終末戦争   作:涼翠

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黒い厄災

 

 

 「見事ですね。『勇者(ブレイバー)』フィン・ディムナ」

 

 「まだ人造迷宮(クノッソス)に入ってもいねぇんですが・・・。それもなんかのスキルで?」

 

 獅子の男の言う通り二人は未だダイダロス通りにいた。

 

 既に【ロキ・ファミリア】を筆頭とした冒険者達と『精霊の分身(デミスピリット)』の勢力の争いは始まっている。

 

 客観的に見れば、冒険者達の力量は『精霊の分身(デミスピリット)』を倒すどころか、その道中の『魔法円(マジックサークル)』内部で即全滅する程度のはずだった。

 

 にも関わらず、彼らはほとんど犠牲を出さないまま目標地点に辿りつこうとしている。

 

 それを成しているのは、間違いなくあの小人族(パルゥム)

 

 (これがラケシス様の言う『現代の英雄』ですか・・・。)

 

 ただの力自慢であれば、更なる力でもって蹂躙できる自信がある。

 

 しかし、『勇者』の知恵と統率力はとても真似できない。あるいは神々以上に警戒に値する存在だとネフィリスは評価したのだ。

 

 それにしても―――

 

 「ラケシス様から伺っていないのですか? 私は『恩恵』を得てから今日まで一つもスキルを得ていませんよ。」

 

 「え!?」

 

 「もっと言えば『魔法』のスロットも一つのみですし、アトラ様に至っては『スキル』『魔法』共に一つも発現させていません。」

 

 「御冗談でしょ?」

 

 スキルは置いておくにしても、都市中の魔導士を搔き集めても抵抗できるかすら怪しいこの『魔の申し子』のスロットがたった一つ?

 

 「そんなことはさておいて、敵の首魁、都市の破壊者(エニュオ)と言いましたか。思っていたより徹底していますね。」

 

 「・・・それはそうでしょう。この迷宮の蓋である【オラリオ】を吹き飛ばそうって言うんすから。」

 

 「都市の破壊者(エニュオ)の狙いはそれに留まりませんよ。」

 

 話では、精霊の分身(デミ・スピリット)の数は6体と言う話だが、人造迷宮(クノッソス)に実際は13(・・)体もいることに彼らは気づいているのだろうか?

 

 加えてこの『魔法円(マジックサークル)』の角度―――――、なるほど神というのは中々面白いことを考える。

 

 「ライオネル、あなたは『黒いモンスター』についてどれほど知っていますか?」

 

 「『黒いモンスター』というと『隻眼の黒竜』のことですかい?」

 

 「『黒いモンスター』とはその竜も含めた黒い怪物の総称のことで『黒竜』のみを示すものではありませんよ。あれらは神の力(アルカナム)かそれに準ずる力を感じた迷宮(ダンジョン)がその力に対抗するように生み出すモンスターです。そしてその特性は二つ。一つは通常の固体よりレベルが一つか二つ上であること。そしてもう一つは神の力が効きにくい(・・・・・)ということ。」

 

 「まさか『不滅(イモータル)』ですかい?」

 

 「いいえ、力が通りにくいだけで相当の力を行使すれば滅ぼせると聞いています。」

 

 「・・・そんでその話が今回にどう繋がるんで?」

 

 「人造迷宮(クノッソス)には現在13体の精霊の分身(デミスピリット)が潜んでいます。6体はその術式をオラリオに向けて構築中、1体はその予備と言ったところでしょうか?そして最後の6体は迷宮内部に向けて同じ術式を編んでいます。」

 

 「・・・・・・。」

 

 「魔力や術式の規模から恐らくその破壊は60階付近まで届くことでしょう。そして深層にて神の力(アルカナム)に迫るという力に呼応し生まれるであろう黒いモンスターの推定レベルは最低でも8。そのモンスターはたった今できた巨大な穴を這い上がってこの地上に新たな厄災として現れる。」

 

 「・・・・そういうことですかい。仮にオラリオが消し飛んでも、穴から出てくるのは殆どがせいぜい中層や下層程度のモンスター。『ナイト・オブ・ナイト』を筆頭とする余所の強者が徒党を組めば再びこの地の奪還も不可能じゃない。ただ穴から出てくるのが厄災なら話は別。」

 

 一見脳筋そうでその実計算高く順応が早いところは、彼の美点である。

 

 実際には前者の場合でも奪還など、そう容易くできるものではない。

 

 【オラリオ】の消滅と共にウラノスが送還されれば、『祈祷』が無くなり深層のモンスターも含めた大移動が起こる。

 

 『黒竜』の眠る【精霊の嵐】の中には地上では考えられないほどの強力なモンスターが多数生息しているという。

 

 それは古代においては深層のモンスターも【穴】から現れたという証なのだ。

 

 「姐さん急ぎやしょう。今度の戦い、やっぱ姐さんの力が要る。」

 

 「ええ」

 

 実を言うと、敵の技量を踏まえれば『魔法円(マジックサークル)』に流れる魔力を支配し、術式を止めることはそう難しくない。しかし、今回に限れば勝手に敵の攻撃が止まった幸運(ラッキー)では困るのだ。

 

 幸いにして、先程視た(・・)魔法が役に立ちそうだ。

 

 軽く目を瞑ったネフィリスから分裂するように五つの影が現れる。それは虚ろな目を除けば本人そのものの姿をしていた。

 

 本家の最大の目玉である経験値(エクセリア)の共有はできないし、自動操縦(オート)ではなく遠隔操作(リモート)だが用は足りるだろう。

 

 「足りない手はこれで埋めるとしましょう。」

 

 大口を開ける獅子の獣人の姿を目に収めながらそう告げた。

 

 神の『恩恵』が与える『魔法』など、元より万象自在なら無用の長物。

 

 「・・それにしても姐さん、『黒いモンスター』について随分と詳しいんすね。」

 

 「単純な話です。迷宮で鍛錬をしていると偶に出てくるんですよ。」

 

 

 

 

 

 

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