カタカタヘルメット団の件が片付き、アビドス高等学校に戻った後、ブルーノは対策委員会の教室で話を聞いていた。
それは、この学校を取り巻く問題ーーー多額の借金返済だった。
その総額9億6235万円。これが返済できないと学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを行わなければならないという。アビドス高校の生徒数が少ないのも、返済できる可能性が0%なので、諦めて学校を去っていったのだ。
そもそも何故このような借金があるのか。
数十年前、学区の郊外にある砂漠で起きた砂嵐が原因だった。砂嵐は以前より起きていたものの、ある時を境に規模が大きくなり、やがてそれは学区自体にも影響を及ぼした。至る所が砂に埋もれ、生活できる空間が著しく減ったのだ。
その自然災害を克服するため、必然的に多額の資金を投入することになった。しかし、巨額の融資をしてくれる銀行が簡単に見つかるわけもなく、やむを得ず……悪徳金融業者から借り入れるしかなかった。
最初のうちはすぐに返済できる算段だったのだろう。しかし学校や街の住人たちの努力も虚しく、状況は悪化の一途を辿り、その度に借金をして投入していくしかなかった。
それが積もり積もって、現在に至る。今では利息を返すのだけで精一杯なのだ。弾薬や補給品が底をついていたのも、このような理由があった。
「……まあ、そういうつまらない話だよ」
机に寝転がったまま、ホシノが補足する。
「セリカちゃんがあそこまでピリピリしてるのは、今までこの問題に対してまともに取り合ってくれる大人がいなかったからなんだ。仕方ないんだよね~」
「うん。話を聞いてくれたのは先生、あなたが初めて」
ホシノの隣で頷くシロコ。白と黒の瞳孔が真っ直ぐこちらを見据えていた。
「先生は十分力になってくれた。これ以上迷惑はかけられない」
「だね。少なくとも補給はなんとかなったんだし……借金のことは私たちでやるからさ。先生は気にしなくていいよ~」
これで話はおしまい、とでも言うようにホシノは目を閉じる。他の生徒も仕方ないといった面持ちで顔を伏せた。だがブルーノだけはーーー顔を上げて告げる。
「いや、まだ依頼は完了していない」
教室にいる全員の視線がブルーノに集まる。
「僕はシャーレの先生だからね。生徒が必死に頑張ってるのに、先生が知らんぷりなんて出来るわけないよ。僕も対策委員会のメンバーとして……君たちに協力するよ」
親指を立ててニカッと笑う。最初はみんな唖然としていたが、やがて笑顔に変わっていく。希望をもたらす存在が目の前にいる。それがとても嬉しく……眩しかった。
「……うん。よろしくね、先生」
「先生も物好きだね~。こんな面倒なことに自分から首突っ込もうなんてさ」
「でも心強いです!これで私たちも希望が……あれ、そういえばノノミ先輩は?」
「……あ、セリカ追いかけてそのままだった」
再び騒がしくなる教室。そんな生徒たちを見ながら、大変なことを引き受けちゃったなと、ほんの少しだけ後悔した。
ーーーーーそれでもやるだろう?
分かってるよ、と今や懐かしく感じる顔を思い浮かべて、ブルーノは笑うのだった。
◇◇◇
「なんで、ついてくるのよーーーー!!!」
アビドスの住宅街でセリカの声が響く。
翌日になり、街を歩いていたブルーノは見知った生徒を発見した。見知ったと言ってもこの学区ではひどく限られているのだが、昨日あんな別れ方をしたため、ちゃんと話をしたかったのだ。
「学校に行くんでしょ?僕も行き先は同じだからね。カタカタヘルメット団の残党もうろついてるかもしれないし、護衛兼パトロールってところかな」
「護衛って……先生は守られる側でしょうに……」
はぁ、といかにも面倒くさそうなため息をつく。
「それに残念ね。今日は自由登校日だから、学校には行かないわよ」
「そうなんだ。じゃあ、どこに?」
「なんで教える必要があるのよ。じゃあね、バイバーイ」
砂埃を立てながらセリカは走り出す。どうやらブルーノを撒くつもりのようだ。しかしそれで引き下がる彼ではない。すぐに後を追った。
(なかなか速いな)
彼女に対する素直な賞賛。だが当の本人はそんなことを知るわけもなく、ひたすら焦りと動揺が全身を襲っていた。
(なんなのよ……!いつまでついて来るの!?っていうか涼しい顔しちゃって……私割と本気で走ってるんだけど!?昨日の戦闘もそうだったけど、この先生けっこう体力あるの……!?)
