そろそろ終章が近づいてきました!これからどうなっていくのか、ぜひ見ておいてください!!
「……ま、何があったかは、この際いいでしょ?今は、アレに集中しなきゃ…」
ひたすらに輝くミカはそう言うと、指を大蛇の方へ向けた。しかし、一体全体、なぜにミカはこのような見た目になったのだろうか。疑問は尽きない。だが、今はそれどころではない。
「ああ…しかし、今はどうにも万事休すでな…」
そう、実際問題、ミカが来たから何かあるというわけではない。八方塞がりなことに変わりはなかった。
「うん…聞いてたよ、水の中で。……ハジメ君を、殺すんでしょ?」
ミカは感情を抑えるようにそう言った。…他人から言われると、なにか来るものがある。自分で導き出した結論であるのに、私の心は鷲掴みにされたみたいに、ぎゅうっと締め付けられた。
だが、この選択を無意味にしないために…私を自身肯定するために、私は…私は…今から、殺しをするんだ……。
「サオリ……今はそんなに考え詰めないで……さあ、早く手を考えようよ」
ミサキはそう言った。辛いはずなのに、私の選択に、納得なんて、できていないはずなのに、なぜこんなに気丈に振る舞えるのだろう。私も、その強さが欲しい。どこかリーダーとしての強さが、私は欠けている気がした。
「は〜い!私がいれば、きっと大丈夫!!」
凍えるような、じめじめと湿った空気に、底抜けに明るくて、カラッとした声が響いた。
…ミカ。本当に、戻ってきたんだな。やはり、強かった。彼女は確かに、弱い面もあった。でも、それを克服したんだ。苦しみによる試練を通じて。
ふと、私は考える。私に降りかかる試練を乗り越えた先に、一体なにがあるのかと。希望的観測であった。やはり、ハッピーエンドが欲しい。でも、そうではないのだろうな。ハジメが死ぬ。そこからもう、私のハッピーエンドの達成は不可能だから。
でもまた、それもいいだろう。たとえどのような終わりでも、私は受け入れてみせる。ああ、悩む。ハジメがいない生に、果たして意味はあるのかと。
終わった後を考える暇はない。それは理解している。それでも、妄想は止められない。ハジメがいない世界。あの、光が、色がない世界。それは想像すら嫌悪させた。…それほどまでに、私はハジメを想っていたのだな。少し、私は私を褒めてやりたくなった。
きっと、他のみんなは頑張っていけるだろう。あんなに強くて、あんなに優しくて……さらに、先生もいるんだ。きっと、大丈夫。
でも、私はどうだ?先生という光があったとしても、ハジメがいない世界で生きていける自信はない。きっと、空のティーカップのような人生を送るのだろう。私はそう確信した。
で、あるならば。私は死ぬべきだろう。私はあの世というものを知らない。それは当然のことだ。でも、そこへの渇望が、私を満たした。
ああ、ハジメ。私はきっと、ずっと、貴方の下にいるでしょう。安心してくれ、孤独には、絶対に、何があっても、させないから…。私は、そう決心した。
"…ミカ、それはどういうこと?"
