アール・ヌーヴォーの亡霊   作:燃える氷

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響く銃声

 

 

 

ちょうど80年前。あの地獄の真ん中で。

 

俺は、『女神』を見た。

 

この地獄から救い出してくれると思って、両手を広げてその運命に従おうとした。

 

しかし、そいつは【悪魔】だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……夢か……」

 

この身体になって嬉しい事が2つ。1つは年を取らないこと。自分の知り合った人達が年老い、死んでいった事実を目の当たりにすると、この身体に少しは感謝が湧く。

 

もう1つはアルコールに脳が慣れないこと。脳を変身でぶっ壊して新しくすれば脳をリセットできる。飲む酒の量を増やさなくて済む事は非常に魅力的だ。武器人間、最高。

 

「……ハァ」

 

鏡の前に立ってみると、自分の目が恐ろしく見えて堪らない。未だ自分の心はあの大戦争の塹壕の中に埋もれているようだ。必死に酒で誤魔化そうにも自分の身体はこの方年を取らないし変化がまるで無いもので、この恐ろしい目から全く治る気配が無かった。いつだったからか、この症状に名前がついていた。

『2000ヤードの凝視』。命名者は全くいい表現をしている。

 

「明日から安里さんにも現場に出てもらいます。明日はデンジ君と姫野さん、アキ君とパワーちゃんと一緒に行動してください」

 

遥か彼方に固定された自分の眼球もいい所に、昨日の歓迎会の前に自分へ下された指令を思い出す。自分が未だ支配されていないのは、きっとこの心臓が強いからなんだろう。それでもこのままあちら側の敷いたレールの上で転がされる訳には行かない。俺は平和主義者だけれども、一人の目標の為に多くの人を不幸にする奴はぶん殴ってやる必要があると思っている。

しかし、あの4人と共同行動に配属されるとは………待てよ?今日は歓迎会の次の日で、あのストーリーじゃ次に来るのは確か………

 

「…アイツか……あ〜〜〜〜…」

 

面倒事になるのは絶対。嗚呼、辛い。

 

 

時は昼飯時。自分以外の4人がテーブルに座ってラーメンを食べる中、俺はテーブルの脇にポジションを取ることにした。4人席なもので仕方ない。

 

「安里さんは…食べなくていいんですか?」

 

アキが俺の事を気にかけてくれた。人の優しさに触れる事はいつの時代でも嬉しい事だ。ただ、今日ばかりはここに位置取りしなくてはいけない理由がある。

 

「…二日酔いがきついんだ。食欲が全く湧かない。別に胃に飯が入ってなくとも仕事は出来る。」

 

ここに位置取りする理由として、これは本当だ。マキマとの無謀な勝負に乗った自分を恨む気持ちは、食欲と反対に湧き上がってくる。

 

「酒飲むと昼飯も食えなくなんのか?」

 

「まぁ…飲めるようになったら解る」

 

「ギョーザはワシのじゃ!盗るな!」

 

自分としては他愛もない話をこうしてし続けていたいが、恐らくそろそろ時間だ。耳を澄ませばきっと…

 

パン!

パン!パン!パン!

パン!

パン!パン!

 

あぁ、ほら、やっぱり、銃声が。最悪。

 

「なんだこん音…」

 

「知らんとは愚かじゃの…太鼓の音じゃ…」

 

「祭りか……」

 

ここは敢えて無反応を貫くことにした。ここでむやみに反応して相手に警戒心を持たせるのは逆効果だろう。なんなら隣のテーブル。もう居る。刀の武器人間──サムライソード。もしくは孫。なんて呼ぶのが良いのだろうか。

 

「な〜ホントにウヌら昨日交尾してないのか?」

 

「意外と紳士なんだよデンジ君は!」

 

隣のテーブルに動きはない。今はこのまま、物語のレールの上を走ってもらおう。

 

 

 

「…ここのラーメンよく食えるな……味酷くないか?」

 

嗚呼、来てしまった。隣のテーブルから問いかける者が。頼むからとっとと帰ってくれ。面倒事は嫌いだ。痛いのも、血も好きじゃない。お代はこっちが払ってやる。帰れ。さっさと。

