アール・ヌーヴォーの亡霊   作:燃える氷

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私の持つ才のなんと凡庸なることか


恐ろしや、光れ夜

 

「遠くに…逃げるって……何処に?」

 

誰も来ないような丘の上。一面に広がる家とその隙間を縫う道、町の回路が一望できる。

 

「知り合いに頼めば絶対に公安に見つからない場所があるの、そこだったら…すぐは無理でも、いつか一緒に学校いけるよ」

 

その絶好の場所で、間もなく打ち上がるであろう花火を見ようとしていた。なのに、彼女からは逃避行のお誘いが。

 

「なんでレゼがそんなコト…」

 

そのような予定はなかった。ある筈がない。ただ世間一般の、普通の恋がそこにあると思っていた。

 

「だって私…デンジ君が好きだから」

 

それを聞いたデンジの反応は芳しくない。大粒の汗をかき、何かの為にそれを決めあぐねているように見える。

 

「なんでそんなに悩んでいるの?デンジ君は私の事嫌い?」

 

「好きィ!」

「…だけど………………最近仕事が認められてきてさ…監視がなくても遠くに行けるようになったし……糞みたいな性格んバディの扱い方もだんだんわかってきた。

………それにイヤ〜な先輩ともやっと仲良くなってきたんだ、仕事の目標みてぇなモンも見つけてさ…だんだん楽しくなってきてんだ今……」

「ここで仕事続けながらレゼと会うのじゃ…ダメなの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか…わかった」

 

「デンジ君、私の他に好きな人いるでしょ」

 

その時、花火玉が尾を描きながら天へと昇っていった。

 

「え?」

 

音と光を立てて、破裂する。揺れていた若葉も、人も、街も、夜空に放たれた閃光を浴びて色付いている。

人の唇の味。むせるようなアルコールを纏ったようなものではない、大人になりきらないそれを、デンジは初めて知った。

 

 

 

 

 

「ん、花火だ」

 

ドイツからの異常者に捕まり、仕方なくベンチに二人。 

神出鬼没の奇術師が、自分達を照らす光に気付いた。

 

「花火…花火か。さて、そろそろ仕事みたいだ」

 

待てど暮せど、亡命申請の話はやって来ない。彼女は盲目なのか、もしくは俺を過小評価しているのか。やるせなさばかりが募っていく。

 

「仕事なんて重苦しいだけじゃないか、どうしてそんなものを続ける?」

 

立ち上がろうとする俺の背中に向かって、そう問いかけてくる。そんな事を言われたって、答えはこれぐらいのものだろう。

 

「これが、一番自由だから。俺は自由が好きだ」

 

「……お前らしい返しだこと」

 

 

 

 

「アキ!下に来い!すぐ!!」

 

公安対魔2課の訓練施設。呪いの悪魔に寿命を持ってかれていない為、5年後の事を考えていたアキに声がかかった。

 

「入り口で自分は特異課だと呻いていた。この魔人が本当に仲間なのか?」

 

傷だらけの魔人と、身体に数カ所切り傷を抱えている、見知ったチェンソー男。誰にやられたのだろうか。

 

「は…はい!」

「デンジは…悪魔にやられたのか?」

 

「うう……ボムが来る…ボム…銃の悪魔の…仲間!」

 

アキの頭に、銃の悪魔の仲間だと言う話がひっかかる。

 

「なんでお前がそんな情報を知っているんだ?」

 

「う…あ…」

 

「答えろ。ここでお前を殺す事だってできるんだ」

 

「話したら殺される…!マキマ様と約束…!」

 

「マキマさん?」

 

何故、あの人がそんな事をする必要があるのか。そう思っていた所、サメの魔人は焦る様子を見せ始めた。

 

「あ!キタ!キタ!ボム来た!!」

 

入り口の方を見ると、暗がりに何者かの人影を見た。

 

「そこの美女!すまないがそれ以上近づくな!!ここは対魔2課の訓練施設だ!民間人の立ち入りは禁止されている!!」

 

人影に向かって野茂が忠告するが、あちらにここから立ち去るような気配は見えない。

 

「すいませ〜〜ん!!」

 

「レゼ……!」

 

「レゼ?」

 

「助けてくださ〜〜〜い!悪魔に襲われてま〜〜す!」

 

彼女の顔は、その切迫した状況を語る口とは解離した笑顔をしている。

 

「ほ〜〜…随分な笑顔で襲われているもんだ……ん?」

 

野茂の耳に、その更に後ろからやってくる人の足音が聞こえた。

 

「悪魔ってのは俺の事かい?随分失礼な事を言ってくれるもんだ」

 

夏場の割にスーツの上からコートを着て、フードを被ったその男。

 

「安里さん…?」

 

「…あれも知り合いか?取り敢えず後ろに下がれ」

 

困惑に包まれる屋内の2人とは違い、外では凍えるような空気が流れていた。

 

「……追ってきたんだ」

 

振り返って俺の方を見る彼女の目は、先日見た時と同じように寂しげな寒さをしている。ここまで来るのに運動して身体が暑くなっていた、これで丁度涼しい位だ。

 

「勿論。素直に亡命してくれると思ってたんだけども……これじゃあ、アンタはテロリストだ。警察組織の端くれとして、アンタを捕まえなくちゃいけない」

 

「……そう。なら…皆殺しコースかな」

 

「どうもそういう事なら…現行犯だ」

 

首のピンに手をかけ、引き抜く一方。

フードを下ろして、後頭部の撃鉄を下げるもう一方。

 

爆弾と、機関銃。不死身合戦の幕開けである。

 

