呪力を開放してから、ちょうど一年が経った。
家庭は――相変わらず崩壊している。両親は、もともと良い人たちだった。けれど、里香ちゃんという“やばい呪い”を背負った息子には、どうしても適応できなかった。それは仕方のないことだと思う。誰が悪いわけでもない。ただ、そういう運命だったのだろう。
……まあ、それはさておき、修行の方は順調そのもの。ついに術式も判明した。
その名も――『影分身の術』!!
「いや、それNAR〇TOの忍術じゃん!?」と思ったそこの君、安心してほしい。僕もそう思った。
呪力操作の修行中、ある日突然、頭の中に“すっ”と入ってきたというか……思い出した?ような感覚で、気づいたら分身を作る術式が使えるようになっていたんだ。
しかも、経験値を共有できちゃうやつ!!!
とはいえ、原作に出た某紙袋の呪詛師みたいに「本体が危なくなったら分身に切り替える」なんて芸当はできない。本体は本体、分身は分身。それぞれ独立していて、分身を作ると呪力はきっちり等分される。まさに『影分身の術』そのものだったので、術式名もそのまま採用した。
本当は「〇〇術式」みたいに呪術っぽい名前にしたかったけど……思いつかなかった。しょうがない。
でも、この術式、めちゃくちゃ便利だった。
呪力量は血縁が良かったのか知らないけど、かなりあるらしく、分身を出しまくっても問題はなかった。というか、術式発動にはほとんど呪力は消耗せず、呪力の等分もそこまで問題ではなかった。分身を一体作成しただけで、本体と分身で呪力を二等分。デメリットにも思われるが、そもそも僕は呪力を身体強化にしか使わないし、それ以外に使う術を知らない。
ただ問題が一つあって、分身が長くはもたずに消えてしまうのだ。例えば、分身を一体出しているとしたとき、本体の僕の呪力は半減する。このとき、呪力は‘本来の半分以上’に回復することはできない。で、分身の僕にも本来の半分の呪力が与えられているのだが、分身は呪力を回復するというか、練ることができない。しかも、分身の肉体は呪力そのもので構成されていて、何か行動を起こすたびに呪力がじわじわと消耗していく。結果、分身は一定時間を過ぎると自然に消えてしまうのだ。
分身が消えるのは、まあまあ深刻な問題だった。でもこれは、僕自身の呪力操作の未熟さが原因でもある。要は、ロスが多すぎるのだ。正直言って、分身の呪力は駄々洩れだった。……まあ、本体の僕も割と駄々洩れだったのだけれど。
だから最近は、分身を出して「どれだけ長く維持できるか」を試す、地味な修行を続けている。
自分が二人いるから、修行の効率は倍速。
しかも、分身の維持時間という“目に見える成果”があるのも、やる気につながった要因かもしれない。
維持時間が伸びたら、次は分身をもう一体追加。
さらに伸びたら、また一体追加。そんな感じで、修行は順調に進んでいった。
修行の成果もあって、僕の肉体には少しずつ筋肉がつき始めている。分身が筋トレしても、本体の筋肉には反映されないから、本体は肉体作り担当。分身は呪力操作の修行担当。分身を複数体維持できるようになってからは、そんな役割分担で修行を続けている。
分身を九体出しても、呪力が十分の一になった状態で、身体強化込みの消耗を考慮しても、半日は維持できるようになった。そこで、ついに分身九体を実戦に投入してみることにした。
今まで、蝿頭とかいった雑魚呪霊を祓ったりしたことはあったが、本格的な戦闘はしていなかった。というか、戦闘を避けていた。外で修行するわけにはいかなかったのだ。分身の肉体は呪力で構成されているから、一般人に見られることはない。でも、呪術界の関係者がみたら、一発アウト!けれども、そろそろ自分の部屋で修行をするには限界がきた。単純に狭い!!
