スズミイイイイイ!!!ほげほげぎえぴああああ!!!
「うあああああ!!」
俺がついに目的を果たさんとする時、大切なものであるはずのサオリに、俺が何故か拘束されていた。
何故?何故?何故?何故?
「ッ!セナッ!こっち!」
鮫肌のような疑問に心を軋ませていると、轟くエンジンの駆動音とともに、真っ白な大型車が現れた。あれは…救急車?
「先生ッ!こちらです!」
中から角つきの白髪の少女が出てくる。まずい、『先生』が連れ去られてしまう。まだ、殺してない。
「待てエエエ!離せ!サオリ!!」
果たすべき使命を果たそうと、目標のために向かおうとするが、サオリが俺のことを離さない。何故?こいつも同じことが使命なはず。理解ができない。反吐が出る。
バタンッ!
白い扉に、目的物は収納された。
救いへの門は閉められた。待て、待て、待て!
そんな俺の思いを踏みにじるように、エンジン音と粉塵を撒き散らして、純白の救急車は残酷にも去っていった。
「な…んで?なんで、何故だ!サオリ!」
俺は激昂をぶつける。もう少しだったのに。1から100を書くテストで、99で止められたような気分だ。
「聞きたいのは私の方だ!落ち着け!ハジメ!お前は、人殺しを喜んでするようなやつじゃなかっただろう?!」
何故かサオリが声を震わせながら叫んだ。…確かに、昔はそうだったのかもしれない。普通だったから、人殺しなんか考えたこともなかった。それは、異端だと教わったから。
「………(そうだよ、ハジメ。何が、あったの?)」
アツコが手話で伝えてくる。そういえば、マダムがコイツは使命のために必要だとか言ってたな。…こいつも、特別なのか。どいつも、こいつも。ここのやつらは。
「ただ…俺は…殺したかったんだ。先生を」
正直に伝える。コイツラとは、本音でぶつかってみたかったから。それが、俺に残った最後の理性のような気がした。
「どうしようもなく…憎かったんだ。『特別』な先生が」
そうだ、だから、殺したいんだ。
俺は、理由を再確認できた。心の黒い炭が、確かに固まった。
「…そんなの、そんなのハジメさんじゃありません!」
「心外だな、ヒヨリ?俺は、いつまでも、どこまでいっても、『俺』なんだ」
「違います!ハジメさんは…優しくて、かっこよくて、ご飯がおいしくて…そんな、特別な人だったはずです!」
ヒヨリが力いっぱいにそう言った。…『特別』、か。何て甘美な言葉なんだろう。なんて素敵な言葉なんだろう。しかし、それは俺には似合わない。けど、たとえ豚に真珠だったとしても、俺はどうしようもなくそれをとりたかったんだ。
「…それは違ったんだ。俺は、どうしようもなく普通だったんだよ。何もできないし、でも何もしないこともできない。そんな愚かな人間だったんだ…」
刹那、沈黙が辺りに宿る。俺の言葉に、スクワッド達は絶句していた。
「そんなことない!」
一種の沈黙を破ろうと、反論しようとするヒヨリより先に、遠くから知っている声が響いた。
「…まさか、ここで出てくるとは」
「アズサ…」
アズサ…そうだ、こいつも、『特別』だったな。自分がやりたいことを、自分で実行できる。そんなヤツだった。
「ハジメ…なんで…なんでこんなことをしてるんだ!誰に…誰に唆された!」
…心配、してくれてるのか?アズサ?…こいつも、変わらないな。ずっと。
どこまでも優しくて、どこまでも慈悲深くて、ずっと、ずっと『特別』で。
「さっきも言っただろ?俺がやりたいからやってるだけだ」
現実を受け止めきれないような顔で、アズサは俺のことをジッと見つめてきている。それすらも、今は妬ましい。
「…口を割らないなら、無理やりでも割らせてやる!」
アズサはそう言うと、勢いよく俺の下へ向かってきた。
ドンッ
乾いた音。それは硝煙とともに吐き出された。
「な…サオリ…」
そんなアズサを、サオリが撃つ。哀れなようなものを観るような目で、それを見ていた。
