「ぐっ!」
"ヒナ!無理しないで!"
「大丈夫よ…先生。これまで受けた恩に比べれば、こんな痛み!」
私は今、ヒナに背負われて、廃墟と化したトリニティを進んでいる。とこどころにユスティナ聖徒会がいて、ヒナはそれを蹴散らしながら進んでいる。
…私の安全のために。
とても申し訳ない。私なんかのために、ここまでしてもらっているのが、こんなに怪我を負ってもらっているのが。
だから、皆の想いを無駄にしないため、私は必ず生きて帰らなければいけないんだ。私は、ヒナに背負われたまま、しっかりと前を向いた。
「くそっ!次から次へと!」
ヒナが愛銃、デストロイヤーを整徒会に向ける。黒くきらめく銃身は、今は朱色の赤に染まっていたきがした。
「先生、もう少し耐えて。ここを抜ければ…」
どうやら、もうそろそろ目的地へ着くようだ。とりあえず着いたら現状の確認と、それに対する策の構築を…
そんな後のことを考えていると…
「ヒ、ヒナさん!また会いましたね…」
「っ!性懲りもなく…」
目の前に、
他にも、比較的長身の、機械化されたマスクを身につけるアリウス生が姿を現せる。それは、おそろいのペンダントをかけていた。
…そのペンダント。まさか。
「アリウススクワッド…行くぞ」
黒と藍の髪をたなびかせる生徒がそう言った。それと同時に、ユスティナ聖徒会と、さらに2人のアリウスの生徒が現れた。それらも、ペンダントをかけている。
「ッ!先生!指揮を!」
ヒナの一声で、戦いの火蓋が切られた。アリウスの集団とは距離をとり、デストロイヤーを惜しげなく乱射する。
やはりヒナは強い。敵も想定外だったのか、苦悶の表情を浮かべている。
それによって、ユスティナ聖徒会はかなり潰された。さらに、アリウスの子たちもダメージをくらっている。このまま押し切れれば…。
「…今だ、ヒヨリ」
ドガンッ
異質な銃声が一発、もう誰もいない廃墟に飛び散る。その弾丸は残酷にも、ヒナの頭に直撃した。
"ヒナっ!"
私の判断ミスだ。大量にいるユスティナ生徒会によって、敵のスナイパーが隠れていた。それに気づけなかった。
「よし、一斉放射!」
体制を崩したヒナに対して、容赦ない攻撃がくる。普段のヒナだったら耐えられたかもしれないが、今は私を守っていて、さらに疲労困憊の状態。よって…
「はあ…はあ…」
…立てなくなるほどのダメージをくらっていた。いたるところから出血し、普段は仏頂面のヒナも、顔が歪んでいる。
「…まだ、まだだ!」
もう立てないはずなのに、もう意識を保つのもやっとなはずなのに、ヒナはただ、『私』のためだけに敵に立ちはだかる。
…なんてことだ。生徒を守る立場の私が、生徒に庇われ、さらに怪我をさせている。
そんな残酷な事実に、自信をなくす。自分が今までやってきたことは正しかったのか?生徒のためになっていたのか?そんな疑問が浮かぶ。
弱音を吐いた。先生になって初めてのことだ。心は逃げたいと叫んでいる。しかし、私はここで責任を投げ出すことはできない。私は、『大人』だから。『大人』は、逃げてはならないから。
自分を鼓舞し、目の前の状況をどうにかするため、辺りを見回す。…あれは、あの血まみれの少年は…?
「…妬ましい」
ぞっとするような冷たい声で、目の前の少年はそう言った。その言の葉は、心からであった。
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「ぐあ…この、…悪魔…が」
古聖堂だったものの残骸の山に立ちながら、ボロボロで、顔に大きな青痣ができている剣先ツルギを見下ろす。
周りを見ると、いろいろなものが落ちている。正義実現委員会、シスターたち、風紀委員会。全員、俺がやったのか。
長い戦いだった。途中から他のやつも参戦したけど、全員倒した。殴って、蹴って、絞めて。
たくさん撃たれた。たくさん千切られた。たくさん血が出た。たくさん吐いた。
あの時は衝動に身を任せていたから。あんまり気にしてなかったけど、全身が悲鳴を上げている。
「…先生……。どうか、ご無事で…」
最後に、そんな祈りを捧げながら、剣先ツルギのヘイローは消えた。…まだ死んではいないのか、あんなに殴ったのに。
殺すか?…いや、別に俺はこいつを殺したいわけじゃない。殺したくもない奴を殺すのは、普通じゃない事で、俺は『
俺が殺したいのは…先生だ。先生だけなんだ。
思えば、さっき戦ったやつは、皆地にひれ伏している。それなのに、目は希望に満ちていた。
…先生がいるからだ。
先生こそがこいつらの希望であり、
「………妬ましい」
俺は希望にはなれない。救世主にも、メシアにもなれない。俺は普通だから、それは、変えることはできないから。
そんなこと、認められない。そんなの、信じたくない。信じたら、俺がいる意味がない気がして。
「殺す…殺してやる。必ず」
だから…俺は俺のために、使命を遂行するんだ。自己中心的だって?…それが、そうなることこそ、人間というものだろう?
