…なんか、地の文が弱い気が……ちょっとスランプ
「サっちゃん!!」
殺伐とした雰囲気の中、声が響いた。私は先生であるから、大体の生徒の声は把握してるはずだが、わからなかった。それはつまり、未知の生徒を表しているはずだった。
「ひ…姫!?なぜここに?!なぜ逃げなかった!」
だが、見えたのは見知った、生徒…アツコだった。でも、素顔は初めてみた。その顔は儚げで、今にも落ちてしまいそうな花であった。
サオリが少し怒ったように言った。本当に心配だったのだろう。…本当に、根は優しいのであろう。この子たちは。
そんな子達が、本当に愛しているハジメはどんな子なんだろう?私は、単純に興味が出た。
罪づくりな子。そんなこととしか認識してなかったけど、さらに深く知りたい。私はそう思った。
「もう…もう、終わりなんだよ…私が生きる未来も…ハジメが生きる未来も、何もなかったんだ…」
全てを達観したようだ。学生がしていい目じゃない。そういう目を変えるのが、私の仕事だ。
「姫!しゃべるな!『彼女』が……」
サオリが静止するが、それを意に返さずに、アツコはしゃべり続けていた。まるで、壊れたオルゴールのように。
「だから…サっちゃん。全部、全部無駄だったんだ…何もしても、努力しても…」
私は心に決めた。必ずやアリウスを救うと、そして、こんな目をさせる者に天罰を与えることを。
必ず…必ず…。私は先生だから…。それが義務だから、それが、役目だから。
「ハジメも…もう、無理なんだ。もう戻れない…もう、取り返しがつかないんだよ」
死んだ顔。形容するべき言葉は、私はそれしか見つからない。そんな顔で、ぶつぶつと、叫びのような、それでいて弱々しい声で述べていた。
「…!!アツコ!お前はそんなことを言うやつじゃなかっただろう!!たとえ…虚しくても…頑張らないと、精一杯を尽くさないと!」
サオリがアツコの肩を掴んで言った。その目には再度希望の灯火がめらめらと宿っていた。それは陽炎のように揺れ、アツコをそのまま吸い込んでしまいそうだった。
「サオリ…でもね…でも、どんだけ頑張っても、どんだけ努力しても…ハジメが戻らないことは確定してるんだ…」
声を震わせた。生徒を泣かせてはいけない。私は話を聞こうと少し前へ踏み出した。
「ハジメを愛してた…好きだった!だけど、諦めなくちゃいけない…私だって……嫌だ!嫌だよ…そんな事…」
年相応の、葛藤の嘆きを、アツコは出した。私はそれに、少し安堵した。まだ、感情が残っているのだから。感情があれば、それは人間と言える。私はそう思っている。
「アツコ…」
アズサが声をかけようと近づいた。…私の出番はなさそうだ。
ハジメはずっと苦しんでいる。ときたま何かを呟き、ときたま体を震わせる。その仕草は、どこか痛々しく、見てられなかった。
「だから…逃げよう。サっちゃん。もう、疲れたでしょ?全てから逃げようよ…愛からも、責任からも…」
「なにを…言っているんだ…?」
これは悪魔の誘いなのだろうか?いや、きっと違うはずだ。私はそれに、光を見出した。
「今更逃げろと!?ハジメを置いて行けと!?そんなのできるはずがない!私達は家族だ!そんな事できない!」
激昂。サオリが猛烈に否定する。執着をも感じさせるほど、ハジメへの思いが感じられた。
ズズズ、ガラガラ
瞬間、何処かからか、重苦しい地響きが聞こえる。地震?いや…これは違う。何か巨大な、何か壮大な…。
「まさか…教義が完成した…?」
サオリ、アツコ、アズサの顔が青ざめる。どうやら、アリウス生は知っているものらしい。
「早く…早く逃げなきゃ…」
アズサが急かす。そんなに焦るようなものなのか…。私も少し、焦燥感が出た。脂汗が、頬を伝う。
そうこうしていると、『それ』が音も立てずに姿を現した。
首を痛くなるぐらい上げないと全体が見えない。手を祈るように組んでいて、その背には巨大なリングが見える。後光のようだ。とても眩しい。
それは、何処か神秘を感じさせた。私は、それを美しいと思ってしまった。
"…どうやら、反則みたいだね"
私は懐へ手を伸ばす。大人のカードを目的として。
代償…。黒服、嘘はつかないからなあ。代償ってなんだろうなあ、怖いな、だけど…。
生徒のためだから、私は、先生だから。
恐怖に打ち勝ち、私は大人のカードを使う決心を固める。スーツに裏の、すべすべとした材質が、私に勇気をくれた。
「妬ましい…妬ましい!」
決意が早速崩れた。声が聞こえる。大きすぎる音に反射的に両の手で耳を封じる。
「ハジメ!?」
それは、異形と化したハジメから出されていた。体を震わせながら、走りの構えをとっている。
アロナの支援があるとは言え、これと戦うのは骨が折れる。大人のカードを使うしか…いやしかし。
ドンッ!
