【遊戯王OCG×セトキサ】魔竜閣ドラルヴァイスを救う白き龍 作:生徒会副長
深海を思わせるような、暗い暗い闇の中を、光輝く聖なる魂が潜っていく。
その魂の名はキサラ。そして闇の主は魔竜閣ドラルヴァイスであり、竜角の狩猟者ヴァルナでもある。
魂の姿でもキサラには五感がある。血生臭さと錆びた鉄が混ざったような独特の死臭が彼女の鼻についた。闇の海の中には時折、竜の腕やら内臓やらといった遺骸が浮いている。それらをいくつも頭上へ見送りながら、彼女は深く深く潜っていく。
果てしなく感じるほど潜った先で、キサラはついに救うべき相手を見つけた。
黒い甲冑の隙間から、陶器のように滑らかで白い肌が覗く。長くボリュームがあって透き通る青い髪が地面──と呼べるか分からない闇の足場に広がっている。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
彼女は座り込み、顔を血塗られた両手で覆って泣いていた。後悔の言葉を呟きながら。
竜角の狩猟者ヴァルナの傍に降り立ち、キサラは優しく語りかけた。
「ヴァルナさん……。闇に囚われてはなりません……」
しかし彼女は、ふるふると首を振った。
「あたしが……あたしが悪いんだ……。考えれば分かることだったのに……。人に仲間や故郷があるように、竜にも仲間や故郷があることぐらい……」
泣き続けながら、彼女は自分の戦いの歩みを振り返る。後悔と共に。
「何の意味も……何の意味もなかったんだ……! あたしはただ……無意味に滅ぼしただけだった……! 人を、竜を、村を……。 許されない罪を犯してしまった……。もう終わりにして欲しい……。消えてしまいたい……。殺してほしい……」
キサラは悲しげに目を細めてヴァルナを見つめる。しかし迷いを断つように首を軽く振ると──彼女は柔らかな慈愛の笑みを浮かべた。そのままキサラは告げる。
「無意味なんかじゃないでしょう……? 貴女はただ、村や仲間を、病魔から救いたかっただけではないですか」
竜角の狩猟者ヴァルナの旅路を、キサラは否定しない。否定してはいけない。否定したくない。
彼女やセトも同じだったから──。
セトがキサラを愛さなければ、キサラが白き龍の力を持ち込まなければ、古代エジプトの王朝が割れる悲劇は起こらなかったかもしれない。
それでも、セトとキサラは互いの愛を後悔していないのだ。
「ヴァルナさん。人が人を救い、守り、愛する為の戦いのロードが、罪だの闇だの絶望だのに通じてるだなんて──。そんなふざけたことを言う者は、神だろうと運命だろうと、私は薙ぎ倒して未来へ進みます。セト様や、海馬瀬人と共に。
スッとキサラは、白い右手をヴァルナに向けて伸ばす。ヴァルナは涙に濡れた呆然とした顔で、キサラを見つめた。
「男と女、貴族と貧民、黒人と白人、人と竜、現代人と古代人、生者と死者、デュエリストとカード……。どんな壁や境界、条理や運命が立ち塞がっても、セトとキサラ、海馬瀬人とブルーアイズ……海馬瀬人とキサラですら、手を取り合える、愛し合える、共に未来へのロードを歩める。私はそれを証明したいんです。その為に、勝手に悲劇や理不尽を滅ぼして回って、勝手にハッピーエンドを押し売りしているんですよ」
“この”キサラは、アテムが統治する冥界で、セトやアクナディン、マハードやマナと共に、平和に暮らしている。
だが並行世界には、様々な可能性があり、様々なセトやキサラ、海馬瀬人と青眼の白龍の姿がある。
アテムが千年錘を砕かず、セトとキサラが結ばれた世界もある。
セトの記憶を持つ海馬瀬人と、三千年の時を超えて蘇ったキサラが共に生きる世界もある。
記憶も力も失って転生したキサラが、平凡な少女として海馬瀬人と出会う世界もある。
キサラのことは覚えていないが、デュエリストとして青眼の白龍を従えた海馬瀬人が、未来へのロードを突き進む世界もある。
全く異なる結末を迎える様々な世界。それらに共通点があるとするなら──セトとキサラの出会いと絆が、ハッピーエンドの未来へ続いているということ。
「ヴァルナさん。貴女の心にまだ、夢や希望、願いや未練が一欠片でも残っているのなら──私の手を取ってくれませんか? 付き合ってください、私の……ハッピーエンドの押し売りに!」
慈愛の微笑みを、希望咲き誇る笑顔に変えて、キサラはヴァルナに語りかけた。
ヴァルナは躊躇うように遅く重い動作でキサラの手を取ろうとするが──サッと引っ込めて、怯えるように身体を震わせた。
「駄目だ……。無理なんだ……! もうあたしは……人ではない。竜でもない。得体のしれない闇と病魔と怨念を宿した──化け物になってしまった……。愛する資格も、愛される資格もない……。もうあたしには……ハッピーエンドなんて、背負えない……」
