大好きブルーノちゃんのアーカイブ   作:ブリブリブリヂストン

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Vol.1 ‘’絶望‘’のアビドス対策委員会編
ようこそ対策委員会


 

 

早いものでブルーノがシャーレの先生になって一週間が経過した。

 

 

部室のあるタワーをはじめとする各施設や設備を、アロナのサポートもありどうにか把握した。今は各学園の詳細が記してある資料に目を通し、特に解決優先度の高い問題を「依頼」という形で対処しているところだ。

 

 

その中で資料……というよりも手紙を手に取った。デシタルの書類が多い中、珍しく手書きで書かれている。可愛らしい文字で綴られた内容を読む。

 

 

『連邦捜査部の先生へ

 

 

 こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。今回どうしても先生にお願いしたいことがありまして、こうしてお手紙を書きました。

 

 単刀直入に言いますと、今、私たちの学校は追い詰められています。

 

 それも、地域の暴力組織によってです。こうなってしまった状況はかなり複雑ですが……どうやら、私たちの学び舎が狙われているようです。今はどうにか食い止めていますが、そろそろ弾薬などの補給が底をついてしまいます……このままでは、暴力組織に学校を占領されてしまいそうな状況です。

 

 それで、今回先生にお願いできればと思いました。

 

 先生、どうか私たちの力になっていただけませんか?是非、お待ちしておりますーーー』

 

 

 

 

「アビドス高等学校、か」

 

 

 

手紙を読み終えたブルーノに、『シッテムの箱』からアロナが顔を出した。

 

 

「昔は大きな自治区でしたけど、気候の変化で街が厳しい状況になっていると聞きました!なんでも街のど真ん中で道に迷って遭難する人がいるくらいだそうです」

 

「はは……そんなことありえるのかな?」

 

 

さすがに遭難するというのは誇張だろう。しかし暴力組織に狙われているのは穏やかではない。ブルーノは席を立つ。

 

 

「この依頼を受けよう。アビドスに出張するよ」

 

「すぐに出発ですか、さすがは大人の行動力!かしこまりました、行きましょう!」

 

 

 

思い立ったが吉日。ブルーノは行動を開始した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「なるほど。用事があって数日前にこの街に来たけど、お店が一軒もなくて空腹と脱水で力尽きた、と……ただの遭難者だったんだね」

 

 

 

完璧な状況説明の後、オッドアイの少女が納得したように頷いた。

 

 

彼女の前に倒れ伏した先生ーーーブルーノは力なく笑う。それが彼の現状だった。あらかじめ用意した地図は意味をなさず、すぐに道に迷った。おまけに土地勘がないとくれば、もうお手上げだった。

 

 

「できれば水かなにかをくれると助かるんだけど…」

 

「水はないから……はいこれ、エナジードリンク」

 

 

少女が差し出した飲料水を受け取る。

 

 

「お腹の足しにはなると思う。……ええと、コップは……あっ」

 

 

一度封が切ってあったそれを制止する暇もなく、ブルーノは一気に口づけた。喉を流れる清涼感。全身に行き渡ったの実感して、ぷはぁ、と一息ついた。

 

 

「ありがとう、本当に助かったよ。君は命の恩人だ……どうかした?」

 

「……ううん、何でもない。気にしないで」

 

 

少し気まずそうに少女が顔をそらす。頭の犬耳がピコピコ揺れていた。

 

 

「ところで、この近くだとうちの学校しかないけど……『アビドス』に行くの?」

 

「そうなんだ。君は道を知ってるかい?」

 

「うん。私も行くところだったし。そっか、久しぶりのお客様だ。それじゃあ私が案内してあげる、すぐそこだから」

 

 

少女の提案にブルーノは大きく頷く。しかし、問題が一つあった。

 

 

「ありがとう。でも、喉の渇きはなくなったんだけど……空腹で動けなくて……申し訳ないけど乗せてくれないかな」

 

「えっと、これ一人用だから……」

 

「じゃあ背負ってくれない、かな?」

 

「……まあ、そのほうがいいか」

 

 

 

少女は乗っていたロードバイクを路肩に停める。特に苦にすることもなくブルーノを背中に担ぐと、静かに歩き出してーーー止まった。

 

 

「えっと……さっきまでロードバイクに乗ってたから……そこまで汗だくってわけじゃないけど」

 

「ん?」

 

「その、汗臭い、かも」

 

