乙骨の妹   作:毎日読書

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ネタが、おりてきたんだ・・・


特級

 …やばい指、拾っちゃった(分身が)

 

 時は少し遡る。

 その日はなんて事のない普通の日のはずだった。

 

 分身からのフィードバックが届いた。その分身は呪霊の生得領域内で戦い、特級相当の呪霊を撃破した。ここまでは順調だった。でも、その呪霊は特級相当の呪力を持ながらも、術式を使いこなせておらず、領域も術式が付与されていなく、どこか中途半端な印象を覚えたらしい。

 

 ──問題は、その後だ。

 

 呪霊が消失した後に、一本の“指”が残った。

 

 そう、指だ。しかも、明らかにやばい雰囲気を出しているというか、どう見ても特級呪物にしか見えない指。

 

 ……これ、宿儺の指じゃね?

 

 うん、宿儺の指だな、どう見ても…。

 

 この緊急事態に分身は情報を伝えるべく、分身の消失による情報伝達を行い、本体の僕に情報が伝わったのだった。

 

 

 正直言って、宿儺の指なんて、僕の手に負える代物じゃない。関わりたくないというのが、本音だった。

 

 だから、本体の僕はすぐに分身を作り、その宿儺の指を持つ分身のところに向かわせた。

 そしてこう伝えた。

 

 「絶対に本体の僕に近づけさせるな」

 

 こういうとき、分身と本体で直接連絡が取れないのは本当に不便だ。呪力の受け渡しができるようになっただけでも進歩だが、情報のやり取りも可能にしたい。分身からの一方的な報告だけでは、限界がある。

 

 それにしても、宿儺の指はすごかった。呪霊に取り込まれていたため、封印はすでに解けており、気配がむき出しの状態。そのせいで、呪霊が次々と寄ってくる。

 

 …はっきり言って、修行するには最適な環境だった。わざわざ探しに行かなくても、向こうから呪霊がやってくるのだ。本体には持たせたくないけど、分身が持つにはちょうどいい。現在、宿儺の指は複数体の分身によって管理している。分身一体だけでは、危険だからだ。

 

 始めは良かった。

 大量の雑魚呪霊。余裕で勝てた。

 時々2級が混ざり始めた。まぁ、勝てる。

 

 領域を使う一級も現れた。

 今は分身の数を絞って指に集中していたから、ごり押しでなんとかなる。

 

 ──でもさ、人語を使う知能を持った、明らかに特級の呪霊は……ちょっとキツくね?

 

 分身が次々とやられたことで、情報が本体の僕に伝わったけど、勝てるかって言ったら、ほぼ無理じゃねとしか思えないけど、修行の成果を試し、さらに成長できる絶好のチャンスでもある。

 

 というわけで、全国展開していた分身をすべて消去。分身の呪力量を一気に引き上げ、本体の僕が呪力をどんどん送り込む。 

 

 体制は万全。あとは、分身頑張れ!!

 

 ***

 

side : 指を拾っちゃった分身

 

 僕は分身。

 

 本体から呪霊退治の任務を受けて、生得領域に突入した。

 相手は特級相当の呪霊だったが、術式は未熟、領域も不完全。

 正直、勝てると踏んでた。で、実際勝った。僕、やるじゃん。

 

 ──問題はその後だ。

 

 呪霊が消えたあと、そこに残っていたのは一本の“指”。

 最初は「呪霊の残骸かな?」くらいに思った。

 でも、近づいた瞬間、空気が変わった。

 重い。濃い。嫌な気配が、指一本から漏れてる。

 

 ……これ、宿儺の指じゃね?

 

 見た目も気配も、知識にある“特級呪物”そのもの。

 僕は分身だから、呪物の扱いに関しては本体ほど慎重じゃない。

 でもこれは、さすがにヤバい。触れた瞬間、背筋が凍った。

 

 それでも拾った。

 拾っちゃったんだよ。

 だって、放置してたら誰かが拾うかもしれないし、呪霊がまた取り込むかもしれないし。

 僕が拾うしかなかった。

 

 ちゃんと本体に報告はしたんだよ。

 分身を作成して、情報を伝えるためにその分身を消す。

 

 「宿儺の指、拾っちゃった。ヤバい。どうしよ?」って感じで。

 

 これで伝わったはず……と思ってた。

 

 そしたらさ、翌日になって別の分身が俺のところに来て、こう言うんだよ。

 

 「本体には近づけさせるな」って。

 

 ──それには同意する。うん、わかる。

 でもさ、指を僕に押し付けるのはちょっとひどくね!?