色々な疑問が頭に浮かび、ブルーノとの距離が全然開かないのを実感すると、セリカは足を止めた。
「分かった、分かったから!い、言えばいいんでしょ?」
息を整えながら、観念したように告げる。
「……バイトよ」
「バイト?」
「そうよ!あんたみたいにのんびりしてらんないのよ、こっちは!もういいでしょ、それじゃ!」
再び走り出すセリカ。それを見送ったブルーノはふと考えた。
(なるほど、借金返済のために、か……)
彼女なりに頑張っているのだと感心した。そうなると次は、どこで、どんなアルバイトをしてるのかが気になってくる。
「……そうだ」
ブルーノはポケットからスマホを取り出すと、昨日登録したばかりの番号に電話した。
◇◇◇
「いらっしゃいませ!柴関ラーメンで……げっ!」
自分の姿を見るなり、バイトのユニフォームに身を包んだセリカは露骨に嫌そうな顔をした。
あの後、対策委員会の面々に電話して、セリカのバイト先に心当たりがないかを確認したのだ。その結果、アビドス高等学校の近隣にあるこのお店ーーー『柴関ラーメン』にたどり着いた。どうやら対策委員会の面々にとっても憩いの場らしい。
「あ、あんた……やっぱりストーカー!?」
「先生は悪くないよ~私たちが教えたんだし。セリカちゃんのバイト先っていえば、ここしかないと思ってね」
「ホシノ先輩か……!くぅっ……」
横からひょこっと出てきたホシノに続き、他のメンバーも挨拶する。
「こんにちはー!5人でお願いします」
「お疲れ、セリカ」
「あはは……セリカちゃんお疲れ様……」
その時、厨房から出てきた柴犬……ではなく、仕事着の犬獣人が声をかけてくる。
「おう、アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそれくらいにして注文受けてくれな」
「はい……それでは広い席にご案内します」
セリカの案内でテーブル席につく。5人でも問題なく座れる広さだった。
「先生、私の隣にどうぞっ」
「ん、私の隣も空いてる」
ポンポンと自分の隣に座るよう勧めてくるシロコとノノミ。ブルーノは特に考えることなく、2人の間に座った。
「ふむ……」
「あー!シロコちゃん、そんなにくっついたら先生が窮屈ですよ~。こっちです、こっちー」
ブルーノと距離をつめるシロコに、ノノミが負けじと袖を引っ張ってくる。何をそんなに争う必要があるのか、よくわからなかった。今の女子高校生にはこれが普通なんだろうか。
「ちょっと!いつまでやってんの!……で、注文は?」
セリカの言葉にちっちっち、と指を振りながらホシノが指摘する。
「ご注文はお決まりですか、でしょー?セリカちゃーん、お客様には笑顔で親切に接客しなきゃねー?」
「ううう……ご、ご注文はお決まりですか……」
「私はチャーシュー麵をお願いします!」
「私は塩」
「ええと、私は味噌で……」
「特製味噌ラーメン!炙りチャーシュートッピングで!」
次々に注文していく生徒たち。メニューに目を通したブルーノも、自分の注文をしようとした。
「ふむ、じゃあ僕はーーー」
「ところでみんなお金は大丈夫なの?」
「大丈夫だよー。きっと先生が奢ってくれるはず。だよね、先生?」
「……え?」
何でもないように告げるホシノ。
思わず冷や汗をかいた。先生が無一文なのはさすがにまずいので、連邦生徒会から金銭の支給は受けているが、それにも限度はある。まさか早々に使う羽目になるとは思わなかった。
「はは、僕ちょっとトイレにーーー」
財布が軽くなる危機を感じたので、席から離れようとしてーーー失敗した。
「逃がさないよー」
ガシッ、と腕をつかまれて逃げられなくなる。ピンクのアホ毛を揺らしながら、ニコニコの笑顔で見てくる生徒。彼女を見ながら、ブルーノは世の中の不条理さを嘆いた。
◇◇◇
「……はぁ。なんか、どっと疲れた……」
本日のバイトが終了し、帰り道を歩くセリカ。アビドスの人口が少ないのもあり、住宅の灯りが小さければ他の通行人もいない。
