もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら   作:一ノ瀬 崇

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十二話目

 アリスちゃんの銃の選定も終わり、裏でやってた先生とのドキドキ秘密さわさわごっこも終わり、私達はゲーム開発部の部室へと帰ってきた。

 先生の煩悩がどれくらいのものだったかは、私と先生だけのナイショである。

 部室のドアを開けて中に入ると、ロッカーに引きこもっていたユズちゃんが出て来て出迎えてくれた。

 

 

「あ、おかえりなさい」

「ただいまです、ユズ!」

「無事に銃の手配も終わったよー!」

「取り敢えずは一安心かな」

 “ただいま、ユズ”

「ユズちゃんただいまー♡」

 

 

 きゃぴきゃぴと集まるゲーム開発部一同。

 全員が一年生という事もあって初々しくて可愛らしい。

 私が言えた事じゃないけど、みんな身長も低いから余計可愛く映る。

 ちなみに一番大きいのはアリスちゃんだったりする。

 

 

「わ⋯⋯! アリスちゃんの髪型、フミちゃんと同じになってる」

「えへへ、お揃いです! アリスはフミの妹にパワーアップしました!」

「⋯⋯むぅ」

 

 

 くるくる回るアリスちゃんを見て、何か言いたげに私を見るユズちゃん。

 そのほっぺたはぷくっと可愛らしく膨らんでいた。

 なので人差し指でほっぺたを押し込んでみる。

 すると可愛い音を立ててほっぺたがへこんだ。

 

 

「ほっぺたぷにー♡」

「ぷちぅ」

「どしたのユズちゃん、そんな可愛い顔して♡」

「べ、別に何でもないです⋯⋯!」

「ふーん♡」

 

 

 ぷいっと顔を背けるユズちゃん。

 でもチラチラと視線をこっちに飛ばしてくる。

 左手は髪の毛の先を摘んでいじいじ。

 もうこんな可愛いアピールされたら堪らないよね。

 という訳でユズちゃんも髪の毛いじりまーす♡

 おいでおいでと手招きしたら、ぱっと明るい顔をして寄ってくるもんだから思わずそのまま抱き締めたよね。

 

 

「はわっ」

「ユズが他人にこんな甘えてるの初めて見たかも!」

「基本人見知りだもんね⋯⋯」

「やっぱりフミは籠絡の達人です!」

 

 

 むぎゅーっとしてからユズちゃんを半回転させ、ぱぱっと長い赤い髪を纏めていく。

 左右どっちに束ねようかなー⋯⋯ん、私と一緒が良い?

 そっかそっか♡

 黄色い薄い布地のハンカチを取り出してユズちゃんの髪の毛を纏めて結んでいく。

 左側から流して、ルーズサイドテールの出来上がり。

 

 

「はい、手鏡♡」

「わ、ありがとうございます⋯⋯! えへへ、フミちゃんとお揃い⋯⋯♪」

「ユズも同じ髪型になりました! パンパカパーン! アリスに妹が増えました!」

「ええっ、私が妹なの⋯⋯!?」

「そうです! フミと同じ髪型になったのはアリスが先ですから!」

「そう言えばアリスのもだけど、なんかキャラクターが描いてある?」

「え、あ、ホントだ。何だろ、知らないキャラクター⋯⋯?」

「結構マイナーなキャラグッズだからね。元々は《たのしいバナナとり》って手帳のキャラだったんだけど、限定生産でスカーフやハンカチになってたの♡ 私の尊敬する先輩の愛用品だったんだよ♡」

「なんだか愛嬌があって、アリスは好きです!」

「ホント? うれしー♡」

 

 

 中々好評で良かった。

 もう生産元が無くなっちゃったのか、店先で見る事も無いんだよねぇ。

 だから多分私以外にまだバナナとりシリーズを持ってる人はほとんど居ないんじゃないかな。

 それくらいにはレアかも。

 

 

「そ、そんなに貴重なものだったなんて⋯⋯!」

「激レアアイテムです!?」

「バリバリ貴重品かもね? でも他でもない二人にあげちゃうー♡」

「ありがとうございます、フミ!」

「ありがとうフミちゃん⋯⋯!」

 

 