それに、実戦経験がないのはまずし、そもそも実戦にまさる修行はない。だから、実戦に踏み出すことにした。分身たちに三人一組で呪霊と闘わせる。本体の僕は基本お留守番。日常生活もあるし。とはいえ、いずれは本体である僕も闘いに出なければならない。
分身の死は“死”ではない。けれど、本体の死は当然ながら“死”だ。
本体が死ねば、分身も消える。死ぬ。
当たり前のことだけど、いざというときに“死への恐怖”で動けなくなるようでは話にならない。分身の消失によって、疑似的な死は何度も味わってきた。
でも、前世の死――あれは、こんなものじゃなかったように思う。
そんなことを考えていた矢先、分身の消失によるフィードバックが次々に押し寄せてきた。
最初は慣れなくて、胸がざわついた。けれど、慣れてしまえば――どうということはない。感覚の断絶、呪力の揺れ、視界の崩壊。全部、経験値だ。
ちなみに、戦闘の結果はというと――圧勝だった。
呪力による身体強化もあるし、そもそも子供の足で行ける住宅街の近辺に、強い呪霊なんてそうそういない。チビGORIRA三体による集団リンチで、あっさり祓った。殴って、蹴って、押し潰して。呪霊の方がかわいそうになるくらいの暴力だった。
ただし、学校や病院といった“負の感情が集まりやすい場所”は、今はまだスルーしている。
今はレベルアップ期間だ。焦って強敵に挑む必要はない。分身が消えるまで、僕はただ部屋で待つだけ。
今は慎重に、着実に、経験を積む。
***
そんなこんなで、日々を過ごしていたが、なんと!!驚くべきことが三つも起きた。
一つ目は、何か 『黒閃』 ができちゃった。
本当に偶然呪霊退治中の分身が黒閃を決めた。その黒閃を決めちゃった分身はハイになった後、手あたり次第呪霊を殴りまくるやばいやつになった末に、呪力切れで消失したんだけど、その経験がフィードバックした瞬間――僕の中で何かが弾けた。
「今なら、黒閃を出せるかもしれない」
そう思った僕は、できるだけ多くの分身を出して、分身たちと殴り合いを始めた。
だって、黒閃を出した経験値を手に入れた今、その経験が新鮮なうちならばって思っちゃったんだもん。
結果、二回。黒閃、出ちゃいました。
黒閃は素晴らしい!!!!!
普段の修行が馬鹿らしく思えるほど、呪力の操作が研ぎ澄まされていくのを実感した。感覚が鋭くなり、呪力の流れが明確に掴める。おかげで、同時に出せる分身の数は急上昇した。
二つ目は、お兄ちゃんがついに家出した!?
……というのは冗談で、なんか一人暮らしを始めることになった。ひきこもっていたお兄ちゃんだけど、時はどんどん過ぎて行って、この前小学校を卒業した。卒業式には行っていなかったけど、証書はちゃんと届いた。リビングの棚に、ぽつんと置いてある。そしたら、中学は地元ではなく、少し離れた私立の男子校に進学することになったらしく、それに伴っての一人暮らし、というわけだ。
…部屋にひきこもっていたお兄ちゃんが、一人暮らしをするなんて大丈夫なんだろうか?
