もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら   作:一ノ瀬 崇

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十五話目

 最高のゲームを作る為に始まった今回の旅路。

 廃墟へ赴き、新たな仲間アリスちゃんを加えたゲーム開発部一行。

 これで廃部は免れたかと思いきや、部の来期存続の為には目に見える成果が必要だと知らされる。

 再度廃墟へと向かい、最高のゲームを作る為の指南書G.Bibleを手に入れる。

 だがG.Bibleには強固なパスワードが掛かっていた。

 その鍵を外す為には、セミナーが押収した鏡と呼ばれるツールが必要となる。

 かくしてゲーム開発部はヴェリタスとエンジニア部を仲間に加え、セミナーとの決戦に挑む。

 仲間を信じ、最後まで諦めず戦い抜き、遂に鏡を入手する事に成功した。

 もはやゲーム開発部の栄光は目前である。

 

 

「で、なんでこんなお通夜♡」

 

 

 ノアさんにコーヒーありがとうございましたとお礼を告げユウカさんに別れのハグをしてセミナーから戻ってくると、ゲーム開発部の部室内はどんよりじめじめしていた。

 モモイちゃんは壊れたように笑い、ミドリちゃんは絶望した様子で倒れ伏し、ユズちゃんは両膝を抱えて壁に向かって何やらぶつぶつ呟いている。

 唯一元気なのはアリスちゃんだ。

 といってもアリスちゃんはみんなの様子におろおろと戸惑っていた。

 

 

「あ、フミ! 助けてください、みんなおかしくなってしまいました!」

 

 

 私を見てぱっと明るい笑顔を向けて抱き着いてきた。

 受け止め抱き返し、優しく頭をなでこなでこ。

 一撫でする度に不安が溶けていくようだった。

 

 

「さっきはお疲れ様♡ いっぱい頑張っててカッコよかったよ♡ 流石は光の勇者さま♡」

「えへへ⋯⋯フミに褒められると、なんだかぽかぽか温かいです♪」

「落ち着いたかな?」

「はい♪ フミのハグはすごいです!」

「それで、みんなはなんで負けイベント後の一行みたいに絶望してるの?」

「それが⋯⋯G.Bibleを読んでからおかしくなってしまったんです」

 

 

 アリスちゃんが指差す先、ゲームガールズアドバンスSPの画面が点灯している。

 黒い背景に白い文字が浮かび上がり、そこには正しく最高のゲームを作る為の秘訣が書いてあった。

 

 

「ゲームを愛しなさい、か。良い事言うじゃない♡」

「はい! アリスもそう思います!」

「ま、他の三人はよく分からなかったみたいだけどね」

「フミ、どうしましょう? このままでは⋯⋯」

「大丈夫♡ 一人ずつバフを掛けていくから♡」

 

 

 アリスちゃんのおでこに軽く触れるちゅーをする。

 突然の事に呆けた様子で両手をおでこに当てていたアリスちゃんだったけど、少し顔を赤くしてもじもじし始めた。

 

 

「えへへ⋯⋯フミはなんだかずるいです。味方なのに勇者を魅了するなんて♪」

「ふふ、それは魅了のバッドステータスじゃなくて、昂揚ってバフなんだよ♡」

 

 

 ウインクしてアリスちゃんから離れ、まずはユズちゃんの元へ。

 ユズちゃんは変わらず壁の方を向いていたので、強引に身体を半回転させて私の方へ向き直らせた。

 いきなり視界が動いた事で意識が現実に戻って来る。

 すかさず、私はユズちゃんを抱き締めた。

 

 

「⋯⋯へぁ、フミちゃん⋯⋯?」

「ユズちゃん捕まえた♡ どしたの、そんなに可愛い顔しちゃって♡」

「フミちゃん⋯⋯私は⋯⋯もぅ⋯⋯」

「忘れたの、ユズちゃん? ここに居るみんなをよく見て♡ みんな、ユズちゃんの作ったゲームが好きで集まってる子ばかりだよ」

 

 

 その言葉に、ユズちゃんの顔が前を向いた。

 

 

「ユズちゃんには才能が有る。誰よりも深く、ゲームを愛する才能が」

「あ⋯⋯」

「うんうん、良い顔付きになった♡ カッコイイよ♡」

 

 

 ユズちゃんのおでこに唇を落とす。

 一瞬何をされたか分かっていなかったユズちゃんだったけど、次の瞬間にはおでこを両手で抑えて真っ赤になった。

 あら可愛い♡

 ダメ押しとばかりに人差し指でユズちゃんの唇をふにっと押し、次はミドリちゃんの元へ。

 絶望に打ちひしがれるミドリちゃんだったけど、まだ精神的ダメージはそこまで深くはなかった。

 