 僕が分身だからって、扱いひどくね!?

 しかも、呪霊がどんどん寄ってくるんだよ!?

 宿儺の指、呪霊ホイホイかよってくらい、気配が強烈らしくて。

 

 ここから、地獄が始まった。

 雑魚呪霊がわらわら寄ってくる。最初は余裕だった。僕、強いし。

 

 でも、だんだん階級が上がってきた。二級、準一級、一級……。

 さすがにキツい。

 

 何体かの分身が追加されて、複数によるごり押しでなんとか持ちこたえてる。

 本体も呪力を送ってくれてるし、分身の数も調整してくれてる。

 つまり、これは“修行”ってことなんだろうな。

 

 領域を展開してくる一級レベルの呪霊たちが襲ってくるようになったときは、やばかった。

 展開に巻き込まれた分身は内側から、展開から免れた分身は外側から領域の外殻をぶん殴って領域を破壊。

 そして、領域展開の直後で、術式の使えなくなった呪霊を、集団リンチで仕留める。

 

 これの繰り返しで一級呪霊たちもなんとかできた。

 

 それでも……それでも、特級呪霊は無理!!

 ていうか、なんで言葉を話してんの!?

 知性持ちとか本当に無理なんだけど!?

 

 詰んだ……完全に詰んだ……。

 

 僕、分身だよ!? もっと自分を大切にしようよ!?

 負けたら祟るからな、本体……!!

 

 ……ってそんなこと思っている間に、攻撃してきたんだけど!?

 

 ああもう、ほんとに祟るからな……!!

 

 ***

 

 「なんだ、強烈な呪いを感じたと思えば──」

 

 空が割れた。雷鳴とともに、雷を纏った呪いが降り立った。

 

 「とんだ雑魚どもではないか」

 

 その声は、空気を震わせるほどの重みを持ち、傲慢だった。

 言葉を話す──それだけで、呪霊の格が違うことが分かる。

 知性を持ち、力を誇示するその姿は、まさに“災厄”の化身だった。

 

 「これは・・・無理かな」

 

 固まっている狐面の少女たちに向けて、呪霊はただ一言だけ告げる。

 

 「死ね」

 

 初撃は、空からの雷。

 狐が避けると、雷は地面に当たった瞬間、爆ぜた。

 

 「当たったら、即死だね」

 

 冷や汗をかく分身たち。

 

 「「影分身の術」」

 当たって即死なら、的を増やせばいい。

 その場に十数体の分身が現れる。

 

 「行くぞー!!」

 

 分身たちが四方八方からの連続攻撃を仕掛けようとする。

 

 「増えたか。だが、雑魚が群れようと意味はない」

 

 呪霊が指を鳴らす。

 

 「雷哭天」

 

 天が泣くように数多の雷が同時に降り注ぐ。分身たちが消し飛び、地面が焼け焦げる。

 

 「まだまだー!!」

 「「「影分身の術」」」

 

 かろうじて雷を回避した分身たちが、再び分身を大量に作り出し、かく乱を試みる。

 

 雷が空を裂き、分身たちは次々と焼かれていった。

 だが、消えた分身の数に比例するように、呪力が膨れ上がっていく。

 本体からの支援が始まったのだ。

 呪力の流れが変わる。濁流のように、狐たちの体内へと注ぎ込まれていく。

 

 「……来た」

 

 ある分身が呟いた。

 その声は震えていたが、瞳は燃えていた。

 分身たちは再び現れた。

 今度は、ただのかく乱ではない。

 

 狙いは──接近。

 雷の呪霊は、空を見上げて笑った。

 

 「呪力の増幅か。ようやく少しは“遊べる”ようになったか」

 

 分身たちは地を駆け、空を跳び、雷の隙を探る。

 雷は容赦なく降り注ぐが、分身たちはその“間”を読んでいた。

 そして──一体の分身が、雷の呪霊の懐に滑り込む。

 