…なんて考えても、ここはストーリーの上。天と自分の2人は、これからの運命を知っている。

 

「誰…?」

 

「俺はフツーにうめぇけどな」

 

「ワシに気安く話しかけるな!」

 

「味の良しあしが分からないんだな。まぁ仕方ない事だ。幼少期に同じような味のモンしか食べてないと大人になってバカ舌になるらしい。舌がバカだと幸福度が下がる」

 

「ワシ幸福じゃが!!」

 

「店、出るか」

 

「俺のじいちゃんは世界一優しくてな、高い店でいいモン食わせて貰ったな〜。じいちゃんヤクザだったけど正義のヤクザでさぁ…必要悪って言うのかな……じいちゃんみたいな人はさ。女子供も数える程しか殺した事ないんだと。薬売った金で欲しいモンなんでも買ってくれてさ…み〜んなに好かれた江戸っ子気質のいい人だった…」

 

「デンジ お前も好きだったろ?」

 

長ったらしい独白も良い所にしてほしい。そう思っていた所に、男が写真を取り出す。

 

「なんのつもりだテメぇ…」

 

「知り合いか?」

 

未だ状況の理解が出来ていないアキなどの4課を置いて、男は行動に出た。

 

「銃の悪魔はてめえの心臓が欲しいんだと」

 

そう言って男の右腕が懐に伸びていく。この状況で死者を出さない為には、自分が動く他無さそうだ。どうとでもなれ。俺が負ける事は無いだろうが。

 

「…どうかな?」

 

意を決してさっと振り向いてみる。丁度男の懐から銃が出てきた所だった。おぉ、こわいこわい。

 

「銃の悪魔って奴はお前の心臓の方が欲しそうじゃないか?」

 

そう言って俺はフードを下げた。露わになった後頭部の撃鉄を、グッと左腕で下げる。

 

カチッ!!

 

「は?」

 

アキの愕然とした声が店内に響いた後に、

 

パン!

 

ドンッ!!!

 

男の放った拳銃の銃声よりも大きな音を立てて、俺の頭部は破壊される。飛び散った血が床とテーブルを染め上げていく。

あちらの放った一発目が自分に向けられていたのは好都合だ。この程度ならこの変身で回復できる範囲内。こちらの勝利条件は、姫野が命を幽霊の悪魔にその身全てを捧げようとする前に彼女をここから離脱させる事だ。

 

パン!

 

あちらの二発目。デンジの頭部にヘッドショット。出来ればデンジには自力で動けて欲しかった。

 

こっちに2発も銃弾のプレゼントをくれたんだから、こっちだってお返しが必要だろう。機関銃に変化せんとする右腕であちらの拳銃を持つ右腕に向けてまず1発、殴打をプレゼント。

 

ドン、と鈍い音がして、あちらの拳銃をはたき落とした。

 

これでよし、お返しの時間だ。

 

ズガガガガガガガガガガガ!!

 

変化の終わった右腕から発射される弾幕の轟音が耳を裂くように響く。火薬の匂いと煙が店内に充満していき、自分と相手の男の姿を隠していく。お返しにしては少々弾数が多すぎたような気がする。

煙が晴れて気がつけば、俺は頭と両腕から機関銃を生やし、両腕の機関銃からは弾帯が出た、さながら機関銃の武器人間の姿になっていた。こんなに早く戦闘になるとは思っていなかったが、今更応援を呼べる訳でもない。仕方ない事だと割り切るほかなかった。弾幕を受けて倒れ込んだ男を踏みつけ、振り返った。

 

「逃げろ!」

 

立ち上がっていたパワーとアキ、姫野に呼びかける…が。

 

「…その、姿は……」

 

アキと目が合った。その目はこの世で見た中で一番悲しく、また怒りの色すら見える目をしていた。今まで色んな悲しい目を見てきたが、こんなにも嫌な目はなかった。本当なら、こんな方法でネタバラシはしたくなかった。

 

「説明は後、逃げろ!」

 

そう懇願するが、あちらも用意を整えたようだ。

 

「ッ…!」

 