「今はな…やらなきゃいけないことがあるんだ、アズサ」
サオリが諭すように言う。その言葉は複雑だった。疑問が疑問を呼び、わけがわからなくなったようであった。
「…全て虚しいんだ。白州アズサ。どうして、それが分からない。先生のように、何が積み重なっても、全ては虚しい」
「……サオリイイイ!」
「まだ、そんな甘い夢をみているのか。私が覚まさせてやる」
「…来い」
サオリとアズサの戦闘が始まった。それは一方的になるだろう。なぜなら、アズサの師はサオリだから。
そんな予測をしながら戦況を見守っていると、不意に声をかけられた。
「…ハジメ、これなら答えてくれるよね?…なんで、あんな能力があるの?」
戦闘はサオリと他のメンバーで大丈夫と判断したのだろう。ミサキのみが俺の下へやってきた。
少し心配するような声色で尋ねられた。確かに、なんでなんだろう?なんでこんなに傷が治るのが早くなったんだろう?気にしてなかったから、分からない。でも…
「俺は、きっとこれは、何かが俺に授けたチャンスなんだと思う。『特別』になるチャンス」
「だから…俺は、この機会を逃したくない。俺は『特別』になりたいから、だから、先生を殺したいんだ」
やっと説明がついた。再確認だけでは不安だったから…。きっと合っているんだろう。結局のところ、俺は我慢することができないんだ。
たかが人殺しごときで、止まれるほど強い人間でもないから。だから俺は、止まらないんだ。
ああ、それすらも自己を否定している。なんて悲観的だろうか、俺の正への道は閉ざされ、負への道のみが暗く輝いていた。
「…あんたはもうとっくに『特別』だよ。だから…戻ってきてよ。お願い……ハジメ…」
泣きそうな声で言った。戻るも何も、俺は俺だ。だから、戻るにも行った場所もないし、戻る場所もない。初めて見る声だ。少しだけ、心が揺れた。
ミサキと話していると、決着がつきそうな雰囲気が出てきている。
「ああああぁぁぁ!!」
的確なヘッドショット…アズサが倒れた。さすがにキツかったか。
「…トリニティでの生活は楽しかったか?アズサ?」
サオリが声を掛ける。試すような、そんな声。
「きっと楽しかっただろう。自分を理解して、受け入れてくれる。そんな日々は」
「…虚しいな」
「思い出せ、お前を理解して受け入れてくれるのは、ここしかない」
きっと、この言葉はサオリなりの慈悲なのだろう。それは、善であるのか、俺には分からない。
「…今のお前に必要なものは、殺意だ。しかし、そんなことができるのか?
「ッッッ!」
アズサはとても驚いた顔で絶句した。バレてないと思ったのだろう。俺も、今初めて知った。
やはり芯が通っている。自分で考えて行動できるんだな、アズサは。それにひきかえ、俺は、言われたことを、やれと言われたことをやることしかできない。
…妬ましい。特別な奴らが。アズサが。先生が。ああ、俺はなんて愚かなんでしょうか、ただただ、嫉妬をまき散らすことしかできない。害獣以下の存在とも、過言ではない気がする。
「…セイアもこの後、すぐに見つけ出す。お前の後始末はこっちがしてやろう」
淡々と低い声でサオリが告げた。その瞬間、何かに気付いたかのように、少し瞳孔を広げた。
「…ぬいぐるみ?」
それは、カバのような、ニワトリのような、なんとも形象しがたい、ポップな人形だった。なんともアズサが好きそうだ。…きっと、トリニティで貰ったんだろう。
それに気づいた瞬間、周囲に熱と煙が広がる。肌が焼けて、灼熱が体全体に広がる。それは爆撃であった。どこかからか来た、砲弾であった。
瞬間、アズサが逃げ出した。まだそんな体力が残っていたのか。
「…思ったより早いな」
見渡すところ、風紀委員とトリニティの軍勢がやってきていた。想像より早かった。
「アズサ…」
サオリはアズサのことを気にかけているようだ。口ではああ言っていたが、やはり同情の念は抜けないんだろう。