 

「みーどーりーちゃんっ♡」

「フミさん⋯⋯」

「私ね、テイルズサガクロニクルの装備欄眺めるの好きなんだ」

 

 

 二人との会話と違った切り口に、ミドリちゃんは意表を突かれたようだった。

 

 

「重要なクエストアイテムとか、特別なイベントをクリアしたらもらえる装備品のアイコン、他の普通のアイテムアイコンとは別に作ってたでしょ? 最初は店売りの同じアイコンが並んでた装備欄が、ちょっとずつ特別なアイコンに置き換わっていくの、すごいわくわくしたんだ」

「⋯⋯うん、こだわってドット打ちました」

「冒険の途中で挟まれるスチルも、印象的な瞬間を上手く捉えていて、自分がそこで冒険してる感覚になった。あれ最初CGで描いてドットに直したんでしょ? 一手間かかってて違和感なくゲームの世界を表現してたよ♡」

 

 

 身体を抱き起こすように優しくハグをする。

 背中をぽんぽんと優しく叩くとミドリちゃんも手を回して抱き着いてくれた。

 

 

「このゲーム開発部で作る最高のゲームには、最高のイラストが必要になる。そして、それを表現出来るのはミドリちゃん以外考えられないよ」

「フミさん⋯⋯♪」

「うん、ミドリちゃんは笑ってる顔の方がずっと美人さんだよ♡ とってもステキ♡」

 

 

 前髪を手のひらで押し上げ、額にキスをする。

 ひゃぁっ、と小さく声を上げて顔を赤くしたミドリちゃん。

 イタズラな笑みを向けて、私はモモイちゃんの元へ。

 笑い疲れたのか、今は電池が切れたように俯いている。

 

 

「モモイちゃんには厳しい事を言おうかな?」

「えっ」

 

 

 これまでの話の流れから自分も優しく慰めてもらえると思っていたモモイちゃんが驚きの声を上げる。

 まぁ、そんな反応が出来るならもうほとんど立ち直ってるようなものだからね。

 

 

「どんなに戦闘が楽しくても、どんなにわくわくする洞窟探検でも、それ単体だとただのミニゲーム集なんだよ。それらを一つの物語に纏めて、人を別の世界へと案内するのがシナリオライターの役目。どれだけステキな素材が集まっていても、料理人が下手っぴだと出来上がる料理はめちゃくちゃに批判されちゃう」

「うっ⋯⋯」

「でも私は知ってる。所々あやしい表現は有っても、テイルズサガクロニクルで私は間違いなく、あの世界に引き込まれ冒険を楽しんだ。それだけの素質を、モモイちゃんは持っている。なにより、ゲーム、好きでしょ♡」

 

 

 モモイちゃんのおでこにも唇を寄せて⋯⋯顎先を指で持ち上げ、鼻先にキスをする。

 

 

「えっ」

「ひゃっ」

「あっ!」

「ずるい!」

 

 

 どれが誰の声かは言わないでおこう。

 てかずるいってどゆこと♡

 ともあれ三人ともメンタルは持ち直した。

 ここからは勇者に仲間を鼓舞してもらおう。

 アリスちゃんの元へ戻り、想いを伝えるように耳打ちする。

 最初のどこか不安げな様子はもうない。

 ゆっくりと、アリスちゃんは口を開いた。

 

 

「アリスは『テイルズサガクロニクル』をやる度に思います。あのゲームは、面白いです」

 

 

 訥々と、その胸の内に秘めていた炎を。

 

 

「感じられるのです。モモイが、ミドリが、ユズが⋯⋯このゲームをどれだけ愛しているのかを。その沢山の想いが込められたあの世界で旅をすると⋯⋯胸が、高鳴ります。仲間と一緒に新しい世界を旅する、あの感覚は⋯⋯夢を見るというのが、どういう事なのか。その感覚をアリスに教えてくれました」

 

 

 その炎は強く熱を帯び、周囲へと広がっていく。

 

 

「だから、待望のエンディングに近付くほどに、思ってしまうのです。この夢が、覚めなければいいのに⋯⋯と」

 

 

 そして炎は今、三人の胸にも宿った。

 

 

「アリスは、そう思うのです」

「⋯⋯⋯⋯作ろう」

 

 

