そこからの彼女の判断はその是非はともかく、極めて迅速なものであった。
周囲で渦巻く火災旋風共々全ての炎を自身の手元で僅か5
極限まで圧縮された炎は地上に顕現した天陽を思わせる輝きを放っていた。
天陽から白き怪物に向けて極光が解き放たれる。
その光は怪物を飲み込みその射線上にあった湖を蒸発させ、遥か地平の先の丘を跡形も無く消滅させるに至った。
もはや地上で使われていい規模の『魔法』ではない。
地上に顕れた日輪の威光、それは確かにその身を捉えた。
これで無事でいられる生き物など在るはずがない。
そんな懇願の入り混じった確信は容易く覆される。
初めの立ち位置から僅か70
両腕を前に交差させた姿勢を解く。
「・・・熱い」
そして思い出したようにそう言い放ったのだ。
「あ・・あ・・・」
―――あれが熱いで済んで溜まるか!!
白い怪物からは黄金の光が湯気の様に揺らめいてその身を覆っている。
あれが防いだのか、分からない・・・・。
そもそもあれは『
似ているけど違う、その正体を私は見抜けなかった。
怪物がゆっくりとこちらに近づいてくる、一気に距離を詰めてくる様子はない。
それならお望み通り目一杯攻撃を叩き込んでその傲慢後悔させてやる!
深く腰を落とし左足を後ろに引き、構えた右腕を左手で抑え力を溜め込む、まるで東洋の居合を思わせる構えを取った。
時が満ち、右腕を振り抜く―――放たれる光刃は髪の毛程に細い『線』となっていた。
敵を切るのに刃先が分厚くては意味がない。
ただ勢いで敵を吹き飛ばすのみだった『残光』を僅か二刀目にして、真に敵を断ち切る『斬撃』に進化させたのだ。
先の竜に使った『残光』と用いた魔力量に大きな違いはないが、先の攻撃を手に掬った水を相手に投げつける程度のものとするならば、此度のは金剛石を切り裂く高圧水流程に違う。
『残光』のような派手さはないが、次元の違う殺傷力を秘めた『斬撃』は怪物に向けて一直線に飛来する。
真っ二つに切り裂く予見も、しかして容易く裏切られることになる。
黄金の光を集中させ打った肘打ちが『斬撃』を霧に変えたのだ。
万物を切り裂くような斬撃も足止めにすらならない・・・。
あと60
◆
あれから2分足らずで、彼女は凄まじい進化を遂げていた。
同調した周囲の魔力を取り込むことで、自身の魔力を急速に回復、増幅させ数多の災害を生み出した。
呑み込んだものを切り刻み塵に変える嵐を作り、川の水を引っ張り上げて洪水を引き起こし、果てには炎を纏った巨岩を墜として隕石を再現して見せた。
なおもその命に届かない。
―――あと15
一帯は全て更地になっていた。
これを見てここに美しかった【白樺】の森があったなどど誰が信じられよう。
息も絶え絶えに怪物に目を向ければ、その足を止めている。
負傷からではない、これが最後の一撃になることを理解しその時を待っているのだ。
見事な仕立ての服は見る影も無く、その体には無数の小さな打撲や裂傷、火傷ができている。
傷から微かに滲む血が妙に自分を安心させた。
それが自分の攻撃が無駄でないと知ってか、それともこの怪物もまた自分と同じ赤い血が流れていると知ってかは定かではない。
「・・・フゥ」
軽く息を整える。
―――これで本当に最期
頭の中で理論はできている。あとは上手くいくかどうか出たとこ勝負。
祈るように両手を合わせ、その内部で自らに再現できるあらゆる波長の魔力を、脳が沸騰しそうになるくらい演算能力の限界まで重ね合わせる。
数多の波長の魔力はその位相を重ね打ち消し合い、やがて
手を開いて黒球を飛ばす。
天に浮かぶ黒き星は世界の存在を拒絶するようにそこに存在する全てを飲みこまんと強い引力を生み出す。
力尽きた私は地面に膝をつく。
あれはもう私の制御の限界を超えた魔法だ。
力なく白い怪物に目を向ければ、私が『斬撃』を使うときと全く同じ構えをしている。
刹那、恐らくその腕は振り抜かれた。
恐らくというのはいつその腕が振り抜かれたのかその過程が、軌跡が分からなかったからだ。
そして放たれたであろう『斬撃』も全く見えず、感じられなかった。
その一連の動作は黒球を切ったという結果のみを残したのだ。
世界に対してあまりに異質な黒球はその存在を維持できなくなると、瞬く間に魔素に還っていった。
―――世界はあまりにも広かった。
私の力など取るに足らないのだと、地上に出て半日も経たずに突き付けてくるのだから。
ついに目の前まで来た怪物が手を
私は目を閉じてその時を待った。
死が目の前まで迫っている。
「すごいなお前」
ポンと頭に手をのせて死の化身はそう言った。
「・・・・・・・・・・・・え?」