アリウスと原罪   作:パエリアさん

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リオでっっっか……(例のイラストを見て)


追記ーすいませんタイトルつけるの忘れてました…






第50話 曙光

曙光。それは上からではなく、下の、波を放う海上から、矛盾するように陸離*1する。ほんのちっぽけな火種のような明かりが、それでいても、目を開けられないほどに眩しい。

 

しかしながらに、今だに雨が振り続けている。もはやそれだけが、蛇にとっての安心だった。

 

光を背景としながら、五人の若人が玉のように弾ける。それは闇を喰らい、冷たく、寂しい海を真二つに割る。

 

蛇は恐怖し、戦慄した。なんなんだ、と言いたくなる。ほんのさっきまで、やつらは光を無くしていたというのに、なぜ、今はこんなにも明るいんだ?

 

それは蛇に思い出させた。あの、全ての上で、忌々しく煌めく光を。だけど、愛らしかった光を。蛇は憤怒した。まだ、我に纏わりつくのか、と。

 

「…ぐああ!寄るな!!このカスどもめ!もう、希望はないというのに、何故抗う!」

 

蛇は叫んだ。それは、恐怖を、怒りに変えるための、一種の防衛反応であった。蛇は怒りを力に変え、光の使徒達を襲う。

 

闇の使徒たち、蛸と、小蛇に告ぐ。偽りの光を消してしまえと。闇は牙を剥き出しにし、うめき声を上げる。

 

 

 

ドン

 

 

 

閃光。マズルフラッシュの意味以外もある。それは闇を引き裂いた。

 

藍の髪をもつ使徒。サオリが放った光は、先程よりも煌めきを増し、蛸へ、蛇へと、真っ直ぐに向き合った。

 

浄化。それは洗礼のような、もしくは、赦しのようでもある。蛇はサオリを羨んだ。そして、そんな事を思う自分に、蛇は心の底から反吐が出た。

 

「な……に………」

 

声にならない声が、蛇からすっと漏れ出た。本の中の創作のような出来事を、蛇はその紅い肉眼で、焼き付くように、まじまじと見ていからだ。

 

蛇は知っていた。人の弱さを。人の愚かさを。なぜなら、蛇は人間に最も近かったから。故に、なおさら今の情景が信じがたかった。

 

あの、取るに足らないはずの人間が、神に、もしくは悪魔に、良いように蹂躙される筈の人間が、自分を脅かしている。悪魔である自分を、恐怖させている。

 

蛇は久方ぶりの震えを感じた。あの、神のような光を、創作物であるはずの人間が放っている。呆れるほどに生き続けた蛇だが、これほど動揺することはこれまで一度もなかった。

 

「…なぜ、と言ったな」

 

サオリはそう言う。優しく、包むような声で。バラバラに残された舟だったものに立ち、銃口を静かに下げる。その行動は、それでいて、力強かった。

 

 

「私は…私達は、証明するんだ。私達が信じた光が、愛が、世界を救うということを」

 

 

蛇がハジメの目から見たはずのサオリとは違った。光を忌み嫌い、闇に生きる、蝙蝠のようなサオリとは違っていた。

 

強い雨が降っているはずなのに、空から光が出るような気がする。蛇は思った。これは、危険だと。

 

「そのために…私はハジメを撃つ…もう、躊躇わない。そう決めた」

 

サオリへ向けて鱗を飛ばす。彼女はそれを簡単そうに避けて、蛸を踏み台にし、我の死角へと移動した。

 

私はそれを追うのをやめ、秤アツコへと目を向けた。そう、あれさえあれば、もはや敗北する未来は消滅する。簡単なことだ。アツコをもう一回十字架に引き下げる。何で簡単なことだろう。感情の高潮で、理性を忘れていた。

 

全速力で、力無く浮いているアツコへ向かう。あの少女…ミサキが一緒にいるが、関係ない。彼女は取るに足る人物ではない。あの力も、特殊な神秘も何もない。蛇はそう思った。

 

「…させないよ」

 

ミサキはそう言うと、少しの動きだけで、銃を発射させた。勿論、蛇自身は受けても平気だが、額にいる男…ハジメが喰らえば、それこそ終わりだ。蛇は半ば反射的に、額を鱗で覆った。

 

その瞬間、刹那の闇がある。それは物理的に、仕方のないことだ。だが、それが蛇を窮地へと貶めた。

 