 最初に拳を突き上げたのはユズちゃん。

 彼女が最初に作ったプロトタイプのテイルズサガクロニクルはネットで酷評された。

 それこそロッカーに引きこもってしまうほど、それらの言葉はユズちゃんの心を傷付けた。

 それでも、そのゲームを面白いと言ってモモイちゃんとミドリちゃんが仲間になり、三人で作り上げたテイルズサガクロニクルが、今度はアリスちゃんを引き入れた。

 

 

「私には夢がある。私達が作ったゲームをプレイした人達に、面白かった、楽しかった、って喜んでもらう事。これ以上は、欲張りかもだけど。叶うなら、わたしはこの夢が⋯⋯この先も、終わらないでほしい」

 

 

 ユズちゃんの熱い想い。

 それはモモイちゃんとミドリちゃんにも、しっかり届いていた。

 

 

「ねぇ、今からミレニアムプライスまでどれくらい時間残ってる?」

「6日と4時間38分です」

「よし、それだけあれば充分!」

 

 

 さっきまでの沈んだ空気が嘘のよう。

 熱意を漲らせて、モモイちゃんとミドリちゃんは天高く拳を突き上げた。

 それを見て、アリスちゃんが満面の笑みを浮かべる。

 拳を剣に見立て、仲間たちと平和を誓った勇者パーティーの如く。

 アリスちゃんが右手の拳を突き上げ、四人の心が一つになった。

 

 

「作ろう! 私達ゲーム開発部の最高傑作『テイルズサガクロニクル2』を!」

「「「おぉーっ!!!」」」

 

 

 

 

 そこからは目の回るような忙しさで時間が過ぎていった。

 セミナーとの折衝を終えた先生と共に、四人の身の回りの世話をしつつ、機を見てシャーレの仕事もこなしつつ、時には素人の目線からアイデアを出し、出来上がった所までのテストプレイでバグを洗い出す。

 そうしてみんなの力を合わせて作り上げた作品、テイルズサガクロニクル2は⋯⋯無事、ミレニアムプライスに提出された。

 後は結果を待つばかり。

 一先ずの決着を経て、私と先生はシャーレへと帰還した。

 

 

「なんだかんだ、今回の出張も大仕事でしたね」

 “フミが居てくれて、本当に助かったよ”

「私も、せんせーが居たから頑張れたんですよ♡」

 

 

 私達以外には誰も居ない、最終電車。

 がらんとした電車内で、私達は左右二列二人掛けの席に並んで座っていた。

 各駅停車でゆっくりと景色が流れていく。

 止まる駅のホームにも、人の姿は一つもない。

 まるで、私と先生だけの世界に迷い込んだみたいに。

 

 

「せんせ♡」

 “なんだい?”

「そっち行っても良いですか?」

 “⋯⋯良いよ、おいで、フミ”

「にしし♡ 失礼しまーす♡」

 

 

 右奥の座席に座る先生の膝上にお邪魔する。

 すぐに先生は両手をお腹に回して優しく抱き寄せてくれた。

 

 

「せんせー、重くない?」

 “大丈夫。幸せの重みを感じるよ”

「もう、せんせーったら♡」

 

 

 おへその上に重ねられた手のひらから、先生の体温が伝わってくる。

 じんわりと身体の芯から温まっていく感覚に、嬉しさがじわじわと込み上がってきた。

 先生の手に自分の手を重ねる。

 とても幸せな時間。

 

 

「どうしようせんせー、私もうせんせーの居ない生活に耐えられないかも♡」

 “それなら、ずっと一緒に居れば良いよ”

「にしし♡ 前にウタハさんに勧誘された時から、せんせーちょっと変わりました?」

 “うん。自分でもよく分かっていないんだけど⋯⋯”

 

 

 先生はそこで言葉を区切り、私を少し強く抱き締めて頭に顔を埋めた。

 すぅー、と頭の匂いを吸われている。

 やん、恥ずかしい♡

 

 

 “──なんかね、フミが離れていくって思ったら心の中でイヤだって声が生まれたんだ”

「⋯⋯ふーん♡」

 “気付けば、両手でバッテンを作ってた。⋯⋯本来なら生徒には平等に、公平に接しないといけないのに。先生として恥ずかしい態度だったと反省したよ”

「にしし♡ 聴いても良いですか、せんせ♡」

 “なにかな?”

