アリウスと原罪   作:パエリアさん

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ブルアカふぇす外れた……ぴえん




第36話 顔と顔とをあわせて

「だから、さ。…死んでよ…サオリ」

 

痛みという火炎を纏わせた言葉で、それは私を刺す。しかし、私もまた、火炎なのである。

 

そして、本物の焔もまた、私に襲いかかる。打ち出された火はやがて強大な雄の獅子となり、狩りを行っていた。その目標は、私であった。

 

やはりというべきか、見事な炎。致死性を有するというのに、芸術的でもある。それは紫陽花のようである。しかし、そこに雨はない。あるのは失望的な渇きのみである。

 

 

 

「そうは…いかないんでな!」

 

 

 

偽りの光に向けて、私は引き金を引いた。不思議と、重く、苦しい反動はなかった。かわりに、まばゆい光が辺りを包んだ。それは、本物な気がした。

 

私は薄目になるしかなかった。それが必然であった。しかし、私はそうであるというのに、よく見えたのだ。十字架が、奇跡が。

 

吐き出される銃弾は虹のように透き通った十字となり、炎の獅子を引き裂き、消失させた。

 

「な…に?」

 

ミカは、それをぼーっと見つめていた。次の行動に移れないほどに、衝撃が支配していたのだろう。

 

さらに不思議なことに、私はそれの使い方を理解していた。超常現象のはずだ。私自身もとても驚いていて、理解なぞ到底できそうにない。しかし、とにかく使い方はわかった。

 

祈りだ、それは、祈りが必要なのだ。何でもいい、とにかく祈りが必要である。

 

媒体は何でも良い、対象も何でもいい。ただ、とにかく祈るんだ。それがエゴであっても、それが祈りなことに変わりはない。

 

私は、いや、ハジメが肯定された気がした。初めて、この世界にいても恥じないと思った。

 

「はは…奇跡、か」

 

乾いた笑いとともに、ミカはそういった。奇跡。私が忌み嫌っていたもの。いや、今でもそれは変わらないのかもしれないが、でも、確かに私はそれに生かされている。だから、否定はできない。

 

「本当に忌まわしいよ。どこまでいったって、光はついて回るんだね…」

 

業炎がさらに激しくなって、辺りを焼き尽くす。しかし、私に熱は感じなかった。あるのは、透き通った祈りであった。

 

「憎い、憎い、憎い、憎い!おお!神よ!!」

 

途中から声が別人へと変わる。ミカから、おそらく悪魔へと変わる。それは終わらない嫉妬であった。底が見えない、そして暗い、深淵の地獄であった。

 

「□□□□よ!私を創ったものよ!こやつを堕としたものよ!!聞いているか!!」

 

それは嫉妬であり、傲慢であった。海であり、氷塊であった。その両方が、何かへ何かを訴えかけている。

 

その何かは分からない。分かろうとすると、深海のような、植え込まれた本能的な恐怖によってはじかれる。それは、禁忌であった。

 

「なぜ邪魔をするのか!?なぜ私たちを認めない?!私達にも、権利はあるはずだ!!」

 

声が、ここを揺らす。どこか神秘的で、どこか気味の悪い怒りで空っぽのアリウスを染め上げる。私は、まさしくそれを止めるための礬水であった。

 

私は祈った。きっと、初めてなのだろう。心からの利他的は。それが持つ魔力に、心奪われそうになる。ああ、こんな事を思えるまでに、私は再生したのだな。それは、まさしく奇跡である。

 

「…退け、悪魔よ」

 

私はそう言ってやった。その言の葉は、自然と、開かれた掌から液体が流れ溢れるかのように、するりと出てきた。それは、言わされているような気さえした。

 

そう言うと、目の前のものはブルブルと肩を小刻みに震わせ、こちらを深い目で見つめる。その目はまるで、堕ちた星のようであった。

 

「黙れ…ヤツの真似事をするな…たかが一介の人の子ごときが!…いや、人の子でも()()か…ふふふ」

 

自分の言葉に吹き出す。それは御法度とされている事であるが、今ここでは合法である。それにしても、会話が通じない。言葉が通じる魚と話しているかのようだ。

 

祈りをさらに強める。それは、過去最大の慈愛であった。…この愛を、もっとハジメに伝えられたらな…。

 

後悔を必死に振り抜き、引き金を引く。日常的な行動が、今は何もかも新鮮で、目新しい。

 

光は収束し、発散された。その形は、逆十字であった。それは始まりを告げる前奏のような、そのようなものだった。

 

