無謀な行動をするわけにはいかない。
情報と能力の把握を優先しよう。
まずは職業を得ると使えるステータスボードを試す。
「ステータス」
小さく口にすると、意思に呼応するように目の前に淡い光の板が浮かび上がった。
「これがステータスボード……」
名前:
性別:女性
年齢:18
職業:錬成術師
スキル:《体術》《鑑定》《錬成》《分解》
「錬成術師、調べた職業図鑑には載っていない職業……。ユニーク職業かもしれない……」
そう呟きながら羽織っていた黒衣を脱ぐ。
身体を軽く動かすだけで、豊満な胸元がたゆんと揺れる。
――とても複雑な心境になった。
自分の身体でなければ喜んだかもしれない。
……とりあえず黒衣を調べてみよう。
「鑑定」
早速覚えたてスキルの鑑定を試してみる。
黒衣に意識を集中させると次の瞬間に脳内へ詳細な情報が流れ込んできた。
名称:《
レアリティ:アルティメット
スキル:《
「……これは」
思わず息を呑んだ。
レアリティ:アルティメット⋯⋯。
そんな物が存在すると聞いたことがない。
未確認なのかそれとも秘匿されているのかはわからないが、人に知られるのは避けるべきだろう。
スキルの能力を知りたいと思うと詳細な情報が伝わってくるが理解が難しい。
簡単にスキル能力をまとめよう。
……知られるとまずい気はするので能力の詳細は事情がない限り誤魔化したほうがいいだろう。
次に、
スキル能力をまとめてみたが、まさに《
――この職業と装備なら、よほど運が悪くない限りあらゆる状況に対応できると確信した。取れる手段が豊富だと、よほど選択を間違わない限りそう不利にはならない。
「これならいける……!」
この世界は魔物やダンジョンが幅を利かせているファンタジーだ。荒くれ者も多く、力こそ正義という理が成り立っている。
それに貴族などの社会的な上位階級がいて、美人は目立てば強制的に召し抱えられるリスクが大きい。
……つまりは、力の弱い人々や美人は色んな意味で“狩られる”立場ということ。
職業に就いたばかりで、能力的には弱者であり、魅力的な女性としての外見は大きなリスクと二重苦に陥っている。
最適解は、誰にも隙を晒さずに効率よく力を身につける事、だがこの容姿では目立つのは時間の問題。だからこそ、短時間に強くなって自身の身を守ることができるようになる必要がある。
けれど、今の私にできるのは、地道に一人で魔物を討伐して、少しずつ積み重ねていくことだけ……。
魔物を殺せば命源――生命の源を吸収し、誰であっても確実に強くなれる。
強くなるための手段のひとつであるスキルは、オーブを用いるスキルの獲得か、あるいは職業スキルを極めた者に直接教わるしかない。
この世界に転移して成人式までの間、私は体術スキルを道場で習っていた。
その間に知り合った人達に頼りたい気持ちもあるけど、この姿で助けを求めると弱みを握られることになる……。
不用意に信用したら、欲望に負けた知り合いに裏切られ、逃げられずそのまま……という最悪のパターンもあり得る。
そう自然に考えてしまうくらい、立場も実力もない女性は狙わる。
転移してから色々情報収集をしてきた。
その結果分かっているのは、隙が多い女性など、一瞬で喰い物にされてしまう弱肉強食の世界だということ。
――自身の安全が保証される環境を得る。
その為に今できることを確実に
最初に行うのは錬成の実験。
身近な素材を分解・錬成し、その性能を確認。効率とコストの釣り合いを徹底的に洗い出す。
次に、黒衣のスキルをテストする。
千変万化でどこまで自在に武具形態を変化できるのか、戦闘・防御に分類して運用法を決める。
現在の戦闘能力を確かめる為、安全な狩場で実地訓練を行い、低級魔物を対象にした錬成術の実戦応用を習熟する事も重要だろう
最後に、冒険者ギルドへの登録。
冒険者証を取得してダンジョンに挑むことで、魔導具等のアイテムを入手して、対応力の底上げを狙う。
魔物を殺し強くなり、ランクを上げ社会的な立場を形成し、弱者から強者へと成り上がることで、弱者としては狙われにくくなり、結果的に危険から身を守ることに繋がる。
行動に伴って意識しておくべきことも考えよう。
まず情報収集は必要だ。何がトラブルの元となり、何が幸いするか分からないのが世の中だ、情報があれば選べる手段が増えるし、男に戻る方法も見つかるかもしれない。
それと、錬成素材を集めることも重要だ。錬成術師の強さは持っている素材の質と量で増減するので、素材を蓄積して戦術の幅を広げ続ける。
あとは、高ランク冒険者になるまでの道程は険しいので、同じような立場の女性がいればチームを組んだり、信頼できるクランに加入できれば自衛手段として有効だろう。
同性同士であれば、比較的安全に生活できるだろうから、近いうちに仲間の1人や2人は欲しい。
「……まずは錬成の実験ですね」
取り敢えず方針は立ったので、最初に錬成術師のスキルを試しておく。
「分解」
まずは部屋にあった木製の椅子に掌をかざし、分解のスキルを発動する。椅子は光に溶けるようにして形を失い消滅した。
その消えた木材や鉄といった素材が、万物保管庫に移動したことが自然と理解できる。
次に、保管庫内の素材を意識して短剣の錬成を行う。
手に収まったのは質素な木製短剣。
強度は木製としては十分だが、武器として考えると脆い。しかし操作感は直感的に扱えるくらい軽いので扱いやすくはある。
他にも色々と分解や錬成を繰り返し行い、実験を進めていく。
その際に着用している衣類などのサイズも調整しておいた。