お兄ちゃんのことに関しては、僕はまったく関われていない。というのも、お兄ちゃんの近くに女性がいるだけで、里香ちゃんが反応してしまう。特に僕が近づくと、暴走はほぼ確定。
だから、関わりたくても、関われない。このことは、憐花ちゃんも悲しんでいた。
三つ目は、さっき少し触れたけど、元の憐花ちゃんと夢で時々話せるようになったことだ。夢での接触は、僕からはできない。憐花ちゃんの方から“来てくれる”のを待つしかない。だから、会話ができるのは本当に稀だ。
ほとんどの時間、憐花ちゃんは僕の中で静かに眠っている。憐花ちゃんは、本当に静かな子だった。いや――“静かな子になってしまった”のかもしれない。
夢の中でも、言葉は少ない。でも、その沈黙の奥に、何か深いものがある気がする。
言葉にできない感情。触れたら壊れてしまいそうな、繊細な何か。正直言って、お兄ちゃんよりも憐花ちゃんの方が重症かもしれない。
お兄ちゃんは外に出始めた。ほんの少しだけど、前に向かって歩き出している。
でも、憐花ちゃんはまだ、夢の中にしか現れない。
それも、ほんの一瞬だけ。
それでも、憐花ちゃんが夢に来てくれるたびに、僕は少しだけ救われる。
彼女がまだ“そこにいる”という感覚が、僕を支えてくれる。
まぁ、そんな感じで僕は今――学校(本体)と呪霊退治(分身)という、なかなかハードな生活を送っている。勉強は問題ない。けれど、呪霊退治の方は、最近ちょっと行き詰まり気味だった。活動範囲に限界を感じてきたのだ。この近辺の呪霊は、ほとんど祓ってしまった。新たな発生が追いついていない。それ自体は“良いこと”なのかもしれないけど、実戦経験が積めないのは困る。
遠出したい――そう思うようになった。でも、そのためには分身の維持問題をどうにかしなければならない。
分身の数を減らせば、一体あたりの呪力量は増えて、維持時間も伸びる。けれど、数が減れば、経験値共有の利点が薄れてしまう。
効率か、持久か。どちらを取るべきか。どうしようかなぁ……と、悩んでいた。
そして、ふと口をついて出た言葉。
「そろそろ独力じゃ限界かな」
ぽつりと呟いたその声は、誰にも届かない。でも、自分の中では、確かに何かが揺れた。
――師匠がほしい。
特に結界術に詳しい人。今の僕は領域展開への対策がないから、簡易領域とか教えてほしい。呪霊でも上位個体は領域を使ってくる。まだ僕は遭遇したことがないけど、これからも強くなっていくには領域対策は必須だ。
でも、呪術界とはあまり関わりたくない。
上位層が怖いし、男尊女卑も根深そうだし、不都合なことが多すぎる。だから、呪霊退治に行かせている分身たちには仮面をつけている。分身の姿は、作成時の本体の恰好そのままだから、適当な仮面でもつけておけば、問題ない。……たぶん。
「でもなぁ、デメリットよりも、呪術を学べるというメリットの方が大きいんだよなぁ」
特に、結界術。
簡易領域といった“領域への対策”を、僕は学びたい。
「はぁー……呪術界との関わりが薄いのは、九十九だよな。東堂に簡易領域を教えてたし」
でも、どこにいるのか分からない。
「あとは……夏油とか?」
夏油は今や呪詛師で、かなりの危険人物。
でも、呪術師なら“猿”じゃなければセーフだよね……?
「でも、夏油は結界術に詳しいのかな?」
「他は……羂索か?いや、羂索は危な過ぎるか」
そんなことを考えても、結局、僕は誰の居場所も知らないから、どうしようもない。
「んー……術式の拡張に挑戦してみるか。結界は……帳で何かきっかけが掴めるかもしれない」
今まで、帳は使っていなかった。
あんな黒い球体、呪術関係者には目立ちすぎるから。でも、分身を全国各地に展開できるようになれば、僕の居場所はたぶんバレない。
だったら、使ってもいいよね。
「まだまだ修行は必要だなぁ……」
まぁ、頑張ろう。
ちなみに、「闇より出でて、闇より黒く――その汚れを禊ぎ祓え」この帳を張る呪文を覚えていた前世の僕は中二病だったのかな?
***
気が付いたら、小学校を卒業して、中学生になっていました!!
お兄ちゃんも、いつの間にか中学三年生。時の流れって、ほんと早い。
そして今の僕は、なんと――
47都道府県すべてに、最低一人は分身を配置できるほどに成長しました!
イェーイ!!
