アイドルマリー引けました。20連で出てきて偉いね〜
第40話 成し遂げられた
私達、アリウススクワッドは登った。その歩みは、遥か昔から続いていた。思えば、生まれたときから、私達はこの場所へと歩んでいたのかもしれない。
私達は常に原罪を背中に背負っていた。それを持ちながら歩むことは、贖罪への道を表していた。しかしながら、罪は、私には耐えきれないほどに重かった。
何度石を投げられたことか。何度鞭を入れられたことか。その道中は、とにかく苦痛に染まっていた。
空が夜になり、光が色あせた事もあった。俯いてしまって、光が見えなくなる事もあった。しかし、それでも、この長い旅路の果てに、私達は贖罪へと至るのだ。
贖罪は、今日に終わる。必要なものは、愛と、釘と、血である。
ああ、ハジメ。私の愛する者よ。あなたは見ていてくれるだろうか、私の努力を。認めてくれるであろうか、私の献身を。
貴方がいるのは、どこですか?この世の果てですか?それとも、常世ですか?それとも、虚無ですか?
どこであっても、それが、さらなる苦痛を呼応させようとも、私は貴方について行って、そこで果てます。それが、私の使命であるから…。
だから、ハジメ…お願いだ……私に…姿を、見せてくれ……。
歩きながら祈る。ああ、痛みが残った。まるで木屑のように、ちりぢりと。なんて汚いのだろうか。苦痛も、私も。
ハジメはいる。絶対に、いるはずなんだ。証明もできる。光は潰えない。だから、あと少しなんだ。
希望が宿る。それが間違った希望でも問題ない。その道の果てが、死であっても、私は構わないとも感じた。…私は、恐怖には打ち勝てない。これ以上失う恐怖には。
先生は、それすらも正しいと言ってくれた。それこそが人間であると。恐怖に打ち勝てない弱さこそ、人である証明となると。だから、私は必ずやハジメを見つけ出さなくてはならない。ハジメに、正しさを伝えるために。
それは、利他的だろうか?それとも、自己中心的だろうか?だが、そのどちらであっても私は止まらない。止まることはできない。
「……待ってろよ、ハジメ……あと、少しだから」
私はそう言った。自分に言い聞かせた。より光が鮮明になった気がして、気分がいい。昇りゆく朝日が、私達を祝福しているようだ。
血が流れるだろう。苦痛もあるだろう。しかし、それが世界を、私たちに赦しをもたらすのだ。そう考えると、それすら歓迎だと捉えられる。
「…着いた……ここだよ、先生。ここが、バシリカ」
ミサキの声が反響する。そこにあるのは、荘厳な、重厚な扉。その裏にあるものは想像すらできない。地獄の門とでも、言い表せるような扉であった。
"……行くよ、皆。準備はいい?"
すうっと息を吸い、先生はそう言った。その声には緊張が見て取れる。これが終着と言うことを、先生も分かっているようであった。
そう思うと、急に拍動が苛烈になった。これから私は、一体どうなるのだろう。私は、私であるのに、贖罪なんてできるか?
