TS錬成術師の受難   作:シ者

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 小説家になろうの5話と6話を統合してます





ゴブリンVS絶世の美少女VS野獣の王

 

 私に気づいたゴブリンたちは木樵たちから離れ、新しい獲物の発見に興奮し近づいてきた。

 

 無警戒に喜び勇んで駆け寄ってくる個体もいて、反撃など考えてもいない様子だ。

 

 武器を持たず満身創痍な美少女。

 ゴブリンからすれば、極上の褒美だろう。

 

「嬢ちゃんすまん!もう逃げてくれ!」

「やばいっ!色っぽい姉ちゃんがゴブリンに襲われる!」

「助かった!……えっ?大丈夫なのか!?武器を持ってないぞっ!!」

 

 今更私の心配をしている木樵たち。

 心配するくらいなら、後先も考えず助けを求めるな!

 

 ――強行軍で疲労困憊の私にヘイトを押しつけ、安全になってから心配するなど、ふざけている……。

 

 一番近くまでやってきていたゴブリンへ、理不尽に対する怒りを込めた一撃を繰り出す。

 

 黒衣を剣に変化させた勢いのままにその体を切り裂いた。

 

 一晩中ウルフたちと戦い続けた結果、千変万化のスキルを更にスムーズに扱えるようになった。

 

 隙があった拙い動作が改善され、まるで歴戦の剣士に見えるかもしれない。

 

 惜しむらくは、隠すものがなくなり露わになった美貌、魅惑的な身体、肌の艷やかさに目が奪われ、その印象も掻き消されてしまうことだ。

 

「なっ!?」

「おおっ!? 神よ!!」

「……おれは夢をみているのか?」

「ギャギャッ!?ギャギャギャギャギャ〜!!」

 

 突如現れた絶世の美少女。

 そのメリハリのある均整の取れた肢体に、皆は息を呑み、感嘆の声を漏らした。

 

 襲われている女性を放置して騒ぐのは不謹慎では?

 

 ……それと、仲間が殺されたにもかかわらず、村人と同じように私の容姿に驚きを見せる、偉そうな格好のゴブリン。

 

 捕らえろと指示しているのか、ぴょんぴょんと跳ねながらこちらを指さしていた。

 

 私にゴブリンの群れが一斉に襲いかかる。

 

 しかし、ウルフの群れに比べれば動きが鈍く、連携も不足している。

 

 バラバラに突撃を繰り返す様は子供のチャンバラのように感じた。

 

 無駄な動き、粗雑な武器、低身長によるリーチの短さ。

 

 数多のウルフを葬って強くなった私の前では、木っ端に過ぎない。

 

 限界を越えないよう抑制しつつ、必要な一撃だけを正確に繰り出す。

 

 ただそれを繰り返すだけで倒せるほど、ゴブリンは弱かった。

 

――――――――――

 

「――なんと神々しい……」

 

 限界に近い体力で消耗を極力抑えた静かな剣技。

 

 一振りごとに確実にゴブリンを斬り伏せる姿は、村人の目に伝説の戦乙女《ヴァルキュリア》のように映った。

 

――――――――――

 

 私の最後の一振りで、偉そうなゴブリンの首が宙を舞う。

 

 これでもう、剣を振る必要はない。

 

 目の前に映る光景は、まるで地獄の惨状だ。

 

 死に絶えたゴブリンの群れ、そこに独り静かに佇む私に、村人たちが膝を付いて手を組み、拝んでいる姿がそこかしこに見られた。

 

 村人たちからすれば救いの女神だとは思う。けど、私はただ成り行きで討伐することになっただけ。倒したくて倒したわけではない。

 

 限界が近いから、早く村に入らせてもらいたい。

 

 もう膝が笑って立っていることもつらいから……。

 

「その、……ありがとうございます。村長のキヨワンと申します。貴方のおかげで多くの命が助かりました。お疲れのようですし、休めるところにご案内します」

 

 初老の気弱そうな男性、キヨワン村長が話しかけてきた。

 

 私の疲労具合を鑑みて嬉しい提案をしてくれる。

 

 ――どうやらやっと休ませてくれるようだ。

 

 疲れ切った身体にムチを打った甲斐があったらしい。

 

「お願いします……」

 

 あばら家でもなんでも良いから屋根のあるところで横になりたい……。

 

 

 案内されたのは、村にある冒険者ギルドで、宿屋も併設されているらしい。

 

 キヨワン村長がお礼の一環ということで、全ての宿泊手続きをしてくれている。

 

 余計な体力を消費しないように、黙って後ろで待っていた。

 

 すると、朝から酒をあおっている冒険者のおじさんが、無遠慮にこちらへ視線を向けてきた。

 

 村に入る前、黒衣から全身を覆うローブに変化させて纏っているが、身体の線は隠しきれていないので、舐めるように見られていた……。

 

 ――ゾッと背筋が寒くなり、不快感と嫌悪感を感じる……。

 