 ユズちゃんとアリスちゃんはハイタッチしてパンパカパーンと喜んでくれた。

 そんなに喜んでもらえたら私まで嬉しくなっちゃうね。

 そして私達にはないのかな、と声には出さずとも期待した目を向ける姉妹の姿が。

 くるしゅうない♡

 ちこうよれ♡

 

 

「モモイちゃんとミドリちゃんには、バナナとりシリーズじゃないけど良いものをあげちゃいます!」

「ホント!? やったー!」

「なんだろう⋯⋯!」

「でもなー、相当なレアものだからなー? 美少女姉妹のハグとかあればなー?」

 

 

 という訳で両手を広げてカモン。

 モモイちゃんは勢い良く、ミドリちゃんはちょっと控えめに飛び込んできた。

 むぎゅぎゅーっ♡

 

 

「うんうん、こんなに可愛い二人には良いものをあげないとね♡ じゃ、二人にこれあげちゃうー♡」

 

 

 そう言って私がコートの内ポケットから取り出したのは、四角い灰色のロムカセット。

 それを見て真っ先に反応したのはユズちゃんだった。

 続けてモモイちゃんミドリちゃんも目を大きく見開いて愕然とする。

 これの価値を見抜くとは、さすがゲーム開発部。

 

 

「こっ、これ⋯⋯っ!?」

「まさか初代ゲームガールズのカセット!?」

「しかも大人気シリーズのキヴォトスエネミーズの初代限定生産版⋯⋯!?」

 “⋯⋯聞くだけですごいプレミアものっぽそうだけど”

「これだけの美品でしかもバージョンファイアとリーフの二枚が揃ってるとなると⋯⋯! その価値は多分、五十二万円は下らないはず⋯⋯!」

「ご、ごじゅっ⋯⋯!?」

「ひえっ⋯⋯」

「さらに今回はなんと! 説明書と外箱、さらに付属してたゲームガールズ本体が四千円安くなるクーポン券も揃ってまーす♡」

「えぇぇぇぇっ!?」

「そんな⋯⋯っ、コレクターの間でも持ってる人は数人しか⋯⋯!?」

 “⋯⋯一応聞くけど、全部揃ってたらどれくらいのレアもの?”

「⋯⋯せ、正確な価値は分からないですけど、た、多分、オークションに出したら二千万、は」

 “二千万!?”

「かひゅっ」

「わぁ、お姉ちゃん!?」

「モモイが倒れました!?」

 

 

 わぁ、大パニック♡

 てかこれそんなレアものだったんだ⋯⋯。

 特に気にせず普通にプレイしてたよ。

 美品って言ってもやっぱ経年劣化でちょっと色が褪せてきてるし、内部のボタン電池は新品に取り替えたから当時そのままって訳でも無いし。

 

 

「まぁゲーマーとしては飾って眺めるよりも、当時の技術的制約の中でどんな風にゲームを作っていったかの参考にしてほしいし、何より往年の名作って事で純粋に楽しんでほしいかな♡」

「フミさん、ありがとうございます⋯⋯!」

 “ゲーム開発部にとって、これ以上ないプレゼントかもね”

「にしし、喜んでもらえて良かった♡」

 “ちなみに私には⋯⋯?”

「せんせーはフミちゃんよりも欲しいのがあるのかにゃー? うりうり♡」

 

 

 欲張りさんめー、と人差し指で先生の首元をこちょこちょしてあげる。

 さっきの事を思い出したのか、先生は真っ赤になってそっぽを向くのであった。

 かーわいい♡

 そんな風にみんなでわちゃわちゃ騒いでいると、唐突に部室のドアが開いた。

 現れたのはユウカさん。

 なにやら難しい顔をしている。

 

 

「モモイ、進捗はどんな感じ⋯⋯あら?」

 

 

 思った以上の人数が居た事に目を見開くユウカさん。

 ふとイタズラを思い付いたので早速実行。

 

 

「ゆーうーかーさーん♡」

「わわっ、フミ?」

 

 

 正面からむぎゅっと抱き着く。

 そのまま振り向いて号令を掛けた。

 

 

「アリスちゃんユズちゃんは右から、モモイちゃんミドリちゃんは左から抱き着いて!」

「! 突発クエストです!」

「わ、わかった!」

「と、取り敢えずお姉ちゃん起きて!」

「ええっと、良く分かんないけどくらえー!」

 

 

 一斉に突撃する四人。

 ロリのおしくらまんじゅうだ!