そのような疑問が血流とともにドロドロと溢れ出す。こんなところまできて、私はまだ迷いを捨てきれないのだろうか。
自分の弱さに心底腹が立つ。しかし、それは無意味なことだ。
私はやるべきことがある。ただ、それに集中するのみでしか、私は報いる事はできない。だから、私はそんな考えを捨てた。
「…ああ、先生。大丈夫だ。皆も、どうだ?」
私は二度と、光を見失わないと決めた。両の目で、しっかりと見る。それは、大きな進歩だ。
「…大丈夫」
「だ…大丈夫、です……」
ミサキ、ヒヨリ。…皆には、幸せになってほしい。皆で背負った罪だけど、それは私が一番避けていた。私が、一番受けるべきなのに。
その分、皆には幸せになってほしい。罪を背負った分、普通の、平凡な青春を送ってほしい…それが、私の最後のお願いだ。
"よし…それじゃあ、開けるよ"
先生は開けた。その扉を。その扉は、凍っているかのようだった。まるで、その背後に、氷漬けの罪人でもいるかのように。
ガチャ
ゆっくりと開けた視界。それは、衝撃でしかない。
一面の蒼、一面の闇。それは磯臭く、辺りを侵食していた。
百もの蛸。千もの蛇。そして、それらは一つのものを囲うように、そこに跪いていた。
囲まれたもの、崇拝の対象。それは、悪魔である。蒼い、果てしなく巨大な、底なしの闇の、蛇であった。
ステンドグラスに差し込む淡い光でさえ、闇に変えて、先生が放つ情熱さえ、大海のような冷えに変える。そんな存在であった。
私は、それを知っていた。いや、知っているなんてものではない。私の目標、私の到達点。まさしくそれらである。
「…ハジメ」
「………………」
大蛇の頭部に埋まっているような存在。それはまさしく佐藤ハジメそのものであった。上半身しか見えないが。
黒い髪、少し角ばった体。男らしい、ゴツゴツとしたその手。私はそれを、よく知っていたし、よく触っていた。だから、私は嫌でも理解してしまった。アレがハジメであるということを。
その目は瞑られていた。全てから背くように、ハジメは眠っていた。代わりに、邪蛇の赤く、大きな瞳が私たちを見つめていた。
「ななななな……なんですかああ!?あの、あの蛇はあ?!」
「っ!落ち着いて…落ち着いて、ヒヨリ」
周りは慄いた。この世界に存在してはいけないような、そんな生物とも捉えられない何かが、私たちを包む。
私はそれが何か、直感でわかった。それは、ひどく身近で、私達もきっと、抱えているのだろう。
"………あなたは……レヴィアタン、だよね?"
レヴィアタン。ハジメに巣食うもの。そして、私達にもあるもの。
それは罪である。それは、人が抱える原罪である。つまり、ここで言う贖罪は、これを滅することにかわりはなかった。
「御名答、シャーレの先生」
蛇の口が動き、そう告げる。その声は、低く冷たい、女の声であった。
「我が名はレヴィアタン……嫉妬を司る、いわゆる悪魔、というものです」
落ち着いた声のはずなのに、ひしひしと重量がのしかかる。それは、どんどんと私達に降りかかり、ぺしゃんこになってしまいそうだった。
"…何が、目的なの?"
先生はそう尋ねる。警戒は緩めずに、ピリピリとした緊張の糸を、張り詰めたままであった。
「目的…ですか…まあ、端的に言えば…人に、嫉妬を味わってほしい、それだけです」
"………何を、言ってるの?"
先生は語気を強めた。私達生徒には決して見せることはない、平家星のように、赤い顔であった。
それを聞くと、目の前の存在はくつくつと笑った。まるで私たちを嘲笑するかのように、わざとらしく肩を揺らしていた。
「本当の怒り……ふふ…本当に、あなたは光であるのですね?ええ?先生」
笑みを浮かべているのに、その声には暖かさも、光も、何もなかった。あったのは、海のような悲しみであった。
「本当に…本当に、妬ましい……なぜ、光に塗れる事ができるのですか?なぜ、あなただけが寵愛を得られるのですか?」
蛇はぶるぶると震える。口を大きく開け、だらしなく涎を垂らす。その姿は、私達を恐怖で埋め尽くした。
その蛇はゆっくりと動き、聖壇の奥へ向かった。そこには……アツコ?!
"っ!やめろ!!その子には手を出すな!!"
先生が声を張り上げる。蛇よりもふた周りも、み周りも小さい体なのに、その声はビリビリと辺りを揺らした。
「先生…勘違いしないでください。そもそも、この子を殺そうとした者…ベアトリーチェ、だったかな。を殺したのは私ですよ?いや、ハジメがやったとも言えるかもしれませんが」
とんでもない情報だ。マダムが…死んだ…?そして、それをやったのは……目の前の悪魔…?