それを可能にしたのが、拡張術式「呪環」。
本体と分身、もしくは分身同士で呪力の受け渡しを可能にする術だ。もともと、分身が呪力切れを起こす前に分身を解除すると、経験値とは別に余っていた呪力が本体に戻ってくる。その原理を応用して、呪力を“送る”ことに成功した。これによって、分身が呪力切れで消えることなく、遠出が可能になったのだ。
……とはいえ、おかげで本体の呪力は常にカツカツ。
分身に呪力を供給し続ける生活は、正直つらい。
でも、全国展開のためには仕方ない。修行だと思って耐えるしかない。
ちなみに、経験値の受け渡しはどうしているのかというと、分身が『影分身の術』を行使した上で、術を使った分身が自らを解除することで行っている。この方法なら、経験値が確実に本体にフィードバックされる上に、分身は常に全国各地に存在し続けることができる。
あと、帳を使い始めてわかったんだけど――帳を張るの、めっちゃ簡単だった。まさに天元様万歳。ありがとう、天元様!帳で結界の張り方は何となく理解したので、今は結界の勉強中。
いずれは、領域展開をやってみたい!!
今の領域対策は展開された時点で分身を作って、一体が術の行使者を、もう一体が領域の外殻をぶん殴って何とかするという脳筋戦法。何とかなる時もあれば何とかならない時もあって、領域を使う相手だと勝率は5割を切っている。いやー、つらい!!まぁ、領域を使ってくる呪霊なんてそうそうお目にかかるものじゃないけどね。
そして、できるかなーと少し前から反転術式に挑戦しているのだが、これについては本当に進展なし。どうやればいいのか、まったくわからん。負と負を掛けて正にする。原理はわかってもやり方がわからない。
それでも、ふと思う。かなり強くなったなーって。まだまだ先は長いが、これならお兄ちゃんにもしものことがあっても助けに行ける。あと、里香ちゃんには一発ビンタしたい。
***
某呪術高専にて――
「狐面の呪詛師ぃ?」
包帯で目元を覆った男――五条悟が、眉をひそめて問いかける。声には軽さがあるが、その奥に潜む警戒は隠しきれない。
「そうだ。最近、全国各地で目撃されている。呪霊の出没とほぼ同時に現れては、何も言わずに退治して消えるらしい」
答えるのは、いかにも「ガッデム」と叫びそうな風貌の夜蛾正道。資料を手にしながら、呟くように続ける。
「で、そいつが何?僕が退治してくればいいの?」
五条の言葉に、夜蛾は首を横に振った。
「いや、奴は呪詛師とは言っても、犯罪行為は確認されていない。むしろ呪霊を祓っているだけだ。目撃情報も、呪霊の出現前後に限られている」
「ふーん……」
五条は興味なさげに鼻を鳴らすが、その瞳はどこか鋭く光っていた。
「そこでだ、悟。もし奴を見かけたら、スカウトしてくれ。目撃者の証言によれば、まだ子供のようだ」
「子供ぉ?ただ背が低いだけじゃないの?」
「可能性はある。だが、呪術界は常に人手不足だ。年齢に関係なく、強い呪術師は貴重だ」
「うーん……わかりましたよ。スカウトすればいいんでしょ。じゃあ、任務に行ってくるよ」
五条は夜蛾に背を向け、軽やかに歩き出す。
「悟!頼んだぞ!」
夜蛾の声が背中に届くと、五条は片手をひらひらと振って応えた。
「はいはい」
その背中は、どこか楽しげだった。
「狐面ねぇ……まあ、何とでもなるでしょ。僕って最強だし」
その言葉の裏には、ほんの少しだけ――未知への期待が滲んでいた。
***
side : どこかの誰かさん
部屋は静かだった。六畳ほどの広さ。白い壁、木製の机、蛍光灯の光が均一に降り注ぐ。窓の外では、鳥の声が聞こえる。まるで、誰かの書斎か、大学の研究室のような空間だった。
その中心に、額に縫い目のある女が座っていた。姿勢は正しく、手元にはノートとペン。机の上には、呪術師たちの映像記録が並んでいる。彼女はその中の一つ――ある呪詛師の術式記録に目を留めた。
