アリウスと原罪   作:パエリアさん

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文章力が……語彙力が………


第37話 Quo Vadis, Domine?

雷鳴の如き騒音が鳴り続ける。それは雲のように隠され、朧げであった。

 

私はどこまでも傷ついた。そして、垂れ流した。

 

「はははははは!!どうした人の子よ?!使徒よ!?私なんかに殺されちゃあ、一体どうするんだ?!」

 

酷く上機嫌だ。その高い声色が私を刺激し、力へと変える。

 

「ミカ…!目を、覚ませ!!」

 

心からの、切実な思いだ。打算なのか?偽善なのか?いや、そうであっても構わない。私は絶対的に知っている。傲慢なのであろうが、知っている。人が空気を吸わずには生きていけないように、ただひたすらに知っているのだ。

 

それは必ず救いとなる。光となる。鮟鱇(あんこう)の光ではなく、太陽となる。それは確信できた。

 

だからこそ、私は精一杯になる。より良い未来を描くため、何もかもをも惜しまない。そう生きていくことが、私自身の証明となる。

 

引き金を引き続ける。どうやら、リロードはいらないようだ。まるで言葉のように、思ったとおりに光を奏でることができる。

 

「甘いのだよ!このクソガキが!」

 

その時、しゅんと残光が私を貫いた。捨てたはずの嫉妬に支配されそうになる。それは、内にある焔を覚醒させる、発火剤のような役割であった。

 

嫉妬の炎に焼かれる。身体も、心も、焼き尽くされそうになる。しかし、それには心地よさがあった。それは、暖かさであろうか。

 

ああ、皆と湯船に浸かったことを思い返す。言葉はなかったが、確かに私達は繋がった。お湯という媒介を通じて。

 

それと同じように、今度は炎を媒介として、本能…いや、罪と繋がる。火照りが身体に満ちて、酔ったような気分になる。

 

だが、私は水風呂の在処を知っている。それは、人であるならば誰でも、例外なく持っている、理性である。

 

理性に浸かり、火照りを冷却する。そして、さらなる快感が全身を緩める。

 

曖昧から、明瞭に。酩酊から、素面へ。悪魔から、人間性を取り戻した。それは、祓いのようであった。

 

のぼせる。という行為は危ないものだ。目の前のものも、そうなっている。

 

「ほう?耐えたか…まったく、忌まわしくて、妬ましい。本当に嫌いだ。人というのは」

 

面白くなさそうに、ヤツはそういった。実験が失敗した研究者のように、落胆は隠せなかった。いや、私に対して隠す理由も見つからなかったのであろうか。

 

あたりの熱気がさらに込み上げる。私の心は金のようであるが、体は利丟謨(リチウム)のようでもである。限界は近づいてきていた。

 

ああ、もどかしい。自分に失望する。こんなところで終わりが見えるとは、そして、失望する自分にも苛立つ。こんなところで諦めを感じるのかと。

 

片目で物事を見ているかのように、届きそうなのに届かない。いくら手を伸ばそうと、いくら体を引きちぎろうと、決して届かなかった。

 

それでも、絶望はなかった。私は、期待することができたんだ。この世の中に、仲間に…先生に。

 

火は近づく。火傷の痕が、また再現される。火は祝福を食い破り、私を何処かへ運ぼうとしている。

 

「…これでは、どちらか魔女かわからないな?え?サオリ。ジャンヌ・ダルクを知ってるか?知らなかったらいいのだが…」

 

言葉がかすれかすれに聞こえる。もう、体は言うことを聞かない。

 

 

 

 

ぱたり

 

 

 

 

私は寝ころんだ。ヤツから見ると、逆十字となっているだろう。

 

これは、最後の抵抗だ。時間を稼ぐ、最後の抵抗。できるだけ生きて、生きて、生き抜くんだ。これは、私の生き方とも適合していて、最高の死に方だと思った。

 

走馬灯が脳裏をよぎる。満点とは言えないが、悪いとも言えないだろう。もちろん後悔は尽きない。しかし、それも今は趣となって私を祝福してくれていた。

 

でも、願わくば、最後は貴方の声を聞きたかった。貴方に看取られたかった。ハジメよ、私の愛する人よ。

 

神よ、聞いていますでしょうか?これは、私の最後の祈りで、最後のお願いです。

 

ハジメをお救いください。それだけです。それ以外に、何も望みません。そうです、私を地に落としても、悪魔にしようとも、構いません。

 

