もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら 作:一ノ瀬 崇
「たのもー!」
「たのもー♡」
「たのもー♪」
モモイちゃんの掛け声を真似してみると、アリスちゃんも真似をしてきた。
私達の後ろにミドリちゃん、先生と続く。
ユズちゃんはお留守番だ。
エンジニア部、とプレートが掲げられた扉を開けるとそこには体育館ほどの広さがある大きな部屋だった。
綺麗に整理整頓された工具棚、よく分からない計算式が書かれたホワイトボード、隅っこのカゴに置かれている発明品らしき機械。
なるほどエンジニア♡
何も分からない事が分かったので余計なものに触らないようにしておこう。
ついでにアリスちゃんの髪の毛も纏めておこうかな。
床に擦れる勢いで長い髪の毛が、機械に挟まってしまうかもしれないからね。
初めて見るものに目を輝かせているアリスちゃんと繋いでいる右手をぎゅっぎゅっ。
「? どうしましたかフミ!」
「アリスちゃんの髪の毛、纏めようかと思って♡」
「髪の毛ですか?」
「うん。機械がいっぱいあるから、髪の毛巻き込んで怪我しちゃうかもしれないと思って♡」
「確かに危ないです!? フミ、お願いします!」
「はーい♡」
という訳でささっと結ぶ事に。
ポケットに入れていた黄色いスカーフを取り出してアリスちゃんの髪の毛をくるくると纏めてリボンのようにスカーフを巻き付け、髪の毛の先端を身体の前に持ってくる。
足先よりも長かった髪の毛が、おへその辺りくらいまでの長さになった。
「髪の毛引っ張られて痛くない?」
「大丈夫です!」
「はい、手鏡♡」
軽くスカーフの向きを整えて、手鏡で姿を写してあげる。
するとアリスちゃんは嬉しそうに抱き着いてきた。
「わぁ♪ フミとお揃いです! フミ、ありがとうございます!」
「にしし、どういたしまして♡」
「見てくださいミドリ、先生! フミとお揃いです!」
自慢げにその場で一回転してみせるアリスちゃん。
肩の辺りで束ねて前に流す、私と同じルーズサイドテールにしてみた。
向きも同じく左側から流している。
黄色いスカーフが良いアクセントになっている。
「わ、可愛い。髪型ちょっと変えるだけでだいぶ印象が変わるね」
“今のアリス、まるでフミと姉妹みたいだよ”
「本当ですか? モモイやミドリとおんなじです! でもどっちがお姉ちゃんですか?」
「それは⋯⋯どうなんですか先生?」
“ええっと⋯⋯フミがお姉さんかな、やっぱり。なんていうか、包容力があるよね”
「質問。包容力とは何ですか?」
“そうだね⋯⋯ぎゅってされた時の安心感とか、心がぽかぽかしてくる強さかな”
「納得です! フミのハグはなんだか特別です!」
「先生、いつもハグされてますもんね」
“いや、いつもではないかな”
「ハグは否定しないんですね⋯⋯ふーん」
“あ、いや、その。ミドリさん?”
