アリウスと原罪   作:パエリアさん

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そろそろ色々と変わっていきます。そろそろ私のworldがぶんぶんしてくるのでご注意ください。

さて…ハジメくんは、どういう人生を送っていくんでしょうかねえ?




第7話 偽物のメシア

ピリリリリリリガチャ

 

う〜ん、もう朝かあ…。

 

部屋に差し込むくぐもった光、爽やかとは言えずとも、心地の良いそよ風。それによって、俺は今日も機嫌よく目を覚ました。

 

 

ドンドン

 

 

戸を叩く音。これも、もう日常となりつつあった。俺は開かれた窓へと目をやり、そこに彼女らがいるのを目視した。

 

ああ、もうそんな時間か、そろそろ登校しなきゃな、普通の高校生みたいに。

 

「はいはい、今行くから」

 

そう言った俺は、玄関へと足早に歩いた。なぜだか、ふふっ、というほほえみが、溢れるように飛び出した。

 

 

____________________________________________________

 

 

 

「あ〜。憂鬱だ〜」

 

ジャリジャリと足音を鳴らしながら、俺は歩く。まだ眠気は覚めておらず、欠伸がふあっと吹き出た。

 

「そんな事を言うな、ハジメ。みんな同じ気持ちだ」

 

ぴしりというのはサオリ。確かに憂鬱そうだが、心なしか浮き足立っているような気もした。

 

「そ、そうですよ〜。それに、終わったらおいしいもの食べれますよ?」

 

「その『おいしいもの』は誰が作ると思ってるんだ?ヒヨリ」

 

「?…まともに料理できるのハジメさんしかいないですよ?」

 

当然のようにいうな…ほんとに……。思わず俺は、声が漏れ出た。

 

「…お前ってやつは…」

 

普段はスクワッドの奴らと共に登校している。ほぼ毎日アリウスに通って、もう半年以上過ぎた。日本では女子と一緒に登校するなんてありえなかったから、最初の方は緊張したが、もう慣れた。

 

ていうかヒヨリが図々しい。最初から思ってたけど。なんのことわりもなく俺の家で飯を食べるって言ったときは正気を疑った。まあ、いまは手伝ってくれてるからいいけど…。

 

「今日はマダムの教えからだろ?朝からあれはキツイなー。」

 

「………カキカキ(寝たらまた乱暴されちゃうよ?)」

 

筆談で忠告してくれるのはアツコだ。謎の仮面によって表情は読み取れないが、それでも気品あふれる歩き方や、艶のある肌から発せられる『美』は、抑えきれなかった。

 

「わかってるって…もうあれはごめんだ」

 

この前のやつで爆睡かましたんだよな。あれはすごかった。かなり命の危機を感じた。久しぶりに死ぬかと思った。

 

「でも仕方がないと思うぞ?トリニティの恨みが〜、私への忠誠〜、全ては虚しい〜。だなんて。なんて無意味で、なんて退屈なんだ」

 

そんな事を教えられても仕方がないだろ。あんなん洗脳だ。全員が同じ思想になるような。

 

俺はそれが嫌いだ、大嫌いだ。全員が同じ存在になるなんて、最も忌むべき行動だ。それを強要するなんて、もってのほかだ。だから俺は、あの人へは反発するんだ。

 

「…しかし、あれらが私たちにとって、すべての真実なんだ。vanitas vanitatum et omnia vanitas…全ては虚しくて、意味なんてないんだ。」

 

サオリが口を開いた。周りの反応は…やっぱり、コイツラはアリウスの教育を受けてけたんだな。信じられないようなものをみるような目で俺を見てくる。

 

きっと、サオリが言ってることは間違ってないんだろう。だけど…。どうしても、俺は否定したくなった。

 

「そうなのか?…まあ、人それぞれに、それぞれの真実があってもいいと思うんだ。俺は俺の考えがあるし、お前らはお前らで、その教育を信じればいいし」

 

思想の強要は良くないからな。いくら思想が相容れなくても、皆それぞれの真実があるはず。それを否定するのは侵害にほかならない。そうだ、俺はあんな奴らとは違うんだ。

 

「…じゃあハジメ、少し聞いてもいいか?…vanitas vanitatum et omnia vanitas…これについて、ハジメはどんな事を感じて、考えているの?」

 

アズサが興味深そうに聞いた。他の面々も、俺の解釈が気になるのか、俺に注目している。

 

