アリウスと原罪   作:パエリアさん

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石が無い……おのれヨースター!!




第33話 全ての人は、罪を犯した

"行くよ!アリウススクワッド!!"

 

先生の一言で、私達は花火のように広がりながら、目の前の敵へ立ち向かう。熱を帯びた愛銃とともに、確実に1発ずつ、複製(ミネシス)達へヘッドショットを決めていく。

 

さっきまであった虫のざわめき一つない静寂が、乾いた、重い音達で支配する。それはまさしく戦場で、久しい感覚を私に思い出させていた。

 

あれらは一体一体確実に潰れていく。どんどんと数が減っていくのが感覚でわかる。…やはり、先生の指揮は格別だ。体が勝手に動くようだ。

 

「行ける…行けますよ!姉さん!」

 

ヒヨリが希望を口にする。万能感に身を包まれる…。自信が、光が、爆弾のように発散される。

 

 

 

「ぐあああああ!!」

 

 

 

しかし、その希望の言葉は、黒い、暗い絶叫に近い雄叫びによってかき消された。

 

べちゃべちゃと嫌な音を立てながらこちらへ接近するのは、あの異形である。八本の触手を伸ばし、異様な速度で走ってきている。

 

「危ない!」

 

ミサキがロケットランチャーを放つ。これはかなり鍛えている生徒でも、たった一撃で卒倒させるほどの威力。その威力を信じて、私は複製(ミネシス)との戦闘を続けた。

 

 

 

ドゴン!

 

 

 

それは確かに異形へ直撃した。勢いよく、肺の底まで焼くような熱風が伝わる。…しかし、不快な足音は止まらなかった。

 

「なにっ!」

 

粘ついた触手が私へと伸びる。それは閃光のようであった。故に、私は反応ができなかった。

 

「うぐっ…」

 

触手が私を捕まえる…とんでもない力だ。ミシミシと、体が悲鳴を上げる。思わず声をあらげてしまう。

 

"サオリっ!!"

 

「…姉さん!」

 

じたばたと必死に抵抗する。しかし、もう体に力は入らない。皆も頑張ってくれているが、異形には何も効いていない。

 

ヒヨリのスナイパーが直撃する。しなし、岩のように動かない。ミサキのロケットランチャーが当たる。…私に火傷を負わせるだけだった。

 

私は痛みに耐えて、懸命に、そしてじっと目の前のものを見つめる。…表情が読めない。そもそも、顔というパーツがない。それはどこまでも暗く、未知であった。それは、果てしない宇宙のようであった。

 

そう思っていると、少し、ぞわりとした悪寒が、ゆっくりと背筋を伝った。

 

 

 

 

 

「あはは☆絶体絶命!ってやつかな?」

 

 

 

 

 

突如として、タバコとヨーグルトのように、この、暗くて重い状況に合っていない、明るくて軽い、電球のような声が響いた。…私は、この声を知っている。

 

「聖園ミカ…まだいたのか」

 

"ミカ……!!"

 

その顔は薄ら笑っている。私は分かる。それは、自分に対する、自己嫌悪の嘲笑である。

 

「…先生、サオリ、また会えてうれしいよ…ちょっと、ゆっくり話したいかな」

 

そう言うと、一瞬の間に私を拘束している異形の近くに移動し、玉のように身をかがめた。

 

 

 

「邪魔」

 

 

 

聖園ミカは、思い切り腕を振り抜き、その月のような拳をぶつけた。

 

轟く衝撃、割れる空間。その鱗と拳との衝突は、まるで矛と盾の伝記のように、その行為の中で、超常現象が起こっていた。

 

ミカは自身の身体よりもふた周りは大きいであろう異形を、拳一つで吹き飛ばした。その異形はたった一撃で、流星のように何処かへ消えていった。

 

私はなんとか無事だった。一緒に飛ばされることはなく、ストンと尻もちをついただけだった。…しかし、しばらく動けそうになかった。

 

「…いった〜い!何?!あの鱗!?硬すぎじゃんね!!」

 

そう言う聖園ミカの拳には、確かにほんのちょっぴり赤く染まってた。…あの女も、怪我をするのだな…。

 