おっと、そうだ。議論は続いていたんだ。幻想から帰還する。死への渇望から、現実の冷たさへ。ページを捲るように移動した。
「ふふふ…私ね、新しい力を手に入れたんだ!」
何かを父へ自慢する子どものように、ミカはそう元気に言うと、銃を開けた空間へ向けた。その銃はあの時のように燃えていた。しかし、それはあの時とは違った美しさがあった。
ミカがトリガーを引く。すると、獅子の炎がぶわっと広がる。それはきらびやかで、その上、愛があるように優しかった。
それは辺りの水を一斉に乾かした。嫉妬の雨を、光の炎で消し去った。
「どう?先生!」
"……これは、すごい……"
まさに、星芒。それをミカが放った。黄昏のような、そんな色。それは人智で測れないほどに美しく、力強かった。
炎は、時間が立つにつれて収束する。獅子の形から、煩雑な気体へ、そこから、しゅうっと、どこかへと消えていった。
パチパチ
湿った拍手の音。ゆったりとした規律で、上品な手拍子が、私達の鼓膜に伝わった。
「ミカさん……これは、これは…素晴らしい!なんと素晴らしい力でしょうか!」
黒いのはかなり早口に、興奮気味にそう言った。ぷるぷると震え、亀裂を大きく広げて、笑っているような表情で、肩を激しく揺らしていた。
「この力があれば…あの蛇はおろか…よもや、闇そのものを討ち滅ぼせるかも……」
話していることはよく分からないが、とにかくあの蛇を倒すのに十分な素材は集まった。ということであろう。私は自身の…いや、ハジメの銃を強く握る。私はこれから、人殺しをするのだ。
「御託はいい。早く方法を伝えろ」
「クックックッ……ふう、手厳しいですね。
乱れた襟を正し、こほんと一つ咳払いをしてから、黒いのはすっと息を吸い込み、言葉を発する用意をした。
すると突然、懐からこれまた黒いハンドガンを取り出す。それはキヴォトスではよく見る、一般的な銃だった。
それを蛇に向けて、黒いのは顔を変えずに引き金を引いた。
硝煙を残り香として飛び出した鉛の弾丸は、蛇へと届く前に、見えない壁に当たったかのように止まり、回転の力をなくすと、寂しくこつんと、船の上へ落ちた。
「……と、このように、この船の上からの攻撃はできません。この舟は、外はもちろん、内からも、全てを防ぐ舟なのです」
そうなると、どうやって攻撃をしようか?辺り一面は、果てしなく広がる海だ。私は飛べない。だから、足場が必要なのだが…。
「それで、です。少し、こちらへ来てください」
黒いのはそう言うと、くいっ、と手を動かし、私達に船の上に位置する家へはいるように指示した。
私達はそれに従い、家の前へと歩んだ。なんとも巨大な家だった。
木製のノブを開け、中へ入ってみる。すると、目の前には、この舟を作っている木とは違う、石板のような物があった。
灰の石の真ん中に、白金色に輝く十字がある。それは光できらめき、まるで虹のようであった。
"これは…?"
先生がそう尋ねる。すると、黒いのは少し考え、こう言った。
「これは、この舟のお守りのようなものです。これさえあれば、どのような苦難からも守られ、海を航海することが可能です」
"これがこの船のバリアを作っているってこと?"
先生は疑問そうに言った。…ああ、今さらだが、こんな状況、訳が分からない。呆れ返るほどの大きさの大蛇、限り無いほどの謎の船、そのどれもが、人知をはるかに超越している。だが、さっき言ったように、それは今さらだ。
「そうですね。つまるところ、これの権能を失くせば、私達は船の上からの攻撃が可能となるということ…しかし、裏を返せば…」
「私達が襲われるリスクが高まる。ということだな」
単純な話だ。まるでゲームのよう。いつでも、リスクはつきものだ。船にいる間は忘れていた、死の感情が、つうっと背筋を伝う。しかし、私はそれに震えることはない。
「ええ、物分かりが早くて助かります…それで、どうしますか?」
そんなの、答えは出ているようなものだった。これからどうするかなんて、私達はもはや、以心伝心のように、言葉さえ使わずに分かりきっていた。
しかし、目の前のは言葉を欲している。確証を求めている。それは、どこまでも大人のようで、やはり私達とは何か違うな、と感じた。
