〈Infinite Dendrogram〉を始めてリアルで四日が経過し始めての休みだ。
今までは平日で仕事もあるので一日に二時間から三時間、ゲーム内で六時間から九時間程遊んでいた。
仕事の間にネットを彷徨い情報収集をしたり、ゲーム内では【リトルゴブリン】の素材を求めて彷徨ったり、少数ながらも俺より後に初めた人やイースター平原でレベル上げしている人とパーティーを組んだりもした。
他のマスターとパーティーを組むのに黒曜の存在はとても役に立った。モフモフは正義。
イースター平原に出てくるモンスターはレベルが低く貰える経験値も少ないのもあって、レベルはまだ十五とそこまで上がっていない。
《蠱毒生成》に必要な素材については結構な数が集まっている。
【リトルゴブリン】の素材は腕とか足とか頭等が合わせて三百程に【パシラビット】は百程集まっている。
【リトルゴブリン】のドロップアイテムは素材以外にも腰ミノとか棍棒とかのアイテムもあったので狩った数は五百を越えているかも知れない。
後、休憩を兼ねて門の所で【リトルゴブリン】に限りドロップアイテムの買い取りをした。
捨て値位にしかならない素材なのもあって、結構買い取り出来た物の中には全身遺骸なるレアドロップもあった。それを売ってくれた人は何故か犬のキグルミを着ていたが。
まぁそれは置いといて、今日は実際に《蠱毒生成》を使うのだが、一緒に戦ってくれるマスターがいるので今待ち合わせ途中だ。
「あら、待たせたかしら?」
そうして十分程待っただろうか、一人の女性に声を掛けられた。
「いや、ほとんど待ってないよエリザさん」
現れた女性は身長160cm程で金髪のツインテールと赤い目が特徴的で革鎧を着ている。
「そう? なら良かった。
それとゲームなんだから、さん付けしなくてもいいのよ?」
「ゲームだからこそ最低限の礼儀は必要だけど、エリザが言うならそうさせてもらおうかな」
「そ、それで何だけど……」
「ん? ああ、じゃあ呼び出そうかな《
少しソワソワした彼女の様子に、何を求めているのかを察した俺は右手のジュエルから黒曜を呼び出した。
そう! 彼女は根っからのモフリストなのだ!
第二陣であるらしい彼女は初対面の時も黒曜を触らせてもらえないかと声を掛けてきて思う存分モフモフしていた。
黒曜が嫌がっていないようなので満足するまでモフった後は一緒にレベル上げをして、今日この時間が空いているということでレベル上げや《蠱毒生成》に付き合ってくれることになった。
「じゃあ、そろそろ出発しようか?」
「ええ……そうね、移動しましょうか」
十分程触れ合っていたので移動を促したら、とてつもなく未練たらたらではあったが了承してくれた。いや、どんだけ好きやねん。
もしかしたらリアルでは動物アレルギーなのかも知れないが、流石にリアルを詮索するのはNGなので聞かないが。
《蠱毒生成》はある程度アルテアから離れた場所で行うつもりだ。
《蠱毒生成》で産み出されたモンスターをテイムする為に壺の中に入って戦ったりした際に、仮にもし俺が死亡した場合は産み出されたモンスターは開放されて野生のモンスターになってしまう。
街中で開放され万が一にでもティアンに被害が出たら、俺は指名手配犯になってしまう。
ティアンはデンドロでのNPCのことだ。
指名手配犯とはティアンからマスターに対する対抗措置の様なもので、意図的にティアンに被害を与えるとその国からの犯罪者として認定されて、その状態で死亡すると次からログインした時に監獄と呼ばれる専用の隔離エリアに飛ばされるそうだ。
既に送られているマスターが少数いるようで、多少であるが情報が出回っている。
仮に《蠱毒生成》で滅茶苦茶強いモンスターが生まれてテイムに失敗して開放された場合に、直ぐに被害が出ない様にするためにも離れておく必要があるだろう。
まぁ、先ずは弱いモンスターである【リトルゴブリン】の素材かつHPとMPとSPを最低限の量で試すつもりなので、そこまで問題はないと思うが。
道中のモンスターは数が多い時は別だが、一、二体位ならエリザが率先して一人で戦っている。
別に彼女にモンスターを押し付けているのではなく、彼女自身の要望だ。
詳細は省くが、彼女のエンブリオの能力でスキルを発動する為のコストを貯める為に積極的に戦っている。
彼女の戦いは安定している。
【