 「拡張術式──命墜」

 

 その瞬間、分身の呪力が爆発的に跳ね上がる。

 その縛りは単純だ。

 一撃を放った瞬間、分身は消える。

 だが、その一撃の威力は、一撃で命を墜とす縛りにより強くなる。

 

 拳が、雷の呪霊の胸元に届いた。

 

 分身は消えた。

 だが、その一撃は確かに呪霊の身体を揺らした。

 

 「少しはやるではないか」

 

 雷の呪霊は、笑った。

 

 「雷獄陣」

 

 空が再び裂ける。

 雷雲が渦を巻き、地面に雷紋が広がっていく。

 分身たちは、まだ動いていた。

 命雷を使う分身が、次々と接近を試みる。

 

 一撃ごとに消えていく。

 だが、その一撃ごとに、雷の呪霊の動きが鈍っていく。

 戦いは、確かに盛り上がっていた。

 雷の呪いが笑い、分身たちが命を燃やす。

 空は裂け、地は焦げ、呪力がぶつかり合う。

 

 

 雷獄陣の中心で、雷の呪霊は悠然と立っていた。

 だが、その余裕は──一瞬で崩れた。

 

 「命墜」

 

 一体の分身が、雷の呪霊の懐に滑り込む。

 拳が閃光のように走り、呪力が空間を裂いた。

 

 ──黒閃。

 

 雷の呪霊の胸元が揺れる。

 分身は消えた。

 だが、その一撃は確かに“届いた”。

 

 「命墜」

 

 すかさず、二体目の分身が地を這うように接近。

 雷の呪霊が振り向くより早く、拳が肩を撃ち抜く。

 

 ──黒閃!。

 

 雷の呪霊の足元が崩れ、雷紋が乱れる。

 

 空気が震え、雷雲が一瞬、形を失う。

 

 「命墜」

 三体目の分身が、雷獄陣の外縁を跳び越え、空中から急降下。

 拳が背中を撃ち抜く。

 

 ──黒閃!!。

 

 合計三発。

 

 雷の呪霊の身体が、明確に揺らいだ。

 雷の王が、初めて“沈黙”する。

 空気が張り詰める。

 

 雷雲がうねり、地面の雷紋が暴走を始める。

 雷の呪霊は、ゆっくりと顔を上げた。

 その瞳には、もはや笑みはない。

 代わりに、純粋な“戦意”が宿っていた。

 

 「……雑魚ども。貴様らを強者と認めてやる」

 

 雷が空を裂く。

 呪霊の足元に雷紋が集まり、空間が歪む。

 

 「故に、俺の本気を見せてやる」

 

 呪霊が、掌印を結んだ。

 

 『領域展開──雷哭轟雷界』

 

 瞬間、空が閉じた。

 雷雲が天井となり、地面には無数の雷紋が刻まれる。

 空間全体が雷の呪力で満たされ、逃げ場はない。

 

 その領域は広く、全ての分身が展開に巻き込まれた。

 

 雷の呪霊は、腕を広げる。

 

 「この檻の中では、雷は思考より速く、意志より鋭く、命より重い。──死ね」

 

 必中の雷が、全方位から降り注いだ。

 

 雷鳴が絶え間なく響く。

 その中心で、分身たちは、帳を改良した結界を展開していた。

 それは、領域展開の練習中に偶然生まれた副産物。

 領域展開には遥かに劣る代物。

 だが、今はそれが唯一の盾だった。

 

 雷の呪霊の領域──その空間は、雷の意志で満ちていた。

 結界は、雷に触れるたびに軋み、剥がれ、焼かれていく。

 呪霊の笑い声が、雷鳴に混じって響く。

 

 「結界など、雷の前では紙同然よ」

 

 分身たちは、雷を避けながら、結界の再構築を試みる。

 だが、雷は“必中”だった。

 避けても、逃げても、雷は“意志”で追ってくる。

 

 一体、また一体と消えていく。

 雷に焼かれ、呪力が尽き、術式が破られる。

 

 「影分身の術──!」

 