けれど、これだけはお願いです。あの、素晴らしい人間だけは、生かしておいてください。私のような悪魔のために、死なせないでください。

 

傲慢な祈りを天に捧げて、私は新しい場所に希望を見いだして、意識を光へと落とした。

 

 

 

 

 

 

 

「Vanitas vanitatum,et omnia vanitas…」

 

 

 

 

 

 

 

天への鍵は、この言葉である。私は、主からこれを受け取った。それは、希望であった。

 

火が中指へ触る。やはり、熱い。

 

中指、薬指、人差し指、手、足、腹、胸、全身へ火が回る。やはり暖かで、美しい。

 

この世の全ては、芸術だ。蟲を気持ち悪いというものもいれば、美しいと言うものもいる。そうだ、そんなものなのだろう。真に醜いものも、美しいものも、存在しないのかもしれない。

 

断言できないのが、この世界のいいところだ。私は、芸術はしらないが、とにかく、そう思った。

 

火が頭へと巡る。…ああ、やはり、美しいな、炎は。

 

溶けて、焼けて、消えた。私は。

 

 

 

………………

 

 

 

 

……………………そのはず、だった。

 

 

 

 

 

 

 

「貴様…貴様!!私は、しっているぞ!!その力を!神秘を!!」

 

ヤツの言葉がキンキンと響く。いつの間にか、火による快感も、痛みも、消え去っていた。

 

辺りには三つの人が立っていた。それは、めいめいと、優しい灯りを放っていた。

 

「先…生?」

 

"……………"

 

 

 

その手には謎のカードが握られていた。それはキラキラと、サファイアのように輝き、同時に、金剛石のように硬かった。

 

 

 

素朴ながら絢爛としているそれは、確かな深みを、神秘を、私達に感じさせた。

 

「聖遺物…?祝福…?くそ!くそくそ!!またか!またなのか!なぜだ!」

 

再び火をつくりだす。ごうごうと喉を鳴らす獅子は、じっと先生を見つめている。

 

「燃え尽きろ!預言者よ!!」

 

どん。という音ともに、三つの炎の獅子が襲いかかる。先生は、それを冷たい目で見ていた。その目は、ただ、光景を反射しているだけであった。

 

 

 

すっとカードを掲げる。私なんかよりも、ずっと強い光をばらまく。それは、剣のようになり、獅子を切り裂いた。

 

 

 

「あ…あが…ぐぅ…あ」

 

ヤツは声にもならない声を出しながら、その光景を見ていた。目を揺らし、唇をガクガクと震わせながら。

 

かくいう私も、これに畏敬の念を感じていた。目にすることさえ、良いのか、という焦りに満ちる。

 

"…ミカ、きこえる?私だよ"

 

「っ!!」

 

その時、ヤツはミカを漏らした。いや、ミカが出てきた、という方が正しいだろう。

 

ミカは感情という牢獄から顔を出した。それは、奇跡的な一歩であり、明るかった。

 

"ごめんね、ミカ。私が、向き合わなきゃいけなかったのに"

 

スラスラと出る、懺悔の言葉。先生らしくない。大人らしくない。しかし、それこそが本当の大人というものなのであろう。

 

責任と向き合い、覚悟を持ち、芯を持ち、愛を振りまく。それこそが一人前であるのだろうか。私は、それが恐ろしく遠く感じた。

 

"だからさ…帰ろう。一緒に"

 

甘い、しかし、綺麗な言葉。綺麗事とも捉えられるが、それを再現するだけの力が、その言葉に確かに込められて、放出され、増幅する。

 

「先生…でも…」

 

ミカの声がする。ヤツの、低く、ヒステリックな声ではない。ミカの声だ。私は感動すら覚える。ミカの声は、ここまで美しくあったであろうか?

 

 

 

聞いたことはないが、オペラのような気がする。素朴な豪華さ。それが似合う色は、いったい何色だろうか?

 

 

 

"でも?確かに、そうかもね。ミカは悪い子だ。不良生徒だ"

 

諭すような声。説教をするような声。その声には愛があるし、鮮やかでもある。

 

ペタペタと張り付く言葉に、私はいいな、と思った。私も、もっと、もっと話を聞きたい。そう思わせた。

 

 

 

 

「ああああ!巫山戯なふざけるな!!貴様に何がわかる!?ミカの、何がわかる?!生まれたときから、一緒にいたのは私だ!!」

 

 

 

ヤツの声が響く。しかし、体はミカであった。そいつは言葉しか話せない。どこか滑稽でもあった。

 

