もしもシャーレにヒモを養う適性の有る娘が応募してきたら   作:一ノ瀬 崇

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トリニティ編Vol.1
十六話目


 朝九時を迎え、今日もチャイムが鳴る。

 しかし、執務室の扉は開かない。

 また執務室の中にも動くものは居らず、ただ朝の日差しがゆるゆると無人のデスクを照らすだけである。

 チャイムが鳴り終わると再び静寂が室内に広がる。

 部屋の主は未だ現れず、空虚な空間がただそこに在った────。

 

 

 

 

「今日は出張でーす♡」

 “フミが居なかったら危うくそのままシャーレに出勤してたよ”

「せっかく電車の指定席買ったんだからアラームとかスケジュール表とか活用して♡」

 “フミが居てくれるから良いかなって”

「にしし、もっと私に頼っても良いのよ、せーんせ♡」

 

 

 一緒に歩きたくてD.U.地区にある先生の自宅前まで朝早くから迎えに行ったら、電車でトリニティへ向かう予定だったのをすっかり忘れてシャーレビルへ行こうとしていた先生が玄関の扉を開けてくれた。

 昨日言ったのに♡

 今日は朝から直接トリニティにいきますよーって。

 

 

「もう、せんせーったら♡」

 “ホントありがとね、フミ”

「どういたしまして♡ それじゃ早速朝ご飯に駅弁食べましょ♡」

 

 

 慌てて支度をする先生を手伝い駅まで手を繋いで歩き、前から気になってた駅弁屋さんで朝ご飯を買い、今は指定席に並んで座ってゆったり揺られていた。

 手提げ袋からお弁当を取り出し先生に渡す。

 

 

「はい、せんせ♡ 珍しく朝からガッツリ♡」

 “ありがとう。炭火焼き牛肉たたき弁当って名前に魅了されちゃってねぇ。フミは⋯⋯うん、いっぱい食べて大きくなるんだよ”

「せんせーが大きくするの♡ やくめでしょ♡」

 “役目だったかぁ”

「あと勘の影響で燃費悪くて♡」

 “未だにその小さな身体のどこに入るのか謎だよ”

「それは私も知らない♡」

 

 

 先生に言っておいてアレだけど、私のお弁当のラインナップもなかなか濃い。

 まず取り出したのは豚バラ炒め弁当。

 敷いたご飯の上に豚バラを甘辛いタレで炒めて乗せ、なんとさらにご飯と海苔を敷いて炒めたタマネギと追加の豚バラを乗せた二段弁当である。

 お好みで付ける辛子が良いアクセントになっていて箸が進む。

 他のおかずは無い堂々たるお弁当だ。

 次に取り出したのはダブル親子弁当。

 敷かれたご飯の上に、ほぐした鮭とイクラが贅沢に乗せられて綺麗なツートンカラーを描いている。

 こちらはおかずとして玉子焼きと鶏肉のチーズ焼きが添えられており、まさしくダブル親子で食欲を掻き立てる。

 そして最後に取り出したのは牛牛弁当。

 その名の通り焼いた牛カルビと牛ロースがもうぎゅーぎゅーに敷き詰められたお弁当である。

 これ一つで前のお弁当二つ合わせたより重いのが素敵。

 炭火の香りも絶妙で満足感の高いお弁当だ。

 

 

「ごちそうさまでした♡」

 “はやぁい!”

「箸が止まらなくて♡」

 “でも食べ方は綺麗だし味わって食べてるのも分かるし、何より一口食べるごとに幸せそうな顔をしてたからね。思わず写真に収めたくなったよ”

「やぁん♡ 恥ずかしい♡」

 “可愛かったから大丈夫!”

「ならヨシ♡」

 

 

 お腹も膨れて満足!