本能の恐怖すら、私にはもはや無かった。あるのは、濁水のような愛に染まる、薄い決意だけだった。
_________________________________________________
波の中からは、光を吸い込む、蒼がチラチラと見える。それは蛸で、それは敵だ。それは忌まわしそうに船へと近づいたが、船の権能のみによってそれは防がれた。
私…サオリと、ミカ、そしてヒヨリは、船のデッキに足をかけ、それぞれ己の獲物を、大蛇へと向けていた。
それに言葉は無かった。沈黙。そうだった。しかし、私達はそうは思わなかった。むしろ、声がよく聞こえるようだった。
普段はおずおずとしているヒヨリも、今だけは目を見据え、ぴしりと固まっていた。
それぞれが集中力を高めながら、『作戦』の時を待つ。私は、武者震いすら起こらなかった。
「皆さん、準備は良いですね…それでは…」
ぱっ
黒いのがそう言った瞬間、ふっと、何かが消えた感触がした。肉眼では、辺り一面の海のままで変化は無い。しかし、第六感が変化を告げていた。
久しい水滴が、私をうつ。透き通った、しかし、どんよりとした雨が、肩へと当たる感触がする。
「今だ!撃てっ!!」
三人が祈りを込めて、光を放つ。それは蛇の根元へとぐんぐんと迫った。
燃え広がる獅子。怒りのような雷鎚。光り輝く逆十字。それらがそれぞれ独立し、蛇へと届く。
ぎゅわん
蛇へと当たる。それらは吸い込まれそうになったが、闇を貫かんと懸命に直進していた。まるで、意志を持っているかのように。
しかし、それであるというのに、蛇はこちらに見向きもしない。何もなさそうに、飄々としているだけだった。
「…くそ!これでもか?!」
さらに光を放つ。しかし、それは変わらなかった。ほんの少しの傷が、蛇へとつくだけだった。
…どうすれば。まさか、これさえ効かないとは、想定外だ。あの黒いのめ、死んだら祟るぞ。
そんな怒りを噛み締めても、現状は変わらない。私達はただ、銃を撃つだけだった。
「うわっ?!」
ヒヨリはそう声を出すと、すてんと転んだ。ヒヨリがいた地点をよく見てみると、そこには蒼い蛸がいた。
…そうだ。今、舟は無防備だ。だから、早くしなければいけないのに…。
"…手伝うよ、皆"
突如、耳元で囁かれる、希望を孕んだ声。私は、それを待っていた気がした。
その声の主、先生は高くカードを掲げる。すると、そのカードは光を放ち、先生を含め、私達四人を優しく包んだ。
"今だよ、皆。撃ってみて"
その言葉に従い、私達三人は同時に銃を放つ。すると、その弾丸は、まるっきり変わった。
獅子、鷲、牡牛。それらが三位一体の光となり、雨を蒸発させながら蛇へと歩んだ…いや、飛んだ。か?
着弾。その瞬間、初めて蛇の血が見えた。その血の色は、私達と同じ、朱殷であった。
があああああ!
蛇の絶叫が轟く。それは痛みからというより、拒絶のような叫びだった。私達が撃った、その、明るすぎる光に対する。
天から頭をこちらに向けるのが、雲に遮られるが、かすかに見える。それはどんどんと大きくなり、だんだんと鮮明になりつつあった。
私はそれに自分を重ねた。何か、通ずるものがあると、心の底で理解した。あの話を聞いたからであろうか、それでも、とにかく同情は抑えきれない。
"来るよ!サオリ!!"
「ああ!分かってる!!」
銃を握りしめる。ほんの少しの震えは、隠そうとも、隠せない。まるで、天に昇る日光のように、それは不可能だった。その光なくして、私という地球は生き残れなかったから。
今から私は、想い人を殺す。最愛のものを、家族を、唯一の光を。
私は知っている。光を失ったものの末路を。しかし、それであっても、私はやらなくてはならない。この、世界のために。皆のために。
ハジメの顔が近づき、今、はっきりと見えた。目は開かれていない。顔も、死んだように凍りついている。…ああ、救いたい。また、あのような顔へ、戻してやりたい。でも、それは叶わない。夢のように。
ああ、でも、これだけは聞きたい。叶わなくとも、明るい顔で、答えてほしい。
私の愛の、貴方の答えを。
To be continued
閲覧いただきありがとうございました!!良ければ感想、そして評価を是非ともやってもらえると嬉しいです!!