アリウスと原罪   作:パエリアさん

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…まあ、わかる人はわかる。知らなくても楽しめる…はず。
わたしがめちゃくそに影響を受けてるヤツは、たぶん私のお気に入り見ればわかると思います。






第25話 苦痛を愛するための祈り

「ぐはっ!ぐう…」

 

「だ、大丈夫ですか、リーダー…」

 

お通夜のような雰囲気を醸し出しながら、私達アリウススクワッドは道を歩んでいた。

 

あの後、秘密の通路からどうにかして逃げ出し、スクワッドと合流した。

 

まだ傷は癒えていない。至る所から出血し、呼吸も満足にできない。筋肉の動きが鈍い。

 

「サっちゃん…私、なんで生きてるんだろう…これから、どうすればいいんだろう…」

 

同様に、心も決して癒えていなかった。家族が、想い人が、もう戻らない、決して、何があっても。

 

そんな事が心に沈む。嘘だと言っても、それを嘘と言えばアツコを裏切ることになる。

 

それでも、嘘だ。と言いたくなる。たとえ、アツコを、家族を傷つけたとしても。それほど、ハジメの存在は私たちにとっての希望であったのだ。光であったのだ。そして、それが潰えたのだ。

 

「そんなこと…正解なんて、誰にもわからないよ…」

 

ミサキが口を出した。同時に無気力も出た。ハジメと会う以前のミサキのような、そんな雰囲気を醸し出す。まるで、数年前に戻ってしまったようだ。

 

辺りは暗闇に満ちる。月も私達を避けるように、雲で遮られている。ハジメを救えなかった私達に失望したかのように。失望の光を、雲を介して私達に怒りのように浴びせていた。

 

ああ、こんな気持ちになるんだったら、こんなに胸が締め付けられるんだったら、こんなに痛みを味わうなら。

 

 

 

いっそ、生まれてこなければ良かったのに。

 

 

 

ペンダントを握る。それでも、もう勇気は出てこない。それどころか、ハジメを引きずってしまう。

 

「うぐっ…うああ」

 

感情が溢れ出る。ハジメと会って、鮮やかになった感情が。好きになった感情が。

 

「ハジメ…!ハジメぇ!」

 

流れ出る。それは、穴を開けた風船からヘリウムが出るように、急速だった。

 

他のメンバーもそうだった。私を始めとして、皆が感情を、涙を垂れ流す。

 

穴が空いて、中に何もなくなった風船は、一体どうなるだろうか?それは、もう価値がなくなったと言っても、ゴミと言っても、過言ではないだろう。

 

そして、ゴミは捨てられなければならないものだ。

 

きっと、私達はゴミのように捨てられるのだろう。捨てる人は、定かではないが。

 

そしてそれは、私達の終わりを暗示しているのだろう。私は確信のようなものすら感じた。

 

血と、絶望と、悲しみに塗れたまま、恥も外聞もなく、私達は傷を舐め合いあった。それが、どうにもならないことと知りながら。

 

 

 

 

 

『私には苦痛しかありませんでした。他には何も欲しませんでした。

 

苦痛は私に忠実で、今も変わりはありません。

 

迸る感情が、自らの心を削り取ったとしても、苦痛はいつも私の傍に座り、見守り続けたが故に。

 

何故、苦痛を恨むことができようか?

 

苦痛よ、私はついに汝を尊敬するに至った。汝は決して私から離れることは無いが故に。

 

ああ、苦痛よ、私はついに汝を理解するに至る。貴方は存在するだけで美しくあるのだと。

 

汝は哀れで暗く、悲しい私の心の暖炉から決して離れなかったものに似ている。

 

私の苦痛よ、汝は私が最も愛する人よりも優しい。

 

苦痛よ、私は知っているのだろうか?私が死に就く日にも。

 

汝は私のそばに座り続け、私の心の奥深くで、私とともに、整然と、横たわらんことを。』*1

 

____________________________________________________

 

「……………」

 

自宅のベッドに顔を埋める。私はもう、現実を見る資格はなかった。誰もそうは言ってないが、そんな気がした。

 

私は満足してしまった。補修授業部の皆を救えて、皆を助けれて。私は、スクワッドを、ハジメを、見ていなかった。

 

赦されることでは無い。いや、私が赦せない。責任を放棄しながら、一丁前に多くを強欲に臨んだ私に、心底腹が立つ。そして、強欲だったのに、それを達成する力もない、未熟な私にも。

 

胸元を見る。それは幽玄ときらめいていたはずである。しかし、今はない。スクワッドにはあって、私にはないもの。これが示しているのは、繋がりは消えことである。これは決意であり、同時に甘えであった。

 

「うああ…?ああ…」

 

涙が出ない。枯れてしまったか、それとももう出せないほど私は堕ちてしまったのか。

 

自己嫌悪に苛まれ、声を出すことさえ(はばから)れる。もう、私が存在したことさえも無かったことにしたかった。

 

 

コンコン

 

 

突如、扉から音が響く。聞きたくない、1人にしてくれ。耳を塞ぐ、目を塞ぐ。もう、感じるという行動はいやだ。私は逃避した。

 

そんな事を考える私のことなぞお構い無しに扉は開かれた。入ってきたのはヒフミだった。

 

「アズサちゃん…」

 

「ヒフミ…」

 