「みんなで来るなんて……騒がしいったらありゃしない。人が働いてるのに、先生先生って……チヤホヤしちゃって。頭にくる、何なのアレ」
思い出しただけでもイライラする。食べ終えたら早く帰ればいいものの、事あるごとに呼び出して、からかって、の繰り返しだ。こちらは忙しいというのに。
「……ふざけないで。私がそう簡単に折れると思ったら大間違いなんだから」
みんなどうかしてる。どうしてそんなにすぐあの先生を信用できるのだ。それはまあ、カタカタヘルメット団については感謝している。あの先生のおかげで窮地を脱出できたのは確かだ。しかし、それと借金返済についてはまた別の話だ。
普段は良い人ぶってるだけで、頭の中では何を考えているか分かったものじゃない。協力するとは言いながらも、本当は絶対に達成できないと嘲笑っているかもしれない。いいえ、自分たちが稼いだ資金を後で横取り、なんてことも考えてる可能性がある。
「……そうよ。今まで私たちだけで何とかしてきたんだから。きっと大丈夫」
大人は信用できない。だからこそ自分がしっかりしなければ。そう強く決意して夜の道を歩く。静寂の時間。しばらくして、それを打ち破るかのような足音が聞こえてきた。
「……ん?」
やがてその足音は自分の前で止まり、武装した集団が立ちはだかる。
「黒見セリカ……だな?」
リーダー格と思われる人物が話しかけてくる。フルフェイスのマスク。それに刻まれた趣味の悪いマーク。見覚えがある。というか、この辺りでそんな集団は一つしかないーーーカタカタヘルメット団。
「はぁ……ホンットにしつこい奴らねぇ……」
呆れてため息をつきながら、肩にかけていた鞄を下ろす。一人になったところを狙っての奇襲か。作戦としては悪くない。だがーーー
「でもちょうどいいわ。あいにく虫の居所が悪くてね。二度とこの辺りに足を踏み入れられないようにしてやるわ……!」
銃を構えるセリカ。表情が覇気と闘気を混在させた好戦的な笑みに変わる。色々と溜まった鬱憤を晴らさせてくれるのならありがたい。全力でいくつもりだったところに、鈍い衝撃が走った。
「……っ!」
同時に響く発砲音。背中を駆け巡る痛み。思わず顔を顰めた。背後の建物に隠れていた伏兵が、後ろから狙撃してきたのだ。前の敵しか見ていなかった自分の落ち度だ。
過ちを認め、気持ちを切り替える。撃たれはしたが、それだけだ。戦闘行動に支障はない。すぐに態勢を立て直して反撃をする。そう考えたときにーーー世界が暗転した。
「……う、ぐっ……!?」
ぐにゃり、と目の前が歪んだ。持っていた銃を地面に落とす。うまく身体に力が入らない。それどころか平衡感覚が覚束ない。これは傷の痛みによるものじゃない。頭の中で自然と結論がでた。
「麻酔、弾……!」
追い打ちをかけるように緑色の筒が投げ放たれる。そこから噴き出した煙がどんどん周囲を覆っていき、セリカに達した。身体が鉛のごとく重くなる。地面に引き寄せられてるみたいだった。
ダメだ。自分にはやるべきことがあるのに。こいつらを倒して、借金を返して、学校を救って、みんなとーーー
セリカの意思に反して、閉じていく瞼。やがてそれは限界を迎え、底知れない闇に落ちていった。
◇◇◇
「駄目、やっぱり出ない」
そう言いながら、シロコがスマホの画面を閉じる。
セリカと連絡が取れない、というアヤネの報告から、急遽アビドス高校に集まった対策委員会。彼女の家に行っても誰もおらず、何度電話しても出ない。念の為、柴関ラーメンの柴大将にも連絡を取ったが、アルバイトが終わって店を出て行ったあとは分からないそうだ。
「こんな遅くまで帰らないなんて、初めてですよね……?もしかして、ヘルメット団が……?」
「えっ!?ヘルメット団が、セリカちゃんを……!?」
不安がるノノミに、アヤネが悲鳴に近い声色で叫ぶ。それを宥めたのはシロコだった。
「落ち着いて。先生がなんとかしてくれてる」
「先生、どう~?」
こんな状況でものほほんとしたホシノの声に、ブルーノが応える。
