なのが多いので静々としていれば大和撫子のように見えなくもない。

 

「助かった」

「構わないよ。なんもされてない?」

「ああ、大丈夫だ」

「ならよかったけど……」

「……すまない」

「えっ? な、なにが?」

 

 ナリタブライアンが謝罪している。

 いや、謝れないわけではないのだが、こういう場面で謝るような娘ではない。そもそも「助かった」とお礼もすでに言っていることだし、彼女が謝る理由がない。

 理由を問いただしたが、ナリタブライアンにしては珍しく、歯切れが悪い。その、だの、なんだ、だの、バツが悪そうだ。

 

「か、彼氏……」

「あ? ……ああ! そういうことね。いいよいいよ、全然気にしてないっていうか、むしろこんなおっちゃん捕まえて彼氏なんて俺の方がごめんでしょ」

「そんなことは、ないが」

「あらそう? ならちょっと嬉しいね」

 

 お世辞も言えるようになったとは、成長だなあ。

 女子高生の相手がアラフォーは、創作だから許される年の差だ。お互い成人済みなら年の差があっても全然構わないが……、未成年が相手でそれをやられると正直肝が冷える。

 

「姉貴は?」

「手が離せないからってさ」

「なるほどな」

 

 今日、俺たちはハヤヒデらの実家である酒店に招集されていた。

 大きい酒蔵の新酒を取り扱うための、ちょっとした関係者パーティのようなものを執り行うためだ。酒店の長女と次女として、そして二人がトゥインクル・シリーズで活躍したという事実も併せての盛り上げ役……というか、文字通り「看板娘」として、だろう。

 

 で。ハヤヒデは長女として関係各位との顔つなぎや、挨拶に追われてナリタブライアンを迎えにいくことができなくなったので、俺へと可愛い妹を迎えに行くお鉢が回ってきた、というわけだ。

 

「そう聞くと帰りたくなくなるな……」

「まあまあ、そう言わず。なんなら無関係の俺もいるし」

「無関係ってわけでもないだろ」

「だと嬉しいね」

 

 生徒会副会長を務めたナリタブライアンだが、正直真面目な生徒というわけではなかった。

 もちろん愛されてはいただろうが、エアグルーヴから怒られている姿はしょっちゅう見かけた。

 

 それは実家の社交であっても変わらない。

 そのあたりハヤヒデが甘やかすから、余計に。

 

「で、なにで来たんだ?」

「車だよ」

「なら行くぞ。姉貴が待ってるんだろ?」

「はいはい」

 

 というわけで、ナリタブライアンを拾って彼女らの実家へとんぼ返りである。店舗入口前に先にナリタブライアンを降ろし、俺は好意で使わせてもらっている自宅側の駐車場に車を停める。

 店舗入口側へと再び戻ると、ナリタブライアンへ話しかけている親子らしき男性二人組が目に入る。一人は壮年の男性でおそらく父親、もう一人は俺よりもいくらか若い……二十代後半あたりの青年だった。

「ご活躍はかねがね……」とか「ぜひ、今度はお食事に……」とか。つまり一人手隙にしていたナリタブライアンへ抜け駆けであわよくぼ善い関係になろうという魂胆らしい。

 

 いつものナリタブライアンなら、先ほどのナンパ二人組のように適当にあしらうのだろうが、実家店舗の関係者と思うと下手にいつもの態度で接すると問題になる、と考えているのだろう。相槌を打ちながらも、やんわりと拒絶の気配を見せるに留めている。

 その空気を「イケる!」と見たか、親子はさらにナリタブライアンへと詰め寄っていく……という負の連鎖だ。

 

「ブライアン」

「あ……」

 

 ひどく、情けない表情をする、と思った。

 親子二人組とナリタブライアンの間に割って入って、彼女の視界の壁になるように立つ。それを見上げる彼女の表情が、ほんとうに、ひどく、ひどく、……いまにも泣き出しそうだったから。

 

「あんまりちょっかいをかけてほしくないな。俺の彼女に」

 

 と、いう。

 冗談でも言わないようなキザな台詞が、自然と出ていた。

 腰を抱き寄せ、ぴったりとくっつける。レースでの力強さがウソみたいに細い腰と、無抵抗の身体。しかし、ナリタブライアンもこれが追い払う演技だと理解したのだろう、わざわざ尻尾を俺の足に巻きつけてくれる。

 

 たじろぐ親子二人組がなにかを反論しようとしたところで、背後でガラリと戸の開く音がした。振り向けば、冷ややかな視線を飛ばすハヤヒデの姿があった。

 