「ま、いっか…先生、サオリ。ちょっと、我儘を聞いてもらうよ」

 

場違いな声が、調和するように低くなる。辺り一帯は、時が止まったかのような感覚に陥る。

 

「私ね…あのあと、どうやったらあなたたちに勝てるのか、考えてみたんだ…後、どうしてこんなことになったんだろうって言うのも、考えてみたんだ…」

 

目が野獣のように光っている。本能的な恐怖が、逃走を推奨している。しかし、私はそれを否定した。私のエゴのために。

 

「いやあ、私、頭悪いから、もう分からなくなっちゃったんだ…誰が悪いとか、誰のせいとか」

 

銃を構えた。トリガーには手がかかっている。それは、戦闘の合図のようであった。

 

「だから、さ。一回、本気でぶつかってみることにしたよ…さあ、行くよ」

 

白くくすんだ翼を広げ、私達に突進してきた。…なぜか、異形たちは動いていない…まあ、好都合だ。

 

「先生!頼むぞ!」

 

"…よし!皆、ミカにお灸をすえるよ!"

 

そう言って、私達は散った。…あの時と同じ隊列、私が前線に出ている。

 

「…あはは!私に接近戦で勝てるとでも?先生の力を持ってるからって、調子に乗らないでよね!!」

 

聖園ミカが銃を乱射する。その1発1発が即死級で、恐怖からか、緊張感が足をすくませる。

 

しかし、先生の指揮により、全てを紙一重で回避することができた。私は、リロードの隙を狙い、銃を引き抜いた。

 

「ウッソでしょ?!どういう動きしてるの!?」

 

「くらえ!!」

 

リボルバーを6発、頭に命中させる。これもまた、先生の指揮により強大化した銃弾。あの時とはわけが違う。

 

「うぐっ?!…つよっ!?」

 

聖園ミカはそういいながらもリロードをやめない…化け物め、まだ余裕があるな。

 

そこにすかさずヒヨリの銃弾が割り込む。それは聖園ミカの手の甲に直撃し、一瞬の隙を作り出した。

 

「…くそお!」

 

ミサキのロケットランチャー、ヒヨリのスナイパー、私の、いや、ハジメのリボルバー。すべてで聖園ミカを支配する。まるでワルツのように。

 

そうすると、ミカは銃を投げ捨て、私の元へ猛進してきた。すかさず頭に銃弾を打ち込むが、歯をむき出しにして耐えてきた。その姿は獣としか言いようがなかった。

 

「ふんっ!」

 

よほどトリニティのトップが出していいような声を出さず、闘争本能むき出しで殴りかかってきた。獅子のような荒れ具合に、私はたじろいだ。

 

しかし、体は勝手にその攻撃を避ける。右、左、左。体をよじって避ける。避け続ける。そう、木の葉のように。

 

「終わりだ…ミカ」

 

私は、それによって生じたミカの焦りにつけ込んだ。タイミングを合わせ、銃で殴りつけてカウンターをヤツの顔にぶち込んだ。

 

「…!ぐ、ああ」

 

あちらはとんでもない威力の攻撃だったため、私のカウンターもまた、甚大な強さとなり、彼女は吹っ飛ばされ、傍に存在する、花壇だったものに背中から倒れた。

 

「…た、倒した…んでしょうか?」

 

ふわふわと粉塵が舞う。その粒子はもう、運動を変えることはなかった。

 

「や…やっと…」

 

もう皆限界を超えている。極度の疲労が目に見えた。かくいう私も、もう立つのがやっとだ。

 

 

 

「……ふう、やっぱり、先生は強いね」

 

 

 

しかし、聖園ミカは何でもなさそうに立ち上がった。鼻血は出しているが、一度拭えばすぐに治まった。…化け物め。

 

"ミカ…セイアは、多分無事だと思うよ…だから"

 

「…先生は、どこまでいっても先生なんだね…」

 

その身体にはもはや覇気はなく、変わりに捨てられた子犬のように、しゅんと萎んだ気色が、ミカを包んでいた。

 