 「手続きはしておきました。ギルド職員が部屋まで案内してくれます。あとこれは冒険者ギルド備え付けの治癒ポーションです。怪我をしているようなのでお使いください」

 

 宿泊手続きが終わったようだ。キヨワン村長は私が、怪我を負っているのを事を考え、治癒ポーションまで持ってきてくれた。

 

 至れり尽くせりでありがたかった。

 

「すみません。それでは」

 

 キヨワン村長にお礼を言い、欲望のこもった視線から逃げるように若い女性のギルド職員について行く。

 

 階段を上がって突き当たりを右に歩いた所、一番端の部屋に案内された。

 

「ここで一番良い部屋です。村長に聞きました。ゴブリンの群れを倒して村を守ってくれたと。ギルド長には話を通しておくのでゆっくり休んでください」

「はい。ありがとうございます」

 

 ドアを開けると、木造りの温かな匂いがした。

 

 質素な部屋だけど、磨き上げられた床板と分厚い木の梁が重厚感を醸し出している。

 

 壁には素朴な刺繍のタペストリーが掛けられ、窓辺には季節の花が小さな壺に活けられていた。

 

 村の宿屋にしては随分と上等だ。

 

 大きな羽毛布団が掛けられたベッド、木目の綺麗なテーブルと椅子、そして季節外れの暖炉があり、炭が残っている。

 

 粗野な冒険者宿を想像していたせいか、思わず目を(しばた)たいた。

 

「……思ってたより良い部屋ですね」

 

 思わず本音が漏れる。

 

 背後でギルド職員の女性が微笑んだ。

 

「少し狭いですが、この村では一番です。今夜は安心してお休みください」

 

 扉が静かに閉まると、部屋の中に静寂が訪れる。

 

 私は黒衣を解き、椅子に腰を下ろし座る。

 

 ――瞬間、全身から力が抜けた。

 

「もう少しで……休める」

 

 ぼそりと呟き、ポーションの瓶を取り出す。

 

 琥珀色に輝く液体を眺めながら、ようやく訪れた安堵のひとときに、胸の奥から深い吐息が漏れた。

 

「鑑定」

 

 一応鑑定を行なった。

 

 念のため毒物など含まれていないか心配だった。

 

 それに、ポーションの素材が判別できれば、これからは自力で調達できるかもしれない。

 

名称:治癒ポーションFF(飲用不可)

レアリティ:アンコモン

効能

・軽度〜中度の外傷の治癒を促進する。

・出血を早めに止め、化膿を防ぐ。

・消耗した体力をゆるやかに回復する。

・使用後は身体に温かな感覚が

 広がり、倦怠感や痛みが軽減される。

 

※重度の骨折や致命傷、病気には効果が薄い。

 連続使用すると体にだるさが残る。

 

材料

・ヒーリングハーブ

・ブラッドベリー

銀苔(シルバーモス)

・スライムコア

 

 

「え……。ポーションなのに飲用不可?」

 

 ポーションって飲み薬であってる筈……。

 

 まあいいか、取り敢えず身体にかけよう。

 

 黒衣の万物保管庫(インベントリ)スキルで身に着けている衣類を全てしまう。これで体に巻いた包帯もまとめてしまえるのだから便利だな。

 

 傷口にポーションを使用する。

 

 染みて痛いけど、目に見えて綺麗に治っていくので、効能は鑑定結果どおり。

 

「ふぅ……」

 

 怪我も治り一息つくと猛烈な眠気が襲いかかる。

 

 極度の疲労と久しぶりの徹夜も祟って、もう起きていられそうもない。

 

 ベッドに這うように潜り込み目を瞑る。

 

 今はとにかくもう眠りたい――

 

 

――――――――――――

 

 

 ――微睡みながらぼんやりと夢を思いだす。

 

 血に濡れた自分を、夢の中で幾度となく追体験していた。

 

 人を殺し、獣を斬り、命を賭した戦いの光景が、繰り返し脳裏をよぎる。

 

 ゆっくり瞼を開けると、窓の隙間から朝の光が差し込み、埃が金色に舞っている。

 

 小鳥の囀りがかすかに耳に届き、意識が現実へと戻っていく。

 

「……ああ、そういえば。私は――」

 

 ――澄んだ鈴のようで、どこか艶を帯びている声が、自身の喉から軽やかに響き、発声される。

 

 昨日は余裕がなく、あえて気にしないようにしていたが、なんと美しい声色だろうか。

 

 ゆっくりとした動作で身体を起こすと、胸がたゆんと揺れる感覚に思わず息が止まる。

 

 視線を下げればそこに見えたのは、前に起床した時には決してなかった、均整の取れた絶世の美少女の裸身――その張りのある豊満な乳房であった。

 

 けれど、不思議と心は動じない。

 

 羞恥も昂ぶりもなく、まるで、ただ自身の身体を観察しているだけかのように冷静だ。

 