「…はあ、いつの時代も、気持ちが悪いな。人の子は。特に、使徒はな!!」

 

ミカのようなものはそう叫び、焔を再現する。それはまた獅子となった。そして、暗い光であった。

 

二つの光、冷たさと、暖かさ。罪と愛、痛みと赦し。対比の代表のようなものが衝突する。それは科学では証明できないほどに、美しかった。

 

私は画家の、あるいは歌家の気持ちが痛いほどわかった。これを心の奥底で保管しておくだけというのは耐え難いほどまでに、これは芸術的だ。

 

同じ存在のコントラスト。辺りには光のみがこだましているのに、闇も、灯りも、どちらもはっきりと観察できる。それは、瞳のみではなく、全身で感じ取れた。

 

光が光を貪り、光が光を吐き出す。それは永久機関であった。光が、光を生み出し続ける。

 

私は肌で理解した。これが、これこそが世界なのであると。これこそ、私たちの起源であるのだと。原罪と赦しが混沌と混ざり合い、できたのが私であり、全てであるのだ。

 

 

 

ぐるぐる、すとん。

 

 

 

そして、それは終幕を迎えた。その音はFine(フィーネ)であり、感動的だった。自然と、頬を水が伝う。

 

ああ、終わりとはこんなにも呆気ないものなのだろうか。いくら何をしても、努力しても、こんなにも虚しいものなのだろうか?

 

漠然とした恐れが涙を引っ込ませる。だが、私は思い出した。その内容は深く、入墨のように私に刻み込まれていた。それは、私からはどうやっても消せない。いや、消すという意思すら湧いてこない。

 

 

 

「Vanitas vanitatum,et omnia vanitas…」

 

 

 

それが答えだ。それが解だ。私の、願わくば、私だけの。だからこそ、と努力する。精一杯になる。それであった。

 

「ほう?コヘレトか。趣味が悪いな。それとも、受け売りか?」

 

くつくつと微笑を浮かべながら目の前の悪魔は何かをつぶやく。しかし、はっきりとは分かれなかった。

 

私は、ひたすらに集中し、腰掛けた。

 

「黙れ。お前との間に、かわす道理はない」

 

できるだけ虚勢を張る。私では解決はできない。それは分かっている。よく分かっている。人はいつか滅びることのように、それは必然であるからだ。

 

しかし、私は頼ることができる。そして、耐えることができる。だから、恐怖を必死に叩くんだ。

 

「おお…恐ろしや恐ろしや。まるで、どこかの漁師のようであるな?」

 

口を限界まで割かせて、ニヤリと笑う。それは余裕であった。

 

「…いくぞ」

 

私はことばを握る。それは剣となって、私にしっかりと佩用(はいよう)*1された。私は、それを知っていた。

 

ぎゅっとリボルバーを握った。それは、ハジメの匂いがした。味がした。触感がした。それはまさしく、安堵であった。

 

私は、守りに包まれた。祝福でもあるのだろう。それは偉大な強さとなって、孤独な私の心に寄り添った。

 

ハジメが、いつもそばにいる。そんな気がしたから、私はもう、昔のように震えることはなかった。それは、紛れもない救いであった。

 

 

 

 

_________________________________________________

 

 

 

 

私は聖園ミカ。トリニティのティーパーティーって言うところに所属してるんだ!そこはね、とってもキレイで、とっても楽しくて…とっても、とっても…。

 

はは、こんな事を言っても、どうにもならない気がして、空元気でさらに落ち込みそう…。

 

ああ、痛い、哀しい、嫌だ。苦痛を我慢できない自分にさえ、嫌気が差して、飛び込みたくなる。

 

でも、その勇気さえわかない。自分は弱い人間なの、それは、私が一番よく知ってるし、たぶん、私が一番嫌いなものだと思う。ゲヘナよりも、サオリよりも。

 

サオリは今、向き合っている。私と、向き合ってくれている。極めて利他的で、極めての善行だ。

 

それにさえ、嫌気が差す。これは嫉妬なのだろう。当然じゃんね?自分ができない事を軽々とやってのけて、見せつけてくる。それは人間である限り、嫌なもの、そう思う。

 

私は一つの結論へ至った。じゃあ、人間じゃなくなればいい。という結論に。

 

人でいる限り、原罪からは逃れられない。それが宿命で、運命で、神の力であるから。

 