 食べ終わったお弁当の空は分別して袋に入れ、後で駅のゴミ箱へ捨てる。

 一緒に買ったペットボトルの緑茶を飲んで一息ぷふー。

 そのまま肘置きに置かれた先生の手をにぎにぎ♡

 

 

「なるほど、あの子が噂の⋯⋯」

「先生とだいぶ仲良しなんだね⋯⋯」

 

 

 電車がトリニティに近付くに連れてだんだんと乗客も増えてきた。

 時折埋まった座席のどこかからひそひそとと声が届く。

 

 

「でも仲の良い二人って感じで⋯⋯」

「淫婦ってほどすごくえっちな感じはしない気も⋯⋯?」

「そこはかとなくはえっちだよね」

「なんか不思議な色気があるって言うか⋯⋯」

 

 

 よし、会ったら振り回してやる。

 年貢の納め時だぞヒフミン♡

 そう言えば先生は私の噂されている二つ名を知っているのだろうか。

 気になって聞いてみると、先生は知らなかったみたいだけど神妙に頷いた。

 

 

 “納得感しかない”

「異議あり♡」

 “異議を認めます”

「私はせんせー専用です♡」

 “でもこないだハルカとちゅーしてたってアルが相談に来てたよ。応援したいけど初めての事だから間違えた対応をしてハルカを傷付けたくない、って。良い子だよねぇ”

「良い人なのは間違いないですよね♡ あとはーちゃんは私と先生のお嫁さん枠だからせふせふ♡」

 “あ、やっぱりシャーレ後宮計画ってホントなんだ”

「遠い目しないで♡ もっと私を見て♡」

 “⋯⋯相手の了承はちゃんと得るんだよ”

「はぁい♡」

 “というか私はフミだけでも良いんだけど⋯⋯”

「んっ♡ ダメっ♡ ちょっと幸せが溢れた♡ 言葉責め禁止♡」

 “本心だよ”

「余計ダメなの♡ 幸せになっちゃうから♡ ともかく、私一人だと身体が保たないんです♡」

 “え、どういう⋯⋯?”

 

 

 疑問を口にする先生に分かりやすく説明しよう。

 背筋を伸ばして先生に顔を向ける。

 今日もカッコイイ♡

 違う♡

 説明するの♡

 こほんこほん、と咳払いしてから口を開く。

 

 

「例えばなんですけど⋯⋯せんせーと結婚して、致します」

 “はい”

「すごく良い訳です」

 “ありがとうございます”

「多分、せんせーが一回幸せになるまでに、私は五回から八回ほど幸せになります」

 “ステキですね”

「ですがせんせーが二回目の幸せを迎えるまでには、私は恐らく三十を超えて幸せになっているでしょう」

 “スゴいですね”

「そうなるとせんせーを幸せにしたくても体力が尽きてへろへろな訳です」

 “その状態のフミで幸せになっても良いですか”

「ぜひいっぱいお使いください。ですが、そうなると次の日私はもうがくがくで日常生活すら危うくなります」

 “一大事ですね”

「ですが結婚まで焦らされ続けてきたせんせーですから、当然次の日もお元気な訳です」

 “わかります”

「その時の私はがくがくです。精一杯のご奉仕もへこへこ情けなく動くだけで幸せいっぱいになってしまうでしょう」

 “その状態のフミをたくさん幸せにするとどうなりますか?”

「気絶します。幸せでいっぱいですね」

 “とても可愛いと思います”

「ありがとうございます。ですがそうなると、さらに次の日のお相手が出来ません」

 “なぜですか”

「幸せが大きすぎて、しばらくあへあへしているお人形になるからです」

 “とても可愛らしいお人形ですね。いっぱい幸せにしても良いですか”

「はい、お気の済むまで幸せにしてあげてください。しかし次の日が問題です」

 “聞きましょう”

「ここまで来ると幸せに溺れたお人形は動く事が出来ません。ご飯やお風呂に行く事さえ出来ません。出来るのはせんせーに幸せを注ぎ込まれて幸せになる事だけです」

 “とても可愛いですね。いっぱい幸せを注ぎます”

「ありがとうございます」

 “ですが、そうなるともう日常生活は送れませんね”

「はい。せんせーのお弁当もありません」

 “困りました”

「それを解決してくれるのが他のお嫁さんです」

 “おお”

「せんせーの幸せもせんせーのお弁当も、他のお嫁さんが居れば大丈夫な訳です」

 “よく分かりました”

「それは良かった」

 

 