 滑らかで弾力のある胸を揉んでも心は揺らがず、スベスベで柔らかいといった簡単な感想しか出てこない。

 

 むしろ、研究対象を観察するような無感動さすらあり、自分の精神状態に恐怖を覚える……。

 

(……これはもしかして、精神にも影響が? )

 

 さらに悪いことに、何気なく髪を耳にかけた仕草や、ベッドの上で脚を揃えて座った姿勢が――あまりにも女性らしかった。

 

 自分の意識とは無関係に、身体が勝手にそう振る舞っているような気がして、背筋に寒気が走った。

 

「…………………………」

 

 心に暗雲が立ち込め、沈黙する。

 

 神のイタズラで絶世の美少女になり、これからも自身を襲うであろう苦難を思うと、胸の奥に不安がじわりと沈んでいった。

 

 きゅるるるる〜

 

 「――そういえばお腹がすきましたね……」

 

 可愛らしくお腹が鳴る。

 

 変に気が沈むのは空腹のせいかもしれない。

 

 保存食なども底をついて残っていなかった。ウルフに大盤振る舞いしたからだ。ウルフの死体は万物保管庫(インベントリ)にしまってあるけど、直ぐに食えるようなものでもない。

 

 眠気を覚ましたら何か食べに行こう。

 

 悩んでいても仕方ない……。

 

 ぼんやりとしたままの思考で、これからの未来に思いを馳せた。

 

 

――――――

 

 

「…の……か?」

「そ………す……ル……う」

 

 気持ちが少し落ち着き、そろそろ行動に移そうとすると、何やらボソボソとした話し声が聞こえてきた――次の瞬間。

 

 突然「バンッ!」と勢いよくドアが開け放たれた。

 

「おはよう!よく眠っていたみてえだな!!礼を言いに ……きた……ぞ??」

「ギルド長!いくらギルド長といっても女性の部屋をいきなり開けちゃダメですよ!ゲイさんでも許可はとってください!」

 

 まず思ったことはとにかくデカイということだった。

 

 異世界に来てからでも、これほどの巨体を持つ男は見たことがない。

 

 袖のない警官のような服装を着ている獣人で、全体的にとても毛深かった。

 

 顔も本来はかなり厳ついであろうと予想できるが、今はハトが豆鉄砲を喰らったような顔をしていた。

 

 男へ当たり前の注意を行い、その後ろから顔を出したのは、昨日この部屋に案内してくれたギルド職員であった。

 

 彼女は私の姿を見て面白いほどに焦りはじめた。

 

「あああああああ!?すみませんほんとうにすみません!!ギルド長!ハリーハリーハリーーッッ!!さっさと部屋から出てっ!!……ごめんなさい!また後で謝らせてください!!」

 

 ……私が何か言うまでもなく、2人は即退散して行った。

 

 男性に完全無防備な裸を見られてしまったのに、感情が追いつかず、全く反応できなかった。

 

 男だった時の調子でいたのはまずかったなと頭を掻き、反省する。

 

 そして色々と思考を巡らせ――結論を出した。

 

 まずは服を着よう。

 

 

 

 ――冒険者ギルド長の部屋では、怒鳴り散らしている女性と、大きな体を縮こまらせて正座をしている獣人の男性がいた。

 

「ラゴウギルド長!もう!何でいきなりドアを開けるんですか!?ゲイさんだとしても相手はそれを知らないんですよ!!礼節を持ってノックをして!返事をもらって!そ、れ、か、ら!入るんです!!あんな綺麗な人の裸を見るなんて!!ゲイさんといっても男なんですよ!覗きという!もう、立派な犯罪ですからね!!」

 

 女性の方、冒険者ギルド職員のアリシアは憤懣遣る方無い様子だ。

 

 男性――冒険者ギルド長・ラゴウは、流石に反省しているのか、一方的な非難を反論もせずに聞いているように見える。

 

 しかし、その脳裏には、先ほど見た奇跡のような裸体が思い浮かんでいた。

 

 ――おかしい、何で頭から消えないんだ……。オレは……真正のゲイとして誇りをもっている……。喰ってきた活きのいいヤロウは数しれずっ!そんな……オレがっ!!――ま、負けないっ!オレはっ!ゲイの王なんだ!!あ、あんな……裸を見た、くらいで……――

 

 ――ラゴウは倒れた。

 

 原因は受け入れられない現実と知恵熱のせいだ。

 

 書類仕事ですら苦手としているラゴウには耐えられない負荷だったのである。

 

 「え?ギルド長?どうしたのですか!……鼻血が出てる?…………た、助けを呼んでくるので、待っててくださいねっ!」

 

 こうして、コルン村冒険者ギルドの慌ただしい一日が始まろうとしていた。




 色んな人の感想が聞きたいです!
 誤字脱字や設定の矛盾があれば教えていただけると有り難いです!

TS主人公はどんなのが好きですか?(参考程度)

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