初撃は脳を破壊しながら放たれる一発。あちらの腕を吹き飛ばす事には成功したものの、やはり不死身の武器人間。瞬く暇も無しに再生された。

 

「加藤、田辺。アイツを殺せたら奢ってやる。人間だと思わず悪魔として扱え」

 

奥の建物の側に、2人の人の姿を見る。生身の人間が武器人間どうしの争いに加わるな。命の保証なんてどこにも無いのだというのに。

 

「あんたら下がりな!死ぬぞ!」

 

一応の同僚、優しさ故の忠告をする。しかしそこを好機と見たか、相手の反撃が飛んでくる。相手が指を鳴らすと同時に閃光が此方に飛んできて、爆発を起こした。

 

爆発に吹き飛ばされ、即座に腕から伸びる弾帯を地面に突き立てて身体を持ち直す。

 

「フゥ〜…随分ド派手なコトをしてくれるもんだ」

 

見ると、左腕の銃身が折れている。右腕と頭の2つは未だ健在。血の補給は望めない為、再生も無闇に使えない。しかし、これで距離が取れた。そうなれば有利はこちらに傾く。忠告を聞いて3人の同僚は屋内に一度退避した様子で、流れ弾の心配もなくなった。右腕を相手に向けて、銃弾を放っていく。

 

ガガガガガと連続した射撃音が響き、銃弾が相手を傷つけんと相手に向かって飛んでいく。しかし相手は爆弾。空中で爆破を行って姿勢や飛ぶ向きを変え、相当量の銃弾を避けていく。当たっているものもあるが、この程度の量では武器人間を倒すのには不十分だ。

 

「ン〜〜、全く相性が悪い。これ以外は今は使いたくない所なんだがなぁ…」

 

そうぼやいている間にも、あちらは距離を確実に詰めてきていた。最早眼前、相手の物理攻撃が来るその瞬間へ合わせるように、俺の駄目になった左腕を相手の流線型をした頭に当てて、無理も承知で銃弾を放った。

放たれた弾丸が相手の頭に当たるが、その圧力には逃げ場がない。左腕の折れた銃身が、真っ赤な鮮血を吐いて裂けた。

 

「ィイイッテェ〜〜〜〜〜ッ………」

 

いくら戦闘に慣れようとも、痛い物は痛い。物理攻撃と左腕の暴発を貰ったこちらと、頭に直に一発を受けたあちら。互いに姿勢を崩した。しかし相性が悪い割に、意外と戦えそうだとも見える。有り難きことだ。

 

暴発して花弁のようになった左腕を治すために、撃鉄を下げ直す。再び頭部が破壊され、再生していく。回復カードを1回切ってしまった。あと2回と使えないだろう。

 

この能力の欠点その二。そもそもの燃費が宜しくない。どうやら銃弾を発射するのにも血液を消費するようで、無駄打ちしていては一瞬のうちに貧血へと一直線だ。

 

「やりにく〜……」

 

そもそもの気温が高いからか、既に頭に熱が昇ってきているのを感じる。快晴の日にその柔らかな日光を浴びているかのような元気が身体に巡ると共に、それでは冷静な判断に欠ける事への恐れが巻き付くようにやってくる。見るとあちらはもう再生を終えて、こちらに向かってこようとしている。

 

相手がこちらへ距離を詰めるために足元で爆発を起こしたその時、エンジンの始動音が駐車場に響いた。

 

「ありゃ」

 

相手の驚くような声を聞いた。二者択一の選択肢が生まれた。

 

「銃の心臓とチェンソーの心臓、どちらをモスクワは欲しがっているんだ?」

 

相手の判断が鈍れば鈍るほど、あの車はボムから距離を取る事ができるだろう。相手に判断を迫る為に問う。少しは悩んでくれよ?

 

「んー…」

 

少し考え込むような反応を見せた直後に、相手の足元から爆発が起こり、車の方向へと向かって行った。読み通り、第一目標はチェンソーか。正直な所、それで助かった。

 

「俺にはもう興味は無いって事かい?」

 

しかし黙って見ている訳にもいかない。施設からもデンジ達の乗る車からも距離がある、恐らく巻き込まれる人はいないだろう。

 

『周囲100mの生物の頭部に弾丸を放つ能力』

 

それを使った直後、狙った通り直線的に車へと向かっていった軌道が地面に堕ちた。

 

俺に備わった2つ目の能力がそれ。しかしそれで指定できる条件は多くないし、範囲も最大1kmほど。選択した条件に当てはまる生物に対して無差別、平等に攻撃を加える無慈悲極まった恐ろしい能力だ。能力は機関銃とそれだけのようで、爆弾やチェンソー、刀の武器人間のように何か移動が出来る能力はない。機関銃の反動を利用して短距離なら動けるが、それは血液の補給ができる場合に限る。  

 

一発食らわせた事で墜落した相手に追撃を与えんと向かっていくが、身体が上手く動かない。貧血になったようで、視界がぼやけてくるのを感じる。しくじった。

 

「……畜生」

 

その間に相手は爆発を起こしながら、逃げゆく車を追いかけに夜空を去っていってしまった。

 

「ありゃあ追えないな……まぁ、最後に1発食らわせられたならいいか」

 

貧血気味に陥った身体を奮い立たせ、俺はフラフラと滑るような足を引き摺り市街地の方向へ単身歩いて行った。アスファルトの焦げ付いた匂いが、灼けるように鼻へまとわりついていた。

 




オリ主くんはその無差別殺戮能力をマキマさんに買われています。銃の武器人間にしては弱いだって?
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