「つーん」
なんか面白い事になってる。
そっかそっか、ミドリちゃんがねぇ♡
助けを乞う視線が先生から届くけど、もう少し見ていたい気もするので両手で親指を立てておいた。
ぐっどらっく♡
するとモモイちゃんが一人の女性を連れてきた。
紫色の長髪を流して、手袋を嵌めて腰回りにガジェットツールを取り付けてある、いかにもエンジニアって雰囲気。
「おーい、ウタハ先輩が銃見繕ってくれるってー! ってアリスが可愛くなってる!?」
「見てくださいモモイ! アリスはフミの妹にパワーアップしました!」
「おぉ、確かに姉妹っぽくなった!」
「その子が話に出てきたアリスだね。初めまして、エンジニア部三年の白石ウタハだ。機械修理や発明なら任せてほしい」
“初めましてウタハ、シャーレの先生だよ”
「初めまして、連邦捜査部シャーレ所属、ワイルドハント一年、脇野フミです。よろしくどーぞ♡」
「初めまして! ゲーム開発部の天童アリスです! 一年生です!」
せっかくなのでアリスちゃんと並んで決めポーズ♡
何の打ち合わせもしてなかったけどアリスちゃんに合わせて、二人で両手を伸ばし大きなハートを作った。
それを見ておぉー、と拍手してくれるウタハさん。
やぁん良い人♡
その後ろからもう一人女の子が顔を出した。
「部長、その子がアリス?」
「あぁ。紹介しよう、我らがエンジニア部の仲間、ヒビキだ」
「一年の猫塚ヒビキだよ、よろしくね。自分に合う武器探しってことなら私が色々見繕ってあげる」
「よろしくお願いします、ヒビキ!」
一瞬、ヒビキちゃんの網タイツに先生の視線が動いた。
モモゾンで届くの待ってて♡
無事に顔合わせも済んでアリスちゃんとともに色んな武器を見ていく。
比較的オーソドックスなアサルトライフル、持ち運びやすい軽量カスタムの自動拳銃、圧倒的な制圧力を誇るミニガン、1%の確率で着弾地点に大爆発を起こすびっくりどっきりな火炎放射器、急な宅配でも安心なタバスコ発射機能付きサブマシンガン、トイレのラバーカップからティースプーンまでその辺にあるものを何でも弾丸に出来るロケットランチャー。
「これなんかどうかな? シカ撃ち用の単発式4×8倍スコープ付きハンティングライフルで、ドラムマガジンを増設した事でリロードの手間を省いて最大150発まで撃てるよ。まぁ149回はコッキングしないといけないけど」
「待って♡」
「もちろんBluetooth搭載でコンビニや量販店で電子決済が出来る。あぁ、心配しなくても大丈夫。防水性能もバッチリで30mまでしか試していないけど素潜りのお供にももってこいだよ」
そうじゃないの♡
なんでどんどんキワモノになるの♡
ドラムマガジンが邪魔でスコープ覗けないでしょ♡
なんでドラムマガジン上向きに増設したの♡
すごい勢いで私の中の普通という物差しがゴリゴリ削られていくのが分かる。
そういえばヒフミンも自分を普通とか言っていた。
今度会ったらぐるぐる振り回してやる♡
シャーレに所属してからはまだ会ってない友人を脳内でジャイアントスイングして巨大ペロロ人形にぶつけていると、アリスちゃんがお目当てのものを見付けたらしい。
一見するとオブジェのような佇まいの巨大な砲身。
明らかに人が持つサイズではないそれを、アリスちゃんは透き通った瞳で見つめていた。
「ふっふっふっ⋯⋯お客さんお目が高いですね」
「えっと⋯⋯?」
「説明が必要ならば、いつでもどこでも答えをご提供! エンジニア部のマイスター、豊見コトリです!」
これまた濃い子が現れた。
涙型にフレームがくいっと曲がったデザインの特殊な眼鏡を掛けた、ちょいムチな女の子。
自己紹介の通り、何かを人に説明するのが好きなタイプなんだろう。
早速、あの巨大な砲身について解説をしてくれた。
