終末戦争   作:涼翠

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ここから先はようやく本編ストーリー及び登場人物と絡んでいく形になりますが、敵と主人公陣営を強くしすぎたせいで作者の力量では本編冒険者達がまともに活躍させられる気がしません。
少なくとも神以外では最前線に出てくる可能性は限りなく低いでしょう。
一応作者の頭の中ではこの後出てくる敵や結末の展望はある程度できており、できる限り完結まで持っていく予定ではありますので読み続ける場合は上記の内容を考慮いただいた上で進めていただければ幸いです。



最凶

 

 フィンは表面上は努めて冷静さを保っていたが、その実疑念と困惑の中にあった。

 

 精霊の分身(デミスピリット)のいる大広間は、正に地獄の様相を呈している。

 

 精霊の分身(デミスピリット)は人面大樹のモンスター『グランド・トレント』3体に同時寄生することで『階層主』を遥かに超える巨躯を誇り、人面部が詠唱を唱えることで絶大な威力の魔法を(本体を除いても)3つ同時に展開可能、加えて緑肉が覆う階層全体から無数の迎撃魔法を撃ってくる規格外ぶり。

 

 事前に打っておいた布石が上手くいくかでこの戦いの明暗が分かれるだろう。

 

 そんな博打をしなければ勝てない戦い。

 

 しかし不吉なのが未だかつてない指の疼きだった。そしてこれは勘だがこの疼きは博打の成否とは別の要因によるもの。

 

 (何だ、何を見逃している?)

 

 突如、精霊の分身(デミスピリット)が内部から爆発を起こす。

 

 皆が驚く中、フェルズに任せていた布石、『悪巧み』の成功を確信したフィンは尚も微かに響く『歌』を聞いて体中に戦慄が走る。

 

 (今ので『歌』が完全に止まらないということは、展開されている『天の扉』は一つじゃない。つまり精霊の分身(デミスピリット)の数も少なくとも12体以上!)

 

 あり得ない。

 

 フィン達が発見した分身の幼体を収めていたフラスコの数は7、既に倒した分を含めれば残りの精霊の分身(デミスピリット)は6体で確かに数が合うのだ。

 

 他にもいるので有れば、それは既に生み出されていた個体であるということ。

 

 それが6体も居るのなら、わざわざ追加で生み出さずにさっさと術式を展開していればあるいは誰にも気づかれないまま【オラリオ】を滅ぼせたかもしれないというのになぜ。

 

 全部隊への采配をこなしながら、更に脳を稼働させる。

 

 エニュオは理知的かつ狡猾にして残虐非道なる神、同時に神特有の『娯楽』を―――今回で言うならば『狂乱(オルギア)』を―――求めている。

 

 そしてその『狂乱』とは希望から絶望に突き落とされた『子供達』が上げる悲鳴。

 

 フィンは戦闘の僅かな猶予の中、黒幕(エニュオ)神物評価(プロファイリング)を行う。

 

 今思えば【ロキ・ファミリア】が最初に相対した59階層の精霊の分身(デミスピリット)、あの対峙がその脅威を知らしめ、フィンは『精霊』の殲滅に路線変更せざるを得なかった。

 

 もしあの、配置に意図があったとするなら―――

 

 刹那、脳裏に火花が散った。

 

 あの配置こそがフィン達を【迷宮都市(オラリオ)】の保有戦力をこの【人造迷宮(クノッソス)】に誘導するためのものであるとすれば―――

 

 (まさか、真の狙いは【オラリオ】の崩壊ではなく、それを殲滅に来る都市の主要戦力である『冒険者』の全滅!)

 

 【ラケシス・ファミリア】の超戦力を知らないフィンと『都市の破壊者(エニュオ)』、その認識の差ゆえにネフィリスでさえ気づかなかった真実に到達する。

 

 理解してしまった敵の思惑、しかしそれに手を打つ暇さえこの戦場は与えてくれない。

 

 巨大なる精霊の分身(デミスピリット)に視線を向ける。

 

 『悪巧み』は想定通りに効果を発揮した。

 

 10層に存在する8箇所の魔力の循環地点全てに爆弾を設置し、破壊することで『魔力経路』を乱し、乱れた魔力は『精霊の分身(デミスピリット)』内部で本体の魔力と衝突。

 

 結果損傷を無にしていた『高速再生』は停止し、大広間に展開されていた『迎撃魔法』は激減、そして間違いなく10階層の通路の『迎撃魔法』は沈黙したことだろう。

 