「ああ、全然そんなことないよ。むしろフローラルな匂い。ずっと嗅いでいられるよ」

 

「ん。これがセクハラというやつ?」

 

「……ごめんなさい。今言ったことは忘れて下さい」

 

「冗談。それじゃ、行こっか」

 

 

 

先生一人を背負った少女は柔らかく笑うと、再び歩み出すのだった。

 

 

◇◇◇

 

 

「ただいま」

 

「お邪魔しま、す……」

 

 

アビドス高等学校。その中の教室の一つに、銀髪の少女と大人一人が入室する。

 

 

「おかえり、シロコせんぱ、い……?」

 

「わあ、シロコちゃんが大人を拉致してきました!」

 

「拉致?もしかして死体!?シロコ先輩がついに犯罪に手を……!」

 

「みんな落ち着いて!速やかに死体を隠す場所を探すわよ!体育倉庫にシャベルとツルハシがあるからそれを……!」

 

 

出会って早々、物騒なことを言い出す女子生徒たち。未だに空腹なこともあり困惑するブルーノ、を背負っていたシロコと呼ばれた少女も困惑しながら彼を椅子に座らせた。

 

 

「いや……普通に生きてる大人だから。ここに用があるんだって」

 

「え、死体じゃなかったんですか?」

 

「拉致したんじゃなくて、お客さん?」

 

 

黒髪ボブと黒髪ツインテールの生徒がそれぞれ顔を覗き込んでくる。ブルーノは力なく挨拶した。

 

 

「やあ、はじめましてだね。僕はブルーノ。シャーレから来た先生です、よろしくね」

 

 

ブルーノの言葉に、教室にいた全員が目を丸くした。少しの沈黙の後、今度は興奮するように話しかけてくる。

 

 

「え、ええ!?、まさか……」

 

「連邦捜査部『シャーレ』の先生!?」

 

「うん、そうだよ。……あ、これ食べてもいいかな?」

 

「え、はい、どうぞ……お湯はこれを使ってください」

 

 

スナック菓子と共に机に置いてあったカップラーメンーーーピリ辛レッドデーモンズヌードルを手に取る。差しだされた湯沸かしポットを使い、カップラーメンを静かにすすった。

 

 

「支援申請が受理されたんですね!よかったですね、アヤネちゃん!」

 

「はい!これで……弾薬や補給品の援助が受けられます……!」

 

「ホシノ先輩にも伝えないと。隣で寝てるから私起こしてくる」

 

 

そう言ってツインテールの少女が教室を出ていく。だいぶお腹も膨れたブルーノは、本来の目的である依頼について話を聞こうとするとーーー

 

 

 

ダダダダダダダダダダダッッッ!!!

 

 

それを遮るかのように銃声が響いた。

 

すぐに窓の外に目をやると、ドクロのようなシンボルマークが刻まれた、フルフェイスのヘルメットを身に着けた集団がいた。銃を乱射し、怒号を飛ばしながら校門前まで迫っている。

 

 

「武装集団が学校に接近……!カタカタヘルメット団のようです!」

 

「あいつら、性懲りもなく……!」

 

「ホシノ先輩連れて来たよ!先輩、寝ぼけてないで起きて!」

 

「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよー」

 

 

先ほど教室を出て行った生徒が、一人の少女を連れて戻ってきた。ピンク色の髪をした小柄な彼女は、気だるげに机に突っ伏する。

 

 

「ホシノ先輩!ヘルメット団が再び襲撃を!こちらはシャーレの先生です」

 

「ありゃ、そりゃあ大変だね……あ、先生?よろしく~」

 

 

先生、という単語に反応した少女は、ブルーノを軽く一瞥する。が、すぐに興味を失ったのか、再び寝転んだ。

 

 

「先輩、しっかりして!出動だよ!装備もって!」

 

「すぐに出るよ」

 

「はーいみんなで出撃です☆」

 

 

各々武装を始める女子生徒たち。その熱気にあてられたのか、むくりと起き上がった寝惚眼の少女は大きく欠伸をする。

 

 

「むにゃ。おちおち昼寝もできないじゃないか~ヘルメット団め~」

 

「私がオペレーターを担当します!先生はこちらでサポートを!」

 

「いや、僕も前線に出るよ。みんなの戦いを見ておきたいしね」

 

「え、ええ!?それは構いませんが……大丈夫ですか?」

 

 