素人目に見ても槍捌きが堂に入っているように見えるのは【槍士】のセンススキルである《槍術》の効果だろう。
センススキルとは特定の動きをする際にアシストしてくれるスキルだ。
彼女の使う《槍術》だと槍を装備している状態で戦闘をすればその動きをアシストしてくれるというものだ。
《槍術》は【槍士】等の特定のジョブに就くか、戦闘系のジョブに就いた状態で槍を装備して戦闘をこなしていくと習得できる。因みに俺も槍を使っているがこれまでの戦闘で《槍術》じゃなくて《棒術》を習得したけどな、ワハハ、ワロス。
そうして休憩を挟みつつ三時間程移動して、王都からそこそこ離れた良い感じの空き地を見つけたのでそこでスキルを使うことにする。
「地味な壺ね」
「ストレートに言われるとちょっと傷つく」
左手の紋章から出したエンブリオを見てエリザは地味と言った。
巷ではエンブリオはプレイヤーの内面を表しているからエンブリオから性格が判るのではないかと言われているので地味なエンブリオの俺は地味な奴と言われているようで何か嫌だな。
「あはは、ごめんごめん悪気はなかったんです」
「まぁ、地味なのは確かだけどな。それにまだ第一形態だし」
エンブリオは進化する。
ゲームを始めた時の卵の状態の第零形態から孵化した第一形態になり、そこから個人差は有るもののゲームをやっていけば第二、第三と進化していく。
どこまで進化するのかはまだ不明であるが、俺のエンブリオも進化すれば見た目を良くなると思いたい。
そう、黄金に輝くような至高の壺を……いや、流石に成金みたいな見た目の壺で蠱毒するはちょっと違うか。
「確かに私のエンブリオも見た目は悪くないけど、もうちょい装飾とか欲しいわね、早く進化しないかしら。
それで貴方の準備は出来たのかしら?」
「んー、もう少し……出来た」
《蠱毒生成》を使う為にはスキルを行使する前に、《素材を入れる壺》に入っているモンスター素材を一〇〇個と《呪力を貯める壺》に貯めたHPとMPとSPを最低一〇〇〇から任意の量投入することで発動出来る。
今回は初めてだから実験と今後の指標にするべくHPとMPとSPは最低限の一〇〇〇で、モンスター素材は【リトルゴブリン】の素材だけを使うことにする。
実際にスキルを使うのは初めてたが非常にワクワクする。
「《蠱毒生成》」
素材を選択し終わりスキルを発動する。
スキル名を声にした直後に一瞬だけ光ったように見えたが、直ぐに消えてそのまま沈黙している。
「えっ地味、これだけ? 流石に地味過ぎない?」
「おい、あんま地味地味言うな。傷つくだろ」
とは言え流石にこれで終わりって事はないだろうと、メニュー画面からエンブリオの状況を見ると蠱毒中との表示が出ており一応は、スキルがちゃんと発動していることは確認出来た。
それからエンブリオである壺を調べると最初に出した時は真っ暗だ中身の見えかった壺が見えるようになっていた。
「いや、エグいな」
その壺の中では投入した素材をベースにしたであろうリトルゴブリンの様なモンスター達が殺し合いをしていた。
リトルゴブリンの様なと付けたのに理由があり、殺し合いをしているモンスター達はパッと見だけは、リトルゴブリンではあるのだが、皆一様に痩せ細っており個体によっては腕や足だけは普通と同じで他は細いといった状態だ。
「うわぁ、確かにこれはちょっと子供には見せられないわね」
お世辞にも見た目が良いとは言えないゴブリンが、更に不恰好な状態で見境なく殺し合いをする様はとてもじゃないが子供の教育によろしくないだろう。
右腕だけが通常サイズのリトルゴブリンが、ヒョロヒョロのリトルゴブリンを殴り殺したと思ったら、左足だけ通常の個体が飛び蹴りをしてそこを更に別の個体が襲う様な状態である。
不恰好な【リトルゴブリン】達は一様に目がギラついており、兎に角目の前の相手を殺さなければならないといった強迫観念に囚われれいる様にも見える。
それはまさしく蠱毒の様だ。
「ねぇ、ライト。何か悩みがあるなら聞くわよ」
「ええい! 哀れむな! 俺は至って正常だ!」
「でも異常者は皆、自分は正常と言い張るわ」
「だから! 俺を異常者扱いするな!」
「ぷ、あはははは」
「はぁ、疲れる」
関係無いところで無駄に疲れつつ、壺の中で行われている蠱毒を見守る。
うーん、蠱毒を見守るって字面が完全に悪役のそれだな、ここは高笑いでもするべきか? クハハハハハハハハ!
