アリウスと原罪   作:パエリアさん

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ブルアカふぇす行こうかな…誘われちゃった


スバル実装マ!?やったぜ





第29話 後ろのものを忘れ、前のものに体を向けつつ

私、サオリが率いるアリウススクワッドは、たった一つの道へと進み続けている。

 

その心の内は、今までと違って、光がきらきらと、悠然にきらめいていた。

 

何があったか…それはそう、希望が見えたのだ。先の見えない道に、一筋の光が、ほんの少しの、蜘蛛の糸ほど細い光が、天の梯子のようにちらりと差した。

 

 

今までとは違う、小気味な足取り。新感覚に心が躍る気がした。ああ、今にでも踊ってしまいそう。

 

 

通路が閉まるまでは90分…それを逃せば、もう目的遂行は不可能…か。

 

 

そんな時間制限があるにも関わらず、私は久しぶりの嬉しみを感じていた。焦燥が、さらに熱を呼び出す。そんな連鎖で、私の熱は炎のようになった。

 

そんな感情を持ちながら、未だ暗い路地を進んでいると、何者かの気配がする。

 

「っ!リーダー!」

 

ミサキも分かったのか、静止の声を掛ける。その声を合図に、私達は銃を構えた。

 

建物の闇からぞろぞろと現れたのは、ガスマスクでくぐもった呼吸音、暗く染まった憎悪でたっぷりの視線。そう、これは、忘れることもない、アリウスの生徒であった。

 

「…スクワッド。か」

 

張り詰めた雰囲気の中、その中のリーダー格が口を開く。私はそいつを、見たことがあった気がした。…同じ飯を食った仲だ、それは当然だろう。しかし、これからを思うと心が痛み、熱が冷めるような気がした。

 

「…まあ、分かっているとは思うが、お前達を殺しに来た。それだけだ」

 

抑揚のない、冷たい声。しかし、その奥にはアリウスらしく、憎悪が詰まっていた。

 

「………」

 

双方、銃を構えたまま固まる。沈黙で、辺りを一気に干上がらせる。

 

ただでさえ張り詰めた雰囲気に、さらに緊張の糸が張り巡らされた。熱は完全に冷めて、冷酷へと変わろうとしていた。

 

「…いちおう聞こう。サオリ。どうして私達を…アリウスを裏切った?」

 

その質問は、私が考える義務があった。私は、アリウスの裏切り者。張本人なのだから。そして、その首謀者なのだから。それに答えないというのは、お門違いというものだろう?

 

「どうして…か。…私達は、頑張れないと思ったからだ。アリウスでは、マダムの元では…」

 

「…?どういうことだ」

 

彼女は心底不思議そうに、頭をかしげてそう言った。

 

 

「…人は、精一杯に人生を頑張らないと…人、足り得ないから。たとえ…全てが虚しくても…」

 

 

糸が一瞬緩んだ気がする。私は、現実ときちんと向き合えたと思った。成長を感じた。ああ、私は、逃避をしなかったのか。これは、私一人ではなしえなかったことだ。先生の顔が思い浮かばれる。本当に、すごい人だ。改めてそう思う。

 

「…ハジメ、か。そうだったな、お前らは随分とアイツにお熱だったな」

 

そう言うと、彼女は天を仰いだ。何か、遠い記憶を思い起こしているようであった。

 

天は暗く染まり、黒い雲が覆っていた。しかし、朧気に見える光芒*1は、儚く、弱々しかったが、確かな美しさを、ひとりでに発していた。

 

「変なやつだったな…なぜか怪我はすぐ治るし、飯とか、変なとこに拘るし」

 

変なやつ…そうだな。そうとしか言えないだろう。しかし、そうは言っているが、その声には暖かみがあり、幸福を確かに感じさせた。

 

「家を作ってた時は驚いたな…あちこち歩き回って、ヘトヘトになっては泣き言を言って…」

 

彼女はなんと、少しにこりと、蝋燭のような笑顔さえ見せた。その顔は、アリウスの教育からではない、彼女自身の、感情の賜物であった。

 

「でも…悪いやつじゃなかった。アリウスじゃ珍しくて、いつもニコニコしてて、希望が溢れていた」

 

