アリウスと原罪   作:パエリアさん

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そろそろ終章が近づいてきました!これからどうなっていくのか、ぜひ見ておいてください!!




第47話 これより大きな愛はない

「……ま、何があったかは、この際いいでしょ?今は、アレに集中しなきゃ…」

 

ひたすらに輝くミカはそう言うと、指を大蛇の方へ向けた。しかし、一体全体、なぜにミカはこのような見た目になったのだろうか。疑問は尽きない。だが、今はそれどころではない。

 

「ああ…しかし、今はどうにも万事休すでな…」

 

そう、実際問題、ミカが来たから何かあるというわけではない。八方塞がりなことに変わりはなかった。

 

「うん…聞いてたよ、水の中で。……ハジメ君を、殺すんでしょ?」

 

ミカは感情を抑えるようにそう言った。…他人から言われると、なにか来るものがある。自分で導き出した結論であるのに、私の心は鷲掴みにされたみたいに、ぎゅうっと締め付けられた。

 

 

だが、この選択を無意味にしないために…私を自身肯定するために、私は…私は…今から、殺しをするんだ……。

 

 

「サオリ……今はそんなに考え詰めないで……さあ、早く手を考えようよ」

 

ミサキはそう言った。辛いはずなのに、私の選択に、納得なんて、できていないはずなのに、なぜこんなに気丈に振る舞えるのだろう。私も、その強さが欲しい。どこかリーダーとしての強さが、私は欠けている気がした。

 

「は〜い!私がいれば、きっと大丈夫!!」

 

凍えるような、じめじめと湿った空気に、底抜けに明るくて、カラッとした声が響いた。

 

…ミカ。本当に、戻ってきたんだな。やはり、強かった。彼女は確かに、弱い面もあった。でも、それを克服したんだ。苦しみによる試練を通じて。

 

ふと、私は考える。私に降りかかる試練を乗り越えた先に、一体なにがあるのかと。希望的観測であった。やはり、ハッピーエンドが欲しい。でも、そうではないのだろうな。ハジメが死ぬ。そこからもう、私のハッピーエンドの達成は不可能だから。

 

でもまた、それもいいだろう。たとえどのような終わりでも、私は受け入れてみせる。ああ、悩む。ハジメがいない生に、果たして意味はあるのかと。

 

終わった後を考える暇はない。それは理解している。それでも、妄想は止められない。ハジメがいない世界。あの、光が、色がない世界。それは想像すら嫌悪させた。…それほどまでに、私はハジメを想っていたのだな。少し、私は私を褒めてやりたくなった。

 

きっと、他のみんなは頑張っていけるだろう。あんなに強くて、あんなに優しくて……さらに、先生もいるんだ。きっと、大丈夫。

 

でも、私はどうだ?先生という光があったとしても、ハジメがいない世界で生きていける自信はない。きっと、空のティーカップのような人生を送るのだろう。私はそう確信した。

 

で、あるならば。私は死ぬべきだろう。私はあの世というものを知らない。それは当然のことだ。でも、そこへの渇望が、私を満たした。

 

 

 

ああ、ハジメ。私はきっと、ずっと、貴方の下にいるでしょう。安心してくれ、孤独には、絶対に、何があっても、させないから…。私は、そう決心した。

 

 

 

 

 

"…ミカ、それはどういうこと?"

 

おっと、そうだ。議論は続いていたんだ。幻想から帰還する。死への渇望から、現実の冷たさへ。ページを捲るように移動した。

 

「ふふふ…私ね、新しい力を手に入れたんだ!」

 

何かを父へ自慢する子どものように、ミカはそう元気に言うと、銃を開けた空間へ向けた。その銃はあの時のように燃えていた。しかし、それはあの時とは違った美しさがあった。

 

ミカがトリガーを引く。すると、獅子の炎がぶわっと広がる。それはきらびやかで、その上、愛があるように優しかった。

 

それは辺りの水を一斉に乾かした。嫉妬の雨を、光の炎で消し去った。

 

「どう?先生!」

 

"……これは、すごい……"

 

まさに、星芒。それをミカが放った。黄昏のような、そんな色。それは人智で測れないほどに美しく、力強かった。

 

炎は、時間が立つにつれて収束する。獅子の形から、煩雑な気体へ、そこから、しゅうっと、どこかへと消えていった。

 