「大丈夫。うまくいきそうだよ」
事情を聞いてから持ち込んできたPCを机に置き、軽快なリズムでキーボードを叩く。
「連邦生徒会が管理するセントラルネットワークにアクセスできた。あとは、セリカの生徒証かスマホ端末から位置情報を割り出して特定する。廃校間近とはいえ、アビドス生の個人情報も載ってるはずだからね」
「そりゃすごい。でもさ、そんなことしていいの?」
「勿論、よくはない」
こんなことをしなくても連邦生徒会に掛け合えば閲覧できるだろう。だが、間違いなく事態の把握と承認に時間がかかる。その一分一秒が惜しいのだ。あとで咎められても気にしない。自分だけの責任なら安いものだ。
ものすごい勢いでウィンドウが閉じたり開いたりしていく。セキュリティの壁を次々と突破していき、ついに自分が求める情報にたどり着いた。
「……これは!」
現在地の情報が表示される。アビドスの市街地……そこから砂漠化した郊外へ移動している。セリカが自分の意思で行くはずがない。誰かに連れ去られたのだ。
「このエリア、以前危険要素の分析をした際に、カタカタヘルメット団の主力が集まっていると確認できた場所です……!」
「確定的だね。帰宅途中のセリカちゃんを拉致して、自分たちのアジトに連れていったってことかー」
居場所は判明した。ならば次にすることは一つだ。
「みんな、出撃準備を。ーーーセリカを助けに行く!」
ブルーノの言葉に、全員が大きく頷いた。
◇◇◇
「う、うう……ここは……?」
わずかに揺れる身体を起こしてセリカは目を覚ます。
「……はっ!私、さらわれた!?」
少しずつ思い出す。バイトの帰りにカタカタヘルメット団に襲撃された。背中に打ち込まれた麻酔弾と、そのあとに投げられたスモークグレネードによって意識を失った。そのまま拉致され現在に至るというわけだ。
「ここ……トラックの荷台?」
自分が今いる空間を把握する。何度も続く振動と、聞き覚えのある車両音でそれは理解できた。中は真っ暗だが、隙間から漏れる光がある。そこから外の世界を見て絶句した。
「……砂漠……線路……!?」
目の間にあるのは広大な砂漠地帯。吹き荒れる砂嵐と脱線したまま放置されている電車車両。そして大きな線路。こんな場所は一つしか思い浮かばない。アビドス郊外だ。
「そ、そんな……これじゃどこにも連絡が……」
スマホはあるが充電が切れている。他に連絡手段はない。携帯しているアサルトライフルも奪われたようだ。もし脱出できたとしてまともに戦闘できるか……
「……何やってるんだろう、私。ホント、バカだ……」
その場で脚を抱え込み座る。
そもそも取るべき行動を間違えたのだ。カタカタヘルメット団に襲撃された時点で迎撃しようとせず、すぐに離脱して他の仲間に連絡すべきだった。ここまで撃退できていたのも仲間との連携があったから。
考えられなかった。いや、考えたくなかった。
「みんな、心配してるかな……」
対策委員会のメンバーを思い出す。アヤネは泣いてるだろうか。ノノミ先輩は困った顔をしながら探してるに違いない。シロコ先輩は表情こそ変わらないものの、きっと怒って説教してくる。ホシノの先輩は……よくわからない。少しは案じているのだろうか?
そして……先生。
彼と出会って日は浅いが、自分のことを心配してくれるのか。頼りない人だがどこか憎めない雰囲気。困ったらへらへらと笑うだけ。信用できない大人だとずっと思い込んでいた。しかし今は、今だけは無性に会いたいと思った。
「……う、うぅっ……!」
ポロポロと涙がこぼれ落ちる。もうみんなとは会えない?このままどこかに埋めれて捨てられる?誰にも気づかれることなく?
「ごめん、なさい……みんな……ごめんね……」
セリカは両頬に涙を流す。とめどなく溢れるそれは滝のよう。
もうどうにもならない。このまま、ひとりぼっちになって死ぬのだ。助けなどこない、そう自分の運命を受け入れた。
ゴオオオォォォォ……ドゴォォォォォォォン!!!