考えていると、岩を踏み砕く音を響かせながら、私へとまっすぐ突っ込んできた。予想外の速さ。カードを使う使わないを考える暇もなかった。
私は反射的に、カードを『
理由はわからないが、私の神経たちは使わない事を最善としたようだ。
私自身の決断を信じ、目の前に迫るハジメを見つめる。青い鱗、どこにでも生えている牙。悪魔のような見た目だった。
いや、悪魔そのものなのかもしれない。『私のことは…悪魔、とでも呼んでください』…だったかな。だから、とにかくアレが何かしたのは確実だ。
「妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい…」
呪詛を呟く。すぐ目の前。死の恐怖を感じる。しかし…その恐怖は、発散されることはなかった。
「うわあああああ!!」
なんと、ハジメは風を切りながら、あの巨大な何かに向かっていった。あの何かがたじろいでいる。原理は分からないがどうやら、効いているらしい。
「…!!見ろ!アツコ!やはりハジメは私達の味方なんだ!姿が変わっても、ハジメはハジメだ!」
心底嬉しそうにサオリが言った。確かに、ここだけ見ればそう感じるだろう。しかし、しかし…。
「サっちゃん…これは…嫉妬してるだけだよ…『神秘』に」
「私達を守ろうとなんて…考えていないんだ…」
悲しそうに、虚しそうに呟く。
「なっ…なにを」
「『神秘』が私達よりも強いから…ただ、それだけの理由…」
それは、噛み締めるにはあまりにも苦い。苦菜のような事実であった。幻想というケーキは、苦菜によって、塗り替えられた。
「そん…な…」
サオリは力なく項垂れた。唯一頼れるものも頼れなくて、もうどうすればいいか分からなくなっているのだろう。
"…………"
声を掛けるべき私も、言葉が出せなかった。私も、余りにも光がない話に、打ちのめされていたからだ。
「くああああ!!」
ハジメがヤツを攻撃している。いや、攻撃と呼ぶにも呼べない。蹂躙、虐殺、そうとしか呼べなかった。
牙で衣を破り、鱗で闇を殴り、ヤツからの攻撃は全て効かない。
その光景は、まさしく地獄とでも呼べるような光景だった。
「…先生。なんでなんだ?なんで、こんな想いをしなきゃいけないんだ?」
アズサが私の袖を引っ張る。その顔は泣き腫らしていた。
「大切なものができた。大切なものを守れそうだった。それなのに、それなのに!!」
声を荒げる。しかし、憤怒は見られない。
「どうしたら…ハッピーエンドに、行けるんだ?」
か細い声。吹いたら飛んでしまうような、そんな声。
"……………"
その質問に、私は答えることができなかった。答えられる者は、おそらくいないだろう。
沈黙が全員を支配する。周りは五月蝿いが、それをかき消すほどの沈黙だった。
ガゴン!!
戦いの衝撃に耐えられず、洞窟の屋根が崩れ、アズサへ頭上に降った。
アズサなら避けれるはず。アズサもその瞳にしっかりと岩を映していた。けれど、私はなぜか、心配がぬぐえなかった。
原因はあの顔だ。あの、全てを諦めたような、そんな顔。死んでもいいと思っているような、そんな顔。
「…………」
予想通り、アズサは何の行動も起こさなかった。自分の勘にここまで感謝したのは初めてだ。
アズサといえど、この大きさの岩がこんな高さから当たったら無事では済まない。私は駆け出した。
"アズサっ!"
アズサを突き飛ばした。アズサの表情に変化はなかった。
岩が落ちる。想像よりも大きい音がした。
「先…生?」
良かった、アズサは無事だ。その事を認識した瞬間、疲れがどっと押し寄せる。
私の意識は、暗闇の中へ落ちていった。こんな時ぐらい、いい夢を見れることを信じて。
私は、瞼を閉じた。最後に見たのは、私をじっと見つめる、アズサの暗く、寂しい目だった。
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「おお…これは…」
感嘆のような声を上げる。声の主はマエストロである。
「なんという…なんという力…」
目的は達成できなかったというのに、その顔に闇は見られない。むしろ、子供のように無邪気な印象を与える。そんな顔だった。
彼が作った『ヒエロニムス』…それは完璧な状態であった。少なくとも、キヴォトスにこれを相手にできる者はほんの一握り…いや、いないかもしれないほどだ。
しかし、それを苦も無く蹂躙した。それがマエストロを興奮させるのに十分な理由だった。
「しかし…あそこまでの憎悪を与えるとは…」
アツコが言ったことは間違いではない。確かにハジメがヒエロニムスに反応した理由は、仲間とか愛とか言うものではない。ただ、妬ましかっただけだ。
しかし、神秘に反応したのではない。それは、神秘量の桁が違う『暁のホルス』にあまり反応していなかったことからわかる。
ではなぜあんな反応をしたのか?それは謎である。もしかしたら、ハジメとヒエロニムスの間には何か特別な関係があるのかもしれない。
「『カード』の力は見れなかったですが…まあ、いいでしょう。しかし…分からない」
でも、先生はカードを使わなかった。それは確かに先生を助ける行動だった。
ヒエロニムスを壊した後も、ただあてもなく歩き続けているだけで、先生をどうこうしようとはしていない。
行動に一貫性がない。あんなにも先生に執着していたのに、結局先生に、何もしていない。
「後は…マダム。これをどう使うかによって、貴女の今後が大きく変わるでしょうね」
マエストロは今までの彼女を思い浮かべる。彼女は、ハジメに特に興味は示さず。ロイヤルブラッドにお熱だった。
ただ黒服の研究結果を受け取るのみで、自分から何かしようとは思わなかった。それどころか、邪魔だから消してしまおうかと言い出すこともあった。
もちろん黒服との契約があるので殺すことはできないが、それでもよく思っていないことは事実であった。
これからどう状況が動いていくか、それに心を躍らせながら、マエストロは研究を続けた。
ふと気づいたように、マエストロは研究を中断し、資料を取り出して、こう呟いた。
「
と。
私の魂が崩れ落ちるとき、私は遠く、地の果てからあなたを呼ぶ。どうか、私よりはるかに高い大岩へ、私を導いてください。
To be continued
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……ここすきも、やってもいいんだよ?(懇願)