「お約束事が守れないようであるのなら、お帰りください」

 

 ハヤヒデが口からぴしゃりと雷撃を放つ。

 ナリタブライアンへ、お約束事ってなに? と耳打つ。

 くすぐったかったのか、ぶるりと耳を払ってから「私ら姉妹には仕事以上の関係を持とうとしない」というご両親が発布したものがあるとのこと。

 どうやらハヤヒデが日本ダービーに出走したあたりから関係者各位に流布された約束のようで、これまでも数組の酒蔵や卸先が解約されたらしい。

 

 しかしあの親子が退散したあとも、ハヤヒデの冷ややかな目がおさまらない。そんなに腹に据えかねたんだろうか。

 

「えらく仲が良さげじゃあないかい?」

「うん? あ、ああ、これか!」

 

 と、抱いていたナリタブライアンの腰を離す。

 かくかくしかじか、と事情を説明した……のだが。ナリタブライアンさん? どうしてまだ尻尾が足に絡まったままなんでしょ?

 おそらく……いや十中八九、それが原因で君の姉君が俺に凄い目を向けてくるんだけども。離してほしいなあ、と視線で訴えると、ナリタブライアンはなにを思ったか、どすん、と勢いよく身体を寄せてきたうえに、腰まで抱かれてしまった。

 

 なんで???

 

「ほお……ブライアン、説明はあるんだろうな?」

「なんだ姉貴。ずいぶん顔が青いじゃないか」

「お前こそ、顔が真っ赤だぞ」

 

 うるさい、と吐き捨てるように言って、ナリタブライアンは腰に回す手をさらに強めた。

 お、おぎゃ……なんかイヤな音が聞こえた気がする。

 

「どうやらコイツは私の彼氏らしいからな」

「バカをいうなよ」

 

 白熱する姉妹のバトル。

 軋む俺の腰。

 俺の様子に気付いたのか、言葉を飲み込むのに一度二度と苦労しつつ、先に折れたのはハヤヒデだった。

 

「わかった。今日はそういうことにしておこう。トレーナー君、後日些細に聞き取りを行う。一言一句、気を付けて発言したまえ。その発言で君が不利になることもある。ただし黙秘権はない」

「べ、弁護士を呼べ……! 横暴だろ……!」

「は?」

「はい」

 

 俺は弱いトレーナーです。

 ハヤヒデはさっさと踵を返し、店の奥へと帰っていった。

 残されたのはいまだに力強く俺を抱くナリタブライアンと、そろそろ本気で腰の心配が勝ってきた俺だけだ。

 

「ふふ、姉貴に勝ったから気分がいいな」

「そりゃよかったね。その代わりあの不機嫌をぶつけられる俺の身にもなってくれ……」

「……なんなら、守ってやるぞ」

「いや、冗談だよ。甘んじてハヤヒデの制裁を受けるさ」

「…………アンタは、いつもそうなんだな」

 

 言ってから、ナリタブライアンは腰に巻いた腕を緩め、尻尾もするりと離れさせた。呆れたような、寂しそうな、しかしどこか嬉しそうでもある複雑な表情だ。

 今日だけでずいぶん、彼女の表情を知った気がする。

 

「悪かった。姉貴にも謝ってくる」

「……そうかい」

「ああ」

 

 ナリタブライアンも、店の奥へと消えていく。

 残されたのは、俺一人。

 

「ホント……姉妹揃って碌でもねえ男になにやってんだか……」

 

 答えはもう、決まってるのにな。

 

 

 

 




以下ネタバラシ
自身で真相に辿り着きたい人は閲覧非推奨。

反転で読めます。

◆登場人物
・ナリタブライアン
姉のトレーナーに横恋慕するわるいこ。

・ビワハヤヒデ
妹の度を越えたイタズラに頭を痛める姉。
それはそれとしてトレーナーは渡さんが。

・トレーナー
ビワハヤヒデのトレーナー。30前半終わりかけ。
姉妹の恋慕には気付いているわるいおとな。
ナリブとハヤヒデならハヤヒデを選ぶ。

◆伏線
・ナリブをハヤヒデの代わりに迎えに来た=はじめはハヤヒデと一緒に実家にいた。
・地の文(一人称)では「ナリタブライアン(フルネーム)」「ハヤヒデ(愛称)」で呼ぶ。
・ハヤヒデは彼を「トレーナー君」と呼ぶ。(ハヤヒデはシリウストレ(メイン第一部トレ)を「トレーナー」と呼ぶ)


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