 という訳です。

 てか先生、気絶して無防備な私を何回幸せにするの♡

 最初から無抵抗だけどさ♡

 でもこんなんされたら絶対私の卵が大きくなっちゃう♡

 産婦人科探しておこっと♡

 でもその前に先生の幸せでお腹ぽっこり膨れちゃいそう♡

 たぷたぷこぽこぽ、幸せいっぱい♡

 先生の指に私の指を絡めてすりすりしていると、また座席のどこかからひそひそと声が聴こえてきた。

 

 

「なるほど淫婦⋯⋯」

「先生にそこまでされちゃうなんて⋯⋯」

「⋯⋯いいなぁ」

「聴いてるだけでドキドキしてきた⋯⋯」

 

 

 異議あり♡

 納得しないで♡

 

 

 “納得感しかない”

「半分はせんせーのせいでしょ♡」

 “そうだね、私の精だね”

「ちがーう♡ もー♡ もー♡」

 “可愛い牛さんになっちゃった”

 

 

 みるく出るようになるまで先生の大人みるく注いでもらうから覚悟するよーに♡

 そんな風にイチャイチャしていると、あっという間にトリニティの駅に着いた。

 ゴミを捨てて案内板を確認し、トリニティの校舎を目指して歩き出す。

 流石にここからは普通に歩くかなーとか思っていたら、自然な動きで先生が私の手を取ってくれた。

 もう指を絡めるところまで無意識らしい。

 やーん♡

 先生好き♡

 仲良く手を恋人繋ぎにして歩いているので、ちょいちょい他の生徒が視線を向けてくる。

 

 

 “やっぱりシャーレのコートって目立つのかな?”

「目立ってるのは間違いないですよ♡」

 

 

 注目してるところはそこじゃないけど♡

 トリニティ総合学園の入口で警備の人に先生からお手紙を渡してもらう。

 今回の出張の理由である、トリニティ生徒会ティーパーティーからの招待状だ。

 確認してもらい案内の人が来るまでちょっと待機。

 流石に手は離した。

 繋いでいた手の温もりが風に溶けていく。

 お嬢様学校と言われる通り、トリニティ総合学園は煌びやかでどこか俗世から切り離されたような、ミレニアムとは違ったお金の掛け方をしてる学校だ。

 通っている生徒の特徴として鳥系の翼を有する人が多い。

 ミレニアムやワイルドハントではあまり見ない特徴だからついつい羽の動きを目で追ってしまう。

 全員が名家のお嬢様って訳では無いだろうけど、それなりに家庭の財政が安定している生徒が多そうだ。

 

 

「お待たせしました。これより私がティーパーティー来客室まで御案内させて頂きます」

 

 

 優雅なカーテシーを披露してくれたティーパーティー所属の生徒さんに連れられて、学園内をぽてぽて歩く。

 道中の会話は先生に任せ、私は周囲の様子に目を向けていた。

 やはりと言うか、先生に注目する人は多い。

 シャーレの名声とともに先生への興味も少しずつ集まってきている。

 今回の依頼で知名度はさらに上がるだろうけど、なんだろうね、このきな臭い感じ♡

 結構な距離を歩いて案内されたのは、学園内を見渡せるテラス席がある部屋。

 警備の生徒を除けば、そこで二人の生徒が私達の到着を待っていた。

 その内の一人、薄い茶髪の生徒がカーテシーで迎えてくれる。

 

 

「初めまして、ティーパーティーのホストを勤めさせて頂いております、桐藤ナギサです。こちらは同じくティーパーティーのメンバーである聖園ミカさんです」

 

 

 その声に合わせ、桃色の髪の生徒がぺこっと頭を下げる。

 それからこちらに微笑み、小さく手を振って挨拶した。

 ナギサさんが礼節を重んじるタイプで、ミカさんは親しみを持って接するタイプらしい。

 ティーパーティーのメンバーという事は、それぞれが三大派閥のリーダーなのだろう。

 でも、そうなるともう一人、ここに居ないとおかしい。

 先生も同じ疑問を持ったみたいだけど、それを問うより早くナギサさんが説明した。

 

 

「本来であればもう一人、百合園セイアさんという方がティーパーティーのホストを勤めていたのですが⋯⋯現在彼女は入院中でして。私が代理としてホストを勤めています」

 

 

 なるほど入院中。

 そうナギサさんが告げた瞬間、わずかにミカさんの顔に影が差した。

 あの色は悔恨、かな?