「これはエンジニア部の下半期の予算、そのうちの70%近くをかけて作られた⋯⋯エンジニア部の野心作! 『宇宙戦艦搭載用レールガン』です!」
「宇宙戦艦、って⋯⋯また何かとんでもないことを⋯⋯」
語感が訴えてくる規模の大きさに思わずミドリちゃんが呻いた。
宇宙戦艦かぁ。
確かにそれの砲台ならこのサイズなのも分かる。
従来の弾丸じゃなく電磁力を利用して発射するなら弾自体の質量を抑えられるし、積載時の重量も削減出来る。
真空中だけでなく大気圏内でも効力を期待出来る兵装としてはミサイルと並んで優秀な部類だろう。
ふむふむ、と感心している私とは裏腹にモモイちゃん達は少し呆れた顔を向けていた。
「前にも、確かコールドスリープしようとして、『未来でまた会おう』って言いながら冬眠装置を作って大騒ぎした挙句、みんなして風邪引いてなかった?」
「その『未来直行エクスプレス』なら、今でもよく使っているよ⋯⋯まあ、冷蔵庫として、だがね。食べ物をもっと先の未来にまで送れるようになったから、失敗ではないさ」
「使い道の割に、名前が大袈裟!」
ウタハさんが指差した先、業務用冷蔵庫として需要が有りそうな、巨大な冷蔵庫が鎮座してある。
ヒビキちゃんが扉を開けて中から良く冷えたチョコを取り出し、一つ食べてみせた。
なるほど、思いの外活用されているらしい。
バレンタインの時の素材保管庫としてレンタル業が営めそうだ。
逸れた注目を集める為に、コトリちゃんがコホンと咳払いをする。
「話を戻しますとエンジニア部は今、ヘリコプターや汎用作業ロボットに続いて、宇宙戦艦の開発を目標としているのです! このレールガンは、その最初の一歩です。大気圏外での戦闘を目的として開発された実弾兵器! これはミレニアム史上、明らかに類を見ない初の試みです!」
ビシッと決めたコトリちゃんにみんなでおぉー、と拍手を送る。
大気圏外での戦闘を目的として開発、という所でモモイちゃんとミドリちゃんのテンションも上がってきた。
「かっこいい⋯⋯聞いただけでワクワクしてくる!」
「さすがミレニアムのエンジニア部! 今回は上手く行ってるんだね!?」
「ふっふっふっ、勿論です! ⋯⋯と言いたいところだったのですが、ちょっと今は中断してまして⋯⋯」
急にトーンダウンするコトリちゃん。
梯子を外され、二人のテンションも急落する。
「えええっ!? なんで! 期待したのに!」
「いつものことながら技術者たちの足を引っ張るのは、いつの世も想像力や情熱の欠如ではなく、予算なんです⋯⋯」
「知ってた♡」
レールガン一基で下半期の予算七割を消し飛ばすほどの金食い虫。
まさか武装がこれ一つという事は無いだろうし、各種武装にメインフレーム、外装に統括システム、消火システムにエンジンの開発、加えて弾薬や燃料に宇宙食など、宇宙戦艦を製作するには文字通り天文学的な金額が必要になる。
それを説明するとモモイちゃんは戸惑いながら指摘する。
「そんなの計画段階で分かることじゃん! どうしてこのレールガン、完成まで持って行っちゃったのさ!?」
当然の疑問ではある。
でもまぁ、理由は分かる。
ウタハさんは達観したような笑みを浮かべてモモイちゃんの肩をぽんと叩く。
「愚問だね、モモイ」
一つ息を吸って、ウタハさんは答えた。
「────ビーム砲は、ロマンだからだよ」
「その通りです! ビーム砲の魅力が分からないなんて、全くこれだからモモイは」
「バカだ! 頭良いのにバカの集団がいる!」
呆れたように首を振るヒビキちゃん。
そんな二人を見てモモイちゃんは魂のツッコミを入れた。
でもごめんねモモイちゃん。
そのロマン、私もちょっと分かる♡
「極太超火力ビームも良いですけど、命中したところが弾の形に焼け落ちて、穴だらけになった後熱でぐにゃぐにゃに倒れていくのも良いですよね。ビームガトリング砲って言うんですけど♡」
────その時、エンジニア部に電流走る。