 そしてこの『悪巧み』が成功したということは、それ即ち援軍の合図。

 

 【フレイヤ・ファミリア】を筆頭とする強力な援軍で追い打ちを掛ける、戦況を大きく変える一手―――そのはずだった。

 

 しかし、仮に彼らと合流し精霊の分身(デミスピリット)を倒せたとしても、更に新たな6体を術式発動までに倒せるか。

 

 ―――不可能だ。

 

 【オラリオ】の消滅が眼前に迫り、冷たい汗が背筋を伝う。

 

 もう一つの術式はオラリオではなく迷宮に向けられていた訳だがフィンの懸念は正しい。

 

 『魔法円(マジックサークル)』が迷宮の構造に沿って形成されている以上、魔法の方向は変更が利かないが、『魔法円(マジックサークル)』を対称に逆方向(・・・)に撃つことは可能である。

 

 つまり、万が一上層の『術式』発動を止めそしてその下層にいる『ニーズホッグ』の名をもつ7体目の精霊の分身(デミスピリット)まで倒せたとしても、もう一つの術式でオラリオを消滅させることができる。

 

 それは英雄たちの敗北が確定した瞬間であった。

 

 

 

 

 

 故にここからは怪物の舞台となる。

 

 「お見事でした(・・・)。」

 

 弾かれるように後ろに視線を向ければ、そこには見慣れない黒妖精(ダークエルフ)の姿があった。

 

 フェルズを思わせる真っ黒な出で立ちに加え、この戦場にはあまりに似合わない涼し気な表情がより異質感を齎す。

 

 何より『悪巧み』が成功して間もないタイミングで現れたということは、あの通路の迎撃魔法を掻い潜ってここに来たということ。

 

 それだけの腕の冒険者で目の前の者の特徴に合致する相手にフィンはまるで心当たりがない。

 

 フィンは目の前の者が『怪人(クリーチャー)』ではないかと考えたときその後ろの冒険者、『金獅子(ゴルディアス)』ライオネル=グランシャリオスにようやく気付く。

 

 その様子は普段の彼を知るフィンから見て不気味な程に大人しい。そもそも『あの』ライオネルが誰かの後ろに立つことに甘んじるなどあり得ない。

 

 そんなことを考えるフィンに構わず女性は続けた。

 

 「淀みない判断力、これだけの規模の部隊を纏め上げる統率力、『勇者(ブレイバー)』の異名に恥じないものでした。しかし、今は少々戦力が足りないご様子。微力ながらお手伝いさせていただきます。」

 

 そう言うや否やフィンの返答を待つことなく、まるで近所に買い物に行くような気軽さで精霊の分身(デミスピリット)に向けて歩いていく。

 

 当然そんな真似をする不心得者には迎撃魔法が差し向けられる。

 

 しかし、その魔法が届くことはなかった。

 

 直撃する直前に全く同等の威力の魔法が衝突・相殺したのだ。

 

 しかも彼女に向かってきた分だけではない、その対象は大広間中の数多の迎撃魔法全て。

 

 間断なく打たれていた迎撃魔法の雨が止む異常事態にその冒険者達は唖然としながら広間をキョロキョロと見回した。

 

 「フィン、お前の用意した増援かあれは?」

 

 皆の当惑を代表するように【ガネーシャ・ファミリア】団長シャクティが尋ねる。

 

 本来であれば一斉攻撃に転じるべき好機、しかしそれを齎したのが怪しいにも程がある闖入者となれば命を賭した攻勢は躊躇われた。

 

 「いや、僕にも何がなんだか・・・。後ろの彼なら知っていそうだけどね。」

 

 ベートに勝る『狂獣』として知られる男は変わらず借りてきた猫のように大人しい。

 

 オラリオの治安維持を担うシャクティはその傍若無人ぶりを知っていたため、男の様子に訝し気に眉をひそめるも、問い詰めてやるとライオネルに近づこうとしたその時。

 

 「ア、アアアアアアアァァァァッ」

 

 精霊の分身(デミスピリット)が唐突に苦しみだした。

 

 だらだらと冷や汗を流し、目を見開いて顔を赤黒く上気させ魚の様に口をパクパクと開閉している。

 

 原因と思われる彼女に目を向ければ『詠唱』は疎か、腰に下げた剣を抜いてすらいない自然体そのもの。

 

 その身には剣も魔法も届いていないのになぜ?何が起きている?