変わってしまったハジメを思い出す。何かに狂った、狂気の目、ぐちゃぐちゃで、ぼろぼろな、変わり果てた体…それでも、面影はある気がした。そう、その声の、目の奥。そこには確かに、ハジメがいる気がしてならないんだ。

 

「…少しだけ、羨ましかった時もあったな。あんな光と言っていいような奴と一緒に暮らしているお前らが」

 

ガスマスク越しからでも分かる遠い目。きっと、私も同じ目をしているのだろう。

 

「…昔話は終わりだ。そんなハジメも、もういない。もう、遠くまで来すぎたから」

 

少し緩んだ雰囲気が、すぐにピリッと締まる。あの頃の空気はもう戻ってこないのだと、伝えられている気がした。

 

戦場に戻る。それは、別れの合図だった。

 

「ああ…そうだな。…行くぞ、アリウススクワッド」

 

重さに耐えきれずに勢いよく千切れる糸のように、私達は弾けるように飛び出した。

 

各々が生徒とかち合う。しかし、先生による的確な指示、ちょうどいいサポートによって、どんどんと進撃することができる。

 

…これが、『先生』の力…すいすいと進む。敵が面白いほど簡単に倒せる。

 

私は先生の力に感嘆を覚えるとともに、恐怖も覚えた。こんなのを殺そうとしていたのか。これが万全の空崎ヒナや、あの桃色の覆面を従えていたら、どれくらいの脅威になるかわからない。

 

背筋にひんやりとしたものが伝う。本当に、あの時に先生を頼る選択をしてよかったと思う。

 

…もっと早く、頼るという選択肢を見つけていたら、また違ったのかな。

 

「っ!やめろ、やめろ」

 

再び闇に支配されそうになる。それを理性で拒否した。…反省は、するにしてもすべて終わってからだ。

 

銃口を構える。ちょうど、真正面にいたのは、さっきのリーダー格であった。

 

「…結局、こうなるのか…」

 

そのリーダーは曇った目をしていた。その眼はアリウスの日常だった。たが、言の葉を発することは、少し珍しいと感じた。

 

「私は…お前に勝てないだろう。…それでも、私は戦う」

 

全てを諦め、流れに任せている目は変わらなかった。いや、変えることはできないのだろう。

 

 

 

「意味がない明日のため…価値がない道のために」

 

 

 

その言葉の終わりと同時に、彼女は猪のように、一直線に距離を詰めてくる。しかし、他の生徒たちとは違い、韋駄天のような速さで、風を切る音が聞こえる。

 

 

 

ドン、ドン、ドン

 

 

 

「くっ…」

 

鈍く、低く、少し残酷さをも匂わせる音。矛盾したような暗い閃光。それが3発、辺りへ響く。それは私から発せられていた。

 

「…………」

 

2発直撃。もう1発は防がれてしまった。

 

迎撃するには十分な弾数。それがヤツの頭にクリーンヒットした。

 

にも関わらず、ヤツはのけぞること無く距離を詰めるのに成功した。瞬間、ぞっとするような鋭い音が鳴る。

 

「錠前…サオリ…」

 

アリウス印の戦闘用ナイフ。一部赤褐色で、病人のようにやつれているそれは、随分と使い込まれたことを示唆していた。

 

それが首元へと繰り出される。初めての血を求めているように、ナイフはうねって私に向かう。私の脳は、さあっと、鮮明に血が引いていく音を感知した。

 

感じる死の恐怖。アリウスでは食事を取るかのように定期的に感じていた、馴染みの恐怖であったが、今はなぜかより明瞭であった。

 

ぐんぐんと近づくナイフ。もう、防ぐのは不可能に近い。私は少し、諦めすら感じた。…まあ、ここで死んでも、しょうがないことしか、しなかったしな……。

 

私は時を待った。いつもより、長く流れた。私の恐怖は、ひどく鋭かった。

 

 

 

 

しかし、驚くことに恐怖が届くことはなかった。

 

 

 

 

 

ヤツは突如として人形のように崩れ落ち、地に倒れ伏した。

 

「だ…大丈夫ですか…サオリさん」

 