「先生って立場じゃない、先生自身はどんな風に感じたんですか?」

 

 

 また一段と、先生の方に抱き寄せられる。

 もう、お互いの間に隙間は無かった。

 

 

 “ナイショ”

「えー♡ 教えてくださいよぉ♡」

 “まだダメだよ。フミが生徒であるうちはね”

「っ♡」

 

 

 先生ずるい♡

 それ、もうほとんど答え言ってるようなものじゃないですか♡

 背中越しに自分の鼓動が聞こえてしまわないか心配になるくらい、私の胸は高鳴っていた。

 

 

「せんせー♡」

 “うん”

「好き♡ 好きです♡ 大好き♡」

 “ありがと、フミ”

「いいえ♡ まだ全然足りません♡ もっともっと、私の気持ちを知ってください♡」

 “なら、ずっと私の傍で教えてほしいな”

「はい♡ 卒業しても♡ ずっと好きです♡ 生まれ変わっても、せんせーを探して好きって伝えます♡」

 “生まれ変わったら⋯⋯その時はごめんね。きっとその時は先生じゃないかもしれない。そうしたら⋯⋯優しく出来ないと思う。乱暴に、自分勝手に、フミを攫ってしまう”

「良いんです♡ 全部あげます♡ 私の全部、せんせーにあげます♡」

 “ふふっ、それなら私もフミに全部あげないとね”

「⋯⋯やだ♡ 幸せすぎておかしくなっちゃう♡」

 “我慢してね。きっと、もっと幸せにしちゃうから”

 

 

 もう、私はダメになってる。

 さっきから口元はだらしなく歪んだまま戻らない。

 確かに、今の私は先生に纏わりつく淫婦そのままだ。

 先生の矜持を守る為に我慢しているだけで、叶うのなら今すぐにでも先生と交わりたい。

 胎の奥に先生の証を注ぎ込まれたい。

 心ゆくまで私の身体を使い潰してほしい。

 私が失神しても構わず快楽を得る道具として扱ってほしい。

 こんな私が、どの面下げて貞淑だと言い張れるのか。

 私の本質を見抜いて《淫婦》だなんて二つ名を付けた親友がなんとも憎たらしい。

 

 

「せんせ、その⋯⋯♡」

 “うん?”

「誰も居ないし、今なら、こっそり⋯⋯♡」

 “ダメだよ、フミ。おあずけ”

「そんなぁ♡」

 

 

 イタズラが成功したように笑う先生。

 善人で生徒の事を第一に考える優しい人だけど──とても悪い人♡

 このまま一緒にどこまでも溺れていきたい、そんな魅力を持った、深い海のように大きな人。

 

 

 “そろそろ到着するね”

「せんせ♡」

 “フミ?”

「あはは⋯⋯腰が抜けちゃいました♡」

 “⋯⋯可愛すぎるのは罪だよ、私のフミ”

「ひゃうっ⋯⋯♡ もう、言葉だけでおかしくなっちゃうクセが付いたらどうするんですか♡」

 “卒業してからの愉しみ方が増えるかなぁ⋯⋯”

「きちくぅ♡ でも好き♡ いっぱい開発して♡」

 “私の性癖は割とフミに破壊され尽くしてるんだけどね”

 

 

 駅に着いても動けず、シャーレまでお姫様抱っこで連れてってもらった。

 眠そうに店番をしていたソラちゃんがものすごい目でこっちを見ていたから、今度フォローしないと。

 仮眠室の私のベッドに下ろしてもらって、しばらくぽやっとしてからシャワーを浴びて寝た。

 寝ないと心が幸せで破裂しそうだった。

 

 

 

 

 それからさらに数日。

 今日はいよいよミレニアムプライスが開催される。

 会場は大盛況のようだけど、ユズちゃんを始めインドアオンリーな彼女達が出かけるはずもなく、恐らく部室で発表の瞬間を心待ちにしているのだろう。

 私と先生は大荷物を抱えながらミレニアムの部室棟を目指して歩いていた。

 

 

「この道もすっかり歩き馴染みましたね」

 “短い間にイベントが押し寄せてきたよね”

「もうてんやわんやでしたねぇ」

 “フミはどっちかっていうと、それを眺めてる側じゃ?”