他のメンバーもそうだ。やはり、コイツラは優しい。俺より、何倍も、何十倍も。
だから、汚れ仕事は俺がするべきだ。
もう一度、覚悟を固め、体を再生させる。
トリニティと風紀委員を一掃するため、スクワッドとユスティナ聖徒会とともに、戦場へと赴いた。
…冷たく、悲しい風とともに。
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いつもは静かで、穏やかなトリニティの図書館に、切羽詰まった雰囲気が広がる。
浦和ハナコやシスターフッドの幹部がいる中で、監視カメラの映像を観ようと悪戦苦闘している。そして、私、ハナコはそれをしようと努力をしていた。
「先生…」
さっき来た情報によると、先生の容体は重傷で、体中出血していて、命の危険もあり得る状況とのらしい。
「いったい誰が…」
さらに、怪我の仕方が特異で、キヴォトスでは珍しく、打撲の傷らしい。何十もの拳の跡が残っていて、ひどい痣になっているらしい。…憶測でしか語れないことが、私に力不足の現実を告げる。
ああ、なんたる苦痛か。私にもっと力があったら、覚悟があったら、こうはならなかったのかもしれないのに。
「カメラの映像が復旧しました、古聖堂が爆破された時のものです!現在交戦中の、シスターたちの報告と一致します!」
モニターは火に包まれる瓦礫の山を映している。…ユスティナ聖徒会…なぜ、戒律の守護者が…?
「…む?これは…?」
モニターにさらに不思議なものが映る…少年?アリウスの制服を着ている。しかし、目を引くのはそれだけでない。
ボロボロで、血塗れで、正義実現委員会などを素手で蹂躙している。銃弾には耐性がないのか、撃ち抜かれ、血が出て、どこかが欠損する。
しかし、不気味なことに大小関わらずその傷はすぐ治り、攻撃をすぐに行う。
これはまるで…
「…悪魔……」
そうとしか言えなかった。うめき声を上げながら、悲鳴を上げる少女たちを襲っている。それはもう、悪魔としか言えないだろう。
しかし、その目には悲しみがこもっている気がした。葛藤がある気がした。狂気と言われればそこまでだが、とにかく、そんな気がした。
…頑張らないと。
私達の日常は、この出来事をどうするかにかかっている。どれだけ希望がなくても、抗わなければいけない。
それが、私達人間の生き方だから。常に、最善を尽くすのが、私達補習授業部だから。
ある天才は、誰にもその旨を語ることなく、孤独に覚悟を決めた。
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「ハジメ…質問に答えてもらうぞ」
サオリは、低く、怒気を孕ませた声でそう言った。
俺は今、ある廃墟の中で質問という名のほぼ尋問を受けていた。…初めて会った時を思い出すな。思えば、あの時はここまで生きていけると思わなかったな。
「まず…なんでお前はここに来た?待つように、言ったのに…。なにか、理由が…あるのだろう?」
懐かしさに思いを馳せていると、質問がやってきた。先ほどと違い、愛がこもっていた。しかし、尋問であることにはかわりはなかった。それは強制力があった。それは俺の心に襲いかかり、罪悪感という血を見せた。
「さっきも言ったと思うが…だから、先生を殺したかった。それだけだ」
そう言い放った。そうだ、そうでしかない。道理は通らないかもしれないが、それが真であるのだ。
それを言われたサオリは拳を握り、ブルブルと震えている。露出した腹部にはビクビクと血管が脈打っていて、どこか美しささえも感じた。
「……ふざけるのも大概にしろ!!」
サオリが怒号を響かせる。ともに、壁を力いっぱい殴り、穴があいた。なんでえ、ホントのこと言っただけなのに。そんなに怒ることはないだろう。
