アリウスと原罪   作:パエリアさん

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小説楽し〜。比喩考えるのが一番楽しいわ、この小説っていうゲーム。
今回は短めです。3日連続投稿だから許して…






第13話 悲しむ者は、幸いである

私…白州アズサは、誰にも言えない考え事を、誰もいない、ただただ埃のみが充満する部屋の中でしていた。息が詰まる。それは、埃だけが原因ではない。私は嫌でも知っていた。

 

「…試験には全員合格した。聖園ミカも牢獄に入れた。エデン条約の調印に、不安な要素ももうない」

 

唯一あるとしたら…アリウスの皆が心残りだな…。サオリ、ミサキ、ヒヨリ、アツコ…皆、どうしているのだろうか…。もしかしたら…嫌なことが、脳をよぎって、また現れる。

 

でも…『()()』はなんなんだ?体育館での戦闘時に現れた、血まみれで、片腕がなくて、片足がえぐられたように欠損していて…目が、深紅の狂気に染まっていて。

 

いや、分かる、私は、『()()』が何なのか分かる。でも、認めたくない。信じたくない。でも、認めなきゃいけない。

 

葛藤が、脳で響く。それは痛みであった。だけど、その鎮静剤は探せども、探せども、見つけることはできないし、創薬も、調薬もできそうになかった。

 

「ハジメ…」

 

()()』は…ハジメだ。思えば、見間違えるはずがない。黒い髪、私より高い背丈、…あの、黄金に輝いているペンダント。

 

現実が滝のように私を叩く。滝行だというのに、心は負の念で覆われ、充満していた。

 

「どうして…どうして…」

 

でも、その姿は私が知ってるハジメじゃなかった。いつもポカポカしてて、皆が大好きで、いつも頑張る努力家な…そんなハジメでは…。

 

到底、そんなことを信じることはできなかった。あれがハジメであるということを。

 

まるで、魂が抜け落ちたような、誰かに奪われたような、…悪魔のような。そんな雰囲気を醸し出していた。

 

その目は見たことがなかった。アリウスでは虚無や悲しみはあったが、あんな…怒り、いや…嫉妬?のような目は見たことがなかった。

 

そして…あの怪我…ヘイローが無いハジメが、あの戦闘に参加したら、ああなるのは当然だ。呼吸を我慢したら苦しくなるぐらい、当たり前の事で、必然なことだ…。

 

だからって、ハジメが悪いのか?いや、そんなわけはない。きっと、やらなきゃいけなくなったんだろう。何かの使命のために、何かの目的のために…。

 

そして…ハジメに気づかず、ハジメに怪我をさせたのは…ハジメをあんなのにした原因は…私だ。

 

「うぐっ…うっぷ」

 

その残酷なまでに立ちはだかる事実に、私は耐えきれず胃から酸っぱいものが込み上げる。

 

私は、その吐瀉物を今にでも泣き出したい衝動とともに身体に抑え込む。罪を吐き出すことは、さらなる痛みを生むことを分かっていたから。

 

「ごめん…ごめん…ごめんなさい…ハジメ…」

 

私はただ、ペンダントを握りながら、懺悔することしかできなかった。それをしていても、心が軽くなったり、赦されたりすることは、けっしてなかった。

 

「………アズサちゃん……」

 

 

 

2つの力無い声が、今日のトリニティで、小鳥が囀るように、ひっそりと、ひっそりと、しかし確かにキヴォトスを揺らしていた。

 

____________________________________________________

 

俺は今、アリウスの病院…って言ってもいいのかわからないけど、とにかくベッドに横になってる。

 

風も、光も、何も通していない、寂しい部屋だ。監獄とも捉えられてもよいだろう。

 

ここについたときに気づいたんだが、()()()()()()()()()んだな、俺。普通だったら即死レベルの怪我だったらしい。なんで生きているんだろう?

 

…偽善でしか物事を語れない俺に…生きている意味は、あるのか?

 

コンコン

 

「はい、どうぞ」

 

そんな、自分でも自覚してしまうほどに、あんまりにも悲観的な疑問を持っていると、部屋の扉が叩かれた。…俺にお見舞いなんてするやついるのか?

 

ガチャ

 

扉が開かれる、そうすると、そこにいたのは今とても忙しいハズのサオリだった。

 

その姿は憔悴しているような、衰弱しているような、いつもとは違う、頼りない風貌だった。しかし、それは皮で覆われたサオリではなく、本来のサオリであった。

 

久しぶりに見た、サオリの『素』それは眩しくて、煌めいて、揺らめいていて、俺なんかが見れば溶けてしまいそうであった。

 

「…!ハジ…メ」

 

包帯でぐるぐる巻きになっている俺を見て、サオリは言葉を失いながら立ち尽くしていた。

 

「ああ…サオリ。大丈夫なのか?ここにきて?忙しいんだろ?」

 

俺がサオリを案じると、サオリが早歩きでこっちに近づいてきた。その目は、こちらをじっと睨んでいた。

 

 

 

ガバッ

 

 

服と服が擦れ合い、静止する音が聞こえた。

 