 

パチパチ

 

 

湿った拍手の音。ゆったりとした規律で、上品な手拍子が、私達の鼓膜に伝わった。

 

「ミカさん……これは、これは…素晴らしい!なんと素晴らしい力でしょうか!」

 

黒いのはかなり早口に、興奮気味にそう言った。ぷるぷると震え、亀裂を大きく広げて、笑っているような表情で、肩を激しく揺らしていた。

 

「この力があれば…あの蛇はおろか…よもや、闇そのものを討ち滅ぼせるかも……」

 

話していることはよく分からないが、とにかくあの蛇を倒すのに十分な素材は集まった。ということであろう。私は自身の…いや、ハジメの銃を強く握る。私はこれから、人殺しをするのだ。

 

「御託はいい。早く方法を伝えろ」

 

「クックックッ……ふう、手厳しいですね。欣喜雀躍(きんきじゃくやく)の時間くらい取らせてほしいものです…ああそう、言うことがあります」

 

乱れた襟を正し、こほんと一つ咳払いをしてから、黒いのはすっと息を吸い込み、言葉を発する用意をした。

 

すると突然、懐からこれまた黒いハンドガンを取り出す。それはキヴォトスではよく見る、一般的な銃だった。

 

それを蛇に向けて、黒いのは顔を変えずに引き金を引いた。

 

硝煙を残り香として飛び出した鉛の弾丸は、蛇へと届く前に、見えない壁に当たったかのように止まり、回転の力をなくすと、寂しくこつんと、船の上へ落ちた。

 

「……と、このように、この船の上からの攻撃はできません。この舟は、外はもちろん、内からも、全てを防ぐ舟なのです」

 

そうなると、どうやって攻撃をしようか?辺り一面は、果てしなく広がる海だ。私は飛べない。だから、足場が必要なのだが…。

 

「それで、です。少し、こちらへ来てください」

 

黒いのはそう言うと、くいっ、と手を動かし、私達に船の上に位置する家へはいるように指示した。

 

私達はそれに従い、家の前へと歩んだ。なんとも巨大な家だった。

 

木製のノブを開け、中へ入ってみる。すると、目の前には、この舟を作っている木とは違う、石板のような物があった。

 

灰の石の真ん中に、白金色に輝く十字がある。それは光できらめき、まるで虹のようであった。

 

"これは…?"

 

先生がそう尋ねる。すると、黒いのは少し考え、こう言った。

 

「これは、この舟のお守りのようなものです。これさえあれば、どのような苦難からも守られ、海を航海することが可能です」

 

"これがこの船のバリアを作っているってこと?"

 

先生は疑問そうに言った。…ああ、今さらだが、こんな状況、訳が分からない。呆れ返るほどの大きさの大蛇、限り無いほどの謎の船、そのどれもが、人知をはるかに超越している。だが、さっき言ったように、それは今さらだ。

 

「そうですね。つまるところ、これの権能を失くせば、私達は船の上からの攻撃が可能となるということ…しかし、裏を返せば…」

 

「私達が襲われるリスクが高まる。ということだな」

 

単純な話だ。まるでゲームのよう。いつでも、リスクはつきものだ。船にいる間は忘れていた、死の感情が、つうっと背筋を伝う。しかし、私はそれに震えることはない。

 

「ええ、物分かりが早くて助かります…それで、どうしますか?」

 

そんなの、答えは出ているようなものだった。これからどうするかなんて、私達はもはや、以心伝心のように、言葉さえ使わずに分かりきっていた。

 

しかし、目の前のは言葉を欲している。確証を求めている。それは、どこまでも大人のようで、やはり私達とは何か違うな、と感じた。

 

本能の恐怖すら、私にはもはや無かった。あるのは、濁水のような愛に染まる、薄い決意だけだった。

 

 

 

_________________________________________________

 

 

 

濤声(とうせい)*1が反芻する。雨落の音が、けたたましく、まるで猛獣のように響く。

 

波の中からは、光を吸い込む、蒼がチラチラと見える。それは蛸で、それは敵だ。それは忌まわしそうに船へと近づいたが、船の権能のみによってそれは防がれた。

 