「そうだな…全ては虚しい…どこまで行こうとも、全てはただ虚しいものだ…か」

 

難しいな…。言葉通りに受け取るなら、全部虚しいんだから、全部諦めろ。みたいな意味みたいになるけど…。

 

 

 

「…俺は、この言葉はきっと、『()()()』って意味だと思う。」

 

 

 

周りは瞳孔をかっと開きながらも、真剣に俺の言葉を聞いている。…動物園で、初めてパンダでも観るように、食いつくようにこちらを見つめている。

 

「全ては、努力も、人生も、虚しいのだから。でも、()()()()()、全てに執着することなく…虚しさの中に喜びを見つけ、せっかく与えられた人生を、必死に楽しんで生きてほしい…。そんな意味を持ってるんじゃないかな」

 

スクワッドたちは、目を丸くして俺を凝視している。…そんなに珍しいことなのか?少し変な雰囲気に周りが包まれる。

 

「…そんな…捉え方をしても…いいんだな…。」

 

サオリが力なく、つぶやくように言った。空気が裂くように変わった。

 

「ああそうさ。教えには、捉え方があってなんぼだろ?みんな、違うことを考えたり、言ったりしても良いんだ。だって俺たち人間は…いつも自由だろ?」

 

「vanitas vanitatum …… et omnia vanitas…。全ては虚しい…だからこそ、楽しんで…か」

 

アズサが、納得したように言った。こいつは…今から他とは違う、『特別』な考えを持つことになるのか…。

 

そうだ…みんな、『特別』になってもいいし、特別になってもいいんだ。俺も、そんなことに気づいて、救われたような気分になった。優越感も、これまた出てきた。

 

今日の太陽は、いつもよりも鮮明だった。雲が晴れるのも、時間の問題だろう。その時は、虹でもかかるのだろうか。俺はとにかく、希望を持たずにはいれなかった。

 

 

 

じいっ……

 

 

 

…背後から舐め回すように見ている、監視者に気づくことはないまま…。

 

 

___________________________________________________

 

 

キヴォトスの何処か、一人の異形が、真っ黒な服で、真っ黒な椅子に腰掛けながら、六人の学生を映すモニターを見ていた。

 

「ふむ…これは…興味深いですね」

 

異常なほど集中してモニターを眺めながら、ぽつんと独り言をつぶやいた。

 

「いやはや…彼女には感謝が必要ですね。こんなに貴重なサンプルを色彩に対する知識だけで譲渡してくれるとは」

 

くつくつと、上機嫌そうになって笑う。そして、すぐに先ほどの言葉についての考察を始める。

 

「物事には解釈がある…解釈は自由…。教えの前提を疑うとは、これまたアリウスの生徒らしくない」

 

一息ついて、少し考える素振りをみせた。

 

「まるで…大人…いや、大人とも違う。大人とは違い、極めて対等に接し、諭している…」

 

真っ黒な異形は、うつむきながら、今度は彼に似合う言葉を考えることに全集中している。

 

「これは…まるで…何かを代弁しているような…そう、そうですね」

 

どうやら似合う言葉を思いついたらしい。表情は読みにくいが、難しいクイズを解けた時のような、そんな雰囲気を醸し出している。

 

救世主(メシア)…とでも、呼びましょうか?」

 

声を上ずらせ、年に似合わない、ぱあっと明るい声でそういい、再び笑いへと変わった。

 

キヴォトスの孤独な一室に、空調の音のみが響いていた。笑い声はというと、闇に溶けるのみであった。

 

 

 

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マダムの授業、訓練、やるべきすべてのことが終わって、くたくたになった俺は帰路につく…はずだが、今日はちょっと違う。

 

つい先程、アズサがマダムに呼ばれているのをみたんだ。アツコやサオリはともかく、アズサがマダムに呼び出されるのは珍しい。教官にはいっつも呼び出されてるけど。

 

そんなこんなで、今俺はマダムとアズサがいるはずの部屋の扉の前に立って、話を聞いている。

 

盗み聞き…?言いたきゃ言え、人は好奇心なしでは人とはいえない。俺はとにかく気になるんだ。つまり、俺は聞く必要があるってことだ。

 

「…ですからアズサ、あなたには…」

 

おっ、話してる。なんか任務でも与えるのか?アズサ単体の…。

 

やっぱり、アズサはすごいからな…特別なことも…任されるんだろうな…。俺とは違って、か。

 

 

 

「トリニティへ潜入してもらいます」

 

「…わかった、マダム…」

 

な、なんだって?!潜入任務!?トリニティに!?

