あと主人公のプロフィールを1話のあとがきに置いときました。ぜひ見てください。
…ところで、曇り空をつくりだすには、まず日光が必要ですよね?
トコトコ
革靴の音が聞こえる。それは上品であり、それは煩雑だった。
おれは暗く、ひんやりとした通路を進む。蛍光灯の点滅が目に染みる。
歩むのは一人ではなく、二人っきりでだ。そして、一緒にいる相手は…
「クックックッ…いやはや…クックックッ…」
…ニッッコニコの、真っ黒スーツのお兄さんだ。
____________________________________________________
「これでよし…かな」
少し差し込む白い光。それは弱く、淡い光だ。それはもはや日常と化していたので、もはや疑問を抱くこともなかった。
俺はいつも通り、トーストを焼き、制服に着替えて、持ち物を確認して、そんな朝の支度をしていると、コンコン、と扉が叩かれた。
「や、きたよ」
戒野さんだ、俺のことを嘘みたいに軽蔑する目で見てきたり、俺が遊んでいたりすると冷たいことを言ったりする女の子だ。
…字で表すとだいぶ酷いな。
「おう、戒野さん。どうした?」
といっても嫌いな訳では無い。きっちりとしてるし、芯が通ってるからな。相手がどう思ってるかは知らないけど。
でも、なぜかここに結構な頻度で来るので、嫌われてはない…と信じたい。
「…いつも思ってたんだけど、その呼び方どうにかならない?」
ムスッとした顔で戒野さんはそういった。いつもする顔だった。
しょうがないじゃないか。元々おれは女性に対しては全部こんな感じだし、なんならこの世界の人々は顔が整いすぎてるから、凄い緊張してこうなっちまうんだ。
でも、これを丸々いうと多分怒られるしなぁ…どうしようかなぁ…。
そんな事を考えながら、どう反論しようか迷っていると、戒野さんが口を開いた
「…私たちはもう赤の他人じゃないでしょ…?確かに会ったときは警戒したし、怪我もさせちゃったけど、同じご飯を食べて、同じ授業を受けて、同じ事をして……こ、これでも結構…信用…してるから」
最後の方は恥ずかしくなったのか、早口になって顔を赤らめながらそう言った。慣れないことを言うからだ。
だが、それを聞いてもやはり納得は出来ない。俺にとっては、その行動は小っ恥ずかしいものだったから。
「ええ…でも変じゃ「でもじゃない」…はい」
なんでこんな呼び方にこだわるんだ?別に俺がどう呼んでもいいだろ。信用してくれてるとは言ってたけど、別に苗字呼びでも…
「はあ…納得してないようだからはっきり言うよ、ハジメみたいな…た、大切な人…には、名前で呼んでほしいの。わかる?」
ちょっとモゴモゴしながら言った。大切な人って…俺特に何もしてないのに、まあでも、俺も女子から名前で呼ばれたら喜ぶしなぁ。そんなもんか。
「だ…だから、言ってみてよ、『ミサキ』って」
意を決したように言った。その声は震えていて、こっちにも緊張が伝わってきてしまう。
「そのぐらいなら別に…えー、ゴホン。じゃぁ言うぞ?…『ミサキ』」
…これなんの需要があるんだ?俺は疑問と、少しの恥じらいに包まれた。一方、ミサキは首から赤が波のように染まり、最終的には牡丹のように真っ赤になっていた。
「………!…ッッッ?!」
なんか顔を覆ってジタバタしてる…こんなに取り乱すのは珍しいな。恥ずかしさよりも面白さが勝ったので、俺はさらに追撃をかけることに決めた。
「ミサキ、ミサキ?どうしたんだミサキ?何かあったかミサキ?」
ちょっといたずらっぽく言った。ミサキは顔を俯かせ、ぷるぷると震えている…何かの予備動作のように…。
しかし、俺は準備万端だ。このあと来るであろう心ない言葉に心を強化した。これでもうハートが砕けることはない!