神の悪戯でスーツを変化させるのであれば、他の物もして欲しかった……。
……もしかしたら、黒衣の変化だけで限界だったのかもしれない。
実験の結果、単純な材料を使った錬成で高品質な武具を作成可能という事がわかった。
「ふぅ……」
それと、スキルの使用には多少の疲労が伴うことも分かった。
錬成や分解の対象物によって疲労度合いも変化する。
――思っていたよりも収穫は多かった。
錬成術師のスキル実験は終え、次は戦いのイメージトレーニングを行う。
肉体的に強くなる前に戦う場合、この女性としての華奢な身体では鉄剣や木剣を上手に扱い決定打を与えることが難しい。なので、黒衣の千変万化に頼り戦闘することになる。
本来の錬成術師の戦い方は、武器にこだわることなく手数で攻めるスタイルを基本にして搦め手を織り交ぜる戦法だと思う。
しかし、現状では素材等を買いに行くことは無駄なリスクなので、家の不要な物を分解して満足しておき、その戦法は諦める。
派手な戦いで目立つ事とスキル使用による消耗を考えると、切り札としておくべきだ。
もし錬成や分解の射程が伸びれば戦術の幅は飛躍的に広がるので、未来の楽しみとしておこう。
過去に配信動画で確認した一般的な冒険者の実力は、ゴブリンやウルフに勝てる程度であり、そのくらいであれば一対一で私が負けることはない。
強くなるために体術師範に教授しえもらった体術スキル。どの職業になっても有効に扱えるだろうと覚えたが、やはり錬成術師との相性もいい感じだ。
体術スキルは身体操作の巧さに直結する。
どの職業でも一定の強さを実現できるので相性の悪い職業など皆無かもしれない。
――集中していた思考が戻る。
……あとは黒衣のスキルも実際に試しておくべきだ。
黒衣を右手で掴み脱ぎながら、スキルを発動する。
「千変万化」
布地が波紋のように揺れ、瞬く間に黒い長剣へと変形した。
黒衣の時と重量が変わっていないので非常に軽い。
しかし、触ってみると材質は鉄のように硬く、威力を試してみると十分な破壊力があった。
「流石に威力が高いですね」
さらに黒衣は、盾・槍・短剣、――果ては普段着風の軽装にまで自在に変化する。
黒衣のスキル使用でも多少の体力の消耗が感じられたので普段使いはできないが、能力の応用で対応力が桁違いに上がる筈だ。
――そろそろ準備は整った。
時間はもう暗くなっている頃だが、明日の朝になってからでは遅い。
錬成で作成した短剣を手に取った。
「これでよし」
私は深く頷き、黒衣をフード付きの外套に変化させてから再び纏う。
――――――――――――
家から出て、街の門の方へと歩いていく。
「こうしてみるとやっぱり壁が高いです」
魔物から街を守るため、大きな街は基本的に外壁で囲まれている。
なので外のフィールドに行くときは、簡単な手続きを終えてから、門を通る必要がある。
しかしその手続きも魔導機械で行われているので、本来であれば
「……眼球認証はできるのでしょうか?」
認証を試してみると、普通に門が開いた。
……
街の近く、森の入口には初心者向けの訓練広場がある。
広場は定番の魔物狩場にアクセスしやすく便利だが、夜は危険が増えるため、基本的に誰もいなくなる。
街に近い村との間に広がっている森には、ゴブリンやウルフといった弱い魔物しかいない。そのため、森の中央には街道まで整備されている。
実戦練習するなら最適の環境だろう。
「そろそろ着くはず……」
――だが、門を出て歩くと、背後に微かな違和感を感じた。
靴音が一定の間隔でついてきている。
(……尾行? 早速厄介な)
歩調を乱さずに思考を巡らせる。
目的は何か、相手は誰か、どの程度の脅威か。
不用意に振り返るのは得策ではない。
まずは狩場に入る前に、相手の意図を探る。
まあ、
絶世の美少女になった瞬間から、最悪の展開を想定し、危険な要素を洗い出していた。
成人式では目立ちすぎたので、追跡されている可能性も思いついていた。
……あれは場所が違えば襲ってくれと言っているような扇情的な格好だった……。
――狩場の入口付近にある木立までやってきた。
ここまで来れば、騒ぎが聞こえても衛兵が来る距離ではない。
仕掛けてくるなら、このタイミングか狩りの最中だろう。
私は背を向けたまま足を止め、尾行者の動きを待つ。
――不意に、背後から複数の靴音が速まる。
「おい、嬢ちゃん。こんな時間に一人か?……俺たちが送ってやろうか?」
下卑た声が響く。
振り返れば、剣、鎖、弓を持った冒険者崩れのような顔ぶれの男たち。
その笑みに隠しきれない欲望の色が浮かんでいた。
心臓がわずかに跳ねた。
……思った通り、狙いはこの身体か。
外套越しでもスタイルが良いことを見透せるほどの魅惑的な女性。
成人式場で顔も見られているなら、引き下がることもないだろうな……。
一応、断りをいれておく。
「気持ちは嬉しいですが、また今度頼めませんか?今から訓練をするので」
「そうなのか、そいつは悪かった!」
「嬢ちゃん、成人式じゃ目立ってたよな。お近づきになろうぜ」
「その外套、いい布地だな。ちょっと見せてくれよ」
鎖を持った男が断りを無視して近づいて来た。
思っていた通り言葉での説得は無駄だった……。
トラブルは避けられそうにない。
誤字脱字や設定の矛盾などあれば教えていただけると有り難いです。
アンケート結果次第でなろうの大幅改稿の可能性もあります。あくまで可能性ですけど。
TS主人公はどんなのが好きですか?(参考程度)
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