 しんみょうにいたせ!

 

 

「せんせーは後ろから全員をハグする感じで!」

 “分かった!”

 

 

 こういう時はノリノリになる先生。

 慌てるユウカさんごと私達をむぎゅっと抱き締めてくれた。

 秘技、おしくらまんじゅうの術!

 おらおらー、むぎゅむぎゅー♡

 

 

「ちょ、え、天国?」

「ユウカが混乱してる⋯⋯!」

「どさくさに紛れてすりすりしちゃえー♡」

「ひゃんっ、ちょ、ちょっと今くすぐったの誰?」

「なんだか楽しいです!」

「け、結局これは⋯⋯?」

「ただの思い付き♡」

「あ、特に意味は無いんだ」

 

 

 その後全員を引き剥がして仕切り直すまでたっぷり十分は掛かった。

 ユウカさんが満更でもなさそうでなにより♡

 それでユウカさんにアリスちゃんが自己紹介をして、無事に部員数の条件はクリア。

 ばんざーい、と喜ぶモモイちゃんにユウカさんは申し訳なさそうに言った。

 今期はそれで大丈夫だけど、来期の存続の為に結局何かしらの功績は必要になるとの事。

 どうやらアルバイトで幽霊部員を募集し部員数を確保して廃部を逃れた所がいくつか有るらしく、ちゃんとした功績を以て活動の実態ありとみなす事にしたようだ。

 ミレニアムは部活動として認められた時の予算が他の学校と比べても大きい為、適当な名目で予算を使い遊興費に充てたり私的な買い物に流用したりと、割と悪質な不正も多かったみたい。

 そういった悪い部活を一掃する為の施策らしい。

 まぁ、ゲーム開発部としても実績は上がってないのでここが頑張りどころなのは間違いない。

 そんな訳で無事解決したかと思った今回の依頼、ここにきて振り出しへと戻ったのだった。

 ショックを受けている三人のフォローを私達に任せて、ユウカさんは他の部活への忠告と警告に行った。

 真っ白になっている三人を前にアリスちゃんはおろおろ、先生は苦笑いしながら頬を掻き、私はこれが先生が言っていた予感かぁと一人納得していた。

 案の定、一番最初に立ち直って口を開いたのはモモイちゃんだった。

 

 

「こうなったらもう一回廃墟に行って、今度こそG.Bibleを見つけ出すしかない!」

「知ってた♡」

 

 

 

 

 はい。

 という訳で私達は再び廃墟に来ていまーす。

 現場の先生さーん?

 

 

 “はい、こちらは大まかに前回使ったルートを辿りながら最奥を目指しています”

 

 

 ノリノリでアナウンサーっぽく返してくれる先生。

 そういうとこ好き♡

 前回と違って今回はアリスちゃんとユズちゃんがいるのでだいぶ余裕を持ってオートマタを蹴散らしていける。

 私が足止めに使った消火扉を迂回して進むと、廃工場のすぐ隣へと通じる整備路を見付けた。

 ここからなら一直線だね。

 幸いオートマタの数は前回より少なくなっていた。

 加えて戦力不足から逃げに重点を置いていた前回と違い、今回は先生の指揮を受けて万全の状態で戦えているのも大きかった。

 自分の視野が広がり障害物越しでもオートマタの姿を確認出来るようになり、敵の視界や射線が視覚的な表示として見えるようになっている。

 先生の持つシッテムの箱によるサポートらしいけど、そりゃこんな強いバフ持ってたら便利屋のみんなも撃退されるわ。

 アビドスのみんなが強い事は否定しないけど、流石に得られる情報量が違い過ぎる。

 劣悪な単発式コピー銃と最新式暗視スコープが付いた整備済みアサルトライフルで、暗闇の中撃ち合うようなものだ。

 初めての実戦にも関わらず、モモイちゃんとミドリちゃんが退いた所へアリスちゃんの光の剣が通り抜け、障害物の後にいた僅かな撃ち漏らしはユズちゃんのグレネードが吹き飛ばす。