 叫びとともに、分身が生まれる。

 だが、雷が落ちる。

 生まれた瞬間、焼かれる。

 

 結界の光が、徐々に薄れていく。

 雷の呪力が、空間そのものを侵食していた。

 

「……まだ、いける……!」

 

 分身の一人が叫ぶ。

 だが、その声も雷にかき消される。

 そして──最後の一人となった。

 

 焦げた地面に立つ、狐面の分身。

 結界は、もはや形を保っていない。

 空からは、雷が螺旋を描いて降りてくる。

 

 後、数撃で結界は剥がれる。

 もはや、逃げ場はない。

 

 だから──その分身は、最後の賭けに出た。

 

 「人では、その呪いに体が耐えられない。──でも、分身である僕なら」

 

 そう言って、分身は懐から“それ”を取り出した。

 黒ずんだ指。特級呪物。

 

 ──宿儺の指。

 

 分身は、躊躇なくそれを口に運び、飲み込む。

 

 瞬間、空気が震えた。呪霊が目を細める。

 

 「……ほう?」

 

 分身の体が軋み、呪力が暴走する。肉体が裂けかけ、術式が悲鳴を上げる。

 分身には“魂”がなかった。故に、そうなるのは必然だったのかもしれない。

 

 呪力が暴走し、術式の限界を超える中、宿儺の魂が、分身の“空白”に入り込んだ。

 

 呪力は限界を超え、肉体は異形なものへと変貌していく。

 雷が降り注ぐ。

 だが、分身はそれを吸収する。

 雷の呪力を喰らいながら、変形は加速した。

 

 呪霊は、一度領域を解いた。

 観察するために。警戒するために。

 

 腕が増える。腹が裂け、口が開く。女の体が、男の体へと変わっていく。

 

 骨格が軋み、筋肉が膨れ、声が低くなる。

 狐面が外れ、その顔が露になった。

 

 ──それは、少女のものではなかった。

 

 「……ケヒッ、ケヒッ、ヒヒッ」

 

 ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ

 

 異形が笑う。笑う。

 

 ──風を感じた。

 ──空気の匂いを嗅いだ。

 ──雷の音を聞いた。

 

 「外か……!」

 

 歓喜の声が漏れる。

 

 「久しいな……この感覚……!」

 

 雷が空を裂く。

 異形は、宿儺は、それを見上げて笑った。

 

 雷の呪霊が、初めて沈黙した。

 そして、観察するように目を細める。

 

 「貴様……何者だ?」

 

 宿儺は、答えなかった。

 ただ、笑っていた。

 腹の口が、雷に向かって嗤っていた。

 

 「何者だと──聞いている」

 

 雷の呪霊が、声を低く落とす。

 その言葉と同時に、雷が放たれた。

 空間を裂くような一閃。

 

 だが、宿儺はそれを避けた。

 滑るように、軽やかに。

 

 「ん? ああ……気が付かなかった。すまんな」

 

 その言葉に、雷の呪霊が激昂する。

 腕を宿儺に向ける。

 

 「──迅雷穿」

 

 雷の槍が、空間を貫通する。

 空気が焼け、地面が焦げ、雷の軌道が宿儺を捉えた。

 

 宿儺の右腕が、消し炭となる。

 

 肉が焼け、骨が砕け、呪力が吹き飛ぶ。

 腕は、肘から先が完全に消失していた。

 

 「……目覚ましにはちょうどいいものだな」

 

 宿儺は、笑いながら反転術式を発動する。

 呪力が流れ、焼けた肉体を修復しようとする。

 

 だが──治らない。

 

 呪力は流れる。術式は発動する。

 だが、腕は戻らない。

 

 むしろ、腕が消えていく。

 宿儺は、初めて眉をひそめた。

 

 視線が、右腕へと落ちる。

 その消失反応──

 それは、かつて呪霊に反転術式を掛けたときと酷似していた。 

 

 「……この肉体……」

 

 宿儺は、低く呟いた。

 

 「呪霊と同じく、呪力で構成されているのか」

 

 その言葉とともに、宿儺は呪力を練り直す。

 反転術式ではなく、呪力そのものによる再構築。

 焼け焦げた右腕の断面に、呪力を流し込む。

 