 

予想外のことに、俺はうろたえた。危ない、音を立てるとこだった。口を手で押さえる。隙間から重い息が漏れ出すのを感じた。

 

「…話は以上。帰るように」

 

どうやら話は終わったようだ。ていうか、つまるところスパイか…まあ、アズサなら適任だろう。

 

いつも冷静で、周りが見えている。もちろん実力も申し分ない。きっとアズサなら、何をするにしても上手にこなすはずだ。

 

 

 

 

妬ましい

 

 

 

 

ガチャリ

 

その少し後に、扉が開かれた。そこには少しばかり震えているアズサがいた。

 

「…?ハジメ…聞いてたのか?」

 

「ああ…アズサ…聞いてたさ。最後の方だけだけど」

 

あれ?アズサ、なんか顔色が優れないな。いや、いつも無表情で、凍ってるみたいだけど…。俺ももう半年以上関わっているんだ。異変は分かる。

 

「大丈夫か?アズサ?…そんな顔して…」

 

俺がそう言うと、ぺたんと座り込んで、震えが声までつながり、さらに大きくなった。

 

「私は…私は…怖い、怖いよ、ハジメ」

 

「おい…!ほんとに大丈夫か?!」

 

顔面蒼白で俺にすがりついてきた。明らかに普通じゃない。…何かあったんだ?

 

俺はアズサと同じ目線になって、ぎゅっと手を握ってやった。

 

「…なにが、そんなに怖いんだ…?」

 

「私は…私は…人殺しに…なるのか?」

 

…?どういうことだ?人殺しとは、どういうことなんだ?

 

「ひ、人を殺す…任務も…与えられたんだ。百合園セイア…ティーパーティーの人らしい…そ、その人を殺したら、アリウスは救われるらしい…けど、けど」

 

ところどころで吃る。そのまま止まろうとしていたが、アズサはその強靭な精神力で、言葉を止めなかった。

 

「怖いんだ…人を……殺すのが…。人殺しに…なるのが」

 

泣きそうになりながら、俺に説明をしてくれる…。なるほど。人殺しの任務を与えられたのか…人殺しになるのは…確かに、つらいよな。

 

…こいつも、普通の高校生…なのか。

 

俺はさらに手を強く握り、こう言った。

 

「大丈夫だ、アズサ。…それはそれで、これはこれだ。大丈夫だから、スクワッドが…俺たちがいるから…。罪は一緒にかぶるよ」

 

できる限り、優しい、甘い言葉をかける。これ以上、アズサを傷つけないため。…本当に、それだけなのか?自問自答をする。しかし、防衛反応からか、答は出そうになかった。

 

「う、ううう…そんな、そんなこと…できない…。皆に…申し訳ない…」

 

涙がぼろぼろと決壊する。俺はアズサを抱きしめるに至った。そしてその後に、アズサだけに聞こえるように、慎重に抑えながら、こう囁いた。

 

「大丈夫だ。皆、アズサのことが大切なんだ。…だから…きっと分かってくれるよ」

 

「う、うああああああ!」

 

赤子のように泣きじゃくる…。こいつにも、弱いところがあるんだな…。

 

普通の…ところが…。

 

 

 

にやり

 

 

 

 

 

 

少しして、泣き止んだアズサを連れて、家まで戻った。泣きつかれたのか、アズサは死んだように眠っている。

 

一連の事を振り返る。…俺は、何をしたんだ?アズサに…何の解決もならない言葉をかけて…甘い…意味のない言葉をかけて…。

 

それから…俺は、なんて思ったんだ…?苦しんでるアズサを見て、俺を頼ってくれるアズサを見て…。俺は、それで()()()()()のか…?

 

…ああ、俺は利己的なんだな、アズサのためって思ってたけど、俺が特別だと思うためだけに、…嫉妬の念をなくすためだけに…俺は、アズサにゲロより甘い言葉をかけたのか…。

 

自己嫌悪が霧となって俺を包む。そのまま消えてしまいたかった。

 

俺は、心底自分のことを恨むよ…自分の弱さを、自分の驕りを。

 

なんで嫉妬に勝てないんだ?なんで優越感を排せないんだ?なんで自覚しても、しょうがないと思えるんだ?

 

 

 

この…偽善者(クソ野郎)が。

 

 

 

To be continued






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