「まさか俺より小さいのにここまで戦える奴がいるとは・・・。ラケシスが『
危うく後悔するところだったと独り言ちる。
『らけしす』やら『ふぁるな』やら気になることはあるが、それよりも先に聞いておかねばならないことがある。
「ま、まって。私を殺しにきたんじゃないの?」
「ん?そんなこと一言でもいったか?どうしてそう思ったんだ?」
・・・・・言ってなかった気がする。
彼のセリフは思い返せば確かに「楽しそうだな」とか「熱い」とかそれくらいしかなかった。
どうしてと聞かれればそれは―――
「沢山・・・殺したから?」
「あの兵士達のことか?実を言うとその時遠くから見ていたんだが、先に襲い掛かろうとしていた連中を返り討ちにしただけだろう?なら当然のことじゃないか。」
今度こそポカンと間抜けな顔をする私に見かねてか、彼は唐突に「少しだけ昔の話をしよう」と言い出した。
「俺はずっと東の小さな島の出なんだけど、俺はそこに10万人くらい住んでた同族が1000人くらいになるまで殺しまくったんだ。・・・・あんまり覚えてないけど。」
とんでもないことを世間話のように話出した。
「だから、俺の魂は死後【タルタロス】に送られるんだと言われた。そこで永遠の責め苦を味わうんだと・・。でも覚えてもいないことで苦しむって言われても困るから、ラケシスの言う解決策に乗ることにしたんだ。」
「・・・その、解決策って?」
「
天を、そこに浮かぶ星々を見ながらなんの躊躇いも無く言い放つ。
「世界を救済すれば、その暁には神様って奴になれて【タルタロス】じゃないあの星々よりも高い場所に行けるって言うんだ。でもそこに行くまでに死んだら地獄行き。・・・とにかく俺が言いたかったのはお前のやったことなんて全然悪い事じゃ、少なくとも地獄に送られるようなことじゃないってことだ。」
「そしてここからが本題。ラケシスが言うには俺一人では『敵』には勝てないらしい。だから、俺に匹敵する戦力を仲間にしろって言うんだが、そんなのどこに居るんだって聞いたらもうすぐ世界のどこかで生まれるよ、なんて言いやがる。ふざけた話だろ?」
「でも、お前はここにいて、俺は多分運命の神の導きって奴でここに来た。一目見て思ったんだ。こいつしかいないって・・。」
そしてどうしてこの人の言葉は胸の内に響くのか。
「俺と一緒にいる奴はとんでもなく強い敵と戦うことになるし、生き地獄を味わう羽目になるかもしれない。それでも・・・一緒に戦ってほしい。」
自分よりずっと強い人が、こんなにも真っすぐ自分を頼りにし頭を下げている。
こんな自分を必要としてくれている。
これまでずっと空だった何かが満たされていく。
「その・・・返事は?」
さっきまでの戦闘での超越的な雰囲気が嘘みたいな、ただの少年のみたいな顔に思わず吹き出す。
そして今までで一番無邪気で、日の射すような眩しい笑みを浮かべながら彼女は答えた。
「はいっ!」
こうして殺戮と破壊の限りを尽くされた場所で一つの約定が結ばれた。
少年がこれまた年相応の安堵の表情を見せる。
「じゃあ、まずは名乗るとしよう。俺の名前はアトラという。そっちの名前は?」
その問いに少し困る。前の名前は憶えているが今の自分は■■■■とは違うと認識していたから、答えに窮してしまう。
そんな様子を見て少年はドカッとすぐ隣に座り込んだ。
心臓が飛び跳ねる。
少年が星を指差した。その先には北にあるひと際強く輝く白星がある。
「俺の名前もつい最近俺を拾い上げたラケシスが付けたものなんだ。曰くアトラは『古き言葉』であの『白き極星』を意味するらしい。もしお前に名前が無いならあの天上にちなんで俺が付けてもいいか?」
その言葉の意味をたっぷり数秒かけて理解し、躊躇いなく頷いた。
「なら、ネフィリスという名にしよう。俺が知る数少ない『古き言葉』で『暗天』の意味する。この夜空のことだ。それなら俺があの星より遠くまで行ってもついてこれるだろう?」
この年頃の少年というのは大人が思うよりずっと大胆なことを恥ずかしげもなく言うものだ。
少なくとも今の彼はもう絶対にこんな事を言わないだろう。
でもその言葉は彼女に―――ネフィリスにとって生涯無二の宝物となった。
◆
彼が――アトラ様が遂に本格的に
頬が緩みそうになるのをすんでのところで抑える。
あの頃のアトラ様は、今よりぶっきらぼうで、世に対して斜に構えたところがあって、そして―――――今と変わらず優しくて、私の心を満たし続けてくれる。
仮にこの道の果てに無残な死があり、その先に【タルタロス】での責め苦が待ち受けていたとしても私は後悔しないだろう。
「ネフィリス、僕とラケシスはウラノスの所に顔を出すから君には
主のご下命とあらば、どんな命令でも否というつもりはない。
黒竜の首もギガンテスだって討ってみせよう。
「承知しました。必ずや果たして見せます。」
今宵、誰にも知られぬまま牙を研ぎ続けた怪物が表舞台に姿を現す。