「だってみんな、待ってって言っても止まらないんですもん」

 

 

 拗ねたようにつーんと唇を尖らせる。

 先生は笑いながら、私の唇に人差し指を乗せた。

 

 

「んっ」

 “フミ、ダメだよ。そんな可愛い顔をしたら”

「⋯⋯にしし♡ はぁい♡」

 “あぁ、ごめん。フミがどんな顔でも可愛いのを忘れてた”

「もー♡ もぉー♡」

 

 

 荷物を揺らさないようにしながら、ぺしぺしと先生を叩く。

 先生は楽しそうに声を上げて逃げ出した。

 追いかけ捕まえ、もっかいぺしぺし。

 先生は悪い人だよ、もう♡

 

 

「こないだから先生強くなってないです?」

 “二人っきりの時は、ちょっと甘えようかなって”

「⋯⋯くぅ、これが惚れた弱み⋯⋯♡」

 “フミって攻撃力極振りだから防御力スカスカだよね”

「はースカスカじゃないですー先生がカッコよくてステキで優しくて最高なだけですー♡」

 “ありがとう、フミ”

「むー♡ むー♡」

 “あはは、フミがむーむー星人になっちゃったね”

 

 

 くそぅ、先生めテンションアゲアゲになってぇ。

 付き合いたてのカップルか!

 ともあれ部室棟に到着し、ドアをノックする。

 

 

「みんなー♡ きた⋯⋯よ?」

 

 

 なんでか空気感がおかしい。

 ボコボコに破壊されたモニター、半泣きで抱き合っている四人。

 え、なにこれミステリー?

 困惑を深めるように、背後からユウカさんもやってきた。

 

 

「モモイ! ミドリ! アリスちゃん! ユズ!」

「ひいっ! もうユウカが!」

「ちょ、ちょっと待って! 荷造りなんて、そんな直ぐに⋯⋯!」

「鬼! 悪魔! 冷酷な算術使い! セミナーに人の心は無いわけ!?」

「おめでとうっ! やったわね!」

「⋯⋯んー?」

 “迷宮入りしそう”

 

 

 何一つ噛み合わない状況。

 全員が何かおかしくないかと一度立ち止まり、ぽかんとした顔を浮かべる。

 最初に立ち直ったのはユウカさんだった。

 破壊されたモニターを見て溜息を吐いて、持っていたタブレットを見せてくれた。

 ミレニアムプライスの審査員が、受賞作品について述べている。

 一位から七位まではこれまで通り未来を感じさせる実用性を兼ねた新しい発想の技術作品を対象に。

 そして今回、新たに追加された枠がある。

 実用性ではなく、過去と未来を繋ぎ、さらなる展望を期待させる作品へと贈られる特別賞。

 それに、テイルズサガクロニクル2が選ばれた。

 そのお祝いに駆け付けたのだけど、モモイちゃんは一位までに入っていなかった事に絶望しモニターを破壊。

 ゲーム開発部は解散となる為、みんなと離れ離れになってしまうと悲しんでいた所に私達が来た、という事だった。

 

 

「なんだか今回、最初から最後までモモイちゃんに振り回された気がするなぁ♡」

 “モモイがくれた手紙から始まったもんね”

「はぁ、全く⋯⋯そのモニターの修理代は自腹で払いなさいよ」

「そ、そんなぁ!?」

「当たり前でしょ! 銃を乱射して物を破壊しないの!」

「それはそう♡」

 

 

 他の部活に警告と通告があるから、とユウカさんは去っていった。

 バイバイ、と手を振ると満面の笑みで手を振り返してくれた。

 やだユウカさん好き♡

 ともあれ、遂にクエストクリアである。

 となればやる事はもちろん一つ。

 ヴェリタスの三人とエンジニア部の三人を連れてちょっと広めの会議室を借りていざ──打ち上げだ!

 

 

「かんぱーい!!」

 

 

 モモイちゃんの音頭に合わせてみんなでコーラを飲む。

 エンジニア部のオーブンレンジで熱々に温めたピザを広げるとみんなから歓声が上がった。

 

 

「わぉ、待ってました!」

「しかも具材が全部違うクワトロ⋯⋯!?」

「すごいです!」

「フミちゃんのお手製なんだって⋯⋯♪」

 

 

 まずはモモイちゃんリクエストのピザからだ。

 時間も有ったので具材を揃えて自分でやってみた。

 注文するとどうしても一箇所だけ味が被っちゃってたから、どうせなら自分でやっちゃおうと。

 下準備だけやって、エンジニア部のオーブンレンジで仕上げをしたので出来立てほやほや。

 アチアチなので特にチーズには要注意だ。

 

 

「ぐわー!?」

「お姉ちゃん!?」

 

 

 言ってる傍からモモイちゃんがやられた。

 伸び切ったチーズが反動で鼻の頭にぺちんってくっついてるね。

 

 

「こっちのサンドイッチも具沢山で美味しいね」

「あ、私このハム盛りだくさんの好きかも」

 “あ、それ私が作ったやつだね”

「先生お手製ですか! 生地に対してハムが三倍近く⋯⋯これは実にわんぱくです!」

 

 

 ウタハさん、ヒビキちゃん、コトリちゃんが手に取ったサンドイッチは先生が作ったものだ。

 せっかくだし具材で溢れそうなサンドイッチを作ろう、って言ってコンビニで売ってるやつの三倍以上の分厚いサンドイッチを作ってた。

 厚さがハンバーガーみたいになってるのは気にしない!