どうやら、ヒヨリがヤツを撃ってくれたようだ。

 

あたりを見回すと、私たち以外には両の足で立っている者はいなかった。

 

私の真下に転がる少女を見る。マスク越しに見えるその目は、他のものとはどこか違う感情が見え隠れしている気がした。

 

なぜ、お前だけ…と、言われているような気がした。死を防げて、ほっとしなければいけないはずなのに、心のどよめきは抑えることはできなかった。

 

「…………」

 

私の光は絶えることはない。しかし、その光の先に、何があるのか。と、沈黙とともに思考の海で泳ぐことは、止めることはできなかった。私はもう、溺れてしまいたかった。

 

____________________________________________________

 

 

「…アリウススクワッド…」

 

思わず呟いてしまう。私達の裏切り者の名前。そして、これから殺し合いになる者の名前。

 

私は昔から奴らを蚊帳の外で見ることのみしかできなかった。

 

見なくても、肌でわかるほどのわかる幸福、吸い込むだけでむせてしまうような笑顔。

 

それら全てが、私の心を悲しみで染め上げていた。

 

「リーダー。そろそろお時間です」

 

遠い過去に自分をおいていくと、聞き慣れた声で今へ連れ戻される。

 

過去も薄汚れていたが、今はもっとだ。物理的にも、雰囲気でも、闇より暗いここで、私はぽつんと立っている。仲間はいるが、どうにも孤独が紛らわせない。

 

「ああ…そうだな」

 

「…リーダー。大丈夫ですか?お疲れのようですが…」

 

心配の声をかけられてしまう。これはいけない。私はリーダーなのだから、ここで弱いところを見せてはならない。

 

「大丈夫…だ。安心しろ」

 

誤魔化すのに失敗した気がした。声が裏返ってしまう。

 

「…アリウススクワッドに、思いがあるのはわかります」

 

しまった。見透かされてしまった。

 

「なぜ裏切ったか…なぜ私たちを置いていったか……なぜ、ハジメを守れなかったか…それが気になるのでしょう?」

 

「…そうだな。そのとおりだ」

 

ハジメ…突然アリウスに来たアイツ…万年曇り空のアリウスにある、唯一の太陽。

 

そうとしか言えなかった。努力することの虚しさ、生きることの虚しさ、楽しむことの虚しさ。

 

アリウスを作る全ての事を、彼は否定した。いや、受け入れたのほうが正しい。私はそう受け取った。

 

彼は教えてくれた。楽しみを、努力を、希望を。それは、私達が見えたのは、初めての光だった。

 

アリウスで初めて見た笑顔。それは、私の心を動かすのには十分な力であった。

 

そんなハジメのいつも側にいたスクワッドを羨んでいたのは事実だ。それでも、こんなに憎悪があったわけじゃない。

 

「本当…なんでなんでしょうね…アイツラは」

 

静かな声が響く。私達以外の声は聞こえない。それがアリウスの当たり前で、普通だった。

 

それを特別に変えたのはハジメだ。そして、スクワッドを変えたのもハジメ。

 

であるから、スクワッドと共にいても当然だと思ったし、私が共にいるべきでもないと思った。

 

それでも、守れないのは違うじゃないか?それは、アイツラの義務であったはずなのに。

 

私は信頼していた。スクワッドの力を、スクワッドの強さを。誰よりも、恐らく、スクワッドらよりも。

 

それなのに…それなのに。

 

「…話は終わりだ。任務に集中するぞ」

 

私は話を切った。これ以上吐き出すと、それが自分をもっと蝕んでしまう気がした。

 

ああ、ハジメ。貴方がこなかったら。私はきっとこんなことも感じなかったんだろう。

 

苦痛も、悲しみも、嫉妬も、きっと。感じなかったんだろう。

 

でも、貴方がいなかったら、喜びも、希望も、暖かさを、感じることもなかったんだろう。

 

どっちがいいかは分からない。それでも、私の成すべきことは変わらない。

 

「Vanitas vanitatum,et omnia vanitas…」

 

全ては虚しい。これは、これだけは、決して変わらない、不変の事実だと信じて。

 

To be continued

*1
星の光のこと





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