「私にはね…もう、戻る場所がないの」

 

光のない、ぐじゅぐしゅになった真っ黒な眼から、宝石のような涙をつうっと流して、そう独白を始めた。

 

「私はね、裏切り者で、魔女で…皆の敵で…もう、生徒じゃないの」

 

声を震わせる。肩が上下して、呼吸が荒くなる。

 

「だからね…私はもう、戻れないの…お姫様には、ティーパーティーには…もう、人殺しだから…」

 

"……………"

 

「なのに…なのに!なんで!!あなた達は希望があるの!?私は、全部失ったのに!!希望も、光も!!全部、全部全部全部!!!」

 

それは心からの叫びであった。悲鳴であり、苦痛であった。

 

「……本当に、なんでなの……?」

 

彼女はへたり込んだ。…彼女も、私達と同じなのだろう…。まるで、私を見ているような錯覚になる。思わず、私は手を差し出そうとしていた。

 

 

 

 

ピリッ

 

 

 

 

その瞬間、脳に直接やってくる電流。デジャヴ。私はそれを感じた。

 

「……!!!これ、は」

 

忘れもしない、これは…『声』だこれは、『悪魔』だ。

 

何かに入り込まれているような、頭をぐじょくじょにされているような気がする…。不愉快だ。本当に。

 

『そうです、可哀想なミカよ。あなたは何も悪くはありません』

 

この声…この偽物の(ほむら)のような、地の底の冷たい火炎のような、そんな声は…。

 

『あなたは自身の赴くままに行動したにすぎない…一体、何が罪と言えるのでしょうか?』

 

甘い、女の声。…ハジメをたぶらかした、あの声。実物はないというのに、私は殴りかかるところだった。

 

「そうだよね…私は…私は」

 

『その感情は正しい…ゲヘナが憎い。それは、いたって当然のこと…しかし、それは否定された』

 

"ミカ!!それに耳を貸さないで!"

 

先生がそう言ったものの、ミカが身を委ねるのを止めることはできない。すると、ミカの周りに異形達が集まってきた。

 

『妬んでいるのでしょう?自分と同じはずなのに、なぜか希望、光が、未来があるアリウスが…』

 

「…そうだね」

 

『おお、可哀想なミカよ…それは当然であり、それは当たり前な感情である…我には、それが理解できる…』

 

さっきふっとばされた異形も戻ってきて、ミカの周りを五芒星のように囲み、触手を地に突き刺し、何かをぶつぶつとつぶやいている。

 

『汝は我…我は汝…さあ、愚民どもに教えてやるといい。自分の罪を、原罪を!!』

 

その瞬間、蒼い鱗が、ミカの真下から無数に飛び出し、霧のようにミカを遮った。

 

台風のように鱗が荒れ狂い、目をしっかり開けることすら難しい。私は、細目でその現象を、網膜を介して脳の奥底に記録していた。

 

"…ミカ!!やめて!行かないで!"

 

「ぐう……ああ!」

 

あの塊に向けて銃を放った。そうすると、鱗は蛇のような形になり、地下へ穴を開けていった。

 

全てが終わった後、そこには何もなかった…複製(ミネシス)も、異形も、鱗も、…ミカも、全てがどこかへ行ってしまった。

 

"……くそっ!くそお!!"

 

先生が意味もなく、何度も、何度も拳を地へ振り下ろす。その手は葡萄茶(えびちゃ)*1で染まっていて、痛々しかった。しかし、そんな事を先生は気にしなかった。

 

「…とりあえず、行くよ。先生、皆…もう、時間がない」

 

"…………"

 

先生はミサキの声を聞くと、無言でゆっくりと立ち上がり、そこに立ち尽くした。

 

私達の希望は、またもや闇に侵されてしまった。…しかし、今と昔は違う…。

 

私達が、希望を守りきらなくてはいけないのだ。

 

私達はそれ以上言葉を交わさず、目的地へ向けて歩き始めた。その足取りは、いつもより早歩きだった気がした。ぐしょりぐしょりと、とにかく足音の心地が悪かったのを、よく覚えている。

 

To be continued

*1
赤ワインを表す色






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