アリウスと原罪   作:パエリアさん

20 / 65
ちょい短め
分かりづらいかも知れませんが、最初はハジメくんの独り言です
マジカル!マジカル!


第20話 Eli, Eli, Lema Sabachthani?

俺は常に普通だった。それを自覚し始めたのは、いつ頃かわからない。しかし、とにかく分かった。それが真理だと。それだけであると。

 

だが、不幸ではあった。不幸の自覚は、とてもあった。それでも、その不幸は平等に分け与えられる故、仕方がないことだった。俺は、認めるしか無かった。虚しさが湧いた。

 

12の頃。暖かい、別れの春。卒業式だった。桜がびゅうびゅうと乱れ、肩に乗って、少し鬱陶しかった。

 

俺はそれに、行かなくてはならなかった。なぜなら、卒業式に行かないのは異端で、『普通』じゃなかったから。

 

実のところ、俺は普通なことに安心感を抱いていた。なぜなら、何も変化がないからだ。

 

周りに合わせればいい、流されて生きていければ、楽に生きれた。小学校でもそうだった。

 

周りが勉強してればして、しなければしなくて、頑張れば頑張って、諦めれば諦めて。

 

大多数に、常に俺は賛同していた。それが俺の生き方そのものだった。

 

自分から意見を出す奴、誰もやれって言ってないのに勉強する奴、才能もないのにスポーツを頑張る奴。

 

全部、全部訳がわからなかった。なんで自分から普通を捨てに行くのか、理解できなかった。

 

だから、クラスの大多数が行く卒業式に、俺は行かなくちゃいけなかった。『普通』を守り抜くため。

 

卒業式が終わった。皆が写真を撮っていたから、俺も撮った。皆が泣いていたから、俺も泣いた。でも、本当に悲しいのかは分からなかった。

 

親が来なかった。他の子は来た。困った。これでは普通を守れない。

 

 

 

ざあ、ざあ

 

 

 

そんな自分を笑うかのように、雨が降ってきた。それはだんだんと強まり、まるで嘲笑のようで、俺はそれに耐えられなかった。

 

親を連れてくるため、俺は走った。家は近かった。だからすぐ着いた。だけど、近づくにつれ、だんだんと、だんだんと、雨音以外の音が強まった。何故か、鼓動が震えた。家に着いた。

 

 

 

 

 

 

家はなかった。燃えていた。煙があった。焦げ臭かった。生々しかった。

 

ぽんと背中を、さすられた。皆慰めてくれた。どうやら、雷が堕ちたらしい。

 

家族も、皆が死んじゃったって。

 

泣けなかった。常に周りに合わせていたから。周りは、誰もいなかったから。ただ、声を掛けてくれただけだったから。

 

悲しかったかは分からない。それでも、自分が困ったことは分かった。

 

歩けない。動けない。息ができない。やる気が出ない。生きる気がでない。

 

なんで?なんで?なんで?

 

辛い、苦しい、辛い。

 

初めてだった。自発的な感情は。

 

嫌だった。自発的な感情が。

 

ただ不幸だっただけ。だから、誰も悪くない。皆がそういった。

 

でも、もし俺が特別だったら、もし、感情をあんまり感じなかったら。もし、感情がたくさん感じれたら。

 

こんなに辛くなかったのに。そう思った。

 

そこからだった。『特別』を求めたのは。

 

そこからだった。『特別』を妬んだのは。

 

雷は天が降らせるらしい。だから、天に聞きたかった。

 

天よ、天よ、なぜ、私に試練を与えたのですか?と。

 

____________________________________________________

 

私は悪夢を見ていた。蛇に貪られ、無惨に、死ぬ。そんな悪夢。

 

戦おうとしても、足がすくむ。銃を持とうとしても、手が震える。…戦いすら、私から取ろうというのか。

 

目の前で大切な人が死んでいく。ハスミ、イチカ、マシロ、コハル。そして…先生。

 

私が、戦えないせいで、盾にもなれずに死んでいく。

 

何か、落ちるような感覚に苛まれる。ふわっと体の内側持ち上がり、どこまでも堕ちていくようだった。

 

 

 

「嫌だっ!!」

 

…白い天井。ああ、トリニティの救護室か。久しぶりに来た。じゃあ、アレは夢だったのか。

 

"おはよう。ツルギ"

 

呼吸を整えて、頭を整理していると、この世のものとは思えないほど、優しい声がかけられる。

 

「せ…せせせせせ先生!?」

 

情けない声が出てしまう。なんと、恥ずかしいことだ。顔に熱が帯びるのが嫌でも分かった。

 

「こ、これは恥ずかしいところを…」

 

"恥ずかしくなんてないよ、ツルギ"

 

先生。私の特別な人だ。皆、私を怖がって逃げていくけど、この人は向き合ってくれる。

 

私が、大好きな人だ。愛すら、もはやこれには逆らえない。

 

"…ツルギ。どんな夢を見てたのか、教えてくれないかな?"

 

にこやかに、愛がこもった声で尋ねられる。…そんなの、答えるしかないじゃないか。

 

私は話した。私の悪夢を。夢だと言うのに、それは鮮明だった。もしかしたら、それは夢ではなく、予知なのかもしれない。それを思うと、きゅっとした恐怖が私を包む。

 

「すみません…もう、大丈夫です。スッキリしました」

 

先生には要らない心配をかけたくない。そんな気持ちで私の虚心を告げた。

 

本当はもっと支えてほしい。私の恐怖を抑えてほしい。だけど、きっと先生にはすることがあるから。

 

"そう…か。…ツルギ。もう一ついいかな?"