私…サオリと、ミカ、そしてヒヨリは、船のデッキに足をかけ、それぞれ己の獲物を、大蛇へと向けていた。

 

それに言葉は無かった。沈黙。そうだった。しかし、私達はそうは思わなかった。むしろ、声がよく聞こえるようだった。

 

普段はおずおずとしているヒヨリも、今だけは目を見据え、ぴしりと固まっていた。

 

それぞれが集中力を高めながら、『作戦』の時を待つ。私は、武者震いすら起こらなかった。

 

「皆さん、準備は良いですね…それでは…」

 

 

 

ぱっ

 

 

 

黒いのがそう言った瞬間、ふっと、何かが消えた感触がした。肉眼では、辺り一面の海のままで変化は無い。しかし、第六感が変化を告げていた。

 

久しい水滴が、私をうつ。透き通った、しかし、どんよりとした雨が、肩へと当たる感触がする。

 

「今だ!撃てっ!!」

 

三人が祈りを込めて、光を放つ。それは蛇の根元へとぐんぐんと迫った。

 

燃え広がる獅子。怒りのような雷鎚。光り輝く逆十字。それらがそれぞれ独立し、蛇へと届く。

 

 

ぎゅわん

 

 

蛇へと当たる。それらは吸い込まれそうになったが、闇を貫かんと懸命に直進していた。まるで、意志を持っているかのように。

 

しかし、それであるというのに、蛇はこちらに見向きもしない。何もなさそうに、飄々としているだけだった。

 

「…くそ!これでもか?!」

 

さらに光を放つ。しかし、それは変わらなかった。ほんの少しの傷が、蛇へとつくだけだった。

 

…どうすれば。まさか、これさえ効かないとは、想定外だ。あの黒いのめ、死んだら祟るぞ。

 

そんな怒りを噛み締めても、現状は変わらない。私達はただ、銃を撃つだけだった。

 

「うわっ?!」

 

ヒヨリはそう声を出すと、すてんと転んだ。ヒヨリがいた地点をよく見てみると、そこには蒼い蛸がいた。

 

…そうだ。今、舟は無防備だ。だから、早くしなければいけないのに…。

 

 

 

"…手伝うよ、皆"

 

 

 

突如、耳元で囁かれる、希望を孕んだ声。私は、それを待っていた気がした。

 

その声の主、先生は高くカードを掲げる。すると、そのカードは光を放ち、先生を含め、私達四人を優しく包んだ。

 

"今だよ、皆。撃ってみて"

 

その言葉に従い、私達三人は同時に銃を放つ。すると、その弾丸は、まるっきり変わった。

 

獅子、鷲、牡牛。それらが三位一体の光となり、雨を蒸発させながら蛇へと歩んだ…いや、飛んだ。か?

 

着弾。その瞬間、初めて蛇の血が見えた。その血の色は、私達と同じ、朱殷であった。

 

 

があああああ!

 

 

蛇の絶叫が轟く。それは痛みからというより、拒絶のような叫びだった。私達が撃った、その、明るすぎる光に対する。

 

天から頭をこちらに向けるのが、雲に遮られるが、かすかに見える。それはどんどんと大きくなり、だんだんと鮮明になりつつあった。

 

私はそれに自分を重ねた。何か、通ずるものがあると、心の底で理解した。あの話を聞いたからであろうか、それでも、とにかく同情は抑えきれない。

 

"来るよ!サオリ!!"

 

「ああ!分かってる!!」

 

銃を握りしめる。ほんの少しの震えは、隠そうとも、隠せない。まるで、天に昇る日光のように、それは不可能だった。その光なくして、私という地球は生き残れなかったから。

 

今から私は、想い人を殺す。最愛のものを、家族を、唯一の光を。

 

私は知っている。光を失ったものの末路を。しかし、それであっても、私はやらなくてはならない。この、世界のために。皆のために。

 

ハジメの顔が近づき、今、はっきりと見えた。目は開かれていない。顔も、死んだように凍りついている。…ああ、救いたい。また、あのような顔へ、戻してやりたい。でも、それは叶わない。夢のように。

 

ああ、でも、これだけは聞きたい。叶わなくとも、明るい顔で、答えてほしい。

 

 

 

私の愛の、貴方の答えを。

 

 

 

To be continued

*1
大きな波が打ち寄せる音







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