 連携の練習って事で私は先生の横で警護に付いてるけど、これなら私の出番が来る前に目的地に着けそうだね。

 

 

「目標地点に辿り着いたね」

「ってここ、あの落とし穴があった場所じゃない?」

 

 

 

 無事にオートマタを突破した私達は前回資格とやらを確認された場所にやってきた。

 そう言えば探索する前にアナウンスが流れてたからこの部屋はまだ手付かずなんだよね。

 さてどこから探そうかと周囲を見渡していると、アリスちゃんがどこか一点を見つめていた。

 その視線を追っても目ぼしいものは何も無い。

 でも、アリスちゃんは何かを感じているようだ。

 

 

「アリスちゃん、どうかした?」

「分かりません⋯⋯ですが、どこか見慣れた景色です。こちらの方に行かないといけません」

 

 

 デジャヴ、という現象がある。

 初めて見たはずなのに、既にそれをどこかで見た事があるように感じる現象。

 ほとんどは記憶の欠片が歪に結び付いた事による錯覚だけど、たまに記憶の底に埋もれていたものが蘇ってきた衝撃による場合がある。

 アリスちゃんの感覚もそれだろう。

 出会った時に言っていた『回答不能』という言葉。

 恐らく、今この瞬間にアクセス権が付与され《見慣れた景色》という記憶情報と《行かないといけない》という思考誘導が為された。

 鬼が出るか蛇が出るか。

 

 

「アリスの記憶にはありませんが⋯⋯まるで『セーブデータ』を持っているみたいです」

「フミさん、これって」

「まず間違いなく、アリスちゃんになる前、AL-1Sとしての記録だろうね」

「だ、大丈夫かな?」

「もちろん。だってここに居るのはAL-1Sじゃない、ゲーム開発部の勇者アリスちゃんでしょ♡」

「⋯⋯はい♪」

「せんせーもそれで良いですか?」

 “うん。私はいつだって、フミの判断を信じてるよ”

「にしし♡」

 

 

 私の言葉に嬉しそうに応えるユズちゃん。

 モモイちゃんとミドリちゃんも、同じように笑った。

 なら後はアリスちゃんの記憶が示すものを見定めるまで。

 ゆらゆらと揺れるように歩くアリスちゃんの後に続いて、部屋の奥へと進む。

 なんの変哲もない壁に見えたそこに隠されたコンソールを操り隠し扉が開かれた時は思わずみんなで歓声を上げてしまった。

 いやぁテンション上がっちゃうよね。

 そのまま奥へ奥へと歩いていくと、それまでに通ってきた部屋よりは少し狭く感じる部屋へと辿り着いた。

 

 

「なるほど、ここが目的地ね」

 “そうみたいだね”

 

 

 部屋の中央には沢山のケーブルが繋がれた、今も電源が生きているコンピューターが一台。

 正面にはモニターが付いていて、左右にはコンピューターの状態を表しているのだろう様々なユニットランプが点灯していた。

 アリスちゃんが前へ出てコンピューターに近付くと、角張ったフォントでモニターに文章が表示された。

 

 

『Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください』

 

 

 ディヴィジョン、と言った?

 意味は区分、分割⋯⋯いや、きっとそうじゃない。

 私の勘が《違う》と言っている。

 隔離されていた廃墟、立ち塞がるオートマタ、安置されていたAL-1S、覚醒したAL-1Sにしか到達出来ないセキュリティクリアランス────。

 

 

「おっ、まさかの親切設計。G.Bibleについて検索してみよっか?」

「いや、ちょっと怪しすぎない? それより『ようこそお越しくださいました』ってことは⋯⋯『ディビジョンシステム』っていうのが、この工場の名前?」

「キーボードがあります、G.Bibleについて入力してみますか?」

「うーん⋯⋯現状手掛かりは無いし、やってみても良いかも」

 

 

 ────違う。

 辞書を引いて意味が分かる、そんな教科書みたいなテキストじゃない。

 ならこれは────師団。

 その統括を司るシステム────師団機構(ディヴィジョン:システム)

 そっと、先生の袖口を引いた。

 意図を察した先生は静かに一歩下がり、身を屈めてくれた。

 

 

 “⋯⋯フミ?”