「…なんで…こんなことをしたんだ!?」

 

俺を抱擁しながら、心配と、怒気を孕ませた声でそう言った。

 

「なんで…なんでなんだ…なんで戦場へ行ったんだ!あんなに止めたのに!みんなで!あんなに!」

 

声を震わせながら、サオリは俺のことを叱った。好きな本をなくしてしまった子供のように、意味もなく声を荒げていた。

 

「…どうしようもなく…やりたかったたんだ。俺は…『特別』に…なりたかったから…」

 

俺は本心を告げる。本当に…特別になれると思ったんだ。戦えば、勝利を持てば…。

 

「ハジメは元から特別だ!だから行ってほしくなかったんだ!どうしてわかってくれないんだ!」

 

珍しく、…いや、俺が知らないだけかも知れないが、とにかく感情に駆られてサオリが言葉を発した。

 

「だから…だから、大丈夫なんだ…。もう、何もしないで…待っててくれ…」

 

肩が濡れている感触がする。しっかりと抱擁されているため、今どんな顔をしているのか分からないけど、少なくとも涙を流しているんだろう。その涙さえ、今は愛おしい。

 

…サオリは俺のことを『特別』だと言ってくれた。でも、違うんだ、それは本当の特別じゃない。他と少し違う、個人差があるだけだ。

 

その『個人差』を、サオリは勘違いしている。

 

サオリは本当の特別…『先生』のような存在を知らないから。俺を『特別』だと錯覚してるんだ。

 

今の皆に必要なのは…俺じゃない。先生なんだ…。

 

劣等感に、現実に、心がえぐられる。俺の存在を否定されている気がして、俺なんか居なくてもいいと言われてる気がして。

 

それを違うと否定する。それは、できるはずがなかった。天国があることを証明することのように、決して不可能なことであった。

 

その事を理解する。それは苦痛であった。刺すようでもなく、しかし殴るような痛みでもなく、何とも言えない苦痛が、俺の心を破り去り、真っ黒に染め上げる。

 

「うあ、ううっ」

 

ボロボロと目から雫が溢れる。涙を流したのはいつぶりだろうか。今まで流さなかった反動か、俺とサオリは、狭い病室の中で、共に涙を流し続けた。

 

サオリと、俺。お互いに溶け合い、調和しようと混ざり合う。俺とサオリは一体となった気がした…それであっても、钠*1と水のように、溶け合ったら、毒を発していた。

 

____________________________________________________

 

暗い部屋、モニターだけが唯一の照明である部屋で、黒服は赤黒い液体で汚らしく穢れている男を観察していた。

 

「ふむ…やはりヘイローがないと、銃弾には耐えられませんよね。それにあの重症度合い…もう長くはないでしょう」

 

淡々とつぶやく黒い異形。そして、もう一つの異形が話す。

 

「つまり…そなたの願いには沿えなかったということか?」

 

そうだ、と肯定するために口を動かそうとすると、モニターの様子が変わる。赤から、朱へ。朱から、蒼へ。地から、海へ。

 

『うぐぅぅぅ…アアアアッ!』

 

モニターの中の存在は、突如として叫び、胸を激しく上下させる。それは確実な異常であった。研究者たちは、心が沸き上がり、今にも踊りだしそうな、歌い出しそうな、そんなのであった。

 

それと同時に、何かエネルギーのようなものが少年の体を包む。

 

「こ、これは?!」

 

異様な光景に、思わず席を立った木人形ことマエストロ。ギシギシと、木が擦れる音がする。

 

達観したような表情が、一瞬にして驚愕によって取って代わられた。

 

「…神秘でもなければ、恐怖でも…なんでしょうか?この力は?」

 

モニターには、異様な速度で身体を再生させていく少年が映っている。その目は、狂気に染まっていた。

 

「色彩の力も感じられない…これは何の現象なのだ…?」

 

信じられないものをみるような目でモニターを見つめるマエストロ。黒服もまた、打ち付けられたかのようにモニターから目を離さない。

 

「これはこれは…研究しがいがある…」

 

「…芸術には使えないな…。これは、あまりにも下品な…上品さも、敬意もない。とても、とても汚い」

 

反応は両者極端であった。研究者は興味を、芸術家は拒否反応を、それぞれ感じていた。それは立場が違う故、必然的でもある。

 

「うーむ…名付けるなら…『魔力』?とでも呼びますか」

 

「ほう、魔力か。そなたは彼の者を『()()』と呼んだわけだな?ああ、良いセンスだな」

 

口の形はよくわからないが、ニヤリとしているような声色でそう返した。

 

「ええ。神と言ってもいいですが、あの力を奇跡とは、私は言いたくないですねえ。あまりにも穢れているじゃないですか?」

 

「はは、まったくだ」

 

心底楽しそうに未知の力に対する考察を深めている二人。その顔には笑顔が張り付いていた。切って貼ったような、そんな笑顔。

 

普段は全てを知ったように、達観して語る二人に、人類が初めて火を発見した時のような、未知の刺激が迷い込んだ。

 

To be continued

 

*1
ナトリウムの意








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