"…確かに、私は少ししかミカといなかったけど…あなたよりは、きちんと向き合った自信があるよ"

 

ミカと話すときとは違う。突き刺すような、撃ち込むような、そんな声。私はそれに底冷えした。

 

 

 

辺りには氷が広がる。火は、もうつきそうになかった。それは、ヤツの抵抗方法を失ったことを示していた。

 

 

 

私は少しヤツに同情した。気持ちは、他人ながらにもわかった。あんなにまくし立てられては、ひとたまりもないだろう。

 

「先生…私は…私は…」

 

ミカが涙をこぼしながら呟く。いつの間にか、黒い服は純白へとなり、烏のような翼は白鳩のような、明星のような光あふれる白に戻っていた。いや、それどころか、昔よりも光であふれていた。

 

 

 

 

"ミカは、魔女じゃないよ"

 

 

 

 

「やめろお!!知ったような口を聞くんじゃあないぞ!!」

 

最後の捨て台詞、それを発狂した。しかし、それは鼠のように小さく、弱かった。

 

 

 

 

 

 

"…退け、悪魔よ"

 

 

 

 

 

 

その言葉はあまりにも強かった故、ついに悪魔を滅ぼした。ミカの闇が、どんどんと崩れ落ちる。

 

目に光が満ちる。髪艶がこれでもかと輝く。それは、ティーパーティーの聖園ミカであった。

 

悪魔の声は、もう、聞こえることはなかった。それは閉じ込められ、幽閉されたのだ。地の底、氷の塊の中へ。

 

「…先生、本当にいいの?こんな、私で、こんな、醜い生徒で…」

 

"勿論、その前に、ミカは醜くなんてないよ"

 

夜は堕ち、日が昇った。もはや雲さえ、そこにはなかった。

 

僅かな遮蔽すら無い光が、溢れんばかりに与えられる。しかし、焦げることはない。それは、暖かさを与えるだけであった。

 

これが、本当の光だ。それは理解できた。改めて、身で実感した。

 

"チャンスがないなら、私が作る。できないなら、私が手伝う。それが、先生だから"

 

先生は跪くミカに手を差し伸べた。ミカは、それに見惚れるようになっていた。

 

光と、光が、濃厚に、潤沢に、混ざり合って、溶け合った。偽りは去った。

 

"この先に続く未来には…無限の、可能性があるのだから"

 

眩しくない光。それは極めて思いやりがあった。たとえ、光を知らないものであっても、それは過剰ではない。

 

畏怖すら覚えるそれに、私は付き従う覚悟を決めた。私は、網をかけられた気がした。

 

 

 

『…黙りなさい、あなた達』

 

 

よく知っている、大人の声。嫌でたまらない、香水の香り。いや、実際には匂いはないが、声から漂っていたのだ。

 

「…マダム」

 

ミサキがそう呟く。私たちの最初の大人。痛みの根源。そう思えるもの。

 

『そのような戯言を呟くとは…先生、失望しましたよ』

 

その言葉に、怒りが湧く。何を言っているのだろうとも思う。身に力がはいり、拳がぷるぷると震える。ああ、耳でも切り落としてやりたい、そう思うほどであった。

 

『もう、儀式を始めてしまいましょう。それがいい』

 

「…夜明けまでは、まだあるぞ」

 

まあ、わかっていた。彼女は私たちのためにわざわざ約束を守るほどできていない。しかし、焦りはでる。

 

そうであっても、私たちには先生がいる。それはとても強い支えであった。梁のように、崩れを防いでいた。

 

『ふふふ…私が約束を守るとでも…?行きなさい、バルバラ。私の、神となるものの使徒となり、奴らを滅しなさい』

 

一風変わった存在。そこに意思はない。幽霊のような、いや、それ以下の、自然現象でもない、そんなものであった。

 

青を基調とした肌。長い髪。そして、真っ黒な服。

 

顔はガスマスクでよく見えない。それであっても、恐らく無表情なのであろう。そう確信できる。

 

"…さあ、サオリ。ごめんだけど…"

 

「ああ、わかっているさ。大丈夫、先生がいれば」

 

私は銃を持つ。祈る、それだけだ。

 

「さあ、決着をつけるぞ…ベアトリーチェ!!」

 

私はまだ死ねない。まだ早い。救えるだけ、救いたい。私は、慈愛を知った。そして、光を知った。

 

これが、これこそが、先生なのであろう。そして、私は岩なのである。ハジメと、先生こそが、私を岩にしたのである。そして私は、そのために剣を抜くのだ。

 

To be continued






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