 すぐに表情を戻してにこやかに微笑んでいるけど、果たして今のは演技か素か。

 ⋯⋯今回も面倒くさい事になりそう♡

 こちらも挨拶を終えると着席を促され、紅茶でおもてなしをされる。

 ティーパーティーの名の通り、まずは紅茶を楽しんでもらおうという心遣い。

 ポットから注がれた瞬間立ち上る香り。

 これまで飲んでいたものが本当に同じ紅茶という分類なのか疑わしくなるほど、すごく良い香りがしている。

 お礼を言って一口含めば、口いっぱいに広がる茶葉の芳醇な香り。

 掛け値無しに美味しい。

 美味しさを最大限に引き出す為に入れられた砂糖の量も絶妙で、普段無糖派な私もアリだと思うくらい甘さと香りのバランスがちょうど良い。

 私と先生の反応を見て柔らかく微笑むナギサさん。

 いやぁ、この紅茶を飲めただけで来た甲斐が有ったかも♡

 

 

「では本題に入りますが」

「えー、せっかくの機会なんだしもうちょっとお話を楽しもうよ? アイスブレイクとか要らないの?」

 

 

 場を進めようとしたナギサさん。

 その目論見は何故か隣にいたミカさんが防いだ。

 なにごと♡

 

 

「ミカさん?」

「今話題のシャーレの先生が来てくれたんだしさ、小粋な雑談とかないの? いきなり仕事の話から始めるなんてティーパーティーの名折れじゃない? 基本的に社交界としての役割を担う場なんだし」

「ミカさん、そういうのは貴女がホストの時にお願いしますね? 今は私がホストですので、私の方法で進ませて頂きたいのですが」

 

 

 突如やんややんやと始まる言い争い⋯⋯いや、じゃれ合いに近いかな?

 言葉の端々に滲む気安さと信頼感からして、この二人は私生活でも友人として良い付き合いをしているらしい。

 情報収集にちょうど良いので敢えて言葉は挟まず、先生と二人の会話を見守る事にした。

 あ、幼馴染なんだ。

 道理で仲良し。

 ついでにお茶請けのロールケーキも頂きます。

 どれどれ⋯⋯うまっ♡

 え、なにこれ美味しい♡

 あまりの美味しさにびっくりして先生にも勧めてみると、先生も一口食べた瞬間に目をキラキラさせた。

 すごい美味しいよねー、どこのお店のだろ?

 ぜひとも帰りに買っていきたい。

 

 

「その小さなお口に、ロールケーキぶち込みますよっ!?」

 

 

 遂にキレた────!

 しかしナギサさんが指差したお皿の上のロールケーキは半分ほど減っていた。

 あ、美味しく頂いてます♡

 これどこのお店のですか?

 え、ナギサさんの手作りなんですか、すごーい♡

 こんなに美味しいロールケーキ初めて食べました♡

 先生と二人で買って帰りたいねーって話してたくらいで、え、お土産に包んで頂けるんですかやったー♡

 ナギサさんって綺麗でステキで物語に出てくるお嬢様そのままなのに、さらにお菓子作りまで出来ちゃうなんてすごすぎますよー♡

 ねー、先生♡

 

 

「うふふ⋯⋯そこまで喜んで頂けると、少し気恥ずかしいですね⋯⋯♪」

 

 

 少し頬を赤く染めて恥ずかしがるナギサさん。

 恥ずかしがる所作までお上品ですわよ。

 

 

「直前までロールケーキブチ込まれそうだったんだけど」

「それはミカさんが悪いので」

 

 

 ぶーぶー、と文句を言っていたけどナギサさんに一睨みされてミカさんも大人しくなった。

 なんだかんだ肩の力も抜け出し、お待ちかねの本題を聴く事にしよう。

 ふむふむ⋯⋯へむへむ⋯⋯ほむほむ♡

 なるへそ裏切り者ねぇ。

 さらなる情報を掴むか隔離する事で別の場所で動きがあるかを見る、と。

 うーん、きな臭い♡

 トリニティとゲヘナ間で結ばれる予定のエデン条約もそうだけど、裏切り者の目的がなんかふわふわしてる気がする。

 まぁ情報はまだ出揃って無いだろうし、今判断を下す事は出来ないかな。

 

 