「ビームガトリング⋯⋯! その発想は無かった⋯⋯!」
「超火力のビームを敢えて低出力で発射する事で最終的な弾持ちも改善される⋯⋯?」
「後で人型機動兵器にも積めるように、ガトリング砲の下部にマウントを設けて手甲型の補助パーツと合体出来るようにするとか♡」
「手甲型の補助パーツ! それを転用すれば状況に合わせてグレネードランチャーやミサイルポッドも携行出来る用になります!」
盛り上がっていた三人だったけど、ふとウタハさんが私の両肩に手を乗せて口を開いた。
「正直に言おう、君が欲しい。フミ、エンジニア部に入らないかい? 君の発想は、私達の創作意欲をこの上なく刺激してくれる」
「わぉ♡ 大胆♡」
“ダメ”
「先生?」
“フミはダメ”
ウタハさんの視線を追って振り返ると、先生が両手を交差させて大きくバッテンを作っていた。
ごめんなさい、と頭を下げてウタハさんから離れ、先生の元へ。
普段は見せないようなちょっと拗ねたような顔で、そっぽを向きながら私を抱き締めてくれた。
「⋯⋯にしし♡ せんせ♡」
“⋯⋯ん”
「んふ♡ なんでもない♡」
一度ぎゅっと強く抱き締めると、先生の腕から力が抜ける。
くるりと腕の中で半回転し、先生の両手を私のお腹に当てて手のひらから伝わる熱を楽しむ。
その様子を見たウタハさんは目を何度かパチパチさせて、ふっと小さく息を吐いて微笑んだ。
「先生のお気に入りとあらば仕方ない、諦めよう。エンジニア部へ遊びに来る事があったら、色々話を聞かせてほしいかな」
「私で良ければいつでも♡」
そんな風にわちゃわちゃしていた間も、アリスちゃんはずっとレールガンを見ていた。
一目惚れ、ってやつだね。
そんなアリスちゃん両隣に、ヒビキちゃんとコトリちゃんが足を進めた。
「エンジニア部の情熱が注ぎ込まれた、この武器の正式名称は」
「『光の剣:スーパーノヴァ』です!」
二人の声に、ごくりと唾を飲み込むアリスちゃん。
その顔はもうキラッキラだ。
「また無駄に大げさな名前を⋯⋯」
「ひ、光の剣⋯⋯!?」
「あ、アリスの目が輝いてる⋯⋯!」
「わぁ、うわぁ⋯⋯!」
「アリスちゃんがこんなに興奮してるの、初めて見たかも⋯⋯」
その様子に、モモイちゃんとミドリちゃんも気が付いたようだった。
未知を冒険し、魔王を倒し、幾度も世界を救い勇者として立ち上がり続けたアリスちゃんの目の前にある光の剣。
それこそが、彼女にとっての勇者の剣である事に。
だから当然、アリスちゃんがそう口にするのは予想出来た。
「アリス、これが欲しいです!」
「え⋯⋯?」
クリスマスプレゼントをねだる子供のように光の剣を指差して笑うアリスちゃん。
ヒビキちゃんにとっては思いも寄らない一言だったのか、困惑の声が漏れる。
その反応はある意味普通だ。
大人の男性である先生の背丈をも越える全長を持つ、設置型の武器。
それを携行武器として欲しがるとは思わない。
でもアリスちゃんはヒビキちゃんに自分の言葉が上手く伝わっていないと思ったのか、どこかのゲームで聴いた言い回しで再度告げる。
「偉大なる鋼鉄の職人よ、あの龍の息吹が欲しいのだ」
今度こそはっきり伝わっただろうと、アリスちゃんはヒビキちゃんの顔を覗き込む。
そこへ割って入ったのはウタハさんだった。
その顔に浮かんでいるのは⋯⋯申し訳なさ?
「うーん、そう言ってくれるのは嬉しいのだけど⋯⋯」
「申し訳ないのですが、それはちょっと出来ないご相談です!」
はっきりと言葉にするコトリちゃん。
拒絶ともとれるその言葉にいち早く反応したのはモモイちゃんだった。
「何で!? この部屋にあるものなら何でも持っていって良いって言ったじゃん!」
「⋯⋯それは、理由があって⋯⋯」
「理由? もしかして、私のレベルが足りてないから⋯⋯装着可能レベルを教えてください!
