ケラウノスは戦斧を構えたまま、相手の出方を伺っていた。
戦意溢れるモンスターが、自ら攻めずに相手に先手を譲るなど本来あり得べからざること。
それだけでこのモンスターが特異な存在であるだ断ずるに足る。
数十
髪に肌、身に着けているものにいたるまで、まるで墨をぶっかけたかのよう。
まだ50
戦いを始めるには魔法を使うにしても、剣を合わせるにしても半端な距離。
訝し気な表情を浮かべるケラウノスに構わず、剣の柄に手を掛け振りぬいた。
怪訝な色を一層濃くさせた後、自らの胸元の生暖かい感触に目をやった。
「ブモオォ!?」
振るわれた刃の軌跡の延長線上に沿うように傷が浮かび血が流れていた。
黒いのはあの場から一歩たりとも動いていない。
つまりあり得るのは魔力を用いた攻撃。
ならばこそ
ケラウノスの体毛は自分以外の魔力を拡散させる性質を持つ。
魔法に対する抵抗力の高さは、オブシディアン・ソルジャーなど比ではない。
仮にオラリオ最高位の魔導士でも魔法ではかすり傷一つ負わせることも不可能。
ーーどうやって?
困惑に追い打ちをかけるように、黒いのは攻撃を重ねる。
「ッッ!」
増える痛みにケラウノスはむしろ冷静さを取り戻す。
周囲の魔力濃度が僅かに上がっている。
やはり魔力による斬撃に相違ない。
しかし己を傷つけるほどの魔法の行使となれば、今頃周囲一帯がその者の魔力で満たされているはず。
そうならないということは、にわかには信じがたいがこの斬撃の本質は魔力の量でも刃を振るう速度でもなく、魔力の制御であると結論づける。
そしてそれは正解であった。
魔法の抵抗力が高い敵を魔導士が倒すにはどうすればよいか。そんな問いを投げかければ凡そ全ての魔導士はこう言うだろう。
ーー『魔力』を上げてより強力な『魔法』で殴る
如何に強力な魔力抵抗もそれを上回る魔法に耐えきれる道理はない。
翻ってこの攻撃は全く異なる回答の結果である。
ーー相手が魔力を拡散、妨害するので有ればそれを上回る魔力制御により突破すればいい。
攻撃の原理そのものはかの【ナイト・オブ・ナイト】の『残光』と似た物だがそこに込められた技量は次元が違う。
ケラウノスは相手の成している『偉業』を理解し、武者震いに身を震わせる。
黄金の雷が全身を覆い、やがてその身と一体となる。
雷のエンチャント
ケラウノスの切り札の一つである。
これを纏えばその身は雷速を超え、その一撃は巨峰を打ち砕く。
暴虐の化身が一条の雷となって彼我の距離を瞬時に踏破する。
溢れる闘志を『力』に変え、その巨斧が矮小な侵入者を襲う。