そうして蠱毒を見守っていると、あることに気づいた。
「こいつら、体格良くなってない?」
「んー? なってる?」
残りの数が三分の一になって気づいたのだがモンスターの体格が良くなっている気がする。
とはいえ、超ガリガリがガリガリになった程度なのでよく見れば変わったかな? 位ではあるが変わっている。
これは全部ゴブリンではなく違うモンスターも居れば違いも分かりやすくなるかもしれないが、それは今後回数を増やして検証していくしかないだろう。
「あー、確かにこれくらい変わると流石に変化に気づけますね」
「だろ」
特に見どころもなく不格好なリトルゴブリン擬きの泥臭い殺し合いは続き、残りが十匹を下回る頃にはリトルゴブリンと変わらない姿になっていた。
体格が良くなるに伴いステータスも上がっているのか動きも良くなっているようには見えるが、それでも【リトルゴブリン】の域は出ていない様に見える。
強力なモンスターを造る時は、相手のステータスが解る《看破》のスキルがあった方が良いかもしれないな。
「おっ、決着着きましたね」
そう考えていたら最後の一匹になり蠱毒は終わったようだ。
「んー、更にちょっと筋肉増えた?」
「少しだけ盛り上がった気がする」
最後の一匹になった後にリトルゴブリン擬きの体が一回り盛り上がった気がする。
まぁ、今回はお試しでそこまで強いモンスターにはならないだろう。
「それじゃ、一丁やりますか」
そうして俺はパーティーメンバーであるエリザと黒曜と共にエンブリオの中に入って行ったのだが。
「弱いわね」
結果はほぼ瞬殺に近い形になった。
薄暗い壺の中に降り立った後、生き残ったリトルゴブリン擬きの頭上には【リトルゴブリン・蠱毒種】の文字が表示されていた。
俺たちに気づいた【リトルゴブリン・蠱毒種】は直ぐにこちらに襲い掛かるが、黒曜が体当りでカウンターを決めて倒れた所にそのままエリザが槍で串刺しにした。
一応まだ死んではいないが、それも時間の問題だろう。
と言うか俺は見ているだけだったな。
「元が【リトルゴブリン】だからそこまで強くないとは思っていたけど、どんな感じだった?」
「感触としては普通の【リトルゴブリン】よりは強いと思うけど、誤差の範囲じゃないかしら?
イースター平原に出る個体よりは強いでしょうけど、戦闘職でレベルが十もあれば負けないと思うわ。
あ、これはこのままだと死ぬけどどうする?」
「そのまま殺していいよ。
今回は取り敢えずスキルの性能を見る為に最低限でしてるのもあるけど、レベルが一とは言え仲間にするなら、もう少し強い方が良いし、ここで仲間にせずに倒した場合どうなるかも知りたいから、ひと思いにやっちゃって」
「わかったわ」
そう言ってエリザは串刺しにしている槍を捻り、抉ると【リトルゴブリン・蠱毒種】は悲鳴を上げてそのまま消えた。
仕様かどうかはわからないがドロップアイテムはないようだ。
「あ、レベルアップしたわ」
「マジで?」
そしてエリザが予想外のレベルアップを果たした。