『残光』を使うには二つの条件を満たす必要があるとされている
一つ、剣などの斬撃武器の使い手であること
一つ、『強化』に類する『魔法』または『スキル』の所持
しかしこの条件は十分条件であって、必須ではない。
英雄達の使う『残光』の仕組みとは『強化』された剣速で、『強化』に用いていた魔力そのものを切り離し解き放つことで敵を
しかし魔力は自身から切り離されると周囲に急激に拡散される性質がある。
それ故に拡散しきらない内に敵に届くほどの剣速でなければならないし、『残光』を放つ武器は鋭い刃先のある斬撃武器でなければならないのだ。
しかし、切り離された魔力まで制御できるのであればその前提は崩れ落ちる。
今放たれたそれは正しく英雄ならざる怪物の『残光』であった。
◆
ガーヴァックは目の前で起こった事態をどう認識すればよいのか分からなかった。
化物はどこかで見た表情で袈裟に裂けた竜の死骸を眺めている。
貧民窟の子よりも貧相な格好をした童女が竜を屠る怪物だったなどと誰が予想できよう。
自分達に絶望を齎した竜を更に上回る怪物の出現、しかし兵士達の間には未だこちらに興味を示さないその存在に一縷の希望を見出していた。
ガーヴァックもまた
―――あんな化物と貧弱なエルフが仲間とは到底思えない。現にあれが来たのはエルフ共が全滅してからで、遅れてきたにしても即座にこちらを攻撃することも無かった。
―――ならやはりエルフと化物は無関係と考えるのが自然。
―――きっとあの竜と同じく興味を惹かれてこちらに立ち寄っただけに違いない。
その思考の最中も
憎しみに燃えるでも、あの竜のような嘲りもないごく自然な――竜に相対している状況を除けば――表情であったはずだ。
なのにそれがちらつく度、足元から百足が這いあがってくるような悍ましい感覚がするのだ。
化物がこちらに目を向け、全員が息を止めた。
おそらく数秒、しかし永遠に感じる時間の後化物は視線を外し空に目を向ける。
そしてその小さな腕に世界を抱くように両腕を広げた。
直後、燻っていた火が燃え盛り、森の周囲に巨大な竜巻を形成する。
理解を超えた現象に呆然とする兵士達、しかいガーヴァックはそれが自分達を逃がさないための籠だとなぜか分かった。
「あ、あああああああぁあぁっぁぁァァァアッ!」
悲鳴に目をやると分隊長の一人が帯びていた魔剣から炎がひとりでに飛び出し、所有者を焼いていた。
やがて炎を抜き取られた魔剣は塵に還り、背筋を凍らせたガーヴァックは自身の持つ魔剣を放り投げる。
するとその魔剣も炎に転じて塵に還った。
森を焼く炎は最遠部の竜巻を残し化物の周囲に収束し渦巻く、その中央で奴は踊っている。
ようやく思い出した。
あの表情あれは
男勝りな娘はよく庭で虫を捕まえては籠の中に放って遊ぶ。
虫同士を戦わせたり、食わせたり、時には羽や手足を捥いで動かなくなれば暖炉の火にくべるのだ。
そんなことをしても悪びれもしない様子に子供というのは残酷だなとその時思ったりしたものだった。
そして目の前の怪物にとっては俺達やあの竜こそが
誰も逃げ出そうとしなかった。
それどころか何人かは自らが焼かれると分かって尚火に飛び込む蛾のように、炎に、その最奥の美しくも恐ろしい化物に魅せられ劫火に身を委ねていく。
どんどん肥大化した炎はガーヴァックの眼前まで迫っていた。
―――何が魂はエリュシオンに向かうだろう・・だ
地獄はすぐそこにあったというのに
◆
―――楽しい
世界に満ちる魔力が頭を垂れ彼女に追従する。
彼女を煩わせていた
今私以上に満たされているものはこの世に存在しないと彼女は確信した。
楽しくて楽しくてそして―――
「随分楽しそうだな」
一炊の夢は唐突に終わりを告げられた。
ギョッとしたように振り向く。
それは彼女が初めてした人間らしい反応だった。
先程まで確実に気配は一切無かったのに、視界に捉えた途端それは一つの星を思わせる程の存在感を放ちだす。
一本角の生えた純白の少年。
次元の違う怪物は、猛火の海の中から涼しい顔をして現れた。