「いや⋯⋯悪いが、そういった問題ではなくてだね⋯⋯もっと現実的な問題なんだ」
見れば、エンジニア部の三人全員が何とも言い難い表情をしていた。
ミドリちゃんはなんとなく予想が付いたのか、こっそり私に耳打ちしてきた。
うん、正解♡
ご褒美に私がいつもシャーレに買い置きしている、お気に入りのパイン飴をあげちゃう。
二人にはナイショね、しー♡
「あー⋯⋯お金かー⋯⋯」
モモイちゃんは自分の財布を開いてウッと呻き声を上げた。
入っているように見えるのはレシートや期限切れのクーポンや行かなくなったお店のスタンプカードの厚みだろう。
心許ない自分の財布をしまい、モモイちゃんは覚悟を決めた様子で口を開いた。
「心配しないでアリス。私が、ミドリのプライステーションを売り払ってでも⋯⋯」
「そこで真っ先に自分のゲームガールズアドバンスSPを売ろうとしないあたりがお姉ちゃんだよね」
「いや、すまない。お金の問題では無いんだ」
二人を見てくすっと笑ったウタハさんがモモイちゃんの誤解を解く。
それにきょとんとした顔を返すモモイちゃん。
「え、お金じゃないの? 予算の70%ってさっき」
「作るまでに掛かった費用なんて、後でユウカの怒りゲージを動かす乱数みたいなものだよ。掛かりすぎると怒りゲージを突破して、ほら、角がにょきっと」
「あはは、確かに!」
“という事はゲーム開発部と同じくらいにはエンジニア部も怒られているんだね⋯⋯”
ようやく調子が戻ってきた先生も会話に交じる。
ちょっとサービスしてあげよっかな?
みんなに見えないように重なってる下の方の手をずらして、指先を制服の内側、ブラウスの隙間の奥に。
その指先が何かに触れた瞬間、私より早く先生の肩が跳ねた。
でもみんなの手前変に動く事も出来ない。
後は先生の欲望にお任せ♡
手の動きがバレないように、私は両手で先生の手を優しく握っているフリをする。
好きにして良いからね、せんせ♡
「この武器が抱える問題と言うのはね⋯⋯個人の火器として使うには大きくて重すぎるんだ」
「なんと、基本重量だけで140キロ以上です! さらに光学照準器とバッテリーを足した上で砲撃を行うと、瞬間的な反動は200キロを超えます!」
「えぇっ!? 食べ過ぎた時のミドリ三人分ちょっと!?」
「お姉ちゃんっ!?」
「いたたたっ!? ちょ、ごめんてミドリ!」
ぽかぽかと叩かれるモモイちゃん。
今のはちょっと自業自得かな♡
微笑ましい姉妹喧嘩を眺めつつ、ウタハさんはアリスちゃんに顔を向ける。
「これをカッコいいと言ってくれただけで、私たちは嬉しいよ。ありがとう。持って行けるのならば、本当にあげたいところなのだけど⋯⋯」
その瞬間、アリスちゃんは不敵な笑みを浮かべ、どこか重々しい口調で問い掛けた。
「────汝、その言葉に一点の曇りもないと言えるか?」
「ん? この子、また喋り方が⋯⋯」
「た、多分ですが、『本当なのか』って聞いてるんだと思います」
「もちろん、嘘は言っていないがそれはつまり、あれを持ちあげるつもり、ということかい?」
驚いたように目を見開くウタハさん。
そりゃそうだよね、いくらキヴォトス人でも重いものは重い、携行火器で30キロを越える重さのものを愛用している子は殆どいない。
構えて撃つだけならともかく、撃って走って登ってと戦場を駆け回るには重すぎる。
でもアリスちゃんは一歩、光の剣へと踏み出した。