でも、私はそれを否定する。それは耐えられない苦痛で、私を虚無にしていた。もし虚無に完全に染まったら…考えたくもない。恐怖の風に、私は直面した。

 

痛い、痛い、痛い。風が現実という砂を乗せて、私に降り注ぐ。それは私を殴打した。憎悪をたっぷりと込めて。

 

私はすがるようであった。私に残されたのは、花弁のない薔薇であった。はたして、それに、意味はあるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

『おお、ミカよ。堕ちた星よ』

 

その瞬間、真っ黄色の、下品な光が私を染め上げた。私は、それを拒否するほど、つるつるではなかったようだ。

 

『汝はよく我慢した。よく耐えてくれた。それは天使にも及ぶであろう』

 

こんな私を認めてくれるもの。それはこの声だ。いや、私を見ていないのだろうな。きっと。しかし、認めてくれていることに変わりはない。

 

私は随分と魅入られたようだ。業火によって体を憎しみで染め上げ、血と力で交響曲を奏でる。それは辺りを熱狂で染める。まるで、かの有名な作曲家のようである。

 

『流されるのですよ。ミカ。それが大事です。まんまるになって、転がり続けるのがこの世の答えなのです』

 

言われたとおりに、転がる。欲望を隠さないようにして、全てを発散させる。

 

ああ、天にものぼるような気持ちだ。とても人に見せられないような、そんな顔をしてしまっている自信がある。

 

そうだ、全ては虚しいの、それが真理で、絶対。私はそうは教わらなかったけど、自力でそこへ辿り着けた。

 

可哀想に、アリウスの子は。ゴンドラで辿り着いた頂上と、歩みで着いた頂上は、まるで違うことを今にでも教えてあげたい。それは、承認欲求のようであった。

 

頂上へと()()()()()。楽で、喜ばしいこと。試練なぞ、神は与えない。なぜなら、私達を愛しているはずだから。

 

ああ、それは傲慢なのか?いまの溶け切った脳回路ではそう疑問を呈すのが限界であった。

 

だけど、それがそうであっても、そうでなくても、やることに変わりはない。落下は、止めることはできない。滅びのように。

 

目を瞑ってしまう。極大の背徳感に、私は大いに興奮した。ぶるっと体は震え、無数の鳥肌が立つ。

 

目を瞑る事、現実から逃避すること。それは罪である。殺しよりも、裏切りよりも、それは重い罪である。地獄行きは免れない。最下層に行こうとも、神に文句は一つも言えないであろう。

 

でも、地獄は『人』が行くところだ。私はもう、人ではない。私は、私なのだ。

 

ぐしょぐしょとショートケーキの上を踏み潰しながら進んでいるような感覚だ。快楽を帯びながら、侮辱を続ける。それは、私にとっての喜びである。

 

「はは…あはははは」

 

おっ!これは笑いだ!ああ、心から思い切り笑ったのは、セイアちゃんと、ナギちゃんと、一緒にお茶をした時以来だ!

 

懐かしい笑い。それに感動すら覚えたのか、私は大粒の涙をだらしなく垂らした。笑いはまだまだ、止まりそうにない。

 

 

 

 

おえ、おえっ。

 

 

 

 

幻想が儚く消えて、かわりに気持ちが悪い吐き気が出る。吐いてみるが、何もでない。ただの空っぽだ。

 

笑いを、あれとあれを同じにした自分がとても憎い。私は、私自身で記憶を穢していた。

 

子供の頃に作った工作を、殴り、蹴り、踏み潰して、台無しにしているような感覚がした。そして、それを他責思考にする自分にも慄いた。

 

随分と救いようがない。死んでしまえ。いや、消えてしまえ、この、悪魔が。

 

ああ、そう言ってるのも、もう私しかいない。私をしっかりと見てるのは、もう、私以外に誰もいない。

 

真の孤独。それは悲しかった。痛かった。それでも、それはまだマシな気がした。だから、耐えることしたんだ。

 

私は転がり続けた。行先は知らない。果たして、堕ちるのだろうか、昇るのだろうか。それを確認する術も、もう私は知りたくない。

 

 

 

ころころ、ころころ。

 

 

 

終わらないソロパートに、私は常に辟易していた。それでもまだ、退館時間ではない。

 

私ただ、苦痛の時間を眺めることしかできなかった。それは果たして、罪であろうか?

 

私の生きる意味は、きっとその答えを知ることなのであろう。

 

To be continued

*1
身に帯びさせること





□□□□の中身は……考察してみてください。


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