 ──再生が始まる。

 だが、それは“肉”ではなかった。

 呪力が形を成し、腕の輪郭を模倣する。

 筋肉、骨、皮膚──それらはすべて、呪力の塊だった。

 

 宿儺は、静かに目を細める。

 

 

 「……なるほど。これは面白い。だが──脆いな」

 

 再生された腕は、雷の残滓に触れた瞬間、崩れた。

 呪力の構造が乱れ、形が保てなくなる。

 

 宿儺は、笑った。

 だが、その笑みの奥には、確かな“理解”が宿っていた。

 

 「この肉体では、長くは持たんか……」

 

 雷が鳴る。

 空が震える。

 宿儺の体は、呪力で構成された仮のもの。

 だが、斬るには十分だった。

 

 「──解」

 

 手を構える動作すらなく、空間が裂けた。

 不可視の斬撃が、雷の呪霊の胴を狙う。

 空気が鳴き、地面が切り裂かれる。

 

 だが、雷の呪霊はそれを“感じ取って”いた。

 雷の加速で、斬撃の軌道を逸れる。

 一閃が空を切る。

 

 「速いな。だが──」

 

 宿儺は、指を指す。

 連射。

 形状を変えた斬撃が、碁盤目状に空間を切り裂く。

 

 「解」

 

 雷の呪霊は、空を跳ぶ。

 だが、不可視の刃は“空間”そのものを切る。

 雷の軌道が、斬撃に飲まれる。

 

 「──ッ!」

 

 雷の呪霊の肩が裂ける。血が噴き出す。

 

 「貴様……!」

 

 雷の呪霊が、怒りを込めながら、腕を向ける。

 

 「迅雷穿!!」

 

 雷の槍が、空間を貫通する。

 宿儺は、避けた。

 

 「それは、さっき見たぞ」

 

 そう言って、宿儺は前に出る。雷の呪霊が、距離を取ろうとするが、宿儺は一歩で詰める。

 指先が、雷の呪霊の胸元に触れる。

 

 「捌」

 

 空間が沈黙する。

 雷の呪霊の身体が、呪力量に応じた“最適な一太刀”で卸される。

 雷が逆流し、空が悲鳴を上げる。

 

 雷の呪霊は、後退する。

 まだ死なない。

 特級同士の戦いは、まだ終わらない。

 

 宿儺は、笑っていた。

 雷の呪霊も、笑っていた。

 

 「──面白い。ならば、次は領域だ」

 

 雷が空を裂く。

 呪霊は、掌印を結んだ。

 

 ──金剛夜叉印。

 その印は、密教の忿怒尊・金剛夜叉明王の象徴。

 破壊と怒り、雷と裁きの化身。

 呪霊の背後に、雷を纏った四面八臂の幻影が立ち上がる。

 

 『領域展開──雷哭轟雷界』

 

 空間が閉じる。

 雷雲が天井となり、地面には雷紋が刻まれる。

 必中の雷が、空間全体を支配する。

 

 宿儺もまた、掌印を結ぶ。

 

 ──閻魔天印

 閻魔天の裁きの印。

 頭骨で象られた寺院が地面からせり上がる。

 

 『領域展開──伏魔御厨子』

 

 空間が閉じる。

 不可視の斬撃が、堂の周囲に満ちていく。

 

 ──領域の押し合いが始まった。

 

 だが、決着は──一瞬だった。

 

 宿儺は、指一本分の力しかなかった。

 全盛期には程遠い。

 肉体も、呪力も、術式も、完全ではない。

 

 それでも──雷の呪霊は、すでに限界だった。

 

 三発の黒閃。

 それが、呪霊の核を揺らしていた。

 雷の軌道が乱れ、呪力の流れが滞る。

 さらに、領域も先ほど展開したばかりだったのだ。

 

 宿儺の領域が、雷哭轟雷界を飲み込む。

 不可視の斬撃が、雷の結界を削り、呪霊の肉体を断つ。

 

 雷の呪霊は、声を上げる間もなく──切り刻まれ、消えていった。

 空が沈黙する。

 雷雲が霧散する。

 

 宿儺は、動かない。

 