するとキサラは、覚悟を決めたように「ふぅ……」と息を吐いてから言った。
「だったら、心の闇やら病魔やら恩怨やらは……。私が背負うなり、呑み込むなり、滅ぼすなりしておきますよ」
ハッとヴァルナは顔を上げる。信じられない、出来る訳がないと訴えるかのように。
「無理だ……。そんなこと……できる訳がない……。そんなことをしたら……貴女が狂ってしまう……! 穢れて、闇に堕ちてしまう……!」
「ん? 狂う? 穢れる? 闇に堕ちる?」
パチパチと瞬きしてから、キサラは「ふっふっふ……」と不敵に笑って言った。
「私を誰だと思っているんですか? デュエルモンスターズの原点して頂点、最強絶美の龍、
右手はヴァルナに差し出したまま、左手でトンと、キサラは自分の胸をはたく。自分は負けないと、誇示するように。
「さ、竜角の狩猟者ヴァルナ。遠慮なくこの手を取ってください。後始末は全て私と、セト様と、アクナディン様が済ませます」
ヴァルナはしばし、目を泳がせたが……その後コクリと頷く。そして、そぉっと……震えながら……ついに2人の手は重なった。
「よくできました」
そのままぐいっと、砂地獄からすくい上げるように、キサラはヴァルナの身体を引っ張りあげる。戸惑いを隠せず目を丸くしたヴァルナを、キサラは優しく抱き締めた。
「もう大丈夫ですよ」
ヴァルナの全身から、黒い瘴気が吹き出す。それはキサラの身を蝕もうと蠢く。しかしそれは──逆に、キサラの身体から溢れた青白い光に焼かれ、その勢いを失くしていく。
瘴気が収まった頃、ヴァルナが感じていたのは、柔らかく温かい人肌の感触だった。遥か昔に失くしてしまい、もう戻らないと思っていた、自分が再び味わうことは許されないと思っていた感触だった。
「あ……? え……? あ、あたしは……あたしはっ……!」
何が起こったか分からないまま、ヴァルナはキサラの肩を熱い滴で濡らす。そんな彼女の髪を、キサラは「よしよし」と優しく撫でた。
……そんな光景を、快く思わない者達がいる。
『許サヌ……! 認メヌ……!』
『食イタイ……! 殺シタイ……! モット……!』
『モット憎シミヲ……! モット怒リヲ……!』
先程までヴァルナが座り込んでいた場所が黒く泡立ち、そこから影が這い出る。それはヘドロで出来たトカゲであったり、骸骨で出来た龍であったり……見えているのは5体だが、いまキサラとヴァルナが立つ闇の空間全てから、呪いの言葉は響いていた。
憐れむように目を細めてから、キサラは告げた。
「……千年錫杖と私の言葉だけでは、この『魔竜閣ドラルヴァイス』の肉から離れられなかった、哀れな亡霊達ですか……。ヴァルナさんの魂がこの腕に抱かれている今、もう救い難いあなた方に遠慮する必要はなくなりました」
キサラとヴァルナの身体が、白い光に包まれる。その光はヴァルナの身体をふわりと浮かせ、キサラの肉体を変化させていく。
「哀れな亡霊はせめて……私の
川のように流麗な銀髪に隠れた背中から、研ぎ澄ました刀のように鋭い翼が生える。
細い腕や腰が、どんな鎧よりも強靭な鱗に覆われていき、ダイヤモンドのような爪が手先と足先で輝く。
透き通る青い眼の煌めきはそのままに、その顔は流線型を描いた。
強靭にして無敵、最強の──
その背にヴァルナが降り立つと同時に、白き龍の顎に光が集まっていく。その名は当然──。
「滅びのバーストストリーム!!」
発射された光弾は、ヴァルナと白き龍以外の全てを白く浄化し、滅ぼしていく。
死肉も、ヘドロも、骸骨も。
渦巻く闇も、生臭く纏わりつく闇も、心の闇の外殻も。
宇宙の始まりを再現したかのような光と闇の激突は、やがて光で満たされ、光の中で完結を迎えた。
「綺麗……」
呆けた顔で、ヴァルナはそう呟いてしまう。
この光景が見られただけでも、キサラの手を取って良かったと、闇の中に沈まなくて良かったと、そう思える程に美しかった。
やがて光が止み、世界が色彩を取り戻すと──そこは荒野であった。毒々しい霧は晴れていて、曇天の合間からは陽光が射し込んでいる。
白き龍の背に乗るヴァルナの方へ、駆けてくる人々がいた。
ノクスヴィルの生き残り達だった。
「ヴァルナぁ! 助かったのか!?」
「ヴァルナお姉ちゃーん!!」
男も女も、老いも若いも隔たりなく。全員が白き龍に、ヴァルナに向かって走ってくる。再会の喜びを顔に浮かべて──。
「ノクスヴィルの……みんな……」
伸ばしかけた手を、ヴァルナはスッと引っ込めた。キサラの手を取り、キサラに救われはしたが、まだノクスヴィル滅亡の引き金となった罪悪感は消えていないのだ。
