分かりづらいかも知れませんが、最初はハジメくんの独り言です
マジカル!マジカル!
俺は常に普通だった。それを自覚し始めたのは、いつ頃かわからない。しかし、とにかく分かった。それが真理だと。それだけであると。
だが、不幸ではあった。不幸の自覚は、とてもあった。それでも、その不幸は平等に分け与えられる故、仕方がないことだった。俺は、認めるしか無かった。虚しさが湧いた。
12の頃。暖かい、別れの春。卒業式だった。桜がびゅうびゅうと乱れ、肩に乗って、少し鬱陶しかった。
俺はそれに、行かなくてはならなかった。なぜなら、卒業式に行かないのは異端で、『普通』じゃなかったから。
実のところ、俺は普通なことに安心感を抱いていた。なぜなら、何も変化がないからだ。
周りに合わせればいい、流されて生きていければ、楽に生きれた。小学校でもそうだった。
周りが勉強してればして、しなければしなくて、頑張れば頑張って、諦めれば諦めて。
大多数に、常に俺は賛同していた。それが俺の生き方そのものだった。
自分から意見を出す奴、誰もやれって言ってないのに勉強する奴、才能もないのにスポーツを頑張る奴。
全部、全部訳がわからなかった。なんで自分から普通を捨てに行くのか、理解できなかった。
だから、クラスの大多数が行く卒業式に、俺は行かなくちゃいけなかった。『普通』を守り抜くため。
卒業式が終わった。皆が写真を撮っていたから、俺も撮った。皆が泣いていたから、俺も泣いた。でも、本当に悲しいのかは分からなかった。
親が来なかった。他の子は来た。困った。これでは普通を守れない。
ざあ、ざあ
そんな自分を笑うかのように、雨が降ってきた。それはだんだんと強まり、まるで嘲笑のようで、俺はそれに耐えられなかった。
親を連れてくるため、俺は走った。家は近かった。だからすぐ着いた。だけど、近づくにつれ、だんだんと、だんだんと、雨音以外の音が強まった。何故か、鼓動が震えた。家に着いた。
家はなかった。燃えていた。煙があった。焦げ臭かった。生々しかった。
ぽんと背中を、さすられた。皆慰めてくれた。どうやら、雷が堕ちたらしい。
家族も、皆が死んじゃったって。
泣けなかった。常に周りに合わせていたから。周りは、誰もいなかったから。ただ、声を掛けてくれただけだったから。
悲しかったかは分からない。それでも、自分が困ったことは分かった。
歩けない。動けない。息ができない。やる気が出ない。生きる気がでない。
なんで?なんで?なんで?
辛い、苦しい、辛い。
初めてだった。自発的な感情は。
嫌だった。自発的な感情が。
ただ不幸だっただけ。だから、誰も悪くない。皆がそういった。
でも、もし俺が特別だったら、もし、感情をあんまり感じなかったら。もし、感情がたくさん感じれたら。
こんなに辛くなかったのに。そう思った。
そこからだった。『特別』を求めたのは。
そこからだった。『特別』を妬んだのは。
雷は天が降らせるらしい。だから、天に聞きたかった。
天よ、天よ、なぜ、私に試練を与えたのですか?と。
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私は悪夢を見ていた。蛇に貪られ、無惨に、死ぬ。そんな悪夢。
戦おうとしても、足がすくむ。銃を持とうとしても、手が震える。…戦いすら、私から取ろうというのか。
目の前で大切な人が死んでいく。ハスミ、イチカ、マシロ、コハル。そして…先生。
私が、戦えないせいで、盾にもなれずに死んでいく。
何か、落ちるような感覚に苛まれる。ふわっと体の内側持ち上がり、どこまでも堕ちていくようだった。
「嫌だっ!!」
…白い天井。ああ、トリニティの救護室か。久しぶりに来た。じゃあ、アレは夢だったのか。
"おはよう。ツルギ"
呼吸を整えて、頭を整理していると、この世のものとは思えないほど、優しい声がかけられる。
「せ…せせせせせ先生!?」
情けない声が出てしまう。なんと、恥ずかしいことだ。顔に熱が帯びるのが嫌でも分かった。
「こ、これは恥ずかしいところを…」
"恥ずかしくなんてないよ、ツルギ"
先生。私の特別な人だ。皆、私を怖がって逃げていくけど、この人は向き合ってくれる。
私が、大好きな人だ。愛すら、もはやこれには逆らえない。
"…ツルギ。どんな夢を見てたのか、教えてくれないかな?"
にこやかに、愛がこもった声で尋ねられる。…そんなの、答えるしかないじゃないか。
私は話した。私の悪夢を。夢だと言うのに、それは鮮明だった。もしかしたら、それは夢ではなく、予知なのかもしれない。それを思うと、きゅっとした恐怖が私を包む。
「すみません…もう、大丈夫です。スッキリしました」
先生には要らない心配をかけたくない。そんな気持ちで私の虚心を告げた。
本当はもっと支えてほしい。私の恐怖を抑えてほしい。だけど、きっと先生にはすることがあるから。
"そう…か。…ツルギ。もう一ついいかな?"