ドルルルル
銃声だ。きっと、そこにあいつがいるはずだ。これは…空崎ヒナか。
俺は、忘れかけていた激情を思い出して、自分の欲望に従うまま、銃声の下へと駆け出した。そして、俺は知っていた。それが、どれほど愚かであるかを。
…………
………………
………………………
「着いた」
あれは…アリウススクワッドたちか。が先生と風紀委員長の前に立っている。
風紀委員長はもうボロボロだ。勝負は決まったようなものだろう。もう立つのもやっとなんじゃないか?あの出血量だと。
「まだ…まだだ!」
しかし、最後の力を最大限振り絞って、空崎ヒナは、先生を守るためだけに立ち向かっていた。
これ以上戦えば、自分の安全も保証できないのに、そもそも、戦って勝てるかも分からない。それなのに、なぜ?
ああ…分かりたくないけど、分かる。きっと、先生がとても大切なんだろう。特別で、強くて、何でもできる。そんな先生が。
「…妬ましい」
嫉妬の念に心を任せて、俺はあの二人の前に姿を見せた。
「ハ…ハジメ!?」
ん?ああ…サオリか
「ハジメ…なんで…そ、そんな怪我……」
ショックを受けたみたいな顔で、ただ俺を見ている。…何故?
「…ハジメ。早く帰って。帰ったら説教だから」
ミサキにはちょっと怒られた。でも、帰ることはできない。
俺は、先生に向かって歩みを進めた。
「ハジメさん…?ちょっと!ハジメさん!?危ないですよ!?」
ヒヨリが止める。肩をつかまれる。振り払う。
「…!?力…強っ?!」
歩く、歩く、歩く。
「止まれっ!」
空崎ヒナに銃口を向けられる。ああ…その覚悟が決まった目。本当に憎たらしい。
増幅した憎悪のまま、脚に力を込めた。
「くっ!」
響く轟音。走る閃光。無数の弾丸。全てに殺意がこもっていた。その殺意が、車よりも、家よりも思い思いが、俺に向かって注がれた。
「「「ハジメッ(さん)!!」」」
さける筋肉、飛び散る血、折れる骨。それでも、痛みに耐えて歩き続ける。
足を撃たれる。転ぶ。同時に、顔に弾がやってくる。視界が暗転する。最後に見たのは、滝のように降り注ぐ赤い雨であった。
…体が動かない。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
苦しい。虚しい。
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「……は?」
ふざけたように腑抜けた声で、目の前にいる、私達の家族を殺した、そんな女が言った。
ハジメの優しい顔は赤い肉塊と化し、男特有のゴツゴツして、大きい手はバラバラになって転がっている。
脳が理解を拒む。反射的に目を擦ってしまう。それでも、何も変わらなかった。
「ハ…ジ…メ?」
ああ、世界はなんて残酷なんだろう?一番守りたかったものが、こんなところで…。
ドサッ
「嘘だ…嘘だ嘘だ!!」
膝から崩れ落ちたミサキは、現実を見えないように、手で顔を覆って、否定の言葉を叫んだ。
珍しく声を荒らげている。なまじ現実主義者だから、目の前のことが冷静に分析できてしまってるんだろう。だから、見ないことでしか、逃避はできない。
「……?……何…やってるんです?」
ヒヨリは、ただただハジメだったものを眺めている。他人事のように、これ以上傷つかないように、ヒヨリの心は、本能的に逃避行動をとっていた。
「……………、…」
アツコは…地面に這いつくばって、ひたすらにあの肉塊の方向を向いている。マスクをしているから、表情は読めないが、少なくとも、大丈夫ではないことは確かだった。
各員が、親に甘えきった赤ん坊が突如一人にされたように、何も考えられないでいた。
「な……何が、何が起こって…」
そして…それは、私も同じだ。
「お前は…何を…言っているんだ?」
ああ、『こんなはずじゃなかった』『知らなかった』とでも言いたそうだな。空崎ヒナ。
