久しぶりに吸った地上の空気は、煤煙を含んでなお淀んでいた地下のそれよりおいしく感じた。
既に日は落ちていたが木々を焼く炎が『白樺』の森を昼間のように明るく照らしている。
崩れかけの家から出てしばらくその場で立ち尽くす。
血と炎が視界を真っ赤に染め上げて、木と肉が焼ける匂いは無遠慮に鼻の奥を突き抜け、焼けた木がパチリと爆ぜる音が剣劇や怒号に混ざって頭の奥まで強く響く。
味覚以外の刺激に乏しい地下で過ごしてきた彼女を襲う情報の洪水に、酩酊するような気分を味わう。
この刺激を、感動を少しでも多く長く感じていたいと五感に意識を集中させ、暫く酔いしれる彼女の耳に無粋な雑音が聞こえてくきた。
「生き残りが居たぞ!」
「さっきあの家は隈なく探したのに、どこに隠れていたんだ?」
彼らが掲げる赤地に武器を構えた戦士を描いた旗は【ラキア王国】の証、ぞろぞろと近づいてくる10人の兵士の1人は魔力を持つ奇怪な剣を携えている。
―――あれか。
あの剣がこの景色を作りだしたのだと確信する。
よくよく見ると彼らがやってきた先には『あの男』がいた。
どうやら彼なりに頑張っていたらしく、地面から生える5本の岩槍の先には敵兵の死体が一つずつ力なくぶら下がっている。
敵が全て『恩恵』持ちである事を考えれば大金星といっていい戦果である。
だがもう戦えまい。
無数の切り傷に加え肩口と脚に1本ずつ腹部に2本の剣が突き刺さり、力なく横たわって大地に更なる赤の彩りを加えていく。
まだ辛うじて息はあるようだが明らかな致命傷。
そんな『あの男』はこちらを見て目を見開きながら声にならない声で最期にこう呟いた。
―――やはり、お前は悪魔、だっ・・・た。
何もしていない私を閉じ込めておいて今際の際まで好き放題言ってくれる。
でも私はあなた達を恨んではいない。彼らに拾われなければ私はとっくに死んでいただろうから。
――だから、仇は取ってあげる。
あと20歩程の距離。子供の足では逃げられないと思ってか、あるいは相手が恐怖する様を楽しむためか――きっと両方だ。兵士達の目には嗜虐の色が浮かんでいる。
少し前の私であれば命を諦める状況だが、今は欠片ほどの脅威も感じない。
どう戦うではなく
◆
それは大陸の北の最果て、『竜の谷』を覆う『精霊の嵐』より出現した。
上空を飛翔し、『学区』の警戒網をすり抜け、地上を睥睨する。
その地を目指したのは偶々目についたその場所で争いがあり、流血があり、そして『混沌』が在ったからだ。
名はゲオルニクス―――Lv.4
『