そう言う事で、心の強化をしていると、彼女はうつむきながら、予想通りに口を開いた。来るぞ、来るぞ。俺は少しにやりとして、その時を待った。
「………ばか」
なんと、それはただの罵倒の一言であった。予想外だった、もうちょっとなんか酷いこと言われるかと…。
「それじゃ、帰るから」
ぶっきらぼうにそう言い、くるっと百八十度回って、ドアノブに手をつける。顔は見えないままだ。てか帰るの早くね?怒らせちゃったかな…。
「あと」
ピタリ、と急に止まって、彼女はそう呟いた。
「ん?」
何かを最後に伝えてくれるらしい。さっきのは心の準備のタイミングをずらすため?!しかし残念だったな、それも予想済みさ!
心の準備を再度整えていると、彼女は口を開いた。
「これからずっと、その呼び方ね」
ふぇ?
「命令」
文字にすると二文字、音にすると四文字の、部屋の隅の塵よりもはるかに小さい言葉が、俺の心にじんじんと跡をつける。
そう言うと、早足で家から離れていった。またしても予想外の言葉を告げられたおれは、ただボーッと、なんで来たんだ…?と、…ミサキ…が帰る様子を呆然と眺めるしかできなかった。
じぃっ…
____________________________________________________
戒n…ミサキが帰ったあと、俺は日課のティータイムを始めた。わざわざトリニティに行った部隊に頼んでもらったこのお茶はね、とてもいいんだ。アリウス唯一の娯楽かもしれない。
カップを一つ取り、ティーバッグを箱から一人分取り出す。茶葉の花とレモンが混じった、突き抜けるような香りが、俺の鼻腔を刺激する。
とぽとぽと注がれる熱湯。ただ流れる水を見つめるのも、乙なものだ。
「ふう、たまには1人でお茶会も「クックックッ…楽しそうで何より」ウワアアアアァァァ?!だれ!?どなた?!」
突如として現れた謎の存在に腰を抜かし、尻もちをついてしまった。
落ち着け、まずはこの不審者の特徴を覚えよう。追放はそのあとだ。えーっと、黒いスーツに白い亀裂が入った黒い頭、おまけになんかスタイルがいい…あっこの人は。
「黒服さんか!」
「クックックッ、覚えているようで何よりです」
この人は黒服さん。本名は存在しないらしい。わけわからん。なんかゲマトリア?っていうマダムと…最近よく見るマエストロさんって人?と同じグループに所属してるみたいだけだ。
でも、マダムと違って基本的には優しいから俺は好きだ。でも他のみんなはなんか警戒してる。なんか顔が胡散臭いらしい。なんたる偏見。そんな事ないのに。
「黒服さんが来たってことは…『定期検診』か」
「まあそんなところです」
黒服さんとの関わりは俺がアリウスに編入した頃から始まった。度々おれの前に現れては、なんか写真を撮られたり、髪や体液を摂取したり、なんか変なもの飲まされたり。なんか健康診断みたいだから、俺は定期検診って呼んでる。
黒服さんのいいところは定期検診をすると報酬をくれるんだ。上等な食料だったり、お金だったり。しかも毎回お礼を言ってくれるんだ。だから好きなんだ。
「それで?今日は何をするんですか?」
「今回はマエストロと行います。ついてきてください。」
黒服さんはそう言うと、手をくいっとして招いた。
うげ、マエストロさんか。苦手なんだよな〜。芸術がどうとか、美学がうんたらとか。話が難解すぎるんだよ〜。
「まあわかりましたよ。それで?どこに行くんですか?」
「…私の、いえ、厳密には私たち、ゲマトリアの研究室です」
黒服さんはなぜかウキウキしてる感じで喋った。あの、マダムといた時の、初対面の時みたいだ。
「それでは、移動しましょうか」
そう言う黒服さんは何か準備のようなことを始めた。カチャカチャと鳴る金属音が心地よい。
「ええ、ところで、どうやって行くんですか?アリウスの外なら変装しないと」
アリウスの人ってバレたらいけないんだよな、アリウスは廃校した設定だから、勘付かれると色々危ない。
「いえ、その必要はありません」
きっぱりと黒服さんは言った。
「じゃぁアリウスの中にあるんですか?」
「いいえ。とういうか、ゲマトリアの位置は知られてはいけません。私たちを追うものは意外と多いですからね」
そうなのか?なんで追われてるんだろ?ただなんかの研究をしてるだけだろ?っていうか、アリウスの中になくて、変装の必要がないってことはどういうことだ?
