アリウスと原罪   作:パエリアさん

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第3話 与えられた祝福

俺は今、サオリ、ミサキ、アズサ、ヒヨリ、アツコという人につれられて、『マダム』という人の元へ連れて行かれている。

 

撃たれた傷はまだ痛々しく残っており、まともに歩けないので、俺は貸してくれた松葉杖で移動している…のだが…。

 

 

 

「「「………………」」」

 

 

 

………気まずい!!!

 

耐えきれんばかりの苦痛に、思わず転げ落ちそうになる。…理由としては、まず話すことがないのと、さっきまで俺を撃ってたから、俺はこいつらに恐怖感を持っていること。

 

さらに単純に俺が女性に耐性がないということ。これらの理由でとてもじゃないが話せない。ああ、冗談じゃない。

 

 

えっ?なんで女性に耐性がないか?

 

 

…まず俺は平凡すぎて彼女がいたこともないし、友達にもなったことがない。俺に魅力がないのが悪いけど…。

 

それにコイツラは異様に顔面偏差値が高い。俺を50とするとコイツラは300くらいはあるだろう。もはや違う生物だ。顔を見ることさえ、むず痒い緊張によって阻まれてしまう。

 

以上の理由で、耐え難い気まずさに耐えている中……錠前さんが言った。いや呟いた。

 

「……やはり私たちが怖いか?それはそうだ……私たちはお前を撃ち、怪我をさせたのだからな。」

 

その声には心配の声が混じっていた。しかし、混ざっているだけである。その内奥には、謝罪というものは無かった。

 

「………」

 

俺は沈黙によって、肯定とも、否定とも取れないように、意識的に返答をした。

 

「だが私は謝らない。私は私たちの場所に不審者がいたから撃っただけだ。私たちは、やるべきことをしただけだ」

 

彼女は当然だ、とでも言いたげに言う。だがしかし、俺もそう思う。俺はすっかり閉じ切られた唇を、硬い空気に抗いながら開けた。

 

「ああ、ぜひそうしてくれ、それがここの普通なんだろ?それだったらに俺を撃つのが、まあいわゆる『普通』ってことだ」

 

「でもそれはそれとして、俺の『普通』では怪しくても銃で撃たれたりしないからな、だからお前たちは謝罪する必要はないが、俺はお前たちのことを恨むぞ?()()()()()()()()()()()()()()()()

 

五人組は少し少しうろたえた気がした。歩みが寸瞬ほど停止した。俺は少し驚いた。はいはい、とでも流される予感しかなかったからである。

 

 

撃たれたことによって激情にかられることもなく、だからといって許したりはしない。自分の感情を割り切っているのは、このアリウスでは「特別」なことだったから。というの、後に知ったことだ。

 

 

 

「そ…そうか…わかった。それはそれで、これはこれ…か」

 

サオリは感嘆したように答えた。しばらくの間、彼女はそれを反復しながら、何かを思案していた。

 

そうこうしているうちに、人通りが増えてきた。『マダム』がいると言われる……なんだこれは?校舎…なのか?ずいぶんと神聖な雰囲気の…教会にも似ている。そんなところが見えてきた。

 

 

 

ヒソヒソと、少し懐かしいような声がする。これは学校の、転校生がやってきたときの、そう言った類の声だ。

 

 

 

「アリウススクワッドが誰かをつれているぞ?」

 

「ヘイローがない…あれは…男?」

 

「はあ…うるさい……どうでもいい……全ては虚しいんだ……何をしても…何があっても……」

 

………驚いたな。この世界には男のヒトはいないと聞いたからもう少しキャーキャーされると思ったけど……。

 

全ての人が、『どうでもいい』とでも言いたげな顔をしている。全てを諦めたような……希望がないような…そんな顔をしている。

 

俺はそれを見て、驚くべきことに、優越感を感じた。自分が肯定されているような気がした。自分は意地が悪いな、とも思ったが、そんな快楽は止めることはできなかった。

 

ていうかこいつら有名人なのか?アリウススクワッドってなんだ?…こいつらは、『特別』なのか…。そうか。

 

 

ギイイ

 

 

少し、ほんの少し、穢らわしい嫉妬という感情に心を染められていると、木と木が擦れて軋む音がした。

 

 

それは、新しい未来への合図だった。

 

 

「おお……」

 

中に入ると俺がいた世界では想像もできないような光景が広がっていた。

 

「おい!!何をしている!!休むな!早く銃を持て!!」

 

ロボットの教官が、四つん這いで倒れている生徒を鞭で叩きながら、そう叱責した。その生徒の服は血と灰で染められており、特に脚には空洞すら見え、とてもじゃないが健やかとはいえなかった。

 

「………………」ガチャ

 

しかし、これまた驚くことに、彼女は立った。ふらりとふらつくが、教官への反発心も、痛みも、何も感じられない、虚無の顔で立ったのだ。

 

「そうだ…お前らは兵士だ。休みなぞ必要ない。全てをマダムに捧げるのだ」

 

………学校とは思えないな。戸〇ヨットスクールもこんなにひどくはないだろう。

 

黒…いや青?訓練というか、もはや拷問を受ける彼女らの手は、何とも言えない色に染まっている。それは、ここの環境を嫌と言うほど表していた。

 

キヴォトスの人は耐久性が銃弾に耐えられるほどらしいのに、これは相当無理してるな。

 

………もしかしたらここに入学するかもしれないのか?絶対に嫌だな。確かに普通ではないけど……俺のやりたいことじゃない。俺のやりたいことは……あれ?なんだろう?まあ、とにかく嫌だ。嫌でたまらないよ。

 

 

 

コンコン

 

 

 

「マダム、すまない、失礼する」

 