 「終わったか。まぁ寝起きの闘いにしては、楽しめた」

 

 そう言い、掌印を解いた宿儺は、周囲を見渡しながら言い放つ。

 

 「どうせ、見ているのだろう?──羂索!」

 「次はまともな器を見つけておけ」

 

 その言葉を最後に、宿儺の体は消失した。

 残されたのは、雷に焼かれ、斬撃に刻まれた大地。

 そして──その上に、ぽつんと転がる一本の指だけだった。

 

 ***

 

side : 闘いの見学者

 

 額に縫い目のある女は、指を回収しながら、呟いた。

 

 「器に関しては、既に作ってあるから、安心してくれ。──まぁ、聞こえてはいないだろうけど」

 

 指先に視線を落としながら、女はふと何かを思い出したように言葉を継ぐ。

 

 「それにしても、分身体が呪物を──しかも宿儺の指という特級を取り込めたのは予想外だった」

 

 女は、指を軽く転がす。静かに考察を始めた。

 

 「通常、呪物の取り込みを行うことは、呪術師ならば可能だ。呪いへの耐性があるからだ。場合によっては、一般人でも取り込むことはできる。しかし、宿儺の指は呪いが強すぎて耐えられないはずだ。」

 

 「それでも、取り込めた。──なぜか?」

 

 女の声は、静かに熱を帯びていく。

 

 「仮説は三つ。ひとつは、魂の持たない分身体にうまく宿儺の魂が適合した可能性。魂や肉体からの拒絶が小さい分、乗り移るのが容易だったのかもしれない」

 

 「二つ目は、偶然にも宿儺の器としての適正を持っていたこと。だが、これは否定的だ。指を食べた直後に拒絶反応が出ていたし、意識も完全に乗っ取られていた。適正があるなら、もう少し“共存”できたはずだ」

 

 「三つ目は──宿儺自身の意思。あの男なら、分身体を“遊び場”として使うくらいの技術はある。指一本分の力で、あれだけの戦闘をこなしたんだ。……まったく、化け物だね」

 

 女は、指を懐にしまいながら、さらに続ける。

 

 「それにしても、呪霊と同様に呪力で構成された肉体。魂のない器。……ふふ、面白くなってきた」

 

 女は、空を見上げる。

 

 「宿儺。次は、もっと楽しめる舞台を用意しておくよ。君が退屈しないようにね」

 

 風が吹く。

 雷の残滓が、空に消えていく。

 女は、笑っていた。

 

 ***

 

side : 本体

 

 分身が次々にやられていくのを感じて、「あー、これはもうダメかな」と思っていた。

 でも──最後に残っていた分身との呪力のパスが、突然切れた。

 

 呪力が戻ってこない。経験値も受け取れていない。

 だから、まだ“完全にやられた”わけじゃないとは思うけど……それにしても、なぜ呪力の受け渡しができなくなった?

 

 そんな疑問を抱いていたら──

 やばい経験が、フィードバックしてきやがった。

 

 宿儺の指の“味”から始まり、宿儺の“思考回路”まで、何もかもが頭に流れ込んできた。

 他者の思考が脳内に侵入してくる感覚。

 

 ──地獄だった。頭が割れそうになった。

 

 でも、利点もあった。三つも。

 

 一つ。反転術式の使い方──というか、実際に使った“経験”そのもの。

 二つ。領域展開の構築法──術式の理論じゃなくて、感覚としての“手順”。

 そして三つめ。宿儺の神業級の呪力操作──あれはもう、芸術だった。

 

 ……あの指。

 どうせ羂索の仕込みだろうけど、分身が散々な目に遭ったとはいえ、拾っておいて正解だった。

 おかげで、僕は──もっと強くなれる。

 

 

 ……指を預けていた分身には、謝っとく。

 ごめん。

 

 謝るから、祟らないでくれ。




呪術の主人公は、指を食べるという伝統があるのです!!

という冗談はさておき、後々原作主人公と指の味で会話させたい。

オリ主「宿儺の指の味、どう?」
西中の虎「まずい」
オリ主「だよね!!僕も食べたことあったけど、おいしくなかった」
皆「「「え?食べたことあるの!?」」」

こんな感じの会話を書きたい。
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