左腕の機関銃がすっぱり切られた感触がして、痛みで再び男の方向を向くと、思った通りの姿をした刀の武器人間がいた。

 

「フンッ!」

 

相手の腕の真ん中を突き破るようにして生えた刀で払いのけられ、距離を取られる。姿勢を整えながら辺りを見回すと動けなくなったデンジを背負って退散していくパワーの背中が目に入った。ラウンド1は俺の勝ちのようだ。

 

「お前、その姿…」

 

「そういう事だ、同類だよ。お前と俺、ボッコボコになっても死ねない罪な人間。どっちが強いかな?」

 

そうして両腕を相手に向け、銃撃を開始する。ラウンド2だ。

ズガガガガガガガガガ、と再び轟音が響き、相手の身体に風穴を開けていく。

 

「明らかに射程の差がある、それじゃあ勝てない。さっさと両腕上げて投降をお願いしま〜す」

 

そう言ったとて相手も不死身仲間。負傷も覚悟で前進してきた。

 

「死ね!」

 

その声と共に刀が振るわれ、自分の左腕が切断された。

腕に生えた機関銃から出血する、奇妙な光景だ。

 

「ッて〜〜!」

 

接近戦に持ち込む必要など俺には全く無い。ハンデなぞ与える理由がどこにある?頭から生えたもう一丁の機関銃も使って攻撃を継続しながら、一度距離を取る。

 

「うーん…相手に投降の意思無し、制圧しかないな」

 

発射速度はより上げられる。武器人間相手には相手の再生より先に銃弾の嵐で肉を削ぎ、骨を砕いて戦闘不能にさせるしかない。腕の再生も終わってきた、さっさと最高火力で相手を沈黙させるとしよう。

 

「ヘビ、丸飲み」

 

「おっと…」

そう考えていた時、死角からの強襲に襲われた。そうだった、相手は一人じゃない。蛇の悪魔の身体の中から脱出を図る為に両腕の機関銃が火を吹き始める。爆音でかき消されないように、声を張り上げて警告してやるとしよう。

 

「沢渡、アカネ、さァ〜〜〜〜ん????」

 

この能力の欠点その1。機関銃を使い過ぎると身体が熱を持ち始める。発射速度も低下するし、何より脳がイカれてくる。デビルハンターたるもの脳はキンキンに冷えて戦いの事をグルグル考え続けなければならないのに、だ。 

 

「こっちの名前まで割れてたか。作戦は失敗。一旦逃げるよ」

 

「痛ぇ…あいつ、『銃』だ…」

 

「何呑気に話してんだよオマエラ〜〜!!!!????全員!逮捕!即時!裁判!死刑だァ〜〜〜〜〜!!!!」

 

銃で人が通れるような穴を開けるのは時間がかかる。

穴がやっと空いたと思った頃には、丁度悪魔が消えていく。悪魔が消えて晴れた視界には、もう誰も写ってはいなかった。

 

「ア〜〜あ……逃げ、られたか」

 

熱を持った両腕と頭が風に当たって冷えていくのを感じながら、変身が解けていく。人間の両腕、人間の頭部に戻っていき、両腕の内部からは残った熱さを感じる。これくらい、既に慣れたものだ。

 

「……疲れた……」

 

久しく戦闘が嫌でマキマに頼み込んで事務職に入っていたからか、それとも血を流して貧血気味になったか。

床へたり込み、弾痕から日光が差し込むようになった天井を一人見上げる。

 

「……一体全体こいつをどう説明すりゃいいんだろうな……」

 

自分の正体が機関銃の武器人間だとは、この国じゃマキマとあと数人以外知り得ない情報。

特に【銃の悪魔】に家族を殺された経験のある者も公安には多い。ただ、そんなことを今考えても仕方がないだろう。

 

「…どうせ公安が迎えに来る、それまでは……寝るか……」

疲れた時は寝るのがいい。店の床に大の字になり、俺は静かに目を閉じた。




トリガーハッピーハッピーハッピー
ハッピーハッピーハッピー
ハピハピハッピーハッピー

・オリ主くん
ガンマン(物理)。脳は岸辺検定90点ぐらい。人生の長さがそれにブレーキをかけている
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