少し淀んだ声で、先生はそういった。どこか歯切れがなく、ふわふわとしていた。
「ええ、なんなりと。先生の言うことなら」
"ハジメ…いや、ツルギが戦った子について…教えてくれない?"
その瞬間、あのことが思い出される。恐怖が、死の恐怖が、守れないことの恐怖が、敗北の恐怖が。
「はっ…はっ…」
"っ!ツルギ!大丈夫?!無理しないで!"
先生はそう言ってくれるが、言わなきゃいけない。私はもう、役に立てないから。これぐらいはしないと、罪悪感で押しつぶされそうだったから。
「いえ…大丈夫です。少し…ほんの少し、怖かっただけです」
"本当?本当に、無理しないでいいからね。私は困らないから"
いや、きっと困るのだろう。アレの影響は無視できない。アレと一番多く戦ったのは私。だから、これは優しい嘘だ。なんてこと。なんという慈悲か。
「…アレは…一言で言うと、『悪魔』そのものでした。いくら撃っても、いくら重傷を与えようと、決して倒れることはありませんでした」
恐怖を抑える。今にでも吐きたい衝動を抑える。必死に足を押さえ、震えを痛みでとめる。
「体は柔らかかった。最初は驚いた。私は人を殺したのだと、そう思ったから」
「でも、どこを撃っても、ヤツが止まることはなかった。ヤツの攻撃を抑えることはできなかった」
体の傷が痛む。いや、治っているが、体が覚えている。忌々しい。
「ヤツの拳は、冷たくて、怖かった。殺意が、多量に含まれていた」
「ヤツは、その拳を、何発も、何発も、執拗に、殺意をもって…」
声の震えが抑えられない。体もだ。先生に気付かれないように、必死に抑える。
「だから…先生。私はもう、無理なんです…」
"……………"
言ってしまった。もう、私には何もない。
「もう、私は戦えない。怖いんです、拳を見るたびに、し…死ぬんじゃないかって、痛いんじゃないかって」
「先生…ごめんなさい、ごめんなさい…何も、何もできない子で、ごめんなさい」
気づいたら涙が出た。言ってしまった。自覚してしまった。私にはもう、何もないのだと。
情けなくうずくまる。この姿はまるで、捨てられた子犬のようだ。私は私を嘲笑した。
もう、銃を取れない。戦場の事を考えるたび、泣き出したくなる。どうしようもなく、不安になってしまう。私の存在意義が、いま、この場で否定された。
"大丈夫だよ"
その瞬間、先生がハグしてくる。声も出せない。
嬉しい、好きな人が、私を慰めてくれて。感じちゃいけない感情が、心の内から沸き上がる。
"無理して戦わなくても、いいんだよ。私は、ツルギの事が大切だから"
その声に、嘘はつまっていなかった。ただ、愛がこもっているだけだった。ああ、私はやっぱり思う。好きなんだな、と。
"…ツルギは、何かしたいこととかあるの?"
"なんでもいいんだよ…お友達と遊びたいとか、可愛いものが買いたいとか、美味しいものが食べたいとか"
美しい。その声は、私を理解してくれる。
「…私は、私は!」
もう一度、一欠片の勇気が湧いてくる。心の奥で眠っていた勇気が。
「先生の…役に立ちたいです」
言ってしまった、もう、後戻りはできない。させてくれるだろうが、私がそれを許さない。
"ツルギ、本当に、本当にそれがやりたいことなのかい?"
まだ戻すチャンスを与えてくれる。どこまでも、この人はお情け深い。
「ええ…私は先生が大切なんです。そして、私の友も、皆先生が大事なんです」
先生を守れるのは、私しかいない。だから、特別感が出てきた。戦いに、心が高揚する。
「だから、先生。どうか、私に試練を与えてください」
「例え、それが天にうたれるような事でも、皆に嫌われるようなことでも構いません」
「先生の、お役に立てるのであれば…」
先生のためなら、あの『悪魔』にも立ち向かえる気がした。先生のためなら、どんなこともできる気がした。
"ツルギ。本当にありがとう。そんなことを言ってくれて、私を慕ってくれて"
頭をワシャワシャと撫でられた。反射的に頬が赤く染まってしまう。
"でもね、ツルギ。私のために全ては捧げなくていいんだよ。ただ、ツルギとその周りの為だけに捧げて"
ああ…どこまでこの人は優しいのだろう。あの言葉を受けて、こんな事を言える人は、探しても先生しかいないだろう。
"私は…先生だから。生徒の…ツルギの味方だから。それを、ずっと忘れないでね"
だから忠誠を誓った。だから好きになった。
先生が私を殺しても、私は、私の道を先生の前に作り続けるだろう。それがたった一つの、信じきれる真実だった。
その日、トリニティには信仰が宿った。
一方、遠く、どこまでも遠く離れたところには、蛇が生まれていた。
その蛇は、欲望にまみれていた。嫉妬という、欲望に。原罪に。
To be continued
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