ブルーノの返答に、黒髪ボブの少女は大きく動揺した。彼女たちに比べれば自分は赤子同然。それでも何かしたい、力になりたいという義務感と責任感が背中を強く押していた。

 

 

「うへぇ、物好きだね~。まぁでも、大人の先生が後ろにいるってのは心強いかも。危ないから離れないでね~?」

 

「勿論、さあ行こうか」

 

 

段々とこのハチャメチャな日々に染まりつつあることを自覚しながら、ブルーノは生徒たちと戦場に駆けて行った。

 

 

◇◇◇

 

 

「カタカタヘルメット団残党、校外エリアまで撤退したのを確認。みなさん、お疲れ様でした!」

 

 

 

オペレーターを務めた少女の声が教室に響く。

 

結論から言うと、今回の戦闘は対策委員会の圧勝に終わった。

校門前で陣を敷き、敵の人数、武器、戦術を分析。前衛と後衛に分かれて迎撃をおこなった。数的不利もあり苦戦すると思われたが、アビドスの生徒たちの実力、オペレーターの戦況報告、ブルーノの指揮もあり、瞬く間に敵を制圧した。相手がただ銃を撃ち続けながら前進してきたのに対し、こちらは逐一連携して撃退できたのも大きいだろう。

 

 

「いやぁ~まさか勝っちゃうなんてね~」

 

 

何よりもこの少女ーーーホシノの存在が別格だとブルーノは痛感していた。どこか余裕がある。いや、敵を倒すために頑張っているのは確かだが、他の生徒とは違い、手の内をすべて明かしていない……そんな風に思えた。

 

 

「勝っちゃうなんて、じゃありませんよホシノ先輩。勝たないと学校が不良の生徒になっちゃうじゃありませんか……」

 

「先生の指揮が良かったね。私たちだけの時とは全然違った」

 

「そう言ってもらえると嬉しいよ」

 

 

銀髪の生徒からの称賛を素直に受け取る。伊達に一週間、シャーレの先生をしているわけではないのだ。

 

 

 

「少し遅れちゃいましたけど、改めてご挨拶します。先生。私たちはアビドス対策委員会です。私は委員会で書記とオペレーターを担当している1年のアヤネです」

 

 

眼鏡をかけ、編み込みカチューシャの黒髪ボブの少女がぺこりと頭を下げた。

 

 

「こちらも同じく1年のセリカ」

 

「どうも」

 

 

しなやかで綺麗な長い黒髪を、ツインテールに結んだ可愛らしい猫耳の少女が続けて挨拶する。

 

 

「2年のノノミ先輩とシロコ先輩」

 

「よろしくお願いします、先生~」

 

「よろしく、先生」

 

 

大きく黄緑な瞳が特徴的の、おっとりとした生徒がノノミ。セミロングの銀髪、オッドアイでミステリアスな雰囲気を醸し出す少女がシロコ。ブルーノにとっては命の恩人だ。

 

 

「そしてこちらが委員長の……3年のホシノ先輩です」

 

「いやぁ~よろしく。先生~」

 

 

最後に紹介されたピンク色の長い髪に、その年齢には不釣り合いであろう体型の小柄な少女がゆるく笑う。

 

 

続いてアビドス対策委員会についても、アヤネの口から説明してもらった。

 

アビドスを甦らせるために有志が集った『部活』であること。全校生徒……すなわちここにいる5人で構成されており、他の生徒は転校したり退学したりして町を去っていったこと。相対的に学園都市の住民も減って、カタカタヘルメット団のようなチンピラに学校を襲われて、なんとか現状を維持していること。聞けば聞くほど彼女たちの苦労が見てとれた。

 

 

「だからこそよかったよ。補給品も底をついてたし。なかなかいいタイミングで来てくれたね、先生」

 

「ええ、すぐに支給されるのですよね?」

 

「ああ、問題ないよ」

 

 

すでに支援物資の申請は完了している。具体的には弾薬の補充と戦闘補給品の申請だ。アロナに受理されたのを確認したので、1時間もしないうちにここに届けられる手筈だ。

 

 

「それにしても、こんな消耗戦いつまで続くんでしょうか……ヘルメット団以外にもたくさん問題を抱えているのに……」

 

「うん、それなんだけど……僕から提案があるんだ」

 

 

軽く手を挙げて告げるブルーノ。えっ、と驚くアヤネの他に反応したのはホシノだった。

 

 

「へぇ、奇遇だね。おじさんもちょうど計画を練ってたんだよね。せっかくだし……同時に言ってみよっか?」

 

