アリウスと原罪   作:パエリアさん

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長くなった……今回はちょっと読みづらいかも。





第22話 失楽園

「私達の、青春の物語を!!」

 

その瞬間、暗黒の空を眩しい青が支配する。それはまさしく奇跡であり、計算では決して起こり得ないことである。

 

私、先生は、今目の前で奇跡を確認していた。

 

『奇跡』…か。存在するとは信じていたけど、目の前で見ると感慨深い。こんなに美しいものだとは。

 

「ふざけるなっ!!奇跡なんか起こり得るか!!奇跡なんて…奇跡なんて!」

 

スクワッドのリーダーの子はまるで遭難して二月目のような、余裕がなさそうな表情で、そう叫んだ。…きっと、奇跡が信じられないようなところで育ったのだろう。

 

そんなところで育った。それは忌むべきことだ。大人である私が、解決をしなければいけない。

 

「ハッピーエンド?ふざけるな!そんなもの、存在していいはずがない!」

 

目尻に涙をため言った。その言葉は、はち切れんばかりの無力感であった。

 

「それじゃあ…私達の憎しみは、ハジメの無念は、一体どうなるんだ!!」

 

「いくら神でも…どんな奇跡でも…ハジメを否定していいはずがない!」

 

断ち切れないんだろう。大切な人のことが。家族のことが。きっと、この子たちはとても優しいんだろう。そんな気がした。

 

「そんな…そんな夢のようなこと!起きるはずがないんだ!!」

 

"生徒たちの夢を助けるのは…大人の義務だから…"

 

「っ!!」

 

そうだ、それが大人の義務。私が今なそうとしていること。どんな生徒でも、見捨てちゃいけないんだ。

 

"私は生徒たちの願う夢を信じて…それを支えるんだ"

 

"生徒たちが、『心から』ねがう夢を"

 

"…サオリ。君の夢は、『心から』願う夢は、いったい何なんだい?"

 

きっと、この子もこんな事望んでいない。私を撃とうとするときも、震えていて、怖がっていた。

 

だから…私が救うんだ。すっと、私は、手を差し出した。

 

 

 

 

 

ぐああああああ!!

 

 

 

 

 

その瞬間、私の背に重い衝撃が走った。その衝撃は、恐怖そのものだった。

 

何かの叫び声。何かを求めるような。無念のような。そんな声。それがやまびこのように反復し、私を背面から、正面から、側面から、全方位で痛めつけた。

 

声の張本人を見るため、私はゆっくりと振り返った。私はそれに、得体のしれない怖さを感じていた。

 

「妬ましい…妬ましい…」

 

異形だ。人形ではあるが、体のいたるところに蛇が巻きついていて、全身が青い鱗で覆われている。

 

顔はほとんど見えず、鱗で覆われている。しかし、かろうじて目は見えた。

 

その目に、私は見覚えがあった。狂気に染まっていて、殺意に溢れている目に。悪魔のような目に。あの、廃れた体育館の時の。

 

ただ、少し違いがあった。迷いがないのだ。迷いのかわりに、その目には絶望、無気力が見えた。

 

 

「はあ…はあ…」

 

 

サオリが急に過呼吸になり、しっかりと目の前の景色を一つ残らず見るためか、これでもかと瞳孔を開いた。

 

「ハ…ジメ…」

 

サオリはそう呟いた。まさか、アレが…。

 

そうだとしたら。なぜああなったんだ?…まさか、大人が関わっているのか?そうだとしたら…赦すことは、できない。

 

「何をされたんだ!ハジメ!」

 

サオリが異形に駆けつけて言った。しかし、その異形は目線すら合わせない。その目線は、じっと私のほうを向いていた。

 

「ベアトリーチェか?!他の生徒か?!なんでもいい!私がいるから!助けてやるから!」

 

サオリが異形に抱きついてそう言った。それでも、異形に変化は見られない。

 

 

 

ドンッ

 

 

 

サオリは遠くへ押された。予想外だったのか、サオリが呆然とした顔で尻もちをついている。

 

「ハジメ……?なんで?なんでなんだ!?」

 

再度少年だったものの下へ向かおうとするが、いつの間にか地面から出てきた蛇がそれを封じる。嫌でも拒絶の意を感じる。

 

止められたサオリは、その意を感じたのか、力なく目を瞑る。その様子は、絶望そのものであった。

 

