終末戦争   作:涼翠

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飢餓

 

 「行ったぞ!シャーガ!」

 

 「任せろ!」

 

 同胞の声に答え、白妖精(ホワイトエルフ)の戦士、シャーガは『詠唱』を始める。

 

 50M(メドル)先には怒りに目を血走らせて突進するファングボアの姿があった。

 

 「【峻嶺の牙よ 敵を討て】ーー【テラ・インペイル】! 」

 

 頭に血が上っていたファングボアは大地から突き出された岩槍にあっさり貫かれる。

 

 周囲で歓声が沸いた。

 

 シャーガの下に集まった同胞らは口々に彼の魔法の腕を、そしてモンスターを正面から迎え撃つ彼の勇気を口々に称え、シャーガも笑ってそれに応えた。

 

 彼らは【白樺】の森のエルフであり、余所者である自分を受け入れてくれた恩人たちでもある。

 

 かつてある孤島で生まれ育ち、終わらない黒妖精との殺し合いに嫌気がさしたシャーガは、故郷を出奔し、当てもなく彷徨い続けてこの里についたのだ。

 

 彼らと出会えたことこそ、この生において最大の幸運。

 

 白樺の森の名に相応しいーー白い木立を抜けるとその先にはひと際大きな大樹が立ち並び、さらにその足元には大樹に寄り添うようにエルフ達の住まいが建てられている。

 

 大物を仕留めた日というのは里総出での祝いが通例だ。

 

 意気揚々と凱旋する勇者一行のような心持ちで帰ってきた彼らは、戦火報告もまだなのに妙に里が騒がしい里の様子に気づく。

 

 「なあ、何かあったのか?」

 

 顔馴染みとなった見張り役にひとりが尋ねると

 

 「なんでもダークエルフの子供をどうするかって話で上の連中が騒いでるみたいだな。」

 

 何でもないように言う見張りの男とは対照的にシャーガは顔から血の気が引くのを感じた。

 

 長老たちの居るであろう中央の大広間に向けて仲間達を置いて駆け出す。

 

 その目に堪えきれない憎悪を宿らせて――。

 

 

 

 

 

 シャーガの合流により会議は紛糾しだした。

 

 なんでもその子供は親と思しき黒妖精の亡骸と共に里の南東に流れるウルスス川で発見されたらしい。

 

 親の死因は死体の傷口から恐らくはモンスターとの戦闘によるもの。

 

 周囲にモンスターの敵影や痕跡は無く、逃げるか倒すかはできたが力尽きたんだろうと。

 

 話を聞けばどうにも長老達は、その黒妖精の子供を里の子供たちと一緒に育てるつもりであるらしい。

 

 それを知って大いに焦ったシャーガは、黒妖精がどれほど狡猾で残忍な種族であるかを白妖精のことを棚に上げて強く訴えた。

 

 そして残虐非道な黒妖精と欲深い人間(ヒューマン)との混血となれば、成長したとき里にいずれ必ず災禍を齎すと。

 

 里に住み始めてから浅いとは言え狩人達からの信頼厚い同胞であり、彼の里への献身を知る長老達は悩み、最期は自らに処遇を任せてほしいという頼みを許すことにした。

 

 安堵したシャーガは渦中の幼児に目を向ける。

     

 ソレは感情の読めない菫色の瞳に色が抜け落ちたような白髪(・・・・・・・・・・・・・)をした忌むべき黒妖精のこどもだった。

 

 

 

 

 

 シャーガは里の者達から少し離れて建てられた家に住んでいる。

 

 元は来客用に建てられたもので、そんな建物を距離を空けて建てるのは排他的なエルフらしい話である。

 

 シャーガとしてもあまり気を遣わずにすんだし、何よりこれからすることを思えば都合が良かった。

 

 シャーガは魔法を使って岩でできた檻を作りそこに幼児を閉じ込め、準備を進めた。

 

 時折里の者達がその様子を見に来ては、動物のような扱いに軽く眉を顰めるも特に追及することなく出ていった。

 

 他種族に対する差別意識の強いエルフにとって、人間との混血で余所者とくればその程度のものなのだ。

 

 とはいえ、この程度のことで(・・・・・・・・)不快に感じるのならやはり言わずに正解だったと言わざるを得ない。

 

 それから三か月後里を流行り病が襲う。

 

 収束するころには7人もの死者が出ており、ここまでの被害が出る流行り病など実に500年ぶりだという。

 

 100人にも満たない人口の【白樺】の里において、その内7人も亡くなるというのは相当に大事なのだ。

 

 悲嘆に暮れる同胞らにシャーガは重ねてすまないがと前置きしてこう言った。

 

 「あの黒妖精の子も流行り病で昨日、息を引き取ってしまった。流石にヒューマンの子の亡骸を里に納めてはこの地の祖霊に失礼と思い、里から遠く離れた場所に埋葬した」

 

 同胞達も「ああそうか」と今はそんなことどうでもいいと言うように軽い返事を返した。

 

 その日家に帰ったシャーガは念入りに隠していた入り口を開け、地下へ向かう。

 

 光が一切届かないほど深く掘りすすめられたその先には先程死んだと伝えたはずの黒妖精の子が岩檻の中に居る。

 

 ソレ(・・)を見つめる男の目は凍えるような冷たさをしていた。

 

 【ヒャズニング】の白妖精陣営に属する諜報機関にして、あらゆる拷問を厭わず情報を収集する【カタルスコピア】の一員。

 

 それが彼のーーシャーガ=ヴィッテのかつての肩書である。

 

 

 

 

 この里には元々地下牢がある。

 

 罪を犯した者は半日、最長1日そこに閉じこめられる。

 

 罰にしては軽いと思われるかもしれないが、シャーガは経験上如何に鍛え上げられた兵士であっても音も光も全て遮断された環境では3日と持たないことを知っていた。

 

 この里においてもこれより重い刑罰は、里からの追放か――実行された試しはないが――死刑しかない。

 

 シャーガは流行り病に乗じて黒妖精の子を地下牢に監禁した。

 

 三日に一度様子を見に来ては、鞭をしこたま打ち付けてその後に調理も施されていない腐りかけの食材と一杯の水を配給した。

 

 戦から離れても憎き仇敵に対する恨みはまるで薄れていない。

 

 あの黒妖精の子の命は長くて1週間程とシャーガは見積もっていた。

 

 狂い死ぬか餓死するか。

 

 最後の慈悲にと、檻の中に【テラ・インペイル】で作った小さな岩槍の切っ先で自死を選ぶこともあり得る。

 

 しかし、その後1月経っても黒妖精の子は生き延びていた。

 

 予想外のしぶとさだが、端から直接手を汚すつもりも無かったシャーガは少しずつ食糧配給の期間を延ばしていくことにした。

 

 ーーそこまで苦しんで死にたいのならそうさせてやろう。

 

 4日、5日・・・と延ばしていき1年後には1月に1度となった。

 

 それでも彼女は死ななかったのだ。

  

 

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