紅く、淀みのない鮮血が宙を舞い、その綺麗な桜色の髮と白く透き通った肌を染めてゆく。すでに紅く染まりきった黒く、鈍く、光輝く刀身でまた1つ、命を奪い取っていく。
もう、どれくらいの命を奪ったかも覚えていない。また1つ、また1つ、もう、自分の顔にまとわりつく血の生暖かい温度も、耳に嫌と言うほど入ってきた断末魔も聞こえない。否、聞こえていても、何とも感じない。
唯一わかるのは、黒くまがまがしい刀身と紅い柄をした大剣で、目の前の異形を切り裂く感覚だけ。
永遠と思えるほどの時間が流れているように思える。が、最後の交わした言葉だけは鮮明に思い出せる。そう、ほんの十分ほど前だ。月へのロケットの発射準備ができ、都の警備が薄くなったその瞬間、狙った様に妖怪が流れ込んでくる。気付いた時には遅く都の半分ほどが、占領されていた。
軍の陣形は崩され、戦場には桜琳や辰起のような実力者しか残っていなかった。
「くっ!!桜琳、一旦退くぞ!」
戦場に凛とした声が響く。辰起の声だ。始めとは違い、疲弊しきった声で俺の名を呼ぶ。俺はその呼び掛けに応答する。
「わかった!」
俺と辰起たちは、周りにある廃墟と化した建物を使い、全速力でその場を離れる。
「一旦中央区まで戻って、陣形を立て直そう。」
「わかった。」
辰起の提案に賛同し、中央区を目指す。と同時に、アナウンスが流れ、ロケットが飛び立つ。今ので5つ目のロケットだ。ならば、A~E区までの住人の避難が完了したと言うことになる。あとはF区とG区、中央区だけを残すのみとなった。だがまだ時間がかかるだろう。
そう思いながら中央区を目指す。
中央区に着き、防衛軍に参加している奴らの人数を確認し、陣形を組み立てようとする。しかし、人数が圧倒的に足りない。このままでは、妖怪が俺達を壊滅させるのも時間の問題だろう。そう思うが、ここに来てだいぶ時間が過ぎているのにも関わらず、妖怪が攻めてこない。
「(何か戦略をたてているのか?いや、相手は知能のない妖怪だ。けど、何か引っ掛かるのだよな。)」
刹那、先ほどまで自分たちがいた場所から、水風船が破裂するような音が聞こえる。それも1つや2つだけではない。あの場にいた全ての妖怪の生命力が消えるのと同じタイミングで音が聞こえる。
音が止み、妖怪の生命力がなくなったのにも関わらず、膨大な量の妖力が渦巻いている。
「(この妖力、間違いない!奴だ、青神だ!)」
桜琳は頭の中で確信する。そして、自分がいかなければ、誰も生き残れない気がした。
「..........なぁ、辰起。」
「...どうした?」
「ちょっくら行って来るわ。」
「.............駄目だ。もう少しでロケットの発射準備が整う。それまで耐えれば......」
そこから辰起は言葉が続かなかった。なぜなら、桜琳から今まで感じたこと無いくらいの殺気が溢れている。
「駄目だ。俺が行かないと、みんな.......死ぬ。だから、あとは頼んだぞ。辰起隊長。」
「なっ、おい!待て!」
辰起の制止も聞かず、離れて行く桜琳。その背中は、ひどく怯えているように見えた。
「........来たのはいいけど、いない。」
妖怪が全滅した場所は言うまでもなく、地獄絵図だった。それは青神にやられたのと同じような殺され方だ。
「.......妖力の遠隔操作。となると........」
俺はかつて、奴と殺りあった山に意識を向けて、集中する。
「....................ビンゴ。いた。」
山奥に奴の妖力を感じた。俺は足に力を込め、山奥へと向かう。
「さぁ、待ってろよ!青神っ!」
山に入って五分ほどして、あの場所に着いた。俺が左腕を失った場所に。そこには、一匹の妖怪がいる。無論、それは奴しかあり得ない。
「.......よう、久しぶりだな。......青神。」
「ウガァァァァァァァアアァァァァ!!!」
奴は意味のない咆哮をあげる。そして、こちらを向き、攻撃体制に入る。俺も剣を構え、攻撃体制に入る。奴は動く気配がない。
「さぁ、来ないんなら、こっちから行くぜっ!」
俺の足が地を蹴る瞬間、体に、詳しく言えば、体の内側に異変を感じる。体の中に妖力が入っている。だが、気付いた時には遅い、遅すぎた。体の中の妖力が一気に上がり、内側で爆発する。
桜琳はよくわかった。内臓がボロボロになり、口から血が流れ出てくるのが。
「ぐっ、ゲホッ。」
「グガァァァァァアァァァァアアアァァ。」
喜ぶような声をあげて、こちらを見る青神。桜琳は傷みを無理矢理我慢し、剣を構えなおそうとするが、アニメにように相手は待ってくれない。体の至るところに衝撃を受けて、吹き飛ばされる。
木にぶつかり、ようやく止まる。だが、それだけでは終わらず、さらに追撃をする青神。桜琳から戦意が消えると、青神はようやく攻撃を止め都の方へ足を進める。
「ゲホッ、ゲホッ、ハァ.....ハァ。...........ごめ......ん。ふ...たり...とも。もどれ.....ない...か.も。」
寄りかかっていた木から背中が離れ、そのまま地面に倒れこむ。ロケットが飛び立つ音が聞こえる。あれは、永琳が乗っているものだ。あとは、辰起たちが乗るロケットが飛び立てば、この戦いは終わる。
「だから、少しだけ.....寝さしてくれ。」
最後にそう言い、まぶたをじょじょに閉じてゆき、意識と言う名の糸が切れる。
辰起たちのロケット発射まであと、25分........
次は遅くなるかもです。