 

 「このまま仕留めてしまっては意味がありませんね・・・」

 

 周囲の困惑を置き去りにそう言う彼女の調子は今晩の夕食の献立を考える主婦のようで、とても戦いに来た者のそれではない。

 

 暫しの逡巡の後、荒事を知らない令嬢のような綺麗な右手を前に掲げれば何の前触れも無くその先に恒星が現れる。

 

 否それは火球であった。

 

 ただし直径30M程の、巨大な質量さえ感じさせる程の密度と日輪と見紛う輝きを併せ持っている。

 

 「ゆっくり撃ってあげましょう。その時間で全力で抗いなさい。」

 

 そう女王然とした言の葉と共に放たれた魔法は宣言通り亀のようにゆっくりと標的に向かっていった。

 

 「ッ!! 【突キ進メ雷鳴ノ槍代行者タル我ガ名ハ雷精雷雷ノ化身雷ノ女王】」

 

 【永遠ノ凍土ノ如ク氷結セヨ我ガ名ハ水精霊水ノ化身水のノ女王】

 

 【閃光ヨ駆ケヨ数多ノ刃闇ヲ切リ裂ケ我ガ名ハ光精霊光ノ化身光ノ女王】

 

 【闇ヲ荒ベ光ヲ呑ミホシ夜ノ安寧ヲ闇精霊闇ノ化身闇ノ女王】

 

 焦りと共に『天の扉』の詠唱すら中断した本体も含めて計4つ同時の魔法行使、加えていつの間にか行使を許された(・・・・)迎撃魔法が既に火球に向けて放たれていた。

 

 【サンダーレイ】

 

 【アイシクル・エッジ】

 

 【ライト・バースト】

 

 【ダーク・ロアー】

 

 全て直撃。

 

 4つの魔法の一極集中攻撃はこれまでで一番の衝撃を大広間に与え、幾人かの冒険者がその余波に顔を顰めながら体勢を崩す。

 

 いずれも強力な魔法の数々。しかし向かってくる死星に一切の陰りはなく、その速度が緩まる気配もない。

 

 驚愕は更なる焦燥へ。

 

 「ア、アアアアッァアァア!【火ヨ来タレ―――】」

 

 それでも、狂乱しながらも無数の魔法を必死の形相で撃ち続ける、迎撃は不可能という現実から逃避するように・・・

 

 なぜならその場から動けない『グランド・トレント』に寄生してしまったが故に逃げ出すことさえできずにいたから。

 

 下半身と比して不釣合に小柄な女体を捩り、少しでも炎から逃れんとするその表情はただの少女のようで狂気に堕ちた怪物の面影はまるで無くなっていた。

 

 「ア、アリア・・・アリ――――――」

 

 精霊の分身(デミスピリット)はこれまでのおいた(・・・)に対する罰とでも言わんばかりに今際の悲鳴もろともゆっくりじっくりと焼き尽くされていった。

 

 『精霊』の消失と共に大広間から音が消える。

 

 『それ』が振り向く。

 

 決死の覚悟でここまで来たはずの冒険者が気圧されたように後ろに下がった。

 

 「『勇者(ブレイバー)』」

 

 口を開いたのはこれまで置物と化していた『金獅子』。

 

 「小賢しいお前には不要かもしれんが忠告しとくぜ。姐さんには絶対に逆らうな。団長が『最強』ならあの人は『最凶』だ。」

 

 分からないこと聞きたいことは多々あるが、その言葉の主旨はあの光景を見れば理解できてしまう。

 

 『精霊の分身(デミスピリット)』が最後に浮かべた怯えの表情、それは心有るものであれば何かしらの想いを抱かずにいられないものだった。

 

 それはこれまで散々仲間を殺しておきながら人らしい表情をすることに対する怒りかもしれないし嫌悪かもしれない、あるいはベル・クラネルであれば精霊としての心が残っていたのではと憐れんだだろうか。

 

 彼女の場合は只々無関心。

 

 仮に相手が赤子でも同じように殺したのではないかと思わされる程に。

 

 そしてその直感は正しい。

 

 彼女の心が本当の意味で主以外に対して動くことはない。

 

 仮にアトラと出会わなければ罪悪感を抱かないまま本物の『怪物』と化し、英雄達と殺し合っていたことだろう。

 

 それを避けるためにラケシスは二人の『出会い』を早めたのだ。

 

 その本質は暗天の如き虚ろ、それを満たせるのは極星の輝きのみ。

 

 そんな『怪物』の片割れと『英雄達』はこの時初めて邂逅を果たした。

 

 

 

 




22話かけて本編の登場人物初登場ってそんなことあります?
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