そんな事を思っていると、木の音とともに扉が開かれる。どうやら、錠前さんが代表して説明するらしい。

 

こんなとこを統治してるやつか……どんなやつなんだろ?どうやら俺の心は、恐怖心や嫌悪よりも、好奇心のほうが強かったらしい。

 

 

ガチャッ

 

 

前の扉とは違い、高級な金属音が辺りに響く。そこにいたのは悪辣そうな男でもなく、ヒステリック気味な女でもない。全身が赤く、目がたくさんある、いわゆる異形だった。

 

流石に人かと思った俺はびっくり仰天。犬が人みたいになってたりは聞いたけどこんな見るからにやばい化け物がいるのは聞いてなかったぞ。俺はそれを見ながら、石のように固まってしまった。

 

「………なんですかサオリ?私の研究を邪魔するまで重要なことなのですか?」

 

イライラしているようにその異形……マダムは答える。

 

やっぱりヒステリック気味な女かもしれない。これは…あれだ、よくドラマで見る教育ママだ。きっと、不出来な奴は身体で分からせるタイプだ。俺はそう偏見した。

 

「……そこまで重要じゃないかもしれないが……ヘイローがなく、異世界から来たという男を保護した」

 

錠前さんは事務的に告げる。ぶるっと、手が小刻みに震えているのを見た。他にいるメンバーもそうだ。…こんな風に調教されるのか、いやだなあ。と思った。

 

「はあ……そうですか…ヘイローがないということは特攻もできませんし、特に研究することもない……そもそも、私の計画にはロイヤルブラッドさえあれば十分……」

 

マダムは心底めんどくさそうに喋る。

 

「適当なところに捨て置きなさい。それか、処分でもしましょうか?そんなもの、いてもいなくても変わらない。いや、いないほうが無駄も減りますよね?サオリ」

 

冷たい、冷たい声だ、心の底から俺に興味がなさそうだ。なんで残酷で、我儘だ。俺は激怒した。俺をなんだと思っているのだ。こいつは、命というものを道具としか見ていないのか。

 

「ッッッ……だが…こいつは貴重だぞ?恐らく…キヴォトス唯一の男子生徒だ」

 

錠前さんは少し反抗的に言う。なぜだろう?特に俺に思い入れもないだろうに。

 

「サオリ……あなたは私の言うことが聞けないのですか?教えましたよね?vanitas vanitatum et omnia vanitas……全ては虚しいのです。その者がいなくなっても、何もなりません」

 

「……………」

 

錠前さんが黙り込んでしまった。これを見るに…もうすっかりマダムに躾けられているらしい。いったい何をされたのか……。たぶん、ろくなことではないんだろう。

 

というかまずい、このままだと最高で一文無しで辺りを徘徊することに、最低で処分……たぶん殺されるだろう。

 

クソッ俺は一般人だぞ。キヴォトスで一人で生き残るのは不可能だ。どっちも死ぬじゃねえか。一体どうすればいいんだ。せっかく特別を手に入れるところだったのに、こんな所では終われない…。

 

 

 

ブワッ

 

 

 

これからの身の振り方について考えていると、突然黒いなんかがヒュッと現れた。

 

「クックックッ…本当にいいのですか?マダム」

 

なんだコイツ、全身真っ黒にスーツで、白い亀裂が入っている。おまけに笑い声が変だ。極小さい声なのに、腹の奥から出していることが自然と感じられる声。…マダムに負けず劣らず、とても不気味だ。

 

「どういうことですか?」

 

マダムが興味深そうに質問する。この声からして、どうやらこの2人は知り合いのようだ。

 

「彼は『特別』です。彼の魂には二つの存在があり、一つは取るに足らないものですが、もう一つは………すごいですよ。色彩に負けず劣らずの存在が潜んでいます」

 

早口で、興奮気味にあの黒い異形は語る。マダムは圧倒されたように固まっていた。

 

色彩?魂?何を言っているかよく分からないが、大切なことは俺が()()だということ。

 

なにか、心がとても晴れやかで、こんな状況なのに恐怖でなく、興奮で胸が高鳴っている。

 

「……それは本当ですね?」

 

「ええ、断言しましょう。ですから、処分するのはやめてください。研究対象として、彼はこの上ない」

 

「ええ、ええ、わかりました。しかし…対価は払ってもらいますよ?」

 

「もちろんです。マダム」

 

そう言った黒いのは、またしてもヒュンと音を出して、残像も残さずにどこかに消えていった。取り敢えず助かった。俺はそう捉えた。…いやしかし、まだ可能性はある。

 

「ふふふふふ…そこのあなた」

 

上機嫌になったマダムに突然呼ばれる。マダムの声は不気味で、俺の中学校にいたすぐ怒るヒステリックババアを思い出し、興奮が冷めた。

 

「名前は何というの?」

 

「佐藤……ハジメです」

 

俺は怯えながら言う。さっきの熱は完全に冷めてしまった。当たり前だ、さっきまで殺すかの瀬戸際の話をしてたんだから。

 

「ふむ…ハジメ、あなたは今日からアリウス分校の生徒です。励むように」

 

マダムからそう告げられる。よかった、とりあえず無事に生きることはできそうだ。

 

さっきの黒いのの言葉を心の中で復唱する。俺は特別なのか……日本のときはあり得なかったことに、心が自然と高揚する。

 

でも……ここの教育を受けるとあんな…虚しい目になるのか………それは嫌だな。だけど、なってしまったものは仕方ない。為せば成る、成らなくても、成るようには成る。それを信じよう。

 

 

俺は、ここ『キヴォトス』で生きていく決意を固めた。その日の空気は、鉛のように重かった。

 

To be continued




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