「今は勘が囁いてこない。だから《現時点では》なんの脅威も心配もない。でも、備えは必要になるかも」

 “⋯⋯それは、アリスとあのシステムに関わる事かい?”

「きっと、そう。私はそんな勘があるだけで、どう対処したら良いかは分からない。だから⋯⋯せんせ」

 

 

 正面から先生を見据える。

 声は、少し震えた。

 

 

「私、ハッピーエンドが好きなんです。その為の選択肢、一緒に選んでもらえませんか?」

 

 

 勇気を出して振り絞った言葉に、先生は微笑みを返した。

 

 

 “フミからお願いされるのは初めてだね。もちろん、良いに決まってるよ。私もハッピーエンドは好きだけど『誰かと一緒に見る』のが一番好きなんだ”

 

 

 その言葉に、思わず笑顔が溢れた。

 堪らず先生の手に抱き着く。

 

 

「にしし⋯⋯ありがと、せんせ♡」

 “どういたしまして。何かするのはこれからだけどね”

「うん。⋯⋯でも、私これまで、結構お願い事してませんでした?」

 “可愛らしいおねだりやお誘いはいっぱい有ったかな。それと、愛おしい誘惑も”

「⋯⋯もう♡ 好き♡ 大好き♡ 絶対結婚して子供いっぱい産む♡」

 “お手柔らかにね”

 

 

 ちょっとせんせー、お腹の奥がキュンキュンするんですけどー♡

 せんせーの雌としての準備出来ちゃうんですけどー♡

 全く、どれだけ私を惚れさせたら満足するんだろうか。

 そんな風にイチャイチャし始めたのも束の間、四人の方からビープ音が流れ始めた。

 

 

『#$@#$$%#%^*&(#@』

「こ、壊れた!? アリス、いったい何を入力したの!?」

「うわーん!? 何もしてないのに壊れました!?」

「それ何かした人が言うやつ♡」

「ホントです! 信じてください!」

「信じる♡」

「わーい! フミは信じてくれました!」

「いやいや、フミさんそんな事言ってる場合じゃ!?」

 

 

 取り敢えず四人の所へ行ってみると、モニターには意味不明な記号の羅列が浮かんでいた。

 それらは画面にノイズが走る度に表示が変わり、一際大きなノイズが走った後、意味を持つ文章へと変わっていた。

 

 

『あなたはAL-1Sですか?』

 

 

 予想していた文字列。

 悲しい事に厄介な予想ほど外れてくれない。

 突然(ふる)い名で呼ばれたアリスちゃんは困惑を声に乗せる。

 

 

「いえ⋯⋯アリスはアリスで⋯⋯」

「待って! 何かがおかしい。アリスちゃん、今は取り敢えず何も入力しない方が⋯⋯」

『音声を認識、資格が確認できました。おかえりなさいませ、AL-1S』

 “音声で識別も出来るんだ⋯⋯”

 

 

 となると、やっぱりこのシステムはAL-1Sと共に運用する為に作られたのだろう。

 でも、それなら何故AL-1Sは起動時にメモリーを喪失していたのか。

 外部からの操作によるもの、という可能性ももちろんある。

 その場合の下手人は、失踪した連邦生徒会長だろう。

 しかしこうしてアリスちゃんへと生まれ変わった今でもシステムが呼応したのだから、システムへの対応としては片手落ちだ。

 システムを予見出来なかったにしろ、何故メモリーだけを奪い安置したのか、その意図が分からない。

 ⋯⋯いや、多分違う。

 ()()()()()()()()()

 ────発想を逆転させるんだ。

《何故AL-1Sからメモリーが失われていたのか》じゃなく《AL-1Sにメモリーが必要無かった理由》を考えるんだ。

 

 

「その⋯⋯AL-1Sっていうのは、アリスちゃんのことなの?」

「あ、ごめん。そういえばユズちゃんには言ってなかったかも」

「アリスが眠ってた玉座の横に書いてあったんだ。AL-1Sって。それをもじってアリスって、私が付けたの」

「⋯⋯アリスの、本当の名前⋯⋯本当の、私」

 

 

 メモリーが必要無い。

 それはつまり、AL-1Sに固有の情報を搭載する意味が無いもしくは薄いという事。

 何故?