 

 

「ケーキもホールで四種類も!」

「これは贅沢だねぇ⋯⋯もぐもぐ」

「こっちのミニケーキも色々ありますね」

 

 

 ヴェリタスのみんながつついてるケーキはいつもお世話になってるお店に予約を入れて作ってもらった。

 ホールはイチゴショート、生チョコショート、フルーツタルト、レアチーズケーキ。

 ミニケーキはモンブランや桃のケーキ、バナナムースなどバラエティ色豊かなラインナップをお届け。

 後は学生らしく山盛りポテトフライやチキンナゲットも用意してある。

 余ったらエンジニア部の『未来直行エクスプレス』に入れておけば大丈夫。

 

 

「フミちゃん、ピザ美味しいよ⋯⋯♪」

 

 

 笑顔のユズちゃんがペパロニピザを片手にやってきた。

 辛味は抑えてあるので食べやすくなっている。

 

 

「喜んでもらえてなにより♡」

「本当に、フミちゃんにはお世話になりっぱなしだったから⋯⋯」

「ううん、一番の功労者はユズちゃんだよ。ユズちゃんが諦めずにゲームを作り上げたからこそ、みんなここに集まる未来を掴み取れたんだもん♡」

「えへへ⋯⋯♪」

「あっ! ユズがフミとラブラブしてます! ずるいですユズ! フミ、私ともラブラブしてください!」

「はわっ、アリスちゃん⋯⋯!?」

「おっとっと♡」

 

 

 アリスちゃんが突撃してきたのを優しく受け止める。

 見れば今日も私と同じ髪型にしてある。

 

 

「髪の毛、自分で結んだの?」

「はい! これでフミとはいつでもお揃いです!」

「そっかー♡ 可愛いやつめ♡ うにうに♡」

「きゃー♪」

 

 

 アリスちゃんのほっぺたに私のほっぺたを合わせてうにうに頬ずりすると可愛らしい悲鳴が上がる。

 すると服の裾をくいっと引かれる感覚。

 見ると急いで結ったのか少し髪の毛がほつれていたけど、私と同じ髪型にしたユズちゃんがじーっと私を見ていた。

 

 

「なんだもうユズちゃんってば♡ おねだりが上手くなってー♡」

「ひゃわわわ⋯⋯♪」

 

 

 同じように抱き締めてほっぺたを合わせると、控えめに嬉しそうな悲鳴を上げる。

 これ間にユウカさん挟んだら一撃必殺になるな⋯⋯。

 しかし問題はここから。

 ユズちゃんを構えばアリスちゃんがむーっとなり、アリスちゃんを構えばユズちゃんがじーっと見てくる。

 やだ、私モテモテじゃん♡

 

 

「ふむ、あれは良いのかい先生」

 “まぁ、甘えてるだけだしね。ウタハのは本気でエンジニア部に行ったまま帰って来なさそうだから”

「別に無理やり引き留めるつもりは無いよ?」

 “だからだよ。私だって先生じゃなかったら一日と言わずずっと入り浸るだろうからね。そんな魅力的な場所にフミを置いたらシャーレに戻ってくるのは一カ月に何回あるか”

「なるほど、評価の裏返しだったか」

 “ただでさえウタハみたいなカッコよくて可愛くてステキな先輩がいるんだ、フミを取られそうって危機感も湧くさ”

「⋯⋯その、それは天然でやってるのかい?」

 “え?”

「なるほど、先生は女誑しだね」

 “なんで!?”

 

 

 向こうは向こうで楽しそうな話をしている。

 もっと言ってやってウタハさん♡

 

 

「フミ!」

「フミちゃん⋯⋯!」

「もーっ、二人とも可愛すぎ♡」

 

 

 新しく出来た妹分を纏めて抱き締める。

 波乱万丈なクエストだったけど、丸く収まってなにより♡

 アレもしばらくは大人しくしてるだろうし、その間に色々やっておきますかね、っと♡

 

 

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