「…………ッッッ!?」
突然の爆発音とともに、全身に衝撃が走った。トラックが横転したのだ。当然の帰結として、セリカの体も思いっきり投げ出された。
「ケホッ、ゲホッ……いったい、何が……」
荷台から抜け出し、砂埃が舞う外界を見渡す。そこにはよく見知った面々が、絶対に会えることのないと思った部活のメンバーが立っていた。
『セリカちゃん発見!生存確認しました』
「えっ?」
「こちらも確認した。泣きべそのセリカ発見」
「……っ!?」
端末から聞こえるアヤネの声と、目の前に立つシロコに驚愕する。
「なにぃー!?うちの可愛いセリカちゃんが泣いてただとぉ?そんなに寂しかったんだね。ママが悪かったわぁ」
「ホシノ先輩!……な、泣いてなんか!」
慌てて溢れる涙をぬぐい去る。追い打ちをかけるように、横からノノミが飛び出してきた。
「泣かないで下さい、セリカちゃん!私たちがその涙を拭いて差し上げますから!」
「あーもう、うるさいってば!違うったら違う!黙れー!」
まったく話を聞かない仲間たちに叫ぶ。タイミングを見計らっていたブルーノがセリカに近寄った。
「良かった、無事みたいだね」
ーーー先生!
安心してこちらを見つめるブルーノに困惑する。嫌いだった人、でも会いたかった人だ。
「先生まで……何で来たのよ!」
「さらわれたお姫様を助けるのは勇者の役目だからね」
「はぁ!?ば、バッカじゃないの!」
「まあそれは冗談で……僕は先生だからね。生徒を助けに来るのは当然だろ?」
「……だって私、あなたに酷い態度ばかりとって……」
顔を背けるセリカ。泣き崩した顔を見られたくないのと、これまでの行いが恥ずかしいのとが入り混じった複雑な感情だ。そんな彼女を見て、ブルーノは優しく笑う。
「何も気にしないよ。嫌われるのは慣れてるからね」
「でも……」
「それに君は間違っていない。警戒するのは当たり前だ。急に来た大人を、すぐに信用なんかできない。おそらく君の見立て通り、僕は頼りなくて非力だ。それでもーーー」
ブルーノは真っ直ぐセリカを見つめる。その表情は穏やかで、ひたすらに優しかった。
「それでも君の先生なんだ。そばにいて、一緒に考えることはできる。少しずつでもいい、それじゃ……ダメかな?」
セリカは理解する。この先生の言葉に裏表はない。あるのは善意だけだ。同じ学校の生徒たちからは向けられても、大人からは決して向けられなかったもの。永遠に存在しなかったもの。
でも今は違う。自分のそばにいる。そう考えたら、意地を張っているのが馬鹿らしくなる。
「……ううん、すごく嬉しい。その、今まで……ごめんなさい……」
セリカの言葉に、ブルーノは子ども染みた快活な笑みを浮かべる。
「いや良かった。断られたらどうしようかと思ったよ」
二人で笑い合う。砂嵐が吹き荒れる砂漠地帯という、あまり和まないシチュエーションだが、二人には何の関係もなかった。ようやく分かり合うことができたのだから。
「あの~お二人さん。見つめ合ってるとこ悪いんだけどさ」
おずおずとホシノが声をかける。
『前方にカタカタヘルメット団の戦力、多数確認!』
端末から聞こえるアヤネの報告で、現実に戻る。そもそもここは敵のアジト近くで、戦場のど真ん中だ。ゆっくり話し合う場所としては、あまりにも向かない。
「あっ……!ご、ごめんっ!」
「セリカ、これを」
「……これって」
「補給は十分だからね。メンテナンスもばっちりさ。行けるかい?」
ブルーノに手渡されたアサルトライフル。奪われたものをとは別で、用意してくれたのだ。ホントにこの先生は……と笑いながらセリカは立ち上がる。
「……ええ、もちろんよ!」
武器がある。仲間もいる。ならば不安要素は何もない。眼前にいる敵を殲滅する。
「それじゃーーー行こうか?」
ホシノの号令の下、対策委員会のメンバーは駆け出して行く。
セリカは笑った。
彼女は今、とても気分が良かった。