映像の中で、子供が呪霊を祓っていた。動きは拙く、呪力の流れも粗い。けれども、その実力は本来、子供が身につけられるようなものではなく、年齢にそぐわないほど異常だった。
女はペンを置き、静かに呟く。
「うーん、本人の実力はまだまだだけど、術式が面白いね。それに成長速度がすごい」
彼女の声は穏やかで、まるで講義の一節のようだった。だが、その瞳には、冷たい計算が宿っていた。
「夏油傑が手に入らなかったら、私の次の肉体は彼女にしようかな」
その言葉は、あまりにも自然に発された。まるで「次の研究対象はこれにしよう」と言うかのように。
部屋の隅には、観葉植物が置かれていた。空間は平穏そのものだった。だからこそ、女の存在は異質だった。
彼女の額の縫い目が、わずかに脈打つ。まるで、次の“肉体”を待ち望んでいるかのように。
***
side : ゆうた
里香ちゃんが死んだ日、僕の世界は終わった。
でも、本当に終わったのはその後だった。
彼女が呪いになって、僕のそばに現れたとき。
誰かが泣いて、誰かが怪我をして、誰かが僕を見て怯えた。
僕は、ただそこにいただけなのに。
部屋の隅に膝を抱えて、何日も外に出られなかった。
窓の外では、季節が変わっていった。
冬が終わり、小学校の卒業証書が家に届いた。
でも、僕はそれを見て、思ったんだ。
「僕は、ここにはいちゃダメな存在なんだ」って。
里香ちゃんと過ごした場所。
笑って、泣いて、手を繋いだ場所。
その全部が、呪いに変わってしまった。
僕がいるだけで、誰かが傷つくなら――僕は、いなくなった方がいい。
だから、僕は遠くの中学校を選んだ。
誰も僕を知らない場所。
誰も里香ちゃんを知らない場所。
誰も、僕を怖がらないかもしれない場所。
親から、ひとり暮らしの許可が出た。
小さなアパートの鍵を渡されたとき、少しだけ手が震えた。
「これでいいんだ」って、自分に言い聞かせた。
引っ越しの日、誰も見送りには来なかった。
それでよかった。
僕は、誰かに見送られるような人間じゃない。
電車の窓から見えた街が、少しずつ遠ざかっていく。
里香ちゃんと歩いた道も、もう見えない。
でも、彼女は僕の隣にいる。
呪いとして。
僕は、彼女を連れて、知らない街へ向かう。
誰にも迷惑をかけないように。
誰にも、僕のことを知られないように。
それが、僕にできる唯一の償いだと思った。
一人暮らしは、思っていたよりずっと静かだった。
最初の夜、布団に入っても眠れなくて、天井を見ながらずっと考えてた。
「これでよかったんだよね」って。
誰も傷つけない。誰にも迷惑をかけない。
それが、僕にできる唯一のことだと思ってた。
朝は自分で起きて、自分でご飯を作る。
といっても、パンを焼いて、牛乳を飲むだけ。
洗濯機の使い方は、最初よくわからなくて、何度か服を縮ませた。
掃除は週に一回。誰も来ないから、汚れても気にならない。
学校では、なるべく目立たないようにしてた。
話しかけられても、笑ってごまかす。
里香ちゃんが反応しないように、距離を取る。
それでも、たまに誰かが近づきすぎて、黒い腕が揺れる。
そのたびに、僕は謝って、逃げるように教室を出た。
友達は、できなかった。
でも、誰かと話すことは、少しずつ増えた。
図書室の先生とか、保健室の先生とか。
里香ちゃんが怒らない距離で、少しだけ言葉を交わせた。
三年生になった頃には、里香ちゃんの呪力も少し落ち着いてきた。
僕が強くなったわけじゃない。
ただ、彼女と一緒にいることに僕が慣れてきたのだ。
誰にも頼らずに生きた。
でも、本当はずっと誰かに触れたかった。
誰かに「大丈夫だよ」って言ってほしかった。
でも、僕は呪われている。
だから、誰かに触れることはできない。
それでも――
それでも、僕は生きている。
里香ちゃんと一緒に。
誰も傷つけないように、静かに。
それが、僕の中学校生活だった。
なぜ、影分身?作者も不思議に思う。