そんな事を考えていると、答えが現れた。
「こうやるんですよ」
パチンッ
黒服さんが指を鳴らした、すると…
「うわッ」
急に謎の廊下に現れた。ひんやりしてて、さびれた白みたいな色をしている。
「ここからは距離があるので、少しだけ話しながら歩きましょう」
当然のようにいうなこの人…どうやってワープしたのかは不思議だが、どうせ喋らせたらめんどくさいし、聞かないことにした。
「クックックッ…ところでハジメさん、あなたはずいぶんとスクワッドらと仲が良いですね」
うわっ急に世間話始めるな。しかし、それに応じない程俺もこの人が嫌いな訳では無い。話に乗ってあげる事にした。
「そ、そうですね…でも、彼女らが俺の事をどう思ってるかは分かりません。もしかしたら嫌われてるかも」
よく考えなくてもいきなり現れた、向こうからすれば宇宙人みたいなやつを好きになるわけないんだよなあ。
よく話してはいるけど、もしかしたら打算があってやってるのかもしれない。もしかしたらおれんち狙ってるのかも。特にミサキはそんな感じする。
そう思うと少し悲しくなる。日本にいるときからそうだった。俺を心から愛してくれる人も、信用してくれる人もいなかった。孤独というほどではない孤独が、いつも俺を包んでいた。…それは、アリウスに来ても、変わらなかった。
「…鈍感ですね、あなた」
なんと、謂れのないことを言われた。誰が鈍感じゃい。今までの経験から可能な限り脳のリソースを使って考えたんだぞ。
しかし、湧き上がる喜びは抑えきれない。それが嘘であったとしても、俺は騙されていたかった。だけど、痛みを伴う真実を見れない、弱い人間だな、と自分でも思って、少し複雑になった。
「嫌われてるはないでしょう。あの様子で。特に錠前サオリさんは結構あなたにお熱ですよ?」
信じられない、という様子で、黒服さんはそう言った。…そうだったら、どれだけ良かったことか。
「まさかあ、錠前さんはないですよ。いっつも怒られちゃうし」
なんかあの人おれに厳しくない?別にいいじゃん槌永さん家に泊めても。確かに知らん男に家族同然のやつが泊まるのは嫌かもしれないけど、俺がそんな事する度胸はどう考えてもないだろ。
「…ここまでのは見たことがありませんね。あなた、いつか後ろから刺されますよ」
ええ…?黒服さんの言葉に耳を疑っていると、目的地に着いたらしい。
これは…治療カプセル?みたいな…なんだこれ?
卵型の機械にあるのは眩しい黄緑の液体。隣に掛けられているマスクが、不気味さを表していた。
「ああ、来たか。黒服と…佐藤、ハジメ」
マエストロさんがこちらに気づいた。相変わらず、読めない表情だ。感情があるのかさえも疑問だ。
「こちらに入っていただけるだけで十分なので」
黒服さんの言葉に従い、カプセルに入る。…なんかヌメヌメする。
「それでは始めようか…実験を」
その言葉を聞いた瞬間、俺の意識は飛んだ。
目を覚ます頃には、全てが終わったとのことだ。全力疾走をしたあとのような疲労が、全身を鉛のようにさせた。
でも、意識はすぐ戻ったし、家にも戻してもらえた。何だったんだろう?まあ、お金もらえたしいいや。
ハジメの家では、忘れられていたティーカップの中に、ゆらゆらと、琥珀の液体が揺れていた。そこには、小さい蛇がちらりと、顔を出していた。
___________________________________________________
「クックックッ…これは何とも、何とも…」
月光のように怪しい声が、ほんの少しの蛍光灯とともに辺りに響く。その主は、『魔』をみていた。
「…これは、手放しで素晴らしいとは言えないな…何とも奇妙で、何とも愚かな…」
月の光とともに目覚める狼男のように、その声とともに呼応してもう一つの声が響く。その声は、嫌悪を明らかに感じさせるものであった。
「彼の魂には…『
その日、キヴォトスの何処かに、赤い月とともに大人の笑い声が2つ、昇っていくのが見られた。
To be continued
閲覧いただきありがとうございます!誤字、批評、なんでもやっていただいても構いません!感想、評価、お待ちしております!