私はその光景を見ることしかできなかった。それは、先生という職の敗北であった。私は痛んだ、私は締め付けられた、私は打ち付けられた。しかし、耐えることのみしか、することはなかった。

 

 

ピリッ

 

 

突然、脳に電流が走ったような気がした。

 

『先生…』

 

なんだこの声は?頭にじんじんと響く。

 

他の生徒も聞いているようで、私の事を一斉に見てきた。そして、心配の視線を向けた。

 

『先生…貴方はハッピーエンドがお好きですか?』

 

冷たい、地の底から這い出ているような声だ。決して良いものではないだろう。色で言うと黒。そんな感じだった。

 

"愚論だな。ハッピーエンドを求めるのが、私の存在意義だから"

 

できるだけ威圧するように言った。しかし、それは虚勢だ。根源的な恐怖が、私をぶるぶると震わせる。

 

『それだったら、ハッピーエンドに到達できない生徒がいたら、どうするんですか?』

 

"…どういうことだ?"

 

変な質問をするものだ。

 

『いるんですよ。ハッピーエンドに到達できない子が。何もかも否定されて、自分の存在意義さえなくなって、閉じこもってしまった子が』

 

悲劇的に、オペラのようだった。涙を出す寸前のような声だった。

 

"………"

 

『それが今あなたの目の前にいる子です。佐藤ハジメといいます』

 

"ハジメ…ね"

 

『何もかも普通で、何も特別なことができない子でした。それでも、精一杯に頑張っていたんです』

 

同情の匂いがする。スクワッドの反応からして、それは本当なんだろう。

 

『それでも、とうとう何も成し遂げることはできませんでした。偽善を振りまき、自身を守ることしか、できませんでした』

 

「ふざけないで!!あなたにハジメの何が分かる!!」

 

ミサキが声を張り上げた。相当な怒りがこもっている。それはそうだ。誰だか分からないのに、家族同然の人を知ったように話されては、我慢ならないだろう。

 

"そうだね…まず、貴方は誰なのかな?"

 

『おっと…自己紹介がまだでしたね。私は蛇…。そう、一般的に()()と呼ばれるものです』

 

悪魔という単語に、全員が慄いた。そんなことが存在するのか…。

 

"それで…その悪魔が一体ハジメの何を知ってるの?"

 

『悪魔だからこそ、ですよ先生』

 

意地が悪そうに言った。確かに悪魔らしい。

 

『悪魔は誰でも潜むもの…これは、人類の()()が原因ですから、共生は不可逆なのです』

 

原罪…生命の樹とか、聞いたことがあったな。まさか本当とは…。

 

『私は、彼が生まれた時から彼をみていました。なので、彼のことならすべてを知っています』

 

『彼は本当に普通だったんです。本人も自覚してた。だけど、ある時から特別に憧れるようになった』

 

嘘の色は、どれだけ深く観察しても見られない。悪魔らしくない、嘘をつかないなんて。私は違和感を覚えた。

 

『それでも、いくら憧れても特別にはなれなかったし、誰も認めてくれなかった』

 

「そんな事ありません…!スクワッド達は、……うう」

 

否定の言葉を述べるが、すぐに言い淀んだ。心当たりがあったのだろう。残酷なことだ。ぽっと出てきたものに、大切な人を、私のほうが分かってる。とでも言われるような気分だろう。

 

『それどころか、先生。特別すぎるあなたを発見してしまった』

 

……私?

 

『ハジメができなかった事を簡単にやってのけ、ハジメのすべてを越すもの。それを発見してしまった。彼の心を壊すのは、それで十分でした』

 

"…私は、私のすべき事をしたまでだ"

 

『ええ、そうでしょう。それは善行です。それでも、ハジメは傷付いた』

 

口ではそう言うが、火炙りにされたかのように心が痛む。私のせいで傷付いた生徒がいることに、吐き気を催す。

 

『私は哀れんだ。彼がこれ以上傷付くのを見たくなかった。だからハジメに力を授けたんです』

 

『ハッピーエンドを壊して、自分の存在意義を作るために。自分居場所を作るために』

 

それは正論のように聞こえる。

 

『だから…先生。本当に生徒のことを考えるなら、今すぐに死んでください』

 

"…悪いけど、それはできないね"

 

『?ふふふ…まさか、多数のために少数を切り捨てるというのですか?ああ、可哀想なハジメ。なんにもしていないのに、何でこんな目にあうのでしょうね?』

 