鱗の上からでも、しっかりとわかる。光がまたたく。そう、それは鷲であった。それはヒヨリの銃口から、先生のカードともに、増幅して発せられる。

 

焦って尻尾で防ぐが、これもまた、力が何乗にも増幅していて、蛇の一部分を貫いた。

 

蛇のミサキへの評価は誤っていた。確かに力という面では取るに足らない存在だった。しかし、ミサキは確かな勇気を持っていたのだ。蛇はそれに気づき、絶望した。

 

蛇は咆哮した。本能的な、根源的な恐怖を思い出す。あの、死へと向かう時の恐怖。今か、今かと、順番を怯えながら待つしかできない、あの時の記憶。偶然にも、そのどちらも、光による死が原因だった。

 

 

ああ、忌まわしい。妬ましい。我が、捨てたはずの…掴めなかった光を、なぜ、あのようなものが持っているのか。

 

 

蛇は、愛情が否定された気がした。あんなに愛していたのに、それなのに、こんなぽっと出の、たかだか弱々しい人間のほうが光に好かれている、という明確な事実が、蛇を苦しめた。

 

蛇は思ってしまった。あの者の言う通り、自分がこれからどれだけ生きようとも、かの者たちの光には、到底敵わないかもしれない、ということを。

 

 

蛇は妬んだ、それだけしか、できることはなかった。

 

 

「…祈りを」

 

ミカの弾が、蛇の額に広がる鱗へとぶつかり、鱗をぼろぼろと落とした。見える鱗は、偽物の白だった。

 

蛇は両の目で、目の前で鳥のように飛び上がるサオリを見た。その目は、同情のような、光が揺らめいていた。

 

ふつふつと、感情が再燃する。必ず、この光を絶やさねばならない。蛇はそう思った。なので、蛇は叫びながら抵抗した。

 

「舐めるなあ!」

 

飛び上がったサオリを、小蛇で掴む。ぎゅうぎゅうと締め付ける。しかし、サオリの顔には苦痛は見られない。蛇はそれに苛立った。なぜ、死が目の前に迫っているのに、こんなに、澄んだ目をしているのだろうか。

 

「なぜだ…サオリ、なぜ、諦めない!お前は助からない!世界も、終わりへと向かう!!それは決定しているんだ!」

 

蛇は、全身全霊でそういった。脅すような形となったが、それでも、サオリはその凛とした表情を崩さない。それどころか、慈母のような顔で、こう言った。

 

 

「…たとえ、私が死んでも…世界が終わっても……全て、虚しいんだ。意味なんか、何もない……だから、だからこそ、私は抗うんだ…他でもない、私のために、な」

 

 

太陽のような、そんな顔。蛇は、その顔が大嫌いだった。自分の痛みが、また蘇るようで、蛇はさらに殺気を高めた。

 

 

 

死ね、死ね、愚かな、妬ましい、気持ち悪い、死ね。そんな言葉が、蛇の中で反復して、負の心を作り出していた。どし込められてしまうような、そんな心情だった。

 

 

「……消えろ!この世の悪そのものが!!」

 

 

蛇は大口を開けた。今すぐにでも、サオリの顔をぐちゃぐちゃにしたかった。その欲望に身を任せ、自身の牙で、サオリを引き裂こうとする。

 

"サオリ!"

 

男の声が響く。そのものは、手を捻らせ、何か、トランプのようなものをサオリに向けて投げた。

 

それは光だった。輝いていた。目に入ると、とても目も開けられないほどに眩しくて、痛くて、蛇は目を瞑った。

 

先生の陰を薄目で、ほんの少し見つめる。それは、蛇の目が正ければ、水面に浮き、立っている先生を映し出していた。こんなに風が吹き荒れているというのに、海波は凪となっていた。

 

光を吸い込むはずの雨粒は、光を反射し、醜い光沢を表す。まるで純銀のような、そんな光だ。

 

投げられたカードは、吸い込まれるように、都合よくサオリの手元へと入る。ああ、なんてことだ。全てが私の敵だ。風も、波も、雨さえも、私という闇を、追放しようと蟻のように働いている。

 

絶望。それに感情を染めていると、カードを手にしたサオリが、ふと、こう呟いた。

 

 

 

 

 

「閃光の……ように……」

 

 

 

 

 

その瞬間、カードから光が天に昇る。まるで、天への梯子(はしご)のように、それは暗雲へと突き刺ささっていた。

 