しかし、ノクスヴィルの民はキサラと違って遠慮がない。ヴァルナの腕を引き、肩を抱え、彼女を白き龍から強引に降ろした。
そして皆が、泣きながら、笑いながら口々に言うのだ。
「ヴァルナぁ……! お前さんが生きていて本当に良かった!」
「ヴァルナ! すまねぇ! お前をこんなツライ目に遭わせて……!」
「良かった! 良かったよぉ……ヴァルナお姉ちゃん……!」
言いたいことや言わねばならないことは、いくらでもあっただろう。『怖がらせてごめんなさい』だとか、『村が滅んだのはあたしのせい』だとか。
しかしヴァルナはそんなことも忘れて──仲間達と同じ表情で言った。
「あたしぃ……あたしもぉ……! みんなにもう一度会えて……よかった……!」
白き龍とヴァルナを中心に、皆が笑い合う。
その光景を、やや離れたところから、穏やかな表情のアクナディンとセトが頷きつつ眺めていた──。
──※──
魔竜閣ドラグヴァイスとの戦いから、1年の年月が流れた──。
1年を費やし、ノクスヴィルの村は、着実に復興していった。その裏には当然、セトやキサラやアクナディンの手助けがあった。黒蝕病は白き龍の鱗や、アクナディンが持ち込んだ薬草などを合わせて作った新たな秘薬によって撲滅された。
ノクスヴィルの村は、人と竜が共存する村になっていた。竜族が脱皮や生え変わりの中で捨てる鱗や角や髭などを、人の知恵と技で加工した魔法具やアクセサリーが人気だ。竜族が美味しく食べられる料理なども存在する。
デュエルモンスターズ界の様々な精霊や部族がノクスヴィルに期待を寄せ、観光に訪れる。【ドラゴンメイド】や【青き眼】、【ドラグニティ】や【オッドアイズ】など、観光客の出身は様々だ。往来には人化の術で変装した竜や、竜人族などがたびたび見受けられる。
ノクスヴィルの村で一番大きな工芸店『竜獲工房』の戸を、2人組の客が開いた。
神官セトとキサラであった。
「いらっしゃいませー」
「ヴァルナは居るか」
受付の女性にセトがそう言うと、タイミングよく工房から青いボリュームある髪の女性が姿を見せた。
かつての竜角の狩猟者ヴァルナは、にこやかに挨拶した。身に纏っているのは、かつて竜を狩っていた頃のような重い全身鎧ではなく、鍛冶作業向けの軽い胸当てや手袋だ。
「あら、セトさんにキサラさん。毎度お世話になってます」
「相変わらず元気そうですね」
「店も繁盛しているようだな」
セトとキサラもそう微笑み返す。ヴァルナはこの『竜獲工房』で、普段は鍛冶作業をして生活している。時には護衛の仕事や素材集めなどで剣を握ることもある。
キサラが話す。
「この前作ってもらった『鎖付き
「あら、それは良かった。じゃあ今日はこれとか、買っていかないです?」
ヴァルナは店の一角から魔剣を手に取って、二人に見せた。刀身は青白く、その柄にはドラゴン族融合モンスター『超合魔獣ラプテノス』のエラが使われている。
「これは『ラプテノスの超魔剣』。最近できた自信作なんだ。『白き乙女』とも相性いいんじゃないかな?」
セトとキサラは顎に手を当てて考える。
「召喚権を潰された後のリカバリーとして見れば……使えるんですかね……?」
「もう少しシナジーが欲しいか。イゾルデかパワー・ツール・ブレイバー辺りを絡めて……」
するとヴァルナは、満面の営業スマイルでこう言った。
「そっちがハッピーエンドを押し売りしてきたんだから、こっちにも自慢の逸品の1つや2つ、押し売りさせてくださいよ、ね?」
そう言われ、セトとキサラもつい、笑ってしまうのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
【おまけ解説】
●キサラ以外で魔竜閣を救えそうな人
①九十九遊馬
未来皇でコントロール奪取してリ・コントラスト・ユニバースすればイケる。
②ドラゴンメイド
なんかツイッターで見た感じだとこれが多かった。
③アノス・ヴォルディゴード
「人が人を救い、守り、愛する為の戦いを、罪だの悪だのと断じるのが正義だというのなら、そんなものは俺が滅ぼしてやる」
「間違えたのなら、やり直せばいいだけだ」
「竜が人を蝕み、人が竜を殺す運命と理不尽を、この俺がたった今から滅ぼし尽くす」
キサラかアノス様かでかなり迷ったんですが、クロスオーバーにするのも微妙かと思って自重。
魔王学院の不適合者の二次創作は色々書いていますし、魔法少女まどかマギカとのクロスも書いていますので、良ければそちらもよろしくお願いします。
●ラプテノスの超魔剣
OCGカードベースとにらめっこして、「まぁギリギリいけそうか」と思って名前を出しただけです。
ブルーアイズデッキにこんな不純物入れる余裕はないと私は思ってるので、やるなら自己責任でお願いします。