汚らしい声だ。こいつは、口だけだ。

 

久方ぶりの怒りが灯る。その怒りに乗せられるように、舌もよく回った。

 

"いや、どっちも救ってみせるよ。私は…先生だから"

 

"先の質問の答えを言ってなかったね"

 

"その子がハッピーエンドに到達できないんだとしたら、私が到達させる。これが答えだよ"

 

胸に決意が漲った。

 

『そうですか…頑張ってくださいね。先生』

 

興味がないのか、都合が悪いのか、とにかくつまらなそうに言った。…しかし、まずはあの子を止めないと。

 

「ああああああああ……!!妬ましい…妬ましい…妬ましい…妬ましい…妬ましい…妬ましい…妬ましい…妬ましい…!!!!」

 

顔を押さえ、がたがたの震えながら、目の前の少年は発狂した。そうとしか言えない。

 

"皆!!"

 

「言われなくても。皆集まってるよ〜」

 

ホシノがそう言った。…本当に皆いる。私は、いい生徒に見舞われたよ。

 

正義実現委員会、風紀委員会、…対策委員会。

 

この中の最高戦力であるホシノ、ツルギ、ヒナを中心とした作戦を頭の中で考える。

 

「死ね…先生」

 

「くるよ!先生!」

 

向かって来た。いいよ、迎い入れてあげよう。私は、全てを救ってみせるから。

 

まずはホシノとぶつかる。盾から火花が散る。…なんと、ホシノが、力で押されている。

 

「うぐぐぐ……今だよっ!皆!」

 

その間に、一斉に銃弾が撃ち込まれる。しかし、それは鱗によって弾かれた。跳弾し、橙色の火花が散る。それは花火のように綺麗で、儚いものだった。

 

「何っ!」

 

正義実現委員会の子が思わず声を出した。なんでって、完全に効いていなかったのだ。

 

「ぐあああ!!」

 

咆哮を轟かせ、ホシノから離れ、距離をとる。

 

右手に纏わりつく蛇を一つに纏め、より巨大にする。そして、一歩を踏み出した。

 

「すっ!」

 

ホシノは再び盾を向けた。しかし、それは叶わなかった。

 

「何ッ!」

 

ホシノの足元から蛇が生えた。それによって、バランスが崩れて盾が構えられなかった。

 

咆哮とともに、ホシノの体に蛇の牙が刺さった。その牙は、ホシノの腹をしっかりとらえていた。

 

「痛い!!けど…離さ、ないよ?」

 

それでも、ホシノは自分には刺さった牙を離さなかった。その意味をいち早く察知したヒナが、ヤツの背中にイシュ・ボシェテをぶち込んだ。

 

「くあああああ?!」

 

さっきとは違い、苦しんでいる。見るに堪えないが、これも必要なことだ。

 

「…なんてこと」

 

全弾撃ち込んだはずだが、まだ動いている。ヤツのヘイトは、ヒナへと向けられた。

 

「ぐあああ!!」

 

下からは蛇が、横からはヤツが押し寄せる。そのため、ヒナは上空へと飛んだ。しかし、それが失敗だった。

 

ヒナが丁度移動した位置に、一際大きな蛇が現れ、ヒナを呑み込んだ。

 

"なっ…"

 

私はそれを、言葉を失いながら見るしかできなかった。

 

「……!!先生!危ない!」

 

アズサが私を吹っ飛ばした。それと同時に、ヤツの攻撃がさっきいた場所を粉々にする。

 

"一体…なんなんだ…"

 

「私にも分からない…けれど、放っておくことはできない」

 

生徒に勇気付けられるとは、まだまだだな。止まっていた頭を動かし、また策を練る。

 

しかしヤツは止まってくれない。またこちらへ来た。

 

"頼む!ツルギ!!"