 “裏切り者云々は置いといて、補習授業部の顧問は引き受けても良いと思ってるよ”

「受けて頂き、ありがとうござ」

 “────ただし”

 

 

 ナギサさんのお礼を遮り、先生が私に目を向ける。

 こういうのはそこまで得意って訳じゃないけど、先生に頼られたら頑張るしかないよね♡

 

 

「裏切り者の情報収集や補習授業の進め方についてはこちらに一任させてもらいます」

「それは当然、お任せ致します」

「⋯⋯あぁ、それともう一つだけ」

 

 

 にっこりと笑顔を浮かべてナギサさんを見る。

 政治のやり取りはさっぱりでも、先生への過度な干渉であれば察知出来るからね。

 

 

「シャーレの権限を利用させるのは今回だけです。以降その威を借りて不当にシャーレの力を利用しようとしたならば、()()を支払って頂く事になります」

「代償⋯⋯ですか?」

「貴方の周囲から一人ずつ、こちらが満足するまで。────もちろん、意味はお分かりですね?」

 

 

 にこにこと敵意など欠片も感じさせない笑みを浮かべてじっとナギサさんの目を見据える。

 瞼の下まで伸びた髪の毛がカーテンとなって上手く覆い隠してくれているけど、今の私の目を覗き込んだらきっと面白いものが見えるだろう。

 それでも片鱗は感じられたらしく、ナギサさんはティーカップを置く時わずかに音を立てた。

 

 

「ええ、それでは改めてよろしくお願い致します」

 

 

 

 

 

 

 “それで、フミ? さっきのはどんな意図があったのか教えてもらえる?”

「もちろん♡」

 

 

 ティーパーティーとの会合を終えて、補習授業部に入る生徒を迎えに行く道中。

 ふと思い出したように先生は尋ねた。

 

 

「本来ならたかが一度のテストの成績不良なんかで生徒を退学になんて出来ません。その後の補習や追試で点数が振るわなかったとしてもです」

 “⋯⋯まぁ、それはそうだね。単に授業の単位を落としただけなら留年という選択肢が最初に出てくるはずだし”

「それでも退学という選択肢を選べるのは、先生の協力があるからです」

 “私の?”

「連邦捜査部シャーレ。その超法規的な運用を可能とする為に、シャーレは非常に強力な特権を有しています。それこそ一人の生徒の進退を自由に出来るほどの。ナギサさんは政治的な屁理屈を捏ねてそれを利用したんです。屁理屈とはいえその理論自体に矛盾はありませんから。ただ、今後同じ手は使わせません」

 “⋯⋯私じゃ考え付かなかったな。ナギサが裏切り者を探す為として最初に利用してくれたのは、ある意味助かったのかもしれないね”

「いくらでも悪用出来ますからね。取り敢えず問題点を纏めて文書にしたのをさっきリンちゃん先輩に送信しておきました」

 “仕事が早い”

「他ならぬせんせーの為ですからね♡」

 “それと、あの代償については?”

「あれはただの脅しです。具体的に何をするかは言わなかったでしょう?」

 “確かに。じゃあフミの気が済むまで、代償として誰かをむにむにもちもちする、ってのも通る訳か”

「ナギサさんは親しい人間を一人ずつ消されるって勘違いしたかもしれませんけどね。まぁ、あの場で一度でも臆したのなら後でバレても問題ありません」

 “そうなの?”

「ええ。肝心要、その場面で一歩下がった。例えどんなに状況が動こうとも、もうナギサさんはそこから前へは進めません。別の道を歩くか、そのまま立ち呆けるか。少なくとも、あの交渉において『シャーレの権力に縋ってでも守りたい誰かが居る』と明かしてしまいましたから」

 “⋯⋯フミはすごいね、全然そこまで気が回らなかったよ”

「私も政治的なやり取りとか話の裏を読むとかは得意じゃないですよ?」

 “えっ、でもこうして色々見抜いてたんじゃ”

「私が嗅ぎ付けたのは言葉じゃなく態度なんです。私に先生やはーちゃんが居るように、ナギサさんにも譲れない誰かが居た。その匂いが香ったんです」

 “⋯⋯出来る事なら、今回もハッピーエンドが良いね”

「ですねぇ⋯⋯」

 

 

 

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