ほんの一筋の、か弱い、蜘蛛の糸のような光。それは、雨雲に確かな穴を開けた。

 

小さな穴は、雲を綿のようにちぎり、光を拡大させた。やめろ、と心のなかで蛇は唱えるも、それは徒労へと終わる。

 

黄金色の光から、降臨するように飛び出してきたのは、純白の、真っ白な髪。紫水晶(アメジスト)のように透き通った、薄紫の目色。それはまるで、天使そのものだった。

 

 

 

 

「アズサ!?」

 

 

 

 

アズサと呼ばれたそれ…いや、私も知っている。だが、知らないフリをしたいだけだ。が、落ちる勢いそのままに、自身に向けて突っ込んでくる。

 

ばらばらと、神秘を込めた銃弾をばら撒きながら、彗星のように落ちてくる。私はそれを防ぐことは、とうとうできなかった。

 

 

ぶちぶち、体が音を上げて崩れ始める。サオリへの拘束が解かれる。ああ、痛い、痛い、痛い。死への恐怖がやってくる。生物としての恐れが、我に降り注ぐ。

 

 

嫌だ!蛇は心の内でそう叫んだ。なぜ、自分だけ、救われないのか、なぜ、自分だけ、愛を与えられないのか、それがどうしても納得できなくて、たまらなかった。

 

 

 

 

 

 

追憶する。昔、大昔の記憶を。あのときはそう、幸せだった。母がいて、父がいて、弟がいて、姉がいて。

 

海は綺麗だった。生きてるものはあんまりいなかったけど、とにかくそう思えた。透き通った青、綺麗な子たち。それらが気持ちよさそうに流れていて、まさに平安だった。

 

私には、好きな人さえいた。その人は、私を作った人だ。それでいて、暖かくて、眩しくて、でも、いつも側にいてくれて。

 

あったことは、数えるほどしかないけど、とにかく好きだった。一目見たときから、たぶん、私は惚れてたんだと思う。畏れ多くも、でも、好きなのは隠せなかった。

 

甘酸っぱい、青春だった。友達と話し合った日、家族に相談した日、おめかしをしようと、遠くの海へ、出かけた日。…届かないものを、どうにかして手に入れようとするような、そんな私の、確かな青春の記憶だった。

 

 

 

でも、それはぐるぐるに混ぜ替えられた。他でもない、想い人のせいで。

 

お父さんは殺された。バラバラになって、蛸の餌になった。

 

お母さんは消えた。多分、焼かれたんだと思う。骨が、お母さんのお気に入りの石の裏に佇んでいた。

 

弟は食べられた。食べるものがなくなって、ついに狂ってしまったお姉ちゃんに。

 

姉は自殺した。耐えきれなかった。私もそうした。でも、私は生かされた。

 

私の主はこう言われた。ここで、海を守るように。と。なんて身勝手なんだ。私はそいつを殺そうとした。…でも、できなかった。好きって気持ちに、嘘はつけなかった。

 

ああ、なんて悲劇なんだろうか。もどかしい、もどかしい。自分の甘さが、身に染みる。そうだ、どうせ私は、自分の愛情を優先するだけの、自己中だ。

 

そこからだ。愛が嫌いになったのは。くだらない、気色が悪いものだと思うようになったのは。

 

ああ、嫌だ。それなのに、私は今、愛という物質に殺されそうになっている。そんなの、絶対に受け入れられない。

 

「…なに?!」

 

私は最後の抵抗をした。うねり、うねり、火を噴いた。火山のように、それでいて、雷のように、必死に、世界を壊していった。

 

凪はさざ波となり、そこから激浪と、火にかけられた鉄のように変わる。

 

そうだ、そうだ、私……我は、悪魔だ。この世を破滅に導き、天を滅さんとする、大悪魔だ。そうだった。そうなはずだ。

 

肉片がどぼんと、荒海に落ちる。我はそれに目を向けずに、ただ、殺すべき対象へと、目を向ける。

 

サオリ、ヒヨリ、ミサキ、アツコ、ミカ……先生。全員、殺してやる。ずたずたにして、二度と、愛なんて呟け無いようにしてやる。

 

私にとって、それは、救済のようでもある気がした。だから、私は笑った。山羊のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が上がる。豪雨は霧雨となり、渇水となった。

 

七色の虹が、橋のように架かる。

 

大海は、水たまりのようになった。

 

To be continued

*1
輝くこと







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