 

少し淀んだ声で、先生はそういった。どこか歯切れがなく、ふわふわとしていた。

 

「ええ、なんなりと。先生の言うことなら」

 

"ハジメ…いや、ツルギが戦った子について…教えてくれない?"

 

 

 

 

その瞬間、あのことが思い出される。恐怖が、死の恐怖が、守れないことの恐怖が、敗北の恐怖が。

 

「はっ…はっ…」

 

"っ!ツルギ!大丈夫?!無理しないで!"

 

先生はそう言ってくれるが、言わなきゃいけない。私はもう、役に立てないから。これぐらいはしないと、罪悪感で押しつぶされそうだったから。

 

「いえ…大丈夫です。少し…ほんの少し、怖かっただけです」

 

"本当?本当に、無理しないでいいからね。私は困らないから"

 

いや、きっと困るのだろう。アレの影響は無視できない。アレと一番多く戦ったのは私。だから、これは優しい嘘だ。なんてこと。なんという慈悲か。

 

「…アレは…一言で言うと、『悪魔』そのものでした。いくら撃っても、いくら重傷を与えようと、決して倒れることはありませんでした」

 

恐怖を抑える。今にでも吐きたい衝動を抑える。必死に足を押さえ、震えを痛みでとめる。

 

「体は柔らかかった。最初は驚いた。私は人を殺したのだと、そう思ったから」

 

「でも、どこを撃っても、ヤツが止まることはなかった。ヤツの攻撃を抑えることはできなかった」

 

体の傷が痛む。いや、治っているが、体が覚えている。忌々しい。

 

「ヤツの拳は、冷たくて、怖かった。殺意が、多量に含まれていた」

 

「ヤツは、その拳を、何発も、何発も、執拗に、殺意をもって…」

 

声の震えが抑えられない。体もだ。先生に気付かれないように、必死に抑える。

 

「だから…先生。私はもう、無理なんです…」

 

"……………"

 

言ってしまった。もう、私には何もない。

 

「もう、私は戦えない。怖いんです、拳を見るたびに、し…死ぬんじゃないかって、痛いんじゃないかって」

 

「先生…ごめんなさい、ごめんなさい…何も、何もできない子で、ごめんなさい」

 

気づいたら涙が出た。言ってしまった。自覚してしまった。私にはもう、何もないのだと。

 

情けなくうずくまる。この姿はまるで、捨てられた子犬のようだ。私は私を嘲笑した。

 

もう、銃を取れない。戦場の事を考えるたび、泣き出したくなる。どうしようもなく、不安になってしまう。私の存在意義が、いま、この場で否定された。

 

 

 

"大丈夫だよ"

 

その瞬間、先生がハグしてくる。声も出せない。

 

嬉しい、好きな人が、私を慰めてくれて。感じちゃいけない感情が、心の内から沸き上がる。

 

"無理して戦わなくても、いいんだよ。私は、ツルギの事が大切だから"

 

その声に、嘘はつまっていなかった。ただ、愛がこもっているだけだった。ああ、私はやっぱり思う。好きなんだな、と。

 

"…ツルギは、何かしたいこととかあるの?"

 

"なんでもいいんだよ…お友達と遊びたいとか、可愛いものが買いたいとか、美味しいものが食べたいとか"

 

美しい。その声は、私を理解してくれる。

 

「…私は、私は!」

 

もう一度、一欠片の勇気が湧いてくる。心の奥で眠っていた勇気が。

 

「先生の…役に立ちたいです」

 

言ってしまった、もう、後戻りはできない。させてくれるだろうが、私がそれを許さない。

 

"ツルギ、本当に、本当にそれがやりたいことなのかい?"

 

まだ戻すチャンスを与えてくれる。どこまでも、この人はお情け深い。

 

「ええ…私は先生が大切なんです。そして、私の友も、皆先生が大事なんです」

 

先生を守れるのは、私しかいない。だから、特別感が出てきた。戦いに、心が高揚する。

 

「だから、先生。どうか、私に試練を与えてください」

 

「例え、それが天にうたれるような事でも、皆に嫌われるようなことでも構いません」

 

「先生の、お役に立てるのであれば…」

 

先生のためなら、あの『悪魔』にも立ち向かえる気がした。先生のためなら、どんなこともできる気がした。

 

"ツルギ。本当にありがとう。そんなことを言ってくれて、私を慕ってくれて"

 

頭をワシャワシャと撫でられた。反射的に頬が赤く染まってしまう。

 

"でもね、ツルギ。私のために全ては捧げなくていいんだよ。ただ、ツルギとその周りの為だけに捧げて"

 

ああ…どこまでこの人は優しいのだろう。あの言葉を受けて、こんな事を言える人は、探しても先生しかいないだろう。

 

"私は…先生だから。生徒の…ツルギの味方だから。それを、ずっと忘れないでね"

 

だから忠誠を誓った。だから好きになった。

 

先生が私を殺しても、私は、私の道を先生の前に作り続けるだろう。それがたった一つの、信じきれる真実だった。

 

その日、トリニティには信仰が宿った。

 

 

 

 

 

一方、遠く、どこまでも遠く離れたところには、蛇が生まれていた。

 

その蛇は、欲望にまみれていた。嫉妬という、欲望に。原罪に。

 

To be continued






閲覧いただきありがとうございます!!よければ感想などをぜひ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。