 ──使わないから?

 何故?

 ──別のものを使うから?

 何を?

 ──例えば、()()()()()()()()()()()()から?

 

 

「あなたは、AL-1Sについて知っているのですか?」

『そうで⋯⋯⋯⋯#7@≯##54∵@#?∩‼#』

 

 

 突如、スピーカーで増幅されたノイズ音が響き渡る。

 さながら全員の思考を奪うように。

 でも残念♡

 ()()()()()()ね♡

 勝ち誇ったように口の端を吊り上げてみせると、モニターは不機嫌そうに文字列を弾き出した。

 

 

『緊急事態発生。電力限界に達しました。電源が落ちると同時に消失します。残り51秒』

「ええッ!? だ、ダメ! せめてG.Bibleの事を教えてからにして!」

 

 

 悪辣とも言える突然のアナウンスに、モモイちゃんが慌てたように叫ぶ。

 当初はアリスちゃん以外の声に何一つ反応しなかったクセに、モモイちゃんの焦りを見抜いてか新たな文字列がモニターに浮かび上がり、合成された機械音声が流れ出す。

 

 

『あなたが求めているのはG.Bibleですか?』

「YES! YES! YES!」

『G.Bible⋯⋯確認完了、コード:遊戯⋯⋯人間、理解、リファレンス、ライブラリ登録ナンバー193。廃棄対象データ第1号。残り時間35秒』

「オーマイゴッド!? 廃棄!? どうして!? それはゲーム開発者達の⋯⋯いや、この世界の宝物なのに!」

「緊急事態だからって大きく出たねお姉ちゃん」

「言ってる場合かぁーっ!?」

『G.Bibleが欲しいのであれば、提案します。データを転送するための保存媒体を本機に接続してください。私のメモリの中にG.Bibleのデータが存在しています。しかし、現在私は消失寸前。故に新しい保存媒体への移行を提案します』

「保存媒体って急に言われても⋯⋯あ、ゲームガールズアドバンスSPのメモリーカードでも大丈夫?」

『⋯⋯まぁ、可能では、あります』

 

 

 物凄い不満を滲ませた文字列に思わず噴き出しそうになる。

 随分と人間くさい言い回しを知ってるじゃない。

 

 

『転送開始⋯⋯保存領域が不足、既存データを削除します。残り9秒』

「え、嘘!? もしかして私のセーブデータ消してない!? ねぇ!?」

『容量が不足しているため、確保します』

「だ、ダメ! 待って! お願いだからセーブデータは残して! そこまで装備揃えるの凄く大変だっ」

『削除、完了』

「いやぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 モモイちゃんの慟哭が響く。

 茶番もここまで来ると一端の喜劇だね。

 まぁモモイちゃんにとってはこの上ない悲劇だったかもしれないけど。

 

 

「あぁ、あぁぁっ! 私の装備が、私のオプションパーツが! 私の七百時間がぁぁぁ!! んおぉぉぉっ! おっ、おぉぉぉぉぉ!! うっ、げほっ、おえっ、ぇっ、おぉぉぉぉ⋯⋯⋯⋯!」

 

 

 倒れ伏し涙と鼻水を撒き散らして泣き叫ぶモモイちゃん。

 ほら、鼻水ちーんして。

 うんうん、悔しかったね。

 今度一緒にレア掘り付き合うから、元気出して?

 モモイちゃんの好きなケーキも買ってきてあげるから、何がいい?

 果物いっぱい乗ったやつね、おっけー♡

 オゥオゥとアシカみたいに泣き声を上げるモモイちゃんを宥めていると、無事にデータの転送が終わったようだった。

 早速中身を確認するべく、ゲームガールズアドバンスSP本体にメモリーカードを差し込んでみるも、パスワードを要求されてしまった。

 取り敢えずここでは何も出来ないので、一先ず部室へと戻る事に。

 失意のモモイちゃんを抱き寄せながらの帰り道は、行きよりもちょっと長く感じたのでした。

 

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