終末戦争   作:涼翠

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残光

 

 勇気という名の『魔法』が解け夢から醒める。

 

 『恩恵』により強化された兵士達の目はしっかりとその瞬間を捉えていた。

 

 竜の尾は振るわれた剣の刃先を捉え一瞬の躊躇いも無く砕き、その先にあったマルコス中隊長の胴体を下半身を置き去りに吹き飛ばしたのだ。

 

 いっそ理解できなければ、そのまま突撃し英雄として死ねたかもしれない。

 

 しかし、犬死にしかできぬと分かって誰がその足を進められるだろうか。

 

 目を向けているのが恐ろしくて、戦闘中に敵から目を背けるという愚を犯して貸与された魔剣に目を向ける。

 

 魔剣が生み出した炎の中に躊躇なく飛び込んできた竜にこの魔剣は大した効果を成さないだろう。

 

 だから戦いの主軸となる中隊長の援護や回復の際の時間稼ぎに用いるつもりだった。

 

 ―――けど、もう・・・

 

 竜に目を戻せば奴は嗤っていた。

 

 勝てると勘違いしていた人間が現実に気づき絶望する様を見て悦んでいたのだ。

 

 兵士達が避けようの無い死を悟り力なく崩れ落ちる。

 

 ―――ああ。もっと娘を抱いてやれば良かった。

 

 ガーヴァックはその胸の内で後悔を呟き、そして竜の影が蠢いているのに気づく。

 

 いつの間にか竜の足元にはあの黒妖精(ダークエルフ)の童女の姿があった。

 

 

 

 

 

 餌が浮かべる絶望の表情に竜は満足を覚える。

 

 その竜――ゲオルニクスはLv.4にして高い知能と獲物を甚振ることを好む残虐さを有していた。

 

 もうしばし鑑賞してから一人ずつ食っていくことにしよう、そう考えていた折彼らの視線が己から外れていることに気づく。

 

 その視線の先を向けば、小さな黒い影がペタペタと無遠慮に己を触っている。

 

 警戒心が欠落しているとしか思えない所業にさしもの竜も困惑する。

 

 さりとて何もしなければせっかく醸成された獲物の恐怖が薄れよう。

 

 不本意ながら早急に処分するべく口を開けようとし―――そこでようやく異変に気付く。

 

 ――体が動かない。

 

 直後、虫が体内を食い散らかしながら這いずり回るような凄まじい不快感に襲われる。

 

 しかし、痛みに呻くこも悲鳴を上げることさえできなかった。代わりに――

 

 「グ・・ゴプッ・・」

 

 喉の奥から血がせり上がり口から漏れ出る。

 

 否、口からだけではない目から鼻腔から全身の穴という穴から血が流れていた。

 

 ―――このままでは死ぬ。

 

 そう直感し心肺機能やその他の生命活動を極限まで弱めることで意識的に仮死状態となる。

 

 動かなくなった己を見て影はゆっくりと離れ出し、支えを失ったように体が崩れ落ちるが全身を蝕んでいた不快感は嘘のように消えていた。

 

 しめたと思った。

 

 体は――動く。どうやったかは知らないが奴が体に触れることであの異常を起こしていたに違いない。

 

 ならばもう触れさせはしない。

 

 内側にて魔力を爆発的に高める。解き放つは竜の代名詞たる『息吹(ブレス)

 

 気を見計らい目をカッと見開くとその首だけを瞬時に持ち上げて、敵に照準を合わせ魔力の奔流が放たれた。

 

 その時ゲオルニクスは確かに見たのだ。

 

 影もまたこちらを見つめていた。影の中に灯る二つの菫色の光には驚愕も動揺も微塵もなく、その小さな右腕は天に向かって掲げられている。

 

 息吹(ブレス)が衝突する直前その腕が袈裟に振り下ろされ、瞬間『光の大刃』が生まれた。

 

 その技を英雄と謳われる【最強の騎士】はこう呼ぶ――――『残光』と。

 

 その大刃は拮抗すら許さず竜をその息吹(ブレス)もろとも切り裂いた。

 

 

 

 

 

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