 

「はいっ!先生!!」

 

ヤツをツルギが受け止めた。ヒナを呑み込んだ蛇はいつの間にか消えていた。

 

「2回目だな…ハジメ…だったな」

 

ヤツの目は嫉妬に呑まれていた。虚しかった。

 

「この前会った時はまだ会話できてたが…今はそれ以下に成り果てたな」

 

ヤツの顔に変化はない。聴こえているのかも怪しい。

 

「なあ…教えてくれ…お前の戦う理由はなんだ?」

 

答えない。もしくは、答えられない。

 

「まあ、いい。後でゆっくりと聞けばな」

 

ツルギはショットガンを撃ち込んだ。それが戦いの合図だった。

 

正義実現委員会総出で戦う。ツルギ中心に連携が取れていて、美しい。

 

しかし、ハジメはそれを圧倒的な力で蹂躙する。しかし、それに恐怖するものはいなかった。

 

「きええええ!!」

 

正義実現委員会はどんどん倒れていく。しかし、勢いは止むどころか、さらに強くなる。

 

「げあああ!!」

 

ヤツが叫ぶ。同時に体が変形する。大きく、刺々しくなっていく。

 

ドズン!!

 

雷鳴の如き音が響いた。ハスミだ。

 

完璧なヘッドショット。それに少しひるんでる間に、ツルギが2発打ち込む。

 

しかし、それを意に返さずハジメは攻撃を続けた。ツルギはふっとばされた。

 

私の近くに落ちてきた。だいぶ消耗している。

 

「いてててて…すみません、先生。お見苦しいところを…」

 

"そんな事ない。ありがとう、ツルギ"

 

「ふい〜先生〜。死ぬかと思ったよ〜」

 

おどけた声で言うのはホシノ。腹の傷が痛々しい。

 

"ホシノ!!私は大丈夫だから、休んでて"

 

「そういうわけにもいかないよ~。こんな傷つけられちゃってさあ」

 

キリッとした顔で答えた。その顔はいつものホシノじゃない。それでも良い顔だった。

 

「私も忘れちゃ困るわよ、先生?」

 

"ヒナ!!大丈夫だった!?"

 

良かった。服こそボロボロだけど、肉体に傷はない。

 

「ちょっと予想外だっただけよ。私は大丈夫」

 

"どうやって出たの…?"

 

「?お腹をぶち破るしかないでしょう?」

 

…ヒナに逆らうのはやめておこう。よく見たら、ベトベトで、変な液体がついてる。

 

「…とは言っても、一体どうしようね〜」

 

ホシノが口を開く。そうだ。結局対抗策が思いつかない。ヒナの攻撃が効かないってことは、まともな攻撃はできない。

 

一体どうすれば。

 

 

 

 

 

「ハ…ジメ………」

 

頭を捻らせていると、スクワッドのリーダーがトボトボと歩いていた。

 

「なんで…お前が生きてるのに、こんなに辛いんだろう?私はお前のことが心の底から好きだったのに」

 

ハジメはサオリのことを見つめる。目は見えないが、じっと見つめてる気がした。

 

「どうして私を否定するんだ?私達は似た者同士だろ?」

 

光がない目でそう言った。

 

「なんで、なんで、離れてしまうんだ?こんなに、こんなに私は、お前のことが好きなのに」

 

「ハジメ。お前が私を否定するなら。私は喜んで消えよう。だから、本当の事を言ってくれ」

 

こめかみに銃を押しつけてそう言った。止めようと、私は反射的に飛び出した。

 

 

 

「なあ、ハジメ。……私のことは…好きか?」

 

 

 

 

その瞬間、顔の鱗が割れ、ハジメ本来の素顔が見えた。見たことない、優しい目をしていた。

 

そして、一瞬の間に、サオリから銃を取り上げ、叩き壊した。

 

「へ……?なんだ?」

 

サオリは信じられないようなものを見る目でその光景を見ている。

 

「うあああああああ!!」

 

さっきとは違う、人間らしい声で叫んだあと、どこかへ駆け出して行った。

 

「まて!まってくれ!ハジメ!!」

 

サオリが追いかけようとする。しかし、尋常でないスピードだった。そして、古聖堂の中へ入っていった。

 

サオリは追い続けている。いや、縋り続けようとしている。のほうが正しいかもしれない。

 

顔を涙と鼻水で濡らし、体が汚れることも厭わず追い続ける。それは濁った青春の、一ページのようだった。

 

「どこ!どこにいる!!やめろ!私を、私を置いていかないでくれ!」

 

「お願いだ…ハジメ……私を、私を…」

 

顔面蒼白で古聖堂の地下へ入り、姿をくらましていった。

 

本当に大切なんだろう。彼が。私が救わなければならない。楽園を守らなければならない。そうだ、楽園は、決して堕としてはならない。

 

そう固く誓った。私は先生だから。

 

To be continued






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