さながら、勇者が聖域に安置された聖剣を引き抜くが如く。
「この武器を抜く者⋯⋯比の地の覇者になるであろう!」
レールガンの側面の凹凸を掴み、力を込める。
常人では揺らす事も出来ないだろうそれが、何の抵抗も無く中に浮き上がる。
今、光の剣は勇者の手の中にあった。
「も、持ち上がりました!」
「嘘⋯⋯信じられない⋯⋯」
コトリちゃんとヒビキちゃんが驚愕の表情でアリスちゃんを見ているけど、ウタハさんはどこか満足げに腕を組んで微笑んでいる。
モモイちゃんとミドリちゃんは揃って顎を落とし、呆然とその様子を眺めていた。
こういう所は姉妹なんだなって分かる。
先生も目の前の状況に思わず身体が強張っている。
⋯⋯でも一部は煩悩に正直みたい♡
「えっと、ボタンは⋯⋯これがBボタンでしょうか⋯⋯?」
「待って♡」
構えた状態で何かを探し当てるアリスちゃん。
思わず止めるも間に合わず、銃口に雷光が集まっていく。
銃身が上を向いているのが唯一の幸いだった。
「────っ、光よ!!」
アリスちゃんの決めセリフと共に、空へ向けて一筋の光が解き放たれた。
それは立ち塞がるものを全て吹き飛ばして舞い上がり、遥か空の彼方へと消えていった。
光の残滓が消え去ると、元の静寂が戻って来る。
白昼夢かと思うほどに一瞬で通り過ぎたそれは、天井に空いた穴という形で自身の存在を証明していた。
「⋯⋯⋯⋯すごいです! アリス、この武器を装着します!」
その言葉に真っ先に我に返ったのはコトリちゃんだった。
あわあわと身振り手振りを交えてアリスちゃんを説得しようと試みる。
「ほ、本当に使えるなんて⋯⋯で、ですがそれだけは、その⋯⋯! 予算とか諸々の問題で、出来れば他のでお願いしたく⋯⋯!」
その言葉にアリスちゃんはえっと顔を悲しげに歪める。
堪らずウッと言葉に詰まるコトリちゃん。
どこで覚えていたのか、ちょっと顔を俯かせて上目遣いで見つめてくる。
色んな意味で破壊力抜群だ。
あうあう、と次の言葉が紡げなくなったコトリちゃんに、ウタハさんが助け舟を出した。
「いや⋯⋯構わないさ、持っていってくれ」
「ウタハ先輩⋯⋯本当に良いんですか?」
「あぁ。どちらにせよ、この子以外には使えないだろうからね。ヒビキ、後でアリスが持ち運びやすいように肩組と取手の部分を作ってあげてくれ」
「⋯⋯前向きに考えると、実戦データを取れるようになったのはありがたいかも」
ヒビキちゃんはタブレットで素材を検討しながら手早くアリスちゃんの身体データを計測していく。
光の剣をもらえると分かったアリスちゃんはニッコニコだ。
その後試し撃ちと適切な構えに必要なストック部分のデータ収集を兼ねてドローンやオートマタ相手に射撃訓練を行うアリスちゃん。
みんなはそれを見て大興奮。
でも少し下がった位置で、私と先生は違う興奮を覚えていた。
先生だけに聴こえるように、小声で誘惑する。
「んっ♡ せんせ♡ 帰ったらまたマッサージしてあげますね♡ それが終わったら、今度は私にもマッサージしてください♡ せんせーに触られる悦び、私の身体が覚えちゃいました♡ 大丈夫♡ これはイケナイ事じゃありませんから♡ ただ身体をほぐす為のマッサージ♡ だから、いっぱい気持ちよくなって良いんですよ♡」
先生は何も言わなかったけど、いつもより呼吸が多く荒くなっていた。
にしし♡
帰ったらいっぱい愉しみましょうね、せーんせ♡