…ああ、実際知らなかったんだろう。キヴォトスでは銃弾じゃ傷一つつかないのが普通だったから。
だから、これは必然だったんだろう。ハジメがここに来た以上。しょうがないことだったんだ。だけど…
「空崎……ヒナァァァ!!」
それはそれで…これは、これだから…。空崎ヒナ…お前を、殺す。
私は、そう叫び、ヤツに銃口を向ける。たとえこの体がなくなろうとも、必ず復讐を果たす。そんな固い思いを抱いて。
黒い、暗い、そんな思いで。
ああ、神よ。願わくば、彼に永遠の安寧を…私は、どうなっても、かまいませんから………。
でも、その決意はある一声ですぐになくなった。
「…先生………」
「ハジメ…?」
なんと、ハジメの声が聞こえた。声の主を確認するため、私達は銃口を下ろし、その方向を向いた。
「なっ…」
そこにいたのは、確かにハジメだった。だけど、理解したくない。
ミチミチと音を立てながら元通りになっていく脳みそ。血を噴き出しながら、再生する手足。
そこにいたのは、『化け物』でしか表せない存在だった。
「殺す…殺す殺す!!」
アレは、ボロボロながらも立ち上がった。だか、明らかに異常だ。…憎悪か、それとも殺意か、そんなものに呑まれた目をしていた。
「……はっ!」
ずっと腑抜けた顔だったヤツが、現状を把握したのか、即座に銃に手を伸ばす。
「…させない!」
ミサキがそれを察知し、空崎ヒナに向かってロケットランチャーを放つ。
「うわっ!」
空崎ヒナが吹き飛ぶ。銃とヤツが離れた。もうハジメを撃つ方法はない。私はとても安心した。もう、あんなことが起こらないと分かったから。
「…先生…やっと会えたな…」
私は、本来の目的のため、『先生』の前へと立った。キヴォトス唯一の大人の男。そこで俯いているハジメとは同じ性別のはずなのに、全然違う。それは、光と、闇のようであった。
…………
「……つまり、私達アリウススクワッドが、エデン条約機構になったということだ」
何故私達が行動を起こすのか、先生への冥土の土産に説明してやった。…決して、自分に言い聞かせるためではない。
これをしたら、私達が傷付いたら、きっとアリウスが救われるから。だから、私達は望んで傷付くんだ。
「………だが、そのまえに貴様を処理しておくとしようか」
殺す理由も分からないし、こいつがどんな奴なのかも分からない。でも、家族のため、殺さなければならないんだ。
『先生』に銃口を向ける。若干手が震える。今から私は、人の命を奪うんだ。…落ち着け、迷うな。
ドンッ
葛藤の最中にいると、突如後ろから押された。誰だ?…ハジメ?
「妬ましい、妬ましい、妬ましい」
歯を軋ませて、瞳孔を限界まで開く。
「妬ましい…妬ましい。」
拳に力が入っている。掌からは血が流れ出ている。
「…ッ!?」
ぶつぶつと呪詛を唱えながら、『先生』へと近づく。やはり、明らかにおかしい。
その目には、光は灯っていなかった。
先生の目の前で、ハジメは静止した。
"…聞かせて、何が目的なの?"
「口を開くな」
その瞬間、ハジメの拳が先生の顎を貫いた。先生は崩れ落ち、ハジメがマウンティングの姿勢を取った。
ゴシャッ!メギャッ!
嫌な音を立てながら、先生を殴り続ける。ハジメの拳がひしゃげる音がする。先生の体が折れる音がする。
「…!ハジメ!もうやめてくれ!」
たまらずハジメを先生から引き剥がした。いつものハジメじゃない、止めなきゃ、ハジメがどこかに行ってしまう気がして。
ハジメは抵抗した。…今までからは考えられないほどの力だった。
「うぐあああああ!!」
…その咆哮は、まさしく化け物の咆哮だった。何かに執着しているような、そんな化け物の。
………私が、ハジメを理解することは、この先できるのだろうか?
To be continued
ふう…今回は筆が乗ったぜ……。
閲覧いただきありがとうございます!!よければ評価や感想など、ぜひぜひ……。