 

ホシノの言葉にブルーノは頷く。せーの、と息を合わせて自分の考えを口にした。

 

 

「「こっちから攻め入る」」

 

 

一字一句違わず告げた二人に最初に首を傾げたのはセリカだった。

 

 

「え……?どういうこと……?」

 

「ヘルメット団は数日もすればまた攻撃してくるはず。ここんとこずっとそういうサイクルだったからね~」

 

「だったら、このタイミングでこちら側から仕掛けて、前哨基地を襲撃する。消耗してるのは向こうも同じだからね」

 

「今なら先生もいるし、補給とか面倒なことも解決できるしね」

 

 

つまるところ防衛に回るというのは、主導権の喪失であり、戦略の放棄だ。いつかは限界を迎え、決壊する。それがアビドスならば尚更だ。だからこそ、こちらから打って出る。現状を打破するために。

 

 

「理屈は分かったけど、でも……」

 

「上手くいくでしょうか……?」

 

「分からない。消耗してると言っても、数的有利は相手にある。もしかしたら未知の戦力を隠し持ってるかもしれないしね。少なからずリスクはあるんだ」

 

 

不安がるセリカとアヤネに、ブルーノはあえて厳しい言葉を続ける。

 

 

「決めるのは君たちだ。僕は先生で、生徒の自主性を尊重したい。君たちがこのまま消耗戦を続けたいのなら、それでもかまわない。総力をあげて前哨基地を襲うのなら、全力でサポートする。それは約束するよ」

 

 

静まり返る教室。ブルーノは彼女たちに選択肢を与えたのだ。生徒たちは互いに顔を見合わせて、決断した。

 

 

「私はやる。前哨基地まで30㎞くらいだし、すぐ行こう」

 

「ですね~。あちらも今から攻撃されるなんて夢にも思ってないでしょうし」

 

「……ああ、もう、分かった!やるわよ、やってやるわ!」

 

「……はい!ここで後顧の憂いを断ちましょう!」

 

「決まりだね。じゃあ、補給が済み次第突入ってことで、いいよね?先生」

 

「ああ、すぐに準備しよう!」

 

 

全員の気持ちが一つになり、握ったこぶしが強くなるのを感じながら、ブルーノは不敵に笑った。

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……大人の力って、すごい」

 

 

 

カタカタヘルメット団が占領していた基地を制圧完了後、アビドス高校へ帰還する途中にシロコが呟く。自分に向けられた言葉であると察したブルーノは、何でもないように笑った。

 

 

「何てことないよ。僕はみんなの背中を押しただけさ」

 

 

それは本心だった。ヘルメット団残党が突然の襲撃に後手後手になったこと、こちらの補給が十分だったこと等、勝てた要因はいくつかあるが、やはり一番は彼女たちの頑張りだろう。

 

 

「でも火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付いたのは良かったですね」

 

「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる」

 

「うん!これで心置きなく全力借金返済に取り掛かれるわ!」

 

 

 

…………うん?

 

 

何か今、一介の女子生徒からあまり聞くことのない単語が聞こえたような気がして、ブルーノは自分の耳を疑った。

 

 

「あの、借金返済、って……?」

 

 

おずおずと聞くブルーノにしまった、とバツの悪そうな表情を浮かべたのはセリカだった。唯一ここにいないアヤネの声が端末から届く。

 

『セリカちゃんっ!……ええと、その、それは…』

 

「いいんじゃない?別に隠すようなことじゃないでしょ?」

 

「かといって、話すようなことでもないでしょ!」

 

「先生は私たちを助けてくれた大人でしょ?少しは信頼できると思うけどなー」

 

「で、でも結局部外者だし!」

 

「悩みを打ち明けるだけだよ。もしかしたら良い解決法が見つかるかもだし~」

 

「所詮はさっき来たばかりの大人じゃない!今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気に留めたことがあった!?」

 

 

悲壮感が漂った物言いに、一同が静まり返る。そんな状況でもセリカは声を荒げる。

 

 

「この学校の問題は、ずっと私たちだけでどうにかしてきたじゃん!なのに今更、大人が首を突っ込んでくるなんで……私は認めない!!」

 

 

そこまで言い切ると、セリカは駆け出してしまった。慌ててノノミが追いかけていく。

 

 

(……前途多難、かな)

 

 

簡単に片付きそうな問題ではないと、ブルーノは頭を悩ませるのだった。

 

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