「嘘を付くな!お前がそんなことできないと分かっている!誰だ!誰に弱みを握られてる!」
…検討違いも甚だしいな。見てて痛々しい。
「アリウスの他の生徒か!?マダムか!?それとも…あの変な異形どもか!?」
胸倉を掴まれ、そう言われる。むんむんと熱気が伝わる。つい、『知らない』と、三回も言いそうになる。しかし、俺はもう固めたんだ、俺は、特別になるんだ。
俺は真実を伝えた。ああ、なんていい気持ちだろう。俺は俺のために真実を使えた。嘘ではない、真実だ。それは俺の成長を確かに表していた。
「いや…だから、弱みも何も、俺の独断だって。話聞け」
面倒くさいな…もう嘘言っちゃおうかな。黒服さんです〜とか。まあ、言うわけないけど。
「ッ!!…言えないこと、なのか?」
その言葉には、力がこもっておらず、弱々しかった。もし言葉に触れられたら、飴細工のように繊細なのだろう。そんな言葉だった。
「そんなに…私達が、信用できないのか…?」
大きく切れ長の、サファイアにも似たその瞳から、大粒の涙をごく静かに流しながら言った。その涙は、プロテア*1のようであった。
「言ってくれたら何でもする。相談してくれたらきっと解決してやるから。……私達は、家族だろう?」
振り絞った声でそう言った。もう、声を出すのもつらそうだ。涙は流され、鼻水も垂れ流しだ。…こんな姿、もうさせたくないな……。
「いや…お前の家族は、スクワッドのメンバーだけだ。俺は…ただの、同級生だ。つまり…俺と、お前は…赤の他人ってことだ」
できるだけ機械的に、淡々と述べる。
…辛い。目の前で泣いている女がいたら、慰めてやるのが男なのだろう。だけれど、俺は変わったから、現実を受け止めさせないと。
もう、あの頃みたいな偽善者には、戻りたくない。
もう、アズサみたいな可哀想な奴を、生み出したくない。
だから、俺は感情を押し殺して、サオリに現実を伝えた。自分のために、サオリのために。
「ッッッッ!!」
バチンッ!
乾いた音が響く。同時に、頬に痺れるような刺激が充満する。
どうやら、ビンタというものをされたらしい。生まれて初めてされた。やった本人であるサオリは、涙を必死にこらえ、こちらを花を見るように深く鑑賞しようと努力しているのが見て取れた。
俺も、泣きそうだった。痛みではない。痛みはもう慣れた。ではなぜか?それが分からない。自分が望んでやったことなのに、予想できたことなのに。
どうして、込み上がって来るものがあるんだろう?
「リーダー!気持ちは分かるけど、落ち着いて!」
二撃目を食らわそうとするサオリを、ミサキが羽交い締めにして止めた。バタバタとサオリは抵抗するが、疲れもあるのか、振りほどけなかった。
「このっ!何で気持ちが分かってくれないんだ!」
サオリは完全に泣きながら激昂している。でも、必要なことなんだ。
「ごめんな…分かってやれなくて、俺は…お前らとは違う。俺は、『普通』だから…」
「そんなのどうだっていいんです!私達は、ただ、ハジメさんと…」
ヒヨリが横から突っかかってきた。
「だから、俺と関わるのは、もういけないことなんだ。俺は、元々この世界の住民じゃないんだから」
「だけど!」
…埒が明かない。もう逃げ出してやろうか、そう思って脚を動かすと、何か、異質な、硬いものを踏んだ。
ドォン!!
重い爆裂音。これは…ブービートラップ?まさか…アズサ!
脚の痛みに意識を侵されながら、周りを見渡した。
そこには、慌てて右往左往しているスクワッドと、いつもしているペンダントを、大事にしてたはずのペンダントを、付けていないアズサがいた。
俺は、それを見て何を思ったのだろう?嬉しみかもしれないし、悲しみかもしれないし、失望かもしれない。
それは、きっと、神のみぞ知るのだろう。
To be continued
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