困惑が私を包む。脳が追いつかない。それでも、私がするべきことは、何となくに分かっていた。
私がしなければならないこと。それは変わらない。ハジメを見つけ出し、救済するのだ。苦痛という泥の中から、手を引き出すのだ。
そのためには、目の前のものをどうにかしなければいけない。それが、最後の試練だ。
「秤アツコ…可哀想な子だ。何も知らないのに、勝手に利用されて…さらに、殺されそうになるとは」
その声には嘘はなかった。本当の同情が、アツコにかけられている。慈愛と、博愛が混ざり、白となる。
その白は、その存在が示す黒とは混ざらず、そのまま、すっと私達を貫いた。
「ならば…せめて、私の手で闇へと送ろう。そうだ、それがいい」
しかし、蛇は蛇だった。悪魔は、ただの悪魔でしか無かった。
カタカタと鱗を蠢かせる。それは、今にでも弾き飛ばされさんと、私達の方へと尖りを見せつけていた。
それはキラリと蒼く煌めき、まるで月光のように冷ややかであった。
"行くよ…皆!これが、最後だ!!"
「ああ…ハジメを、取り戻すぞ!!」
私は磔刑への階段を登った。一つずつ、着実に。その感触は、何とも言えなかった。それは、泥中を歩んでいるようだった。
止まれば抜け出せなくなってしまう。止まれば、それは使命の終わりを指している。それは、それだけはどうしても防がなくてはならない。
私は証明しなければならない。ハジメの功績を、ハジメの言葉を。全ては虚しかったとしても、最後まで、精一杯生きて、生きて、生き延びることによって、幸福を得ることができる。という言葉を。
私は光を持った。彼…いや、彼女は暗を持った。
そこには正義も、悪もない。どちらも、ただの本能であるのだから。私はそう思う。
ぴちゃぴちゃと水が滴る中、私達は灯火か、それとも深淵か。とにかく、明確な終わりに向けて歩を進めた。
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「…遂に、顕現してしまいましたか…」
暗がりの中、さらに暗い黒服が言葉を呟く。吐く言葉はすすのように黒く、辺り一面、真っ暗であった。
それは黒服の心情も同時に表していた。予想外に次ぐ予想外。それによって、彼の計画は完全に破綻した。
「どうするのだ黒服。これでは、この世界の神秘は食い潰されてしまう」
そう言う木人形のマエストロ。貧乏揺すりによって、ギィギィと出す木と木の音は止まらない。
両者思考を巡らす。この状況を食い止める方法を。
「…『彼女』が被害をアリウスに留めるという可能性は?」
「いや、それは存分に低いだろう。そもそもの話、彼女の本来の目的は拡大だ。それは、神秘の破壊そのものだ」
黒服は黙り込む。それは、詰みを覚った棋士のように、険しかった。
黒服は書庫へ歩き出した。彼にとってそこは脳。アイデアを抜き出そうと必死だった。
おもむろに分厚い本を取り出す。それは茶色に染まり、随分と年季が入っていることを指し示していた。
ぺら、ぺら。気まずい沈黙に、本の音が響く。何気ない日常のような音が、今は果てしなく重厚だ。
「
パタン、と本が閉じられる。それは丁寧に本棚に再び帰り、収まった。
「どうだ?黒服。なにかあるか?」
マエストロはそう尋ねる。藁にも縋るような気持ちだ。積み上げてきた石が、一気に吹き飛ばされるか、それとも、という瞬間に立ち会っている。彼は汗をかかないが、かいているような気はした。
黒服は口を動かさない。迷っているのだろうか、口を開けようとする努力は見えるが、人が山を持ち上げられないように、開かれることはない。
「奇跡……を、信じるしかありません…」
しかし、黒服は人ではない。だから、山を持ち上げるほどの強さがあった。
また、それは敗北宣言であった。全てを論理で考えるはずの研究者が、それとは真反対の奇跡に頼るのだ。それは絶対的な屈辱だった。
「先生……」
それは託された、希望に、先生に。光は、彼にのみあるのだ。
黒い祈りが、彼に捧げられた。それは詩となって、さらなる黒をどこかへ撒き散らした。
To be continued
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