目と目があう。ヒフミの目は綺麗だ。闇がなく、純粋な光のみによって構成されている。私もこうだったら、ヒフミが私だったら…。そんな思いで、痛みが耐えきれないほどに増える。

 

「…私には、アズサちゃんの気持ちは、全部は分からないです。アズサちゃんの家族のことも…想い人のことも」

 

私のそばに座り、子供をあやすように言う。その声はとても安心できた…。でも、それに頼っていいのか、私は悩んだ。それは、スクワッドらの冒涜ではないのかと。スクワッドらは、今も救われず、苦しんでいるはずであるから。だから、私は無を貫いた。

 

「それでも、です。それでも、アズサちゃんは仲間で、私達補習授業部の最高のお友達です」

 

私は反応しない。それが本当であろうと、虚偽であろうと、私はもう、何をするにも起きることはないから。

 

そんな私を気にせず、ヒフミは話し続けた。

 

「…元気をだして、そんな顔しないで。そんな事は言いません。だけど、私達の気持ちは、絶対に伝えたかったから」

 

ヒフミは俯いている私の背に手を回す。私は少し、涙が出そうだった。

 

「だから…好きにしても、いいんです。アズサちゃんがやりたいように…もう、数え切れないほど我慢した筈ですから」

 

私は過去を振り返る。我慢したこと。ハジメのことも我慢した。我慢して、皆がハジメと関われるようにした。本当は独り占めしたかったけど。

 

我慢した。訓練をやめたい気持ちを、皆と過ごしたいがために。

 

我慢した。自分の真に大切なものを守るため、全て投げ出したい欲求を捨てた。

 

私は、ハッと気づいた。我慢は、発散へ繋がっているんだ。

 

それだったら、もっと頑張らなきゃいけない。もっと、我慢しないといけない。

 

私は立ち上がる。寝てる暇はない。

 

「アズサちゃん…!…あ!後、大切なことがありました!」

 

…?なんだ?大切なこと…?

 

「アズサちゃん、これを」

 

差し出されたのは、捨てたはずの黄金のペンダントだった。

 

「なっ!!なんで…これを!?」

 

私は驚いた。確かにあの時、アリウスと戦う決意を決めた時に捨てたはずだった。

 

「たまたま歩いてる時に見つけて…そういえば、アズサちゃん大事にしてたなって…」

 

ああ、神よ。こんな事があっていいのだろうか?これは、まさしく私に与えられた奇跡であろう。

 

与えられた奇跡。それに、私は応える義務がある。

 

私はさらに決意を固く、固くした。これはチャンスだ。私に、私自身に決着をつける。

 

再びペンダントをつける。軽いが、重い重量。心地がいい重さだ。その重さは、沢山の物が詰まっていて、ひしひしと使命を感じさせるものであった。

 

「懐かしいな…」

 

ペンダントの中身を開ける。そこには確かに、皆が映っていた。

 

「アズサちゃん。これを」

 

顔元にハンカチを押し付けられる。気付かない間に涙が流れてしまったたらしい。

 

涙を流す。それは、私の枯れた筈の感情が舞い戻ってきたということ表すものであった。

 

「待っていてくれ…ハジメ」

 

届かないはずだが、届いているような気がした。そんな事を考えられるほどに希望を持てた私に、賛美歌をおくろう。

 

私達は歩みだした。後悔はある。絶望もある。それでも、前を向くことしか、頑張ることしかできないから。

 

私は、踵を強く蹴っていった。

 

____________________________________________________

 

"いたた…"

 

ふう、死ぬところだった。何とかアズサとともに抜けれたけど、やはり無理をしていたのか、体が痛む。

 

探しても、探しても、アリウススクワッドは見つからなかった。古聖堂の中にあったのは、ボコボコになった洞窟であった。

 

不思議なことに、ハジメのものと思われる足跡は途中で消え、消えた地点には青い鱗が散乱していた。

 

"まだだ…まだ、やることがある"

 

ティーパーティーの事、補習授業部の事、アリウスの事、ミカのこと、…ハジメのこと。

 

全て、全て私の不手際だ。生徒たちを正しく導くのが私の仕事なのに。

 

実のところ、私は自分に自信がなくなっていた。救えなかった。手に届いたのに、私は生徒を救えなかった。

 

己の力不足。その壁のようなものを、私の目の前に突きつけられている気がして、思わず胸を震わせる。

 

心臓が早鐘を打つ。あの光景が蘇る。いつもの様に話をして、話を聞いて。それでも、どこかへ行ってしまって。

 

私は慢心していたのだろう。私に力があると思っていたんだろう。だから、手を引くこともできなかったんだ。

 

生徒が戦っている。それなのに、ここで止まってはいけない。

 

"私は、先生なのだから"

 

今までずっと繰り返してきた言葉が、ナイフのように鋭利になる。

 

この言葉はまさしく薔薇である。美しいが、それと同時に危険でもある。

 

しかし、危険に平気で身を投じる。そんな人でないと、『先生』は務まらないから。

 

いつもより強く、体にムチを振る。飴はなくとも、ムチのみが私の人生である。

 

一室の部屋に、キーボードの音が、いつまでも、いつまでも、木霊した。

 

ピロン、とブロックしたはずのものから、メールが届いた。

 

 

 

"………レヴィアタン。っていうのか…"

 

それは、私の新たな目標の名前だった。それは、私の心の奥深くで、知っているような音調だった。

 

To be continued